27号 1999年12月
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もちろん、復活の大前提が作品の力量なのは当然だろう。その点、大衆小説作家エドガー・ライス・バローズ(早川表記は「バロウズ」だが、ウィリアム・バロウズと区別する意味も含めて却下!)の小説が放つ、時代に左右されない、物語としての普遍的な魅力があってこそなのは言うまでもあるまい。時代がかったその筆致は、しかし古典の風格で他と一線を画し、科学や社会背景が変貌しようとも、輩出した大量の模倣者に消費されようとも、物語の面白さそのものの本質で勝負を仕掛けているために、思いのほか古びない。
好みの相違で受け付けない方もあろう。こういう言い方は語弊があるかもしれないが、実のところバローズの小説は、あらすじを紹介するのがムズカシイ。いつのまにか似通ってしまうのだ(笑)。それぞれのシリーズ、また個々の作品は、明らかな質感の違いを有し、鮮烈なイメージを焼き付けるにもかかわらず、事実、そうなのだ。が、それはむしろ、あくまで読者サービスに徹したバローズの、面目躍如と言わずして何と言おう。
常に異邦人の主人公が、自らの勇気と類いまれな行動力によって、名誉と最愛の伴侶を手に入れるという構図を始め、移民の国アメリカ人のスピリットに訴えかける点を見つけ出すのはたやすい。また、ハミルトンやブラッドベリら多くの作家たちが目標にした事実から、後のアメリカSF界にバローズが果たした功績など、語るべき切り口は多い。しかし今回は、日本のSF出版の牽引者として、バローズの活躍を見てみたい。
1965年9月27日、創元推理文庫SF部門(当時は東京創元新社)から、《火星》シリーズ第一弾『火星のプリンセス』発売さる。もともと、野田宏一郎(昌宏)の連載「SF英雄群像」(〈SFマガジン〉1963年10月号)により、SF読者には待望の邦訳刊行であった。武部本一郎による美麗な装幀、しかも初のカラー口絵+挿絵付として登場したそれは、編集者厚木淳の熱い期待をも上回ろうかという、熱烈な読者の支持を獲得する。コワモテのスレッカラシが集う(!?)〈宇宙塵〉65年11月号(97号)でも、「実によく出来ている」「あまり手放しで面白がると評者のコケンにかかわりそうで気になるが、この作品の魅力は、やはりストーリイテリングのみごとさにある」と絶賛(評者/C・R)。
引き起こした反響のスゴさについては、厚木、野田両氏が折に触れ述懐しているが、編集部の意気込みの一端は、「雄大な構想で展開する、波瀾万丈のスペース・オペラ!」「007の痛快さと風太郎忍法帖のおもしろさ、SF・アクション・大ロマン!」といった惹句が踊る、挟み込みの刊行内容案内からも感じ取ることができる。
バローズの《火星》《金星》シリーズを筆頭に、E・E・スミスの《スカイラーク》《レンズマン》といったスペース・オペラの大量訳出による、創元推理文庫の大攻勢を受けた形で1970年に創刊されたのが、ハヤカワSF文庫(現ハヤカワ文庫SF)である。往年の名叢書ハヤカワ・SF・シリーズ(銀背)は、当時全318冊中まだ250番台と、本格SF中心のラインナップで健在だった。そのため初期のSF文庫は、通俗性を意識した、より娯楽色の強いセレクションにて差別化を図っていた。
とは言うものの、調べてみると意外にも、ハヤカワ・SF・シリーズに《キャプテン・フューチャー》が3冊、E・E・スミスが6冊収録されていたのみならず、『宇宙のスカイラーク』は創元より一年早い1966年発行なのである。バローズの《ペルシダー》に至っては、創元に先駆け5冊を刊行している(創元推理文庫版は1973年〜)。
このように早川書房の反応は早かったが、やはり“文庫”スタイルの持つ、ヴィジュアルと廉価さに対抗できなかったという所だろうか。折しも「文庫戦争」という言葉が叫ばれ始めた時代であった。
いずれにしても、バローズ作品が引っ張りだこであった状況は一目瞭然であろう。ハヤカワSF文庫創刊ラインナップの5冊に、バローズの『月の地底王国』が含まれていたのは、むしろ当然過ぎると言える。だが驚かされるのはその後だ。通巻25番までで、バローズがナント9冊! 50番まででも12冊と、にわかには信じ難い驚異的ハイペースにて続々と発売されたのだ。さらに記念すべき101番から125番は、特別仕様の黄色の背表紙に「TARZAN BOOKS」と銘打ち、バローズの《ターザン》シリーズが鳴り物入りで登場するのである(内3冊未刊。SF114の『地底世界のターザン』は、SF25に収録済の《ペルシダー》の一編と同一作品だが、「TARZAN BOOKS」としては欠番のための4冊とも言える)。いかに文庫そのものの柱として、高い依存度を示していたかが分かるだろう。
と、まあ、これだけの勢いを以ってしてもなお、バローズ=東京創元社とのイメージが広く刻み込まれているようなのは、恐るべき事実と言わねばなるまい。バローズとしては平凡と思わざるを得ない作品も含め、読者は全作品を貪欲に求め歓迎し、その欲求に精力的な紹介で応え続けたのが、訳者厚木淳と創元推理文庫だった!
これだけ一世を風靡しながら、紹介するタマが無くなればおのずと新刊も途絶え、ここ数年不幸にして書店店頭で姿を見られない状況にあった。だが、あれだけの点数が20年に渡り増刷を重ねたとは思えないほど、意外に古本屋で見掛けず、場合によってはプレミアさえ付く事実をして、バローズ人気の証明の一端にならないだろうか。
《火星》のみならず、厚木『ターザン』がディズニー映画化の追い風を受け、創元SF文庫より新訳刊行された。完結目指し突き進む事を願ってやまない。ガンバレ〜!
あとがき
今年もはや、あと数日を残すのみとなりました。本年も皆様には大変御世話になりました。私なんぞの駄文をいつもお読みくださり、感想をいただき、まことに感謝の念に耐えません。ありがとうございました。また来年も、コラムニストともども、頑張ります!(安田ママ) |