森雅之

 初めて彼の絵を見たのは、たぶん昔定期購読していた〈天文ガイド〉という雑誌のひとコマ漫画だったと思う。シンプルだが、とても暖かな絵とストーリーだったのを覚えている。気に入った絵は、切りぬいて部屋の壁に貼ったりしていた。

 彼が単行本を出しているのに気づいたのは、書店員になってからである。もし、コミック方面のレジ担当にならなければ、おそらく気づくこともなかったろう。そのくらい、マイナーというかひっそりと棚に入ってるような本だったのだ。

 初めて買い求めたのは、たぶん『散歩しながらうたう唄』(ふゅーじょんぷろだくと)だったと思う。次に『夜と薔薇』新装復刻版(ふゅーじょんぷろだくと)を買って、完璧ハマってしまったのだった。96年6月発行の『mf−メゾフォルテ』で、デビュー20周年になるそうだ。

 彼の漫画は、さながら一篇の詩のようである。ほとんどが、1ページで終わるような短編であるからなおさらだ。が、ひとコマのシンプルな絵の中にも、たくさんの言葉、想いが凝縮されている。特に初期の作品は、荒削りだがその分鋭く、含蓄があっていい。若い時代にしか描けない、技術を越える感性がある。
 作者は、究極のロマンティストであると思う。まさに、「漫画界の吟遊詩人」である。その詩の美しさに、私はただ嘆息するのみである。

 生活の中のほんのささいな気持ちを、彼は切りとって鮮やかな物語にしてしまう。子供のまじりっけない心、青年のガラスのように繊細な心、少女の淡い恋などを。

 例えば、「恋」という話。街でむりやり花を買わされた青年。もったいないので部屋に飾ったが、以来1週間、どういうわけか部屋に帰るのが楽しい。「恋か?」と彼は考え、それだけでひとりの部屋で赤くなる。(『夜と薔薇』ロマンチック2収録、ふゅーじょんぷろだくと刊)

 また、「帽子」という話。お父さんからおみやげに帽子をもらった少年。翌日の日曜、彼は1日中、とっぷり暮れるまで、どこまでも歩きながらなんども帽子をかぶり直す。だれかに見られてるような気がして。(『メゾフォルテ』収録、ふゅーじょんぷろだくと刊)

 『ペッパーミント物語』(集英社刊)にて、第25回漫画家協会賞優秀賞受賞。あの時はうれしかった!が、発行部数少なそうだったなあ(^^)。うちの店、1冊しか入荷しなかったし。

 ただ、現在入手可能なものは少ないかもしれない。『耳の散歩』(朝日ソノラマ、10年5月発行、本体720円A5判)が最新刊。これはちょっとコミックの充実した書店ならまだあるかもしれない。

 ピュアでロマンティックな世界を、ぜひご賞味あれ!

森雅之公式ページ

森雅之作品集リスト(そらねこ様、ご協力ありがとうございます)

森雅之ページ (カレンのページより) 03.7.31更新


my favoritesに戻る

ホーム ボタン