41号                                                           2001年2月

 

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 先日、珍しく児童書・コミック方面のレジに入って接客をした。いつもの中央レジはほとんどが大人のお客様だが、こちらのレジは子供が断然多い。皆、うれしさを隠し切れない、といった笑顔で、『ONE PIECE』や遊戯王カードを買っていく。カードの子など、もう家まで待ちきれずにその場でバリバリと袋を開けてしまい、ダブリのカードはレジの社員に「おねーさん、これいらないからあげる」(笑)。今買ったコミックを、レジの前でいきなり読み始めようとする子も。「このごほん、かって〜!!」という小さい子の泣き声に、お母さんとおぼしき方が「アンタ、これうちにあるでしょうが!」といさめる場面も。おお、そのトシで早くもダブリ買いですか!(笑)

 しかし、ここまでうれしそうに本を買われると、書店員冥利に尽きるではないか。彼らの笑顔のためにも、もっと頑張らなくちゃ!みんな、いっぱい本を読んで本を好きになってね!

 

今月の乱読めった斬り!

『ハイペリオン』(上・下)☆☆☆☆ ダン・シモンズ(ハヤカワ文庫SF、00.11月刊)

 ぷはあ〜、長かった!や、やっとこさ読了というカンジ。いや、決して苦痛だったわけではない。ただ、あまりにあまりにボリュームありすぎ!(笑)質も量も!こんなにゴージャスな本を作っていいのか!これ、1章ずつだけでじゅうぶん1冊の本が作れると思うぞ。

 あなたが高級レストランでディナーのフルコースを頼んだと仮定しよう。前菜のあと、メインディッシュがやってくる。ボリュームもあって味も極上。ああおいしかった、満足満足。すると、もうひとつメインディッシュが運ばれてくるではないか。これもまた違った味でおいしい。ふう、おなかいっぱい。するとまたメインディッシュが!(笑)メイン6皿にもう満腹、助けて〜。しかもデザート食べ終わったら、「今までのはすべて前菜でございまして」って給仕が言うではないか!…『ハイペリオン』はつまりこんな話である(笑)。そう、まさにこれはSF界の満漢全席だ!!

 連邦の命を受け、見ず知らずの7人の男女が、巡礼と称して惑星ハイペリオンへ向かうことになる。そこには〈時間の墓標〉というなにやら謎のものがある。7人は、ハイペリオンに行くまでの旅の道中で、それぞれの過去の物語を語る。それは実に空前絶後の不思議な話ばかりであった…。

 SF的設定の難しいところは飛ばして読んだことをここに白状しよう(笑)。こう申してはなんだが、あまり細かいことにこだわらなくても、その人間達のドラマだけで十二分に楽しめる。著者は実にエンターテイメントを書くツボを心得ており、序盤から読者の心をぐっとつかみ、徐々にクライマックスに持っていく。ドキドキハラハラ、そしてその結末にふう〜っ、と充足の溜め息。エピソードのひとつひとつにもう胸がいっぱいになってしまうので、この盛り上がりが6回もあると、もう心臓がもちません(笑)。ネタバレはあまりにもったいないので、何も書かないでおきます。とにかくすべてがドラマチック!!

 訳者の解説によると、これってSFのいろんな元ネタをご存知の方にはさらに楽しめるらしい。なるほどね。とりあえず、私は3月発売予定の続編『ハイペリオンの没落』の文庫化を待つことにしよう。

『失踪HOLIDAY』☆☆☆☆1/2 乙一(角川スニーカー文庫、01.1月刊)

 おお、乙一、こういう(フツーの)話も書けるんだあ!(笑)と見直した1冊。しかもすごくいい。ヤングアダルト向きではあるが、オトナもほろりとさせられる。

 2つの中篇が収められている。最初の「しあわせは猫のかたち」は少年が主人公、表題作の「失踪HOLIDAY」は少女が主人公である。

 「しあわせは〜」は、他人とうまくつきあえない不器用な少年の心を描いた、文句なしに☆5つ満点の傑作。ひとり暮らしを始めた主人公と、子猫と、その部屋の見えない住人(?)とのはかない触れ合い。主人公の、自分ひとりだけが世界の明るい部分から疎外されてるような気持ちというのは、多かれ少なかれ誰もが一度は味わったことがある(または現在味わっている)のではないだろうか。だからこそ、皆がこの物語の中に自分を見つけ、胸がちくりと痛むのだ。そして雪村の「際限なく広がるこの美しい世界の、きみだってその一部なんだ。」という言葉に、読者はそっと温かく抱きしめられる。ラストの一文には思わず涙がこぼれた。切なさとさみしさと、生きることへの幸福があふれる、感動の一篇。

 表題作は、逆境にもめげない元気で強〜い女の子の物語。この子の図々しさが実にいい味出してる。女性の本質を見抜いてるなあ、乙一(笑)。が、なんだかんだ強がりいっても、彼女も孤独なのだ。で、すねて家出なんかしてしまう。彼女の逃げ込んだ先は、実に意外な、そして妙に心がほんわりする場所だった…。こちらも、ひととの触れ合いの温かさがじんわり伝わってくる、ほのぼの路線。ちょっと驚きの仕掛けもあり。軽妙なタッチが楽しい1篇。

 少年少女のナイーブな心を描いた、ハートフルな1冊。羽住都のイラストもキュート。超オススメ。元気になれます。

『かめくん☆☆☆1/2 北野勇作(徳間デュアル文庫、01.1月刊)

 北野勇作、初挑戦。なんとも不思議でどこか懐かしい味わいの、のほほんSF。

 かめくんは、厳密に言うと動物の亀ではなく、亀を模した2足歩行のレプリカント。レプリカメとも呼ばれる。かめくんは以前勤めていた会社が吸収合併されたため職を失うが、なんとか次の仕事と住まいを見つける。その仕事はなんだか謎で…。

 人間の世界に溶け込んでひっそりと暮らすかめくんの、ささやかな日常がつづられる。それはユーモラスで、まったりと心安らぐものである。が、その舞台である人間の世界が、この現実と近くはあるがなんとな〜くアヤシゲなSF世界なのだ。こういうの、超日常っていうんですかね?著者はあえて、それを明確にくっきりとは描かない。かめくんの仕事がなんなのかさえ、読者にもかめくんにも、具体的には何一つわからない。ただ漠然と、なんだかズレた世界。

 かめくんは昔の記憶がない。思い出そうとするのだが、甲羅の中にデータが入っていそうなのだが、出てこない。自分はいったいどこから来たんだろう?自分は何なのだろう?かめくんは己の存在について、いろいろと考える。考えてもよくわからないのだが。それでもかめくんは考える。なにか、ここにも深い謎が隠されているような…。

 純真で優しくて物静かな子供みたいな心をもった、かめくん。その姿はどこか哀愁をおびていて、切ない。なんだか、そのあたりの街角で、ふいにかめくんに会えるような気がする。いつかどこかで、かめくんに会いたいな。

『ウェハースの椅子』☆☆☆1/2 江國香織(角川春樹事務所、01.1月刊)

 ひとり。それは何もわずらわしいことはないが、やっぱり絶望的な孤独とひきかえなのか。 

 38の一人暮らしの女性。仕事も恋人(妻子もち)もあり、それはとても幸福な生活だ。彼はやさしいし、好きなことをして食べていけるし、何の不満もない生活。だが、その裏には絶えず「子供の頃の記憶」と「孤独」と「絶望」がひっそりと影のように寄り添っている。それは時折彼女を訪れる…。

 彼女は彼女なりに一生懸命生きている。なのに、その生がどうにもはかなく淡いものに思えてしまうのはなぜだろう?彼女はまるで、かつての記憶と、恋人とのつかの間の時間と、その2つの輪の中に閉じこもって暮らしているようだ。丸く、ひざをかかえて。それはささやかな狂気をともなっているのかもしれない。

 幸福であるはずなのに、彼女の生活からは、やはり途方もない孤独を感じてしまう。私にはとうてい耐えられないだろう。幸福と絶望が紙一重であるということが、この小説を読んではじめてわかった気がする。恋愛と絶望が、こんなに近いものだったなんて。

 

特集 吉野朔実

   先日、ふと懐かしさから手に取った一冊の新刊コミック文庫。それが怒涛の吉野朔実既刊本イッキ読みにまで発展するとは、いったい誰が想像したことだろう?(笑)「焼けぼっくいに火がついた」とはまさにこのこと(ん?違うか?)。都内の大書店を漁り、近所のブックオフを漁り、あげくの果てはヤフーオークションにまで手を伸ばし、探した見つけた既刊・絶版本!コンプリートではないが、とりあえずゲットして再読したものを、かたっぱしからレビューするぞ!

『ジュリエットの卵』全3巻(小学館文庫)

ジュリエットの卵

 今回の発作的イッキ読みの引き金となった元凶(笑)。設定などはおぼろげながら記憶はあったのだが、結末などすっかり忘れていた。ので驚愕。

 美しい双子の兄と妹、水(ミナト)と蛍。「一生ふたりで生きてゆこう」と誓い、片時も離れたことがなかったが、蛍が東京の美大に入学したときから、二人の歯車は少しずつ狂い始める…。

 二人の恋はかなうことはない。永遠に、卵を温め続けるだけ。そんな屈折した恋の行方は…。

 主人公ふたりの、一見強く見える男の弱さ脆さ、一見脆く見える女の強さしたたかさが対照的。そして、これはまぎれもなく「ジュリエット」、女側の物語である。兄との殻に閉じこもっていた蛍は、下田との出会いから、未来を、世界への扉を開いてゆくのだ。その代償は、あまりに大きかったけれど。卵の中で眠っていた彼女がゆっくりと目覚めてゆく物語、ともいえよう。

『いたいけな瞳』全8巻(集英社ぶーけコミックスワイド版)

いたいけな瞳

 全31話の中篇集。しかし、こんなに贅沢な中篇集があっていいのか。ここに吉野朔実のエッセンスの全てが収められている。実にさまざまなテイストの話が入っている。ホラーあり、センシティヴな恋愛あり、子供の話あり、ミステリあり、リリカルな青春ものあり、そのどれもが吉野朔実だ。

 自分に正直なあまり、世の中から少しはみ出している彼ら。その心の純粋さは、読んでいて痛い。実に読み応えあるシリーズ。

『ECCENTRICS』全4巻(集英社ぶーけコミックスワイド版)

エキセントリックス

 おそらく吉野朔実の作品中、最大の問題作。何から何まで謎だらけ。『エヴァンゲリオン』、または『ツイン・ピークス』なみ(笑)。最後まで読んで、頭を抱えてしまった。その謎ゆえに、いっそう強烈なインパクトのある物語。彼女の作品の中では、いまだに『少年は荒野をめざす』が私的ベスト1だが、これはベスト2に決定。

 記憶を失った千寿は、町である青年と知り合い、恋に落ちる。が、彼はなんと双子だったのだ。それも、見分けのつかないくらい外見も中身もそっくりな。二人の間で混乱する千寿。そして、彼女自身の自我も混乱している…。

 作中、「E」というアルファベットだけを描いた絵が出てくる。EはEGOのE、ECCENTRICSのE、そしてEROSのE。作者の描いているのはまさにこれだ。「自我」と「エキセントリック」、そして「性愛」。または「理想的なものへの愛」。

 まるで迷宮に閉じ込められてしまったような錯覚を覚える。何度読んでも、決して出口は見つからず、謎も解けない。いったい、吉野朔実はどういうつもりでこれを描いたんだろう?と思うとまた迷宮をぐるぐる彷徨うことになってしまうのだった。知るのは作者ばかりなり。

『ぼくだけが知っている』全5巻(集英社マーガレットコミックス)

ぼくだけが知っている

 小学4年生の、らいち君が主人公。小学生というあの時代特有の、繊細な感情が描かれる。さまざまな学校での友人達とのエピソードなどを通して語られる、精神的に大人のような、子供のような、彼の心情が時に微笑ましく、時に痛い。しかし、つい最近だったような気もする、こういうこと。自分がすっかり忘れていただけで。懐かしい感情たち。

『恋愛的瞬間』全5巻(集英社マーガレットコミックス)

恋愛的瞬間

 続き物、というより連作短篇集。心理学の森依教授と、その生徒ハルタを中心に、その周りの登場人物やクリニックに訪れる患者達の「恋愛」を分析していく作品。

 さまざまな恋のかたち、愛のかたち。真摯だけれど、皆どこかいびつで歪んでいる。ひょっとすると、「まともな恋愛」なんてもの自体、この世に存在しないのでは、とまで思ってしまう。真剣になればなるほど、それは常識から逸脱していく。

 恋愛の幸福も不幸も、人間の善も悪も、作者は冷静な第三者の眼差しで見据えている。清濁併せ持つ、それこそが人間なのだとでもいうように。恋愛のトラブルを通して見えてくるもの、それは人間そのものの姿なのかもしれない。

『グールドを聴きながら』全1巻(小学館プチフラワーコミックス)

グールドを聴きながら

 5つの短篇が収録されている。ううん、これはどうもいまひとつピンとこない。作者に迷いがある?どこか中途ハンパで、突き抜けてないような、テーマが未消化のような印象を受ける。悪くはないんだけど。

非常に私的な総論(というほどのものでもないが)

 吉野朔実は、私にとって非常に共感できるのと同時に、異質なものを強く感じる漫画家でもある。私とは明らかに「違う」ひと。なのにどうして悪魔に魅入られたかのように、こんなに惹かれてしまうのか?それは、おそらく私の中にも、吉野朔実的な何かがあるからではないだろうか。理性という名の綱渡りの下で、奈落のような心の奥底にじっと沈んでいる、危険な何かが。

 彼女は、いつも繰り返し同じテーマを描いているような気がする。作品を続けて読んでいると、共通点が多々見受けられるからだ。そのキーワードは、例えば「双子」、「生と死」、「親子の確執」、「自我」、そして「恋愛」。そして、そのどれもが世間一般に見受けられるそれと比較して、明らかに歪んでいる。

 吉野朔実の思考のベクトルは、いつもその人間の内側へ内側へと向かう。外に開いてゆく登場人物はほとんどいない。彼らはその純粋さゆえに自分をどんどん追い詰めていってしまい、その結果破綻する。ゆえに、彼女の作品はみな「痛い」。

 彼女はいつでもじっと静かに、人間の「心」という深い穴の中をどんどん堀り探ろうとしているかのようだ。その中にはありとあらゆるものが入っている。善と悪、愛と憎悪、生と死、夢と現実、希望と絶望、その他もろもろ。それらを、まるで標本を並べるかのような冷静さで、ストーリーに織り込んでいく。そこには一切のえこひいきは存在しない(彼女は性善説でもその逆でもない、と思う)。まるで、その混沌全てひっくるめたものが人間だ、とでもいうように。

 だから、彼女の作品を読んでいると、時折人間の恐ろしさにぞくっとさせられもするのだが、同時に大いに救われるのだ。自分の中に巣食う混沌を、そこに見るからだ。「ひょっとしたら、ヘンなのは自分だけではないのかも?」と密かに安堵するのだ。人間なんて所詮その程度のもの、自分の思うままに生きていくしかないのだ、と囁かれているような気がしてくるのだ。

 彼女の漫画に出てくる危うい登場人物達は、一見突飛でエキセントリックだが、実は私たちそれぞれの心の奥に眠る影、なのかもしれない。


 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

 思い付きは、なるべくならやってみるものである。時にはそれが、なかなか楽しかったりする事もあるし。というワケで、当コラム1998年11〜12月号にて取り上げた、『アメージング・ストーリーズ 日本語版』の収録作一覧である。 

 まあ、書式については改良の余地が大きいと思われるし、今後新たに別のリストを追加していく可能性も考えられなくはない。その際は叢書ごとの一覧だけではなく、リアルタイム読者の追体験ができるような、出版された順という配列にも大いに興味があったりする。どうやるかはともかくとして…。

 原題、原著者名は各作品の扉ページに付されているし、特に芸の無い思い付きリストなのだが、一点だけ付言しておく必要があるでしょう。「○○枚」というのは、実際の紙面におけるタテ×ヨコ(桁数×行数)とページ数から割り出した、400字詰め換算でのおおよその値である。ページの余白や挿絵部分の処理は、臨機応変で厳密には行っていない。ともあれイメージする際の一助とな…なるのか!? ちなみにこの叢書は、巻によって微妙に桁数が異なったりするから要注意だ(笑)。


1950年4月
怪奇小説叢書
『アメージング・ストーリーズ 日本語版 第1集』
誠文堂新光社/1950年4月5日印刷、4月10日発行/新書/カバー、帯(後帯※未見)/100円/256ページ

アメージング・ストーリーズ1

収録作品
「焔の女王」(The Flame Queen)
ガストン・ドルー(Gaston Derreaux) 著/乾 信一郎 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉(Amazing Stories)1949年5月号(通巻238号)/170枚

「征服の立方根」(The Cube Root Of Conquest)
ロッグ・フィリップス(Rog Phillips) 著/黒沼 健 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年10月号(通巻231号)/47枚

「幽霊屋敷」(Twisted House)
ガイ・アーチェット(Guy Archette) 著/磯部 佑一郎 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年6月号(通巻239号)/75枚
※Chester S.Geierの別名義。

「異顔―同脚」(New Face〜Same Heel)
サミュエル・レーカ(Samuel Roeca) 著/胡桃 正樹 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年9月号(通巻230号)/88枚

「火星人の降霊術‐一千年後のお話‐」(Once Upon A Planet)
J・J・アラートン(J.J.Allerton) 著/中根 不覊雄 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年12月号(通巻233号)/45枚


怪奇小説叢書
『アメージング・ストーリーズ 日本語版 第2集』
誠文堂新光社/1950年4月5日印刷、4月10日発行/新書/カバー、帯(後帯)/100円/248ページ

収録作品
「恐怖城」(Castle Of Terror)
E・J・リストン(E.J.Liston) 著/黒沼 健 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年11月号(通巻232号)/54枚

「ジョーンズ氏の永久カメラ」(Mr.Jones’ Eternal Camera)※扉では「Jone’s」と表記
バークレイ・リヴィングストン(Berkley Livingston) 著/磯部 佑一郎 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年11月号(通巻244号)/89枚

「殺人光線」(The Murder Ray)
E・K・ジャーヴィス(E.K.Jarvis) 著※扉では「Jervis」と表記/坂本 登 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉(Fantastic Adventures)1949年4月(通巻82号)/163枚
※「E・K・ジャーヴィス」はハウスネーム(共同筆名)。作者不詳。

「ティリー物語」(Tillie)
クライグ・ブラウニング(Craig Browning) 著/田口 統吾 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年12月号(通巻233号)45枚
※ロッグ・フィリップスの別名義。

「死の二重奏」(Death’s Double)※扉では「Deaths」と表記
グローヴァー・ケント(Grover Kent) 著/磯部 佑一郎 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年6月号(通巻239号)/59枚


怪奇小説叢書
『アメージング・ストーリーズ 日本語版 第3集』
誠文堂新光社/1950年4月5日印刷、4月10日発行/新書/カバー、帯(後帯)/100円/283ページ

収録作品
「古代人の挑戦」(I Paint From Death)※原題は「“」「”」で括るのが正しい?
ロバート・F・フイッツパトリック(Robert F.Fitzpatrick) 著※「F.」は「Fleming」/坂本 登 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年8月号(通巻241号)/139枚

「蚤のサーカス」(The Flea Circus)
オーガスト・マイスナー(August Meissner) 著/胡桃 正樹 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年1月号(通巻234号)/58枚

「世界計画」(Project)
ジャック・ヘス(Jack Hess) 著/磯部 佑一郎 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年10月号(通巻243号)/46枚

「緑の血」(The Green Splotches)
T・S・ストリブリング(T.S.Stribling) 著/黒沼 健 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1927年3月号(通巻12号)※〈アドヴェンチャー〉(Adventure)1920年1月3日号初出/225枚


1950年5月
怪奇小説叢書
『アメージング・ストーリーズ 日本語版 第4集』
誠文堂新光社/1950年5月20日印刷、5月31日発行/新書/裸本(カバー無し)、帯(後帯?)/100円/248ページ

収録作品
「怪物」(The Monster)
S・M・テンネショウ(S.M.Tenneshaw) 著/雨貝 正直 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年4月号(通巻237号)/132枚
※「S・M・テンネショウ」はハウスネーム。作者不詳。

「最後の男性」(The Last Man)
ウオーレス・G・ウエスト(Wallace G.West) 著/黒沼 健 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1929年2月号(通巻35号)/84枚

「マウントミード事件」(Midgets And Mighty Men)
リー・フランシス(Lee Francis) 著/坂本 登 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1949年5月号(通巻83号)/128枚

「人間塔」(The Column Of Life)
レスター・バークレイ(Lester Barclay) 著/千葉 浦一 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1949年12月号(通巻90号)/74枚


1950年6月
怪奇小説叢書
『アメージング・ストーリーズ 日本語版 第5集』
誠文堂新光社/1950年5月30日印刷、6月5日発行/新書/裸本(カバー無し)、帯(後帯?)/100円/259ページ

収録作品
「ウィルバー・ムークの眼」(The Eye Of Wilbur Mook)
H・B・ヒッキー(H.B.Hickey) 著/黒沼 健 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年11月号(通巻232号)/84枚

「ビン」(The Bottle)
ガイ・アーチェット 著/磯部 佑一郎 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1949年12月号(通巻90号)/52枚
※Chester S.Geierの別名義。

「森の英雄」(Pattern For Destiny)
チェスター・スミス(Chester Smith) 著/田口 統吾 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年1月号(234号)/54枚

「光なきランプ‐アラディンの洋燈後日譚‐」(Lamp With No Light)
アレキサンダー・ブレイド(Alexander Blade) 著/坂本 登 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1949年5月号(通巻83号)/51枚
※「アレキサンダー・ブレイド」はハウスネーム。作者不詳。

「雷鳴の彼方」(Beyond The Thunder)
H・B・ヒッキー 著/田口 統吾 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年12月号(通巻233号)/89枚

「氷原の女王」(Queen Of The Ice Men)
S・M・テンネショウ 著/緒方 周三 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1949年11月号(通巻89号)/96枚
※「S・M・テンネショウ」はハウスネーム。作者不詳。


怪奇小説叢書
『アメージング・ストーリーズ 日本語版 第6集』
誠文堂新光社/1950年6月10日印刷、6月15日発行/新書/裸本(カバー無し)、帯(後帯?)/100円/257ページ

収録作品
「エジプトの妖魔」(The Avenger)
ノーマ・エル・イーストン(Norma Lazell Easton) 著/磯部 佑一郎 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1949年11月号(通巻244号)/127枚

「埃になつた新妻」(All Else Is Dust) 
E・K・ジャーヴィ  著/五島 十三雄 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1950年3月号(通巻248号)/108枚
※「E・K・ジャーヴィス」はハウスネーム。実作者はロバート・ブロック。

「アガーチの黄金仮面」(The Golden Mask Of Agharti)
ジョーン・アンド・ドロシー・デカーシー(John&Dorothy De Courcy) 著/千葉 浦一 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1950年1月号(通巻91号)/155枚

「火星から來た女」(Girl From Mars)
ロバート・ブロック(Robert Block) 著/田口 統吾 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1950年3月号(通巻93号)/26枚
※後にブロックの短篇集に収録された際、「The Girl From Mars」と原題に「The」が付くようになるが、雑誌掲載時は付かない。

「二度だけ生きる」(You Only Live Twice)
H・B・ヒッキー 著/五島 十三雄 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1950年3月号(通巻248号)/46枚


1950年7月
怪奇小説叢書
『アメージング・ストーリーズ 日本語版 第7集』
誠文堂新光社/1950年7月20日印刷、7月30日発行/新書/裸本(カバー無し)、帯(後帯?)/100円/261ページ

収録作品
「リス人」(The Squirrel People)
ジョン・C・ロス(John C.Ross) 著/胡桃 正樹 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1948年9月号(通巻230号)/142枚

「夢マリー」(The Exteroceptor Deceptor)※扉では「Exterocepter」と表記
クレイグ・ブラウニング 著※第2集「ティリー物語」と表記違い/緒方 周三 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1950年1月号(通巻91号)/50枚
※ロッグ・フィリップスの別名義
※解説「クレイグ・ブラウニングのこと」(緒方 周三)併録

「星團の侵入者」(The Galaxy Raiders)
W・P・マッギヴァン(William P.McGivern) 著/砧 一郎 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1950年2月号(通巻247号)/163枚

「未來よりの抜道」(Detour From Tomorrow)
ロッグ・フィリップス 著/田口 統吾 訳/〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉1950年3月号(通巻93号)/46枚
※「解説 ロッグ・フィリップスのこと」(H N S)併録

「アービュタスから來た男」(The Man From Arbutus)
H・B・ヒッキー 著/五島 十三雄 訳/〈アメージング・ストーリーズ〉1950年3月号(通巻248号)/63枚
※第6集「二度だけ生きる」と同時掲載


#収録作全てが〈アメージング・ストーリーズ〉掲載作品ではない。但し〈ファンタスティック・アドヴェンチャーズ〉は、〈アメージング〉と同じジフ・デイヴィス(Ziff Davis)発行の姉妹誌である。誠文堂新光社がジフ・デイヴィスと契約を交わし、その刊行雑誌の翻訳権をまとめて獲得したことに由来すると思われる。

#収録作品は1948年9月号から1950年3月号の、短い期間に集中している。1950年4月10日付で刊行開始したことを考えると、「日本語版」の名の通り「傑作選アンソロジー」ではなく、リアルタイムで翻訳紹介した「書籍形態の雑誌」にむしろ近いと認識するのが正しいだろう。

#第3集「緑の血」と第4集「最後の男性」のみが、1920年代〈アメージング〉最初期作と異例である。たとえ掲載誌を入手できたとしても、わざわざこの作品を選出したことに疑問が残る。ドナルド・A・ウォルハイム編『The Pocket Book Of Science‐Fiction』(1943年)に上記両篇が共に収められていることから、このアンソロジーより引っ張ってきたとも考えられる。しかし、「最後の男性」の〈アメージング〉掲載時は「Wallace G.West」名義だったが、このアンソロジーでは「Wallace West」という、ミドルネームの「G.」が付かない筆名になっている。1920年代〈アメージング〉本誌から選定収録した、という可能性も否定できない。

#第7集のクレイグ・ブラウニング「夢マリー」、ロッグ・フィリップス「未來よりの抜道」の2篇のみ、1ページの解説が併録されている。しかし皮肉にも、著者は別名義の同一人物である。紹介される経歴は全く異なり、クレイグ・ブラウニングが「当年二十七才という若手作家」とあるのに対し、ロッグ・フィリップスは「本年四十才になる」とのことである。クレイグ・ブラウニングに対し「ロッグ・フィリップスなどと肩を並べて…」とも記述しているのが、予期せぬ事とは言え微笑ましい。

#各作品の初出に関して、調べの至らなかった部分を牧眞司氏よりご教示頂きました。ここに記し、感謝申し上げます。

 

あとがき

 大好きで昔よく通った、渋谷の五島プラネタリウムが、今年3月11日をもって閉館してしまいました。とても残念。たくさんの思い出がある場所です。宇宙への夢を育んでくれたプラネタリウム、決して忘れないでしょう。というわけで、今月の背景はプラネタリウムバージョンです。 (安田ママ)


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