第25号                                        1999年10月

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 ついにこの紙版銀河通信も、おかげさまで2周年を迎えることになってしまった。時の経つのは本当に早いものだ。飽きっぽい私がここまで続けることができたのは、奇跡に近いのではないだろうか(笑)。

 ネットと両方やってるので、実はなかなか大変だったりする。読みたい本はどんどんたまってしまうし、読んだらすぐ乱読を書かねばならないし、他の書評ページのチェックもこまめにしなければならないし、とやってるともう次の号の原稿を書かねばならないし、と大忙しなのである。といっても自分ひとりで勝手に忙しがってるだけであって、何の義務もないのだが。

 が、やはり紙版にしろネットにしろ、誰かから何かしらの反応があると実に嬉しいものである。それだけが私の支えであると言っても過言ではない。

 皆様のおかげでここまで来られたのだ。ありがとうございます!

 

今月の乱読めった斬り!

『キリンヤガ』☆☆☆☆(マイク・レズニック、ハヤカワ文庫SF)

 帯の謳い文句がすごい。「SF史上最多の栄誉を受け」とある。つまり、SF関係の賞を総なめ!15個もだもんね。しかも周りの評判も上々。なるほど、噂にたがわずとてもいい本だった。含蓄があって、うーむと考えさせられる。人の心に、深く静かに問いかけるような物話である。これはSF方面の方しか手に取らないのはもったいない。『アルジャーノンに花束を』のように、SFという枠を外して万人に読んでほしい本である。これは「理想郷を夢見、それに破れたひとりの老人の物語」である。

  ヨーロッパの文化に染まったケニアを捨て、アフリカのキクユ族の昔からの暮らしを取り戻し、そのユートピアを作るべく、コリバは小惑星キリンヤガへ民を連れて移住した。その新しい地で、コリバは祈祷師として村を守り、人々を導く役目を日々実行する。が、彼がどんなに防波堤となって文明から民を守ろうとしても、堤防の隙間から少しずつ水は洩れてきて…。

  かたくななまでに文明を拒否して昔の慣習を守りつづけ、それを村中に強要して自らの夢見るユートピアを作ろうとするコリバと、村人たちとの確執に「果たして人間の最も大事なものって何なのだろう?」と考えさせられる。人間の尊厳とは?文化とは?民族とは?知識欲とは?それぞれのエピソードが、深く静かに胸を刺す。そして、コリバと村人たちのどちらが正しかったのか?答えは読者ひとりひとりにゆだねられる。

 この物語そのものが、まるで大きなひとつの寓話のようである。「こういうお話がありますよ、あなたはこれを読んで何をどう考えますか?」と、何か哲学の問題を出されたような気持ちになる1冊。

『笑わない数学者』☆☆☆☆(森博嗣、講談社文庫)

 例の犀川助教授と西之園萌絵のコンビシリーズ、第3弾。舞台は偉大なる数学者、天王寺博士のクリスマスパーティが行われた「三ツ星館」。ここに萌絵が招待され、犀川もついていく。ここには昔、庭に立つ大きなオリオン像を博士が消してみせたという謎があった。このパーティでも、博士はそれをやってみせる。皆が驚いたその明け方、2つの死体が発見される…。

 いつも彼の作品には、数学の問題のように、謎がきっちり提示される。そして、ラストにこれが全部すっきり解けた時の爽快感ったら!

 あとは文章の歯切れの良さ(人間も文体もどろどろしてなくて、余計な無駄が一切ない)、キャラのうまさ、設定の魅力、などだろうか。これぞミステリのお約束!というところをきっちり踏まえた作品だと思う。やはり、尻の座りの悪いミステリはどうも後味が悪くていけない。この点、この作品は安心して読める。

 早く先が読みたいが、もっとこの世界に浸っていたいという幸福な矛盾に苦しんでしまう本である。

『カニスの血を嗣ぐ』☆☆☆1/2(浅暮三文、講談社)

 これは、とびっきり奇妙なミステリである。なんたって、主人公の設定が度肝を抜いている。彼はとある病気のため、嗅覚が異常に発達してしまっている。事件に巻き込まれた彼は、その嗅覚だけを使って謎を解決してしまうのだから!でもこの話、主人公の特質以外はまったくの現実世界である。だからこそ、彼の存在が異様に際立っているのだ。

 片目が義眼ということもあり、主人公は外の世界を判断するのに、視力よりむしろほとんど嗅覚を使用している。ゆえに、この本の描写は、ほとんどすべてが匂い″による表現である。これがまあ、すっさまじい!満員電車の描写なんかアナタ、これ読んだらもう電車乗るのコワクなりますよ、ってくらいのエグさ!とにかく全篇、あらゆる匂いのオンパレード。こういう形で世界を表現する手段があったとは。まいりました。

 ちょっと都合が良過ぎるかな、という箇所もなくはないが、話の展開は実に面白い。この描写の濃さとストーリーの濃さ(こちらもすさまじいです、はい。ネタバレするともったいないでナイショ)を存分に楽しんで頂きたい。私達が失いつつある、嗅覚″という野生の本能を思い出させてくれる、実にユニークな視点からのミステリというかエンターテイメント。

『沙羅は和子の名を呼ぶ』☆☆☆1/2(加納朋子、集英社)

 10の短篇から成る、ちょっとミステリアスな小品集。どの話も、現実と非現実を行き来する物語である。その非現実とは、幽霊であったり、あいまいな子供の頃の記憶であったり、商店街にあるはずのない森であったり、いるはずのない自分の子供などである。いや、非現実というより、もうひとつの世界といったほうがいいだろうか。もしかしたら、あの分かれ道で右でなく左を選んでいたら存在したかもしれない、もうひとつの現実。それが、主人公たちの前に、ふうっと姿を現すのである。どの話も、著者独特の暖かく心温まるお話だが、甘いだけでなく、すこうしブラックな味も入ってたりして、なかなかのしゃれた味わいである。

 私が好みなのは、「フリージング・サマー」(これは泣ける!)「海を見に行く日」(母親が娘に語るという形式の話。何てことない語りに、母の愛情があぶり出されてていい)「商店街の夜」(商店街の古ぼけたシャッターに、ある日、ある男が森の絵を書く。それはまるで本物のように素晴らしい絵だった…)あたり。表題作はミステリタッチで話の仕掛けが実に面白い。主人公は、学生時代の恋人を捨てて、会社の令嬢と結婚したのだが、もしも以前の恋人と結婚していたら…といった、パラレル・ワールド的なお話。

 「もしも…だったら?」。あなたのすぐ隣にもあるかもしれない、もうひとつの世界にちょっと足を踏み入れてみませんか?見慣れた日常がくらっとひっくり返る感覚が快感ですよ。

『幼な子われらに生まれ』☆☆☆1/2(重松清、幻冬舎文庫)

 重松清は、どんなに照れくさく気恥ずかしいテーマでも、堂々と真っ正面からそれに挑む。いつでも直球勝負。気持ちのいいくらいまっすぐな球をずばんと読者に投げる。この小説では、家族をテーマに、それぞれの心の葛藤をストレートに描いている。が、ほのぼのした家族小説なんかではない。痛すぎる、あまりに痛すぎる小説である。

 著者は、主人公の父親の気持ちだけでなく、ひとりひとりの気持ちをくっきり描いている。そして、それが実にまっとうなのである。例えば読者がこの反抗する娘の立場に立ってみると、彼女の気持ち、行動が実にすんなり納得できる。私が彼女の立場であったらさもありなん、ということを著者はそのまんま描いているのだ。

 だから、この小説は痛いのだ。誰の気持ちもわかってしまうから。皆、誰かを傷つけたくはないし自分も傷つきたくないのに、結果的に傷つけ合ってしまっているから。そして、それが誰にもどうしようもないというのが、いやというほどわかってしまうから。彼の「私たちは、ほんとうに家族なのか?」という問いが胸に重くのしかかる。

 家族とは、父親とは、生きるとは?この小説は、この問いへの重松清からの一つの解答である。

 

特集 森博嗣座談会

 どういうわけか(と言うべきか、やっぱりと言うべきか)発行人の周囲に森博嗣ファンが多いことが判明。これは一度、彼の魅力についてとことん話し合わねばなるまい!ということで、某日、某居酒屋において、「森博嗣座談会」が開催されました。ご協力下さった皆様、ありがとうございました。

 人物紹介 和:和泉澤女史、ざ:ざっぱー、ぶ:あおきぶちょう(仮)、エ:エマノン嬢、安:安田ママ

安:ざっぱーは、森博嗣を全作品読破してるんだよね。どれが一番面白かった?

ざ:『封印再度』。

安:同じく読破してるぶちょうは?

ぶ:『まどろみ消去』。短編集が好きだったんですよ。『地球儀のスライス』も。長編だとね、ダレる(笑)。作風のせいかな。あの人、ってちょっと普通つズレてるところがあるでしょ。そこがつらくなっちゃう。けっこう森さんもウンチク好きじゃないですか、京極とは違った意味で。

安:エマノンはどれが一番?

エ:まだ『詩的私的ジャック』までしか読んでないから…。好きなのは『笑わない数学者』かな。トリックが読めるとはいえ、「そりゃないよ」というのがなかったから。

安:私は『すべてがFになる』のトリックはいまだに納得いかない(笑)。『F』がデビュー作だけど、最初に書いたんじゃないんだってね。

和:ああ、それなら納得いくな。『F』はデビュー作にしては書き慣れてる感じしたから。

エ:「ぱふ」のインタビューで読んだんですけど、この人30幾つになったらデビューしようと思ってたんですって。お金を得る手段として、小説を書こうと思って。で、本当に予定通りデビューしてしまった。

安:すごーい!

ぶ:この人、HPの日記で「(原稿を)今日は○%あげた。今日は○%あげた。○日で終わるだろう」って書いてて、ホントにその通りに書き上がってるんですよ!

安:どういう人なのいったい!?(笑)

エ:あの人にとって、「予定」は「決定」なんだよ。担当の人、ラクだろうなあ(笑)。

和:もうプロットとかみんな頭の中にあって、全部出来上がっちゃってるんだよね。

ぶ:で、それをプリントアウトするだけ。(笑)

和:そう。でなきゃそんなの出来ないよ。

エ:「大体何文字くらいの訂正になるだろう」とか言うとだいたい合ってるんですよね。

ぶ:ホントにもう理系の人だよね。文系じゃない。

安:作家のカガミだね!ちょっと○栖川さんとかは見習え?(笑)

エ:京極と対談させたら面白いでしょうねえ〜(笑)。

和:最後まで話かみ合わないだろうね。会話が成立しないかも。

ぶ:お互いウンチク語って終わり、みたいな(笑)。


安:で、結局犀川先生と萌絵はどうなるの?最後はくっつくの?

ざ:それはやっぱり言えないです、やっぱり(笑)。

和:あのじらし方、うまいよね。

ぶ:ヘンに少女マンガ的要素がうまいの!(笑)

和:この人、絶対少女マンガ読んでるんだと思う。

ぶ:萩尾望都の大ファンなんですよ。

安:そういえば森さんて昔マンガの同人誌やってたんだよね?

エ:けっこう一部では有名な同人誌だったらしいですよ。奥さんも漫画家だし。

和:読んでてそのまま、頭の中でマンガに変換できるよね。だからって無理があるわけじゃない。

安:非常に視覚的だよね。萌絵の着てる服を上から下までびっちり書いたり。

和:そのへんも理系だよね。

ぶ:「美しい女性」みたいなあいまいな書き方じゃないんだよね。

安:イヤリングとかまで細かく描写してる(笑)。

ぶ:これ、男の人が読んでも面白いのかな?

安:いや、男性のファンも多いよ。

和:文章が論理的だからかな。

エ:女の子には別の意味で楽しめる(笑)。

ぶ:キャラ系の?(笑)

安:う〜、先が楽しみ〜!

和:男の人にはまだるっこしいかもね。「さっさとやっちゃえよ!」みたいな(笑)。女の子は、シチュエーションを楽しめるけど。

ぶ:だから少女マンガなんですよ〜。

安:森さんって何の教授なの?

ぶ:建築。

和:やっぱりそうなんだ。犀川教授そのまんまだよね。

安:主人公2人のキャラの性格って、つまりは森さんそのものだよね。

エ:いっぺんあの人の思考回路を体験してみたい(笑)。

ぶ:電子回路が入ってるんじゃないかな(笑)。

エ:暗算とかすごくできそう。

ぶ:メディアファクトリーの『ミステリィ工作室』面白かったですよ。理論と理論と理論でこういうふうになるっていう思考形式がよくわかる。
和:もう考え方が常人と全然違うよね。考えてるルートが全く違う。

エ:一回本読むと、全部頭の中に入っちゃうから、もう読んだ本は手元にいらないんですって。

安:脳にハードディスク入ってるんじゃない!?(笑)

エ:私なんて、ミステリ読んでも何年かたつと犯人誰か忘れるのに。

和:そ、それは…(笑)

安:でもミステリ作家で記憶力いいと、同じネタのパクリとかしないで済むからいいよね。

和:○○なんてしょっちゅうだよ(笑)。ま、量産する人は仕方ないけど。

安:森さんの本って、ミステリのトリック的にはどう?及第点?

和:他の登場人物のこともきちんと書くからアンフェアじゃないよね。

安:書き方が非常にフェアだよね。わざとネタ隠し持ったりみたいな姑息なマネしないの。

エ:見えてなかったとか(笑)。

安:全部ネタを公正明大に出しといて、それで「さあ、問題解いてみなさい」みたいな。

和:与えられたヒントの中から考えなさいと。

ぶ:やっぱりこの人、「先生」なんですよ。

和:そうそう、数学の問題みたいな感じだよね。

エ:この人、あまりトリック重視じゃないと思う。『笑わない数学者』なんか、読んでてだいたいトリックわかるじゃないですか。でも、本人全然気にしてないんですよね。そこが潔いというか。トリックによっかかってない。

和:乱歩やポオやクリスティとか昔の人ってみんなフェアだったんだよ。最近の新本格の人って、割とずるいの多いじゃない。その点では今、日本の新本格と言われる人の中ではかなり珍しいタイプかも。

エ:森さんは、あの2人のキャラを書くのに重点をおいてるよね。

安:私は論理や推理重視のミステリってあまり好きじゃない。そこだけにこだわる作家っているじゃない?

和:それ以外は全然無視してるから、文章が雑多になる。

エ:森博嗣は、文章が簡潔なとこが好き。

安:非常に読みやすい。読んでてわかんなくなって前のとこ読み直す、ってことがまずないよね。

一同:そうそう。

エ:親類関係とかが複雑で、「あれこれ誰だっけ?」って登場人物表見直したりしなくていいし(笑)。

ぶ:この人ってミステリにありがちなエログロが全くないですよね。爽やか系?(笑)

和:おどろおどろしいところがない。

ぶ:理系だからかな。

和:そのへんが私には物足りないかな。結局殺人の動機ってお金や愛情のもつれが一番大きいじゃない。

ぶ:この人はどっかズレてるから(笑)。

安:新しいシリーズはどう?

ぶ:カンペキ、キャラ中心。コバルト文庫で出てもおかしくない。

安:コバルトお〜!?(笑)

和:今度のシリーズは、彼のよさが生かされてないと思う。なんか、キャラを作るのにすごく無理してるのがわかるんだよ。やりたいことはわかるんだけど。でもこれを続けるのはつらそうだよ。

ぶ:『F』を読んでいきなり『黒猫の三角』を読んだら、「なんだこりゃ!?」と思うと思う。犀川シリーズが「マーガレット」だとしたら、黒猫は「なかよし」なの。

安:「なかよし」〜!?(絶句)…で、主人公は誰なの?

ぶ:言えないの。

安:ええっ???

エ:でも、次が出たらやっぱり買っちゃうでしょ。

ぶ:うん(笑)。

安:でも、まだこのシリーズ続くんでしょ?

エ:年内にあと何冊出るってもう決まってますよ。2000年まで予定がたってるの(笑)。

安:ははは!鬼が笑うね。

 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

1999.9.11 (土)、星新一の誕生日(9月6日)にちなんで開催された、星新一を偲ぶ会「ホシヅルの日」に行ってきたゾ。あの愛すべきキャラクター「ホシヅル」を全面に打ち出すことで、ヘンに祭り上げちまう風に陥らなかったし、多分、いやきっと星さんも喜んでいるんじゃないかな。

 会場となった科学技術館サイエンスホールに到着してすぐ、牧眞司・紀子ご夫妻にお会いして同席することに。見知った顔もチラホラと。前の座席には柴野幸子さんが。柴野拓美さんは、もちろんゲスト席にいらっしゃいました。

 ホシヅルによるオープニング・アニメの後、司会として実行委員長の新井素子と井上雅彦が登場する。この会を起こすに至った思い入れなどが語られたが、発起人の小松左京が体調優れず来場ならなかったのは、返す返すも残念であった。

 そして、柴野さんがホシヅル人形を手に、いかなる生物かを外国人相手に説明するため(本人曰く「アヤシゲな英語」で)悪戦苦闘しているモノクロ映像(お若い!)を皮切りに始まるは、メインのビデオ上映。題して「千一篇の夢」

 もはや伝説となっているSF作家クラブの東海村原発見学の映像や、パーティー、TV、ファンの集いなどで残された星さんの姿、そして親交のあった方たちによる証言(告発? 笑)インタビューなど。映像そのものは、1998年5月29日放映「驚きももの木20世紀」でのカットも多数使用していたために、必ずしも初見とは限らなかったけれど、たった数百人に一回見せるだけではモッタイないと思わせる、ナカナカの出来でした。

 途中に挟まれた第1パネルでは、柴野拓美、野田昌宏、豊田有恒という第一世代の面々が登壇(司会/巽孝之)。会場の関心は“星語録”に集中したが(笑)、極端に限られた短い時間という悪条件に輪を掛け、その内容から自主規制(!?)が働き、聞いてるこっちはまさにお預け状態。いやしかし、さすが一緒にバカ話をしていた方たち。出るは出るは…(笑)。

 野田さんが、例の《キャプテン・フューチャー》を翻訳出版した時のエピソードを持ち出した途端、ウ〜ンと頭を抱えた柴野さんが実に微笑ましかったことは、みんなに内緒にしておこう(笑)。

 この、まことしやかに語り継がれる“星語録”というシロモノ、ぼくも実在を信じかけたことがあったが(オイオイ)、「探しても見つからないから、自分で作った方が早いのでは…」と、本当に作ってしまった人が世の中にいる。

 内容はむしろ星作品の名言・金言集であるが、この『星新一語録』(1973年)を発行した人物こそは、後にファンクラブ「エヌ氏の会」を結成することとなる林敏夫である。『星新一語録』から「エヌ氏の会」を経て続いた、直接の交流の経緯については、〈小説新潮〉98年3月号に寄せた林敏夫の追悼文でも語られている所である。

 さて会場の方は、永井豪、江口寿史、吉田戦車、萩尾望都、大友克洋、小松左京(!)他、超豪華な顔ぶれによる、ホシヅル・イラストギャラリー「ホシヅルがいっぱい!!」を上映。パンフレットにも掲載されているが、大画面で動きがあるし、しかもカラーなのだ!

 続いては、岡本忠成が「花とひみつ」を映画化した、『花ともぐら』の上映がなされました。人形劇による14分の短篇で、とても可愛くて秀逸。第22回ベネチア国際映画祭銀賞受賞を始めとする、数々の受賞歴を誇るだけあり、30年以上前の作品ながら楽しめました。

 また星新一にまつわるビデオが流された後、高井信、大原まり子、新井素子、太田忠司、江坂遊、井上雅彦という“星新一の子供たち”による第2パネルがスタート(司会/星敬)。高井信は筋金入りの星ファン上がり。大原まり子もヴォクトなどの海外SF以前に、星作品を愛読したという。新井素子は言わずと知れた「奇想天外新人賞」で、ただひとり星新一が激賞してデビュー。太田忠司、江坂遊、井上雅彦の3人は、共に星が選者を務めた「星新一ショートショート・コンテスト」出身者。という訳で、新たな才能を発掘・指導した、育成者としての星像が語られた。

 今日の「ホシヅルの日」というイベント自体が、これだけの内容を盛り込みながら、たった2時間のスケジュールだったことからも想像出来るように、パネルに充てられた時間は余りにも短い。しかし“子供たち”の気持ちは、ショートショート・コンテスト出身作家による追悼作品集、『ホシ計画』(廣済堂文庫99年)からも十分に伺うことが可能であろう。

 そして新井&井上両司会により、いよいよ星新一ショート・ショートベスト3が発表されることに。これは参加登録する際に記入した、来場各人のベスト1アンケートを集計したもので、対象作品の膨大さと平均点の高さから大混戦を強いられた。では結果発表! 3位「午後の恐竜」(6票)/2位「ボッコちゃん」(11票)/1位「おーい でてこーい」(26票)でした。

 順当な結果ではあるが、〈宇宙塵〉1958年8月号(15号)初出という最初期作がファンの選んだショートショート第1位ということは、やはり作家星新一にとって、複雑な部分もあるのだろうか。

 発表後、女優の市毛良枝が「おーい でてこーい」を朗読。バックの画面に流れる、しりあがり寿の絵がとてもイイ味出していて、雰囲気良し。これはかなりお得かも。

 エンディング・ビデオにて全行程終了。もしも第2、第3の「ホシヅルの日」が続くのであれば、ゼヒゼヒ馳せ参じようゾ!

 

このコミックがいい!

『バスカビルの魔物』(坂田靖子、早川書房)

 坂田靖子のコミックを初めて読んだのは、中学の時に「LaLa」に掲載されていた『バジル氏の優雅な生活』である。最初は「なぜこんな稚拙な絵がいいと言われるのだろう?」と思ったが、じわじわとその魅力のとりこになった。

 このトボケた洒落とユーモアは、この絵柄でなくては絶対ダメなのだ。暖かさがあり、知的であると同時にバカバカしさとナンセンスにあふれるこの味は、この方にしか出せない独特のテイストである。

 ワタクシ的には、彼女の作品の中では『マーガレットとご主人の底抜け珍道中』が最高傑作なのだが(この奥さんがまたいいのよ!何事にも動じなくて、とても優しいの)今回は6月に発行された本書を紹介しようと思う。

 これは「ミステリマガジン」に掲載されていたミステリ・ショートショートである。著者はやはりミステリがとてもお好きで(子供の頃、ホームズとヒッチコック劇場で育ったそうな)いろんな有名ミステリから題材をとったパロディコミックになっている。いかにも彼女らしい、ツボをついたお間抜けさ(笑)に、読みながら思わずニヤリとしてしまう。

 私のようなミステリに薄い者にはわからないネタもあるのだが、それでも十分楽しめる一冊。

 

あとがき

 それはある晩、突然やって来た。ついにやってしまいました、パソコンクラッシュ!(涙)。おかげでネットはできないわ、この銀河通信は作れないわというひどい目に。決して、発行が延びた言い訳ではないですよ!(安田ママ)


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