祝 銀河通信3周年記念企画!
《解説ベスト3アンケート》

 日頃のご愛読、まことにありがとうございます。
 おかげさまで、当サイト「銀河通信オンライン」は2001年6月20日をもちまして、めでたく
3周年を迎えることになりました。恒例となりました記念企画アンケート、今回は本の重要な黒子役である「解説」にスポットライトを当ててみることにしました。イチオシの名解説を、1〜3つまで挙げて下さい、という条件。
 おかげさまで、たくさんのお答えをいただきました。ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました!ではでは、結果発表です!(メール到着順に並べさせていただきました。ちなみに頂戴したメールは13通でした)

★ライン

 

★1位 野田昌宏 『大宇宙の魔女』(C.L.ムーア/ハヤカワ文庫SF36)の解説「わが<シャンブロウ>への挽歌」

 解説のタイトルからして、もう(^^)。野田大元帥の、シャンブロウへの愛情がひしひしと伝わってきます。
−畜生め!なんだって俺ァ、他人の訳した<シャンブロウ>の解説なんか書かなきゃならねェンだ!
このように、とにかく熱い。
勿論それだけじゃなくて、作者のデータや作品が発表された当時の様子などもきちんと記されているのですが、その部分との落差がまた可笑しい。<解説>の部分と<芸>の部分との両方が充実していて、楽しみました。

★2位 戸川純 『ハートに火をつけて!』(鈴木いづみ/文遊社)の解説
「よく頑張った、という感じがして胸が切なくなる……」

★3位 馳星周 『されど修羅ゆく君は』(打海文三/徳間文庫)の解説

お名前:πR


 

★ 貫井徳郎 『鳴風荘事件−殺人方程式II』(綾辻行人/光文社文庫)の解説

 僕の大好きな作家の一人である綾辻行人さんの作品中、唯一読者への挑戦状が挿入された作品ですが、あまり好意的な声が聞かれません。僕にとっては、謎解きの醍醐味を堪能できた十分に面白い作品だったのですが。

 だからこそ、本格への愛情が込められた貫井さんの解説は嬉しかったです。犯人の目星を付けただけでは、作者に勝ったとは言えない。導かれる解答が一つでなければならないことが、いかに難易度が高いのか。もちろん、完璧に解いた上で簡単でつまらないと言っている方もいるんでしょうけど。

 僕は主に国内ミステリーを読んでいますが、本格ミステリーも好きだしストーリー重視の作品も好きです。それぞれの面白さがあると思います。でも、本格を一段低いものとみなす風潮は根強いように感じます。残念ながら。

 この解説を読んだことが、貫井さんの作品を読むきっかけとなりました。解説を読んで興味を持った作家は、今のところ貫井徳郎ただ一人です。ついでに言うなら、貫井さんは過小評価されている作家の一人だと思っています。

★瀬名秀明 『すべてがFになる』(森博嗣、講談社文庫)の解説

 言わずもがなの森博嗣さんのデビュー作ですが、文庫化されたのを期に読んでみました。作品自体の感想は…そんなのありか? でしたが、瀬名さんの解説は大学の研究室に身を置いていた者として訴えるものがありました。

 現在は研究の第一線からは身を引いておられるようですが、自らの経験と絡め、何気ない犀川の台詞からメッセージを嗅ぎ取る研究者ならではの視点に脱帽です。曰く、犀川の台詞は若い研究者への励ましである。こんな見方もあったのか、と大いに納得しました。

 実際に森さんご本人にそのような意図があったかどうかはさて置き、この解説を読んだことにより、犀川創平というキャラクターおよび森作品に対する認識が変わったのは間違いありません。現在ではすっかり森作品のファンです。もちろん、瀬名さんのファンでもあります。

 なお、森作品の解説でよかったと思うのはこれだけです。

★宮部みゆき 『日本殺人事件』(山口雅也、角川文庫)の解説

 刀を携えた侍が生き、茶道の家元がスター扱いを受け、遊郭が栄える「現代」の日本を舞台にした、設定だけに目を向けるとふざけるんじゃないと言いたくなる作品ですが…実は中身はバリバリの本格ミステリーという傑作です。

 こういう作品の解説は難しいと思います。本格ミステリーとして大真面目に評論することも可能かもしれませんが、それでは最初に解説を読む読者の興趣を削いでしまうかもしれません。本格ミステリーファン以外にも本作の楽しさを伝えるという点で、宮部みゆきさんは適任だったでしょう。

 宮部さんらしい肩の力を抜いたわかりやすい文体でありながら、山口流本格ミステリーの本質を鋭く突いていると思います。それでいて、押し付けがましさは一切なし。本職の評論家ではなく、宮部さんに解説を依頼したのは正解ですね。

 他の作品の解説にも言えることですが、ご自身も楽しんで読んでいることが伝わってくる宮部さんの解説はうまいと思います。

お名前:今野隆之
サイト名:PRIVATE EYES
URL:     http://www5a.biglobe.ne.jp/~t-konno/


 

★吉野仁氏による『ポップ1280』(ジム・トンプスン・扶桑社)の解説

 吉野さんの解説を読むと更に、ダークな物語の裏側に広がる暗黒世界の深
読み領域へと誘われること請け合い!なんと底無しのノワールなことか。

お名前:小太郎
烏書房ボイル堂棚(http://homepage2.nifty.com/~kuwa/p-boiledlist.htm)


 

★茶木則雄による『仏陀の鏡への道』(ドン・ウィンズロウ、創元推理文庫)の解説

 本当は日本冒険小説の大躍進に貢献した、北上次郎さんによる熱い解説から選びたかったんだけど、
該当本を掘り起こせなかったのでこれにしました。
「恋愛談話室のイロモノ」に成り果てた私には、やっぱり「色物書評家」の解説がお似合いでしょう(^^
ニール・ケアリー・シリーズの魅力を過不足なくていねいに紹介してる・・・
なんてことは実はどうでもよく、解説の第3部の部分「作者と訳者」のところが、
「う〜ん、そうなんだよなあ!」と納得できるのが・・・ってことも、実はまあどうでもよく・・・えい、正直に言いましょう!
解説のタイトルとラストの1行にあるこれが決め手ですね・・・
この小説のエッセンスを一言で表現してるこのフレーズ・・・
「決まり金玉」 
品がなくてすみません(^^;

 後は適当なのが思いつかなかったのですが、締切間際にピッタリなのを読みました。

★柴田元幸による『体の贈り物』(レベッカ・ブラウン、マガジンハウス)の訳者あとがき。

 私は本編読了後にあとがきを読んだのですが、ジーンと心に響いてる余韻を壊すことなく、訳者の「この小説をひとりでも多くの人に読んでほしい!」という思いが伝わってきて、「この本を読ませてくれてありがとう!」と素直に思うことが
できました。
反対に本を買う前にあとがきを先に読んだ人には、この本を買わずにはいられない気持ちにさせる効果があると思えます。
訳者が作品に惚れ込んでいる気持ちを、衒いなくストレートに表現してるのがいいですね。なかなか「立ち読みでいいから読んで」とは言えませんもん!

最後に、反則技ですがこれにも一言ふれときたい。

★『新・SFハンドブック』(早川書房編集部編、ハヤカワ文庫)での難波弘之による『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン、ハヤカワ文庫)の紹介

 この小説の魅力を見事に伝えてくれてて文句なし!
私の大好きな山下達郎の同名曲にふれてくれてるのもうれしい。
未読の人への布教文としては完璧ですね!

お名前:トト


 

★福田和也/『イラハイ』(文庫版)/佐藤哲也/新潮文庫

★北野勇作/『かめくん』/北野勇作/徳間デュアル文庫

★高安国世/『若き詩人への手紙/若き女性への手紙』/リルケ/新潮文庫

 どれも「解説」ではないのですが。
『イラハイ』は妻転がしが実践されているという事実を知らしめたこと。
『かめくん』はかめくんがかめくんであるという名言より。
『若き詩人への手紙』は訳者後書きです。「それ自身実りない孤独を、
あのように豊穰な孤独まで持ち上げたリルケを、僕たちはいつまでも
忘れることができない」に、訳者個人が抱いた若い頃の焦燥をリルケに
照らして読者に伝えてくる点を評価して。      

お名前:おおた


★石原藤夫による『梅田地下オデッセイ』(堀晃、ハヤカワ文庫JA)の解説

★大森望による『処女少女マンガ家の念力』(大原まり子、角川文庫)の解説

★竹川公訓による『レモン月夜の宇宙船』(野田昌宏、ハヤカワ文庫JA)の解説

 悲しいことに、解説を読んでいろいろ勉強していた幸福な時期は、すでに忘却のかなたに去ってしまったので、「それ自体が読み物としてとても面白い」と思えるものから、記憶に鮮明に残っているものをあげてみました。

お名前:宮崎恵彦


★福田和也による『イラハイ』(佐藤哲也、新潮文庫)の解説

 基本的に、「解説」なんてものはいらんのだ、ということを明確に主張し、紙幅のすべてを使って遊んでいる名解説。なぜすばらしいかというと、本文における佐藤哲也の「優雅な遊び」と、解説における福田和也の「ちょっとした遊び」が、ちょうど長歌に対す
る反歌としての効果をあげて、この本の価値を高めているから。解説不要論は山之口の持論でもある。

★浅倉久志による『たったひとつの冴えたやりかた』(J.ティプトリー・ジュニア、ハヤカワ文庫)の解説(訳者あとがき)

 理由は単純。このすばらしい作品を読んだ余韻が消えないうちに、作者の自殺を知らされた衝撃は、13年後の今でも消えずに残っている。あたかも、それが、『たったひとつの冴えたやりかた』であったとでも言うように……

★瀬名秀明による『オルガニスト』(山之口 洋、新潮文庫)の解説

 をを、なんて手前みそな。
 まだ読んでいないし、だいいちまだ書かれてないのであるけど、瀬名さんは快くひきうけて下さいました。きっとそこらの作家や評論家ではとうてい取れないような、独自の視点から書いてくださることでしょう。瀬名さんに断られたら、オルガニストの松居直美さんにお願いする手はずでした。文庫は8月末刊行。

お名前:山之口 洋
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/nayamama/yoya/index.htm


★筒井康隆による『日本SFベスト集成』(全6巻 徳間書店 文庫 絶版)収録の手塚治虫「ブラック・ジャック」の解説 

 作家としてもさることながら、アンソロジストとしての筒井康隆の力量は並々ならぬものがあると思います。作品への愛情、ネタを割らないポイントの紹介、作品及び作者に関する短いエピソードを紹介する読者へのサービスを怠らない姿勢。どれをとっても良いアンソロジストとしての規範になるものばかり。その筒井さんが選びに選びぬいた日本SF黎明期の超傑作アンソロジーでさすがにどの収録短編一つをとっても現代にも通用する名作ばかりだと思います。そんなわけでどれかひとつ選び出すのは至難の技でしたが、アンソロジーの中に漫画を入れたという国内初の試みに敬意を表して手塚治虫「ブラック・ジャック」『地下壕にて』『おばあちゃん』の解説を。この作品の中で手塚さんが描き筒井さんが指摘した医療における問題は26年たった今も解決されていません。

★夢枕獏による『鬼譚』(大陸書房 絶版)収録の小川未明「赤いろうそくと人魚」の解説

 出身が筒井さん主宰の同人誌「ネオヌル」ということで直系といってもいい夢枕獏さんのテーマを「鬼」にしぼったアンソロジー。収録作全てを読むとあの「陰陽師」がどのような過程を経て誕生したのか垣間見られるような気がします。獏さんの「赤いろうそくと人魚」の解説を読むと自分が昔子供の頃読んできた童話や民話に秘められた別の意味をさぐりたくなったりもします。同じものに別の角度から光を当て、それまでとは全く異なる姿を照らし出す、これも正しく良心的アンソロジストの姿勢ではないでしょうか。ある意味、後年の「本当は怖い〜」ブームを先取りしたものといえるのでは? ちなみに収録作中一番私が怖かったは山岸涼子「夜叉御前」だったりする。

★栗本薫による『いま、危険な愛に目覚めて』(集英社 文庫)収録の森茉莉「日曜日には僕は行かない」の解説

 男性同性愛を描いた「耽美」「やおい」「ボーイズ・ラブ」この三つのジャンルは私のような男性にはなかなかに理解も区別も難しいものがあります。同じようでもあり、なにか違う部分もあり。しかし職務上の必要に迫られ、昔そうした本に詳しい女友達から薦められて何冊か読んだところ、どうも「耽美小説」かきちんと「同性が好きであることへの葛藤」を描いたものであれば、男でも楽しめるのではないかという考えに至りました。このアンソロジーは、そんな耽美小説の大御所ともいえる栗本薫が自分なりの耽美小説観にそって編んだものです。その解説と一緒に収録作を読むとこれらのジャンルが単なる際物やブームとしてあるのではなく、ある種のタイプの女性たちには極めて切実かつ内在的な欲求から生まれてきたものだといくらかは理解しえるのではないでしょうか? 男の単純なマッチョ志向が少々恥ずかしくなってきます。

お名前:あやかしや店主

サイト名、アドレス:古書あやかしや http://homepage1.nifty.com/maiden/


★野田昌宏   『大宇宙の魔女』C・L・ムーア(早川書房)の解説

    かつてこんな解説があったでしょうか?
    自分が訳したかった本が他人の訳によって出るばかりでなく,その本の解説を書かねばならないとは!
   もちろん僕は翻訳家ではありませんが,他に例えると「密かに憧れていた異性が自分とは違う人と結婚し,あろうことかその結婚式でスピーチを頼まれた」・・・。
   まず訳者(仁賀克雄)に対して悪気はないことを断った上で,そのくやしさをぶちまける氏の解説は,ただただ圧倒され,同情するばかり。しかしちゃんと解説をするところは,さすが。

★浅倉久志   『虎よ,虎よ!』アルフレッド・ベスタ―(早川書房)の解説

    「僕のベスト1の小説」の解説。
    小説のストーリーは忘れているところが多いが,テンポの良さと巧みなストーリーテリングに引きこまれるように読んだ気がします。
   まさに「十年に一度の傑作」にふさわしい小説。そしてそれがどのように生まれたのかを,ベスタ―の紹介を通じて解説しています。
   「インディアナポリスよ,ありがとう」。このせりふはF&SF誌の編集者が,『虎よ,虎よ!』発表後沈黙し,10年後にカムバックしたベスタ―の喜びを表したものですが,印象的な言葉です。

★松谷健二   『大宇宙を継ぐ者』K・H・シェール&C・ダールトン(早川書房)の解説

    無限とも思える超長大な物語の,記念すべき第1巻。
    思えば僕がこの物語につきあうようになったのは,その長さでした。終わることのない物語――。本を読んでいて,もっとこの世界にいたいのに,と思った経験は少なくないのではないでしょうか。
   この物語なら,永遠に読める!・・・とつきあいはじめて,約20年たちました。時にはマンネリズムに陥りますが,多分これからも読みつづけることになるでしょう。

お名前:広島保生  


★第1位 植草甚一/創元クライム・クラブ全29冊(作者多数、東京創元社)の解説

 ミステリ史上最強の解説集。これだけで単行本を編んでしまえる名解説の連打また連打!私の「見果てぬ夢」。

★第2位 小林晋/『鑢』(フィリップ・マクドナルド、創元推理文庫)の解説

「文庫解説の歴史を塗りかえた」と喧伝される畢生の名解説。
解説に名を借りて、不遇の作家Pマクドナルドの全てを未訳作のレビューも交えつつ語り尽した雄編。
この解説のためにこの文庫の古書価格は今も上がりつづけている。

★第3位 井上雅彦/異形シリーズ全冊(著者多数、広済堂・光文社)の解説

愛がある、思い入れがある、誇りがある。
これも日本の出版史に華麗なる一頁を刻んだ(刻みつつある)名解説。
命懸けの提灯持ちに拍手喝采!

お名前:kashiba

サイト名:猟奇の鉄人

アドレス:http://www.ann.hi-ho.ne.jp/kashiba


★北村薫/『招かれざる客たちのビュッフェ』(クリスチアナ・ブランド、創元推理文庫)の解説

★北上次郎/『利腕』(ディック・フランシス、ハヤカワ・ミステリ文庫)の解説

★小泉喜美子/『スイート・ホーム殺人事件』(クレイグ・ライス、ハヤカワ・ミステリ文庫)の解説

順不同。大好きな作品に愛のある解説がついていると嬉しいものですね。

お名前:湯川光之

サイト名、アドレス:
http://www.hi-ho.ne.jp/one7/diary.htm


★石原藤夫による『梅田地下オデッセイ』(堀晃、ハヤカワ文庫JA)の解説

 解説ベストと言う事で、まず思い付いたのがこの解説。
作品は「これぞハードSF」と言った内容の短編集です。
解説では、各作品のSF設定について図等を用いて判りやすく説明しています。

★瀬名秀明による『ターミナル・エクスペリメント』(ロバート・J・ソウヤー、内田昌之・訳、ハヤカワ文庫SF)の解説

「面白いからとにかく読め」では無く、なぜ面白いのかを分析しいかにして多く
の人に読んでもらえるかを考えて説明している所が良い。

★小林泰三、我孫子武丸、田中哲弥、森奈津子、牧野修による『銀河帝国の弘法も筆の誤り』(田中啓文、ハヤカワ文庫JA)の解説
 ちょっと反則技ですが(^^)、今年に入って一番楽しめた解説です。

★番外編、ベスト解説者:瀬名秀明

 瀬名さんの解説は良い。その作品に対する愛情が感じられ、さらに作品や作者を知る上での資料性も高いと思う。
ただ、瀬名さんの解説はその作品を読む前によんではいけない、もし読んでしまったら、その作品を読むのに少し時間を置かなくてはいけなくなるだろう。解説だけで満腹になってしまうから。

お名前:山崎 晃


★渡辺格による『復活の日』(小松左京、角川文庫)の解説

 1975年に出た文庫版の解説である。SF作品の解説を現役の科学者が書くことは近年多くないとはいえそんなに珍しくないが、慶応大学の名誉教授が“たかが”SF作品を絶賛する解説を文庫に寄せるという出来事は70年代初頭には極めてインパクトがあったと思われる。
 解説文自体も、本書のガジェットを分析・説明するためだけに科学者が引っ張り出されてきたなどといった安易なハク付けのためのものではなく、最先端の科学が人類にもたらす影響、SF的発想で研究を膨らませた想像などが彼自身の体験的なものとして語られ、またそうした発想がどのように科学者の研究の原動力に影響しているのかが、平易な語り口で示されている。
 派手な煽りや賞賛が並ぶ情熱的な文章ではないが、科学者本人が自分の立場からSF的発想の中へ飛び込み、作品の意義を語る文章は地味ながら心地よい。

★斉藤由貴による『着想の技術』(筒井康隆、新潮文庫)の解説

 1989年に出た文庫版の解説である。本書は「作家がアイデアを発想するということはどういうことか」にこだわり抜いた筒井康隆が、自らの創作メモ、日常生活、夢の影響の分析など極めて個人的な体験から無意識の構造、創作とはなにかへと迫りさらに文学論、SF論へ話を敷衍していくという多段式ロケット推進型評論群とでも呼ぶべき奇書怪書である。
 斉藤由貴は解説の前半、自分が「『虚構船団』におもいきり惚れてしまった」と発言したことから今回解説を依頼されるに至った流れを語り、本書を見た感想を「随分と傲慢なタイトルだ。」と平気で言い放つ。そしていざ本書を開いて一読し(ようとし)た感想が、
「なんじゃこれは。」
である。この一言のために一行取る念の入れようである。素晴らしい。
 さらにその後に続く一文が、本書の性格を正確に言い表している。

 「筒井氏ではないが、この一言しかない。ムツカシすぎて解説どころの話ではない。これを読んで、勉強になる人間なんているのだろうか。着想の何たるかの形骸ばかりをつかむことが出来こそすれ、(−中略-)筒井氏以外誰一人として自分の作品への応用は不可能のように感じてしまった。」

 斉藤由貴がこの解説で喝破した物言いは、SF評論家にはなかなか書けない。勇気を持って書いたとしても一族郎党まで末代に渡って不敬罪の烙印を押され、SFファンダムから村八分にあうであろう。このあと解説文は一転し二転しアジテーションへ走り、ラストの「筒井康隆『着想の技術』? なんぼのもんじゃい。」へと強引に着地する。斉藤由貴恐るべし。時々は。

★石原藤夫による『梅田地下オデッセイ』(堀晃、ハヤカワ文庫JA)の解説

 1981年に出た文庫の解説である。この解説にはタイトルが付いている。「宇宙SFのイメージ・デザイナー ――解説的「堀 晃」論――」という。
 そう、編集部から“解説”を依頼された石原藤夫が、持てる力を最大限発揮した解説という名の堀晃論である。しかも学術論文の体裁を取っているので、「用語の定義」「基礎資料の提示」そして「解釈」へと章立てで流れる63ページを費やした大論文である。使用図版は15枚。「多重回転の舞台図」(図8)、「過去型生物と未来型生物」(図11)、「時間ワープと冷やし中華の熱力学」(図13)等、精緻で印象的な図版が読者の目を引く。解説文自体も、本書のガジェットを分析・説明するためだけに科学者が引っ張り出されてきたなどといった安易なハク付けのためのものではなく、堀晃の新婚旅行を巡る邪悪な暴露話等も豊富に盛り込まれている。(石原藤夫自身は「日本SFの裏面史に残るべき壮絶なる秘話」だと言い張っている)
 これだけの大論文が“解説”という枠に収まりきらないのは、論が本書収録作品のみならずこの時点で発表されていたすべての堀晃作品を網羅していることからも明かである。しかし本人は論の最後にこのように記述している。

 「イメージの火薬庫みたいな堀さんのSFを読んでいるうちに、「想いあふれて花を摘み」すぎて、ずいぶん長い解説になってしまった。その豊穣なイメージに昂奮しすぎたためである。お許しいただきたい。」

 本人はまだ、“解説”だと言い張っているようである。

お名前:のむのむ
サイト名 e-nond@kure
URL   http://home.att.ne.jp/sky/satoshi-i/


 本をすこしひっくり返してみたところ、SFの本には良い解説が多い、との感を強くした。もちろんダメなものはダメなのだが、しかしアベレージはおしなべて高く、少なくともスタージョンの法則は通用しない。

 即座に思い付く大好きな解説も無くはないが、粒揃いの名解説群から選出するに際しては、何かしら突出した部分を強く持つことをポリシーとした。番号は順位にあらず。

1、水鏡子の『スターシップ』解説、「解説 ―あるいはアンソロジーの諸相―」
(宇宙SFコレクション2、ブラッドベリ他、伊藤典夫/浅倉久志 編、新潮文庫、1985年)


 編纂に至る舞台裏を垣間見せ、アンソロジストの隠れたるたくらみの存在に気付かせる。アンソロジーとは、アンソロジストとは、こういうものだったのか!
 これを知った読者は、アンソロジーと向き合う姿勢の変更を、余儀なく強いられるに違いない。そしてまた、手のウチの一部を公にされてしまったアンソロジストたちも、なんらかの意味でこれを意識せずにはいられないだろう。なぜなら、対決する読者はもはや、今までとは別人なのだから。
 SFセミナー2001のアンソロジーパネルでも紹介された、水鏡子の真骨頂。対となる、宇宙SFコレクション1の『スペースマン』解説、伊藤典夫による「解説 ―または、ザ・メイキング・オブ・宇宙SFコレクション―」との併読推奨。

2、伊藤典夫の『アインシュタイン交点』訳者あとがき、「ザ・メイキング・オブ……  The Making of...」
(サミュエル・R・ディレイニー 著、伊藤典夫 訳、ハヤカワ文庫SF、1996年)


 奇しくも似た題名が並んだが、これこそまさに「ザ・メイキング・オブ」。海外SFシーンの最前線に立ち続ける、伊藤典夫というひとりの男の半生記である。
 その傑出した才能が、様々な連鎖と自らの円熟によって遂にものした執念の訳業。膨大な時の中を捕えて放さなかった『アインシュタイン交点』とは、彼にとって一体なんだったのか?
 この1冊と引き換えに手に入れ損なった、ありえざるSF史に嘆息することはするまい。むしろ、真っ正面から挑み、乗り越えた伊藤典夫の今後の仕事振りに、期待で胸が高鳴る。その成果には、一層の凄みさえ加わってるに違いない。
 そしてまた…。SF人の端クレとして、生涯を賭して入れ込める作品との運命的な遭遇に、ある種の羨望の念を覚える。

3、『宇宙の戦士』
(ロバート・A・ハインライン 著、矢野徹 訳、ハヤカワ文庫SF、1979年)


 矢野徹の訳者後記であることは間違いない。しかしここには、文庫版に先立つハヤカワSFシリーズ版『宇宙の戦士』と、その訳者後記に対する様々な読者の反応が収録されている。
 パワード・スーツのイラストに惹かれ、手にしたに過ぎない少年にとっては、繰り広げられるイデオロギー的対立に途惑いを感じたものである。だがそれにより、SFが現実を投影する装置としても機能すること、空想の物語と思っていたSFが、ぼくらを試す力を持ち得ることに、深読みを知らない少年は漠然と触れた。
 石川喬司による書評と、「少々かきまわしてみたいという意図もこめて」反論を寄せた神戸の田路昭。それに応えた17通の投書。そう、紛れも無くこれは論争であり、『宇宙の戦士』論争の全貌が納められているという、極めて破格の構成なのである。
 ちなみに、田路昭は最古参ファンジンのひとつ、<PARANOIA>(1961年創刊)主宰者であり、他に大宮信光らの名前も伺える。
 テーマ性と時代背景、読みの多様性を様々なレベルで示唆する含蓄など、個人では到達不可能な“解説”の極北。

名前:ダイジマン


 自らアンケートを集めておきながらアレですが、実を申しますと、私が解説の重要さに気がついたのは、恥ずかしながらホントにここ最近のことなんです。なので、最近読んだ本からしかピックアップできなかったのですが、きっと他にも名解説は山のようにあると思います。いい解説に出会うのは、本当に幸福なことですよね。その本の価値をさらに高める、とても重要な黒子だと思います。

★有栖川有栖による『魔法飛行』(加納朋子、創元推理文庫)の解説 ”論理じゃない、魔法だ”

 失礼ながら、正直驚いた。有栖川さんが、こんなに素敵な解説をお書きになるとは。読了後、まだ読者の心に残っているこの物語のふわっとした優しさを、「魔法」をキーワードとして見事に文章化して見せてくれた。正確な分析も表現力も申し分ない。夢あふれる、とても素敵な解説。

★山田正紀による『海底密室』(三雲岳斗、徳間デュアル文庫)の解説 「孤独の発明」

 実に的確な解説。この、SFとミステリのあいのこみたいな小説の位置付けを、説得力ある筆で見事に解説してくれている。さらに、この物語を「孤独」を焦点として解説し、その読み込みに読者をうならす。加えてこの文章。なんといってもあの山田正紀だ。カッコイイのよ!(笑)キザすれすれの物言いがクール。さすがである。

★瀬名秀明による『祈りの海』(グレッグ・イーガン、ハヤカワ文庫SF)の解説

 お読みになった方にはあえて何も言うことはないでしょう。実に実に傑作。こんなに手離しで絶賛した解説を読んだのは初めて。本書に対する愛があふれている。しかも惚れすぎて目が曇ってるどころか、実に深く物語に切り込み、鋭く解説しているのだ。ラストの締め括りの言葉も見事。「小説の未来を考えようとするすべての人に、グレッグ・イーガンはある。」本を買う前にこんな解説を読んだら、誰でも速攻で書店のレジに持っていってしまうのではないだろうか。

名前:安田ママ


 

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