「トルコで私も考えた」1,2 高橋由佳利 集英社(96.12、99.6月刊)

 「高橋由佳利」と聞いてピンときた方はおられるだろうか。そう、昔、雑誌「りぼん」に作品を発表していた漫画家である。なんと彼女、トルコに旅行して以来すっかりその異国のとりこになり、ついにはトルコ人と結婚して現在子供と共にそこで暮しているというから驚くではないか。

 これは、彼女のその旅の顛末に始まり、更にはその地での日々の暮らしのあれこれを綴ったコミックエッセイの連載の単行本化である。

 私が「トルコ」と聞いて浮かぶのは絨毯やタイルなどの漠然としたイメージだけで、実は具体的なことは何ひとつ知らなかった。というか遥かな異国という感が強過ぎて、想像することさえなかったのだ。

 が、これを読んで驚いた。意外にも、日本人には親しみやすい国なんだそうである。
まず文法が似ている、トルコ人がとても親日家である、などなど。

 しかし、慣習は著しく違う。やはり、イスラム教徒のお国なのである。断食のシステムやトルコ風呂、結婚式の様子、羊だらけの食事など、初めて知ることばかりで、「へーえ!」と思うことしきりであった。

 情に厚く、ジョーク好きの人々の国。ううっ、行ってみたい!

〈乱読コミックトップへ〉


「専務の犬」 高橋留美子 小学館(99.7月刊)

 「高橋留美子傑作集」と銘打って、6つの短篇がまとめられている。どの話も、市井の人々の、一生懸命だけどそれゆえに滑稽でどこかほろ苦い日常を切りとって描いている。大笑いしつつもラストで胸がぐっとつまるような、そんな少々ビターな味わいの短篇集である。

 「日常」というものは、誰しも何も考えずにただのほほんと過ごしがちだが、実はそれの積み重なりこそが人生なのだ。作者はそれの断片を切りとって見せることにより、登場人物それぞれの人生を、その人なりの生き方を浮き彫りにしてゆく。

 表題作は、とんとん拍子に出世した友人である専務に、頭が上がらないサラリーマンが主人公。ある日、その専務が主人公のアパートに血統書つきのでかい犬を連れてきて、強引に面倒を押しつける。この犬は、本能的に力関係を把握して主人を決め、その人になつく。最初は妻に、やがて乗りこんできた専務の愛人に…。が、専務の妻が乗りこんできてあわや修羅場かという時、主人公は驚くべき行動に出たのだった。

 主人公は日頃は全く冴えないダメ男なのだが、彼にも確固たるポリシーがあり、愛する者を救うため、いざという時にはちゃんと戦うのだ。たとえ自分はどうなろうとも。これが、彼の生き方なのだ。

 「君がいるだけで」は、会社が倒産したため失業中の、元重役の夫の話。風邪をひいた妻のかわりにお弁当屋のパートの助っ人をかって出るが、接客業は初めてなので、店員のくせにとにかく態度がでかい(笑)。「君がいるだけで」客がよってこないのである。彼なりに努力はするのだが、頑張れば頑張るほど、どうもズレていってしまう。今までの会社人生が染み付いており、そう簡単に変われないのだ。彼のひとすじの涙は、サラリーマンの悲哀が出ていてホロリとさせられる。

 「茶の間のラブソング」も泣ける話。これはネタバレするともったいないので書かない。どの話もいい味出してるので、ぜひご一読を!

〈乱読コミックトップへ〉


「天国島より」 須藤真澄 河出書房新社(99.5月新装版)

 15本の短篇が収められている。前半の8篇は、ファンタジックなショートストーリー。後半は、ご存知作者の飼い猫である「ゆず」にまつわる、親ばか爆発(飼い猫もこう言うのかな?)エッセイである。

 表題作は、天国島(パライソじま)に住む小桃のお話。もうすぐ行われる15歳の儀式を終えると、彼女は不老のからだ、不死のたましいを手に入れることができる。が、彼女はそれでいいのだろうか?と悩む。だって、時間という枠にとらわれているというのに、山の下に住む市場にあふれる人達は、それはそれは生き生きして楽しそうなのだ。永遠の時間よりも、限りある生を一生懸命生きる人々の姿に、小桃の心は揺れ動く。「でも死なないからって生きてることにはなんねえしな」という、不老不死になった姉のセリフがぐっとくる。

 耳や目だけが勝手に歩いて行ってしまう女の子の話や、街中いたるところに木が生える(しかも子供にしか見えない)話など、ほんわかしてて、ちょっとシュールな作者独特の世界が心地よい。ふわっとあっちの世界へ飛んで行く感覚に身を任せて、つかの間のトリップを堪能した。

 後半のゆずエッセイは、もう説明するまでもなく、愛猫への作者の溺愛ぶりと、ぶっとびまくってる作者の日常ぶりが相変わらずおかしい。猫と暮すのって、大変そうだけど、実に楽しく幸せそうでいいなあ。ちょっと憧れ。

 〈乱読コミックトップへ〉


「まるいち的風景」@〜A 柳原望 白泉社

 この作者の作品は雑誌「LaLa」などで少し目にしたことがあるのだが、そのときはなんとも無茶で強引な設定をする人だなあ、と思った。とにかくツッコミ入れたらボロがいくらでも出てくるような話を書くのだ。が、単行本でまとまった形の作品を初めて読んで、そのマイナスを埋めて余りある、作者のまっすぐで強い気持ちに打ちのめされた。初期の高河ゆんを思い出させる感じ。やはり、読者の心を揺り動かすのはテクニックじゃなくてハートだなあ、と思い知らされた。

 「まるいち」は、美月という女性によって開発された、家庭用ロボットである。これは、主人の動きをじっと見ていて、それを覚え、全く同じ形でトレースするという仕組みである。つまり、ロボットでありながら、その持ち主の人間の行動そのままが出てしまうのだ。同時に、その行動に隠された想いも。

 主人公の大学生有里くんは、ここ数年音信不通だった父の死により、父がモニターしていた「まるいち」を引き取ることになる。その「まるいち」にインプットされている父の行動に、主人公は冷たいと思っていた父の、自分への想いを知る…。

 本心を出すのが苦手な父、ゆえにすれ違ってしまった親子。亡くなった父の想いがこめられた「まるいち」は、ロボットなのに人間の心と心をつないだのだ。ロボットはあくまで機械でしかないのだが、それを人と人の架け橋にするところに、作者の暖かさを感じる。

 壊れかけた家庭の少女の寂しさ、美月のロボットによせる愛情など、ハートフルな短篇ぞろいである。どの話もとてもテーマがクリアで、どれも人間というものの気持ちをよく描いていており、じんとさせられる。イチオシ!

 〈乱読コミックトップへ〉


ほんの一冊(いしいひさいち、朝日新聞社)

 「書評マンガ集」という、かなり画期的な面白い本。前半は、『女にはむかない職業』の藤原センセ他のキャラが出てくる4コママンガ。後半は、見開きページの右側がこのマンガの登場人物たちによる書評、左が紹介本に関連した4コマギャグマンガという形式で構成されている。

 例の愛すべきトボけた登場人物たちのギャグが笑える。しかし、マンガのキャラに書評をさせるとは、なんという発想!ちゃんと彼らそれぞれの性格が出た書評になっている。ベストセラーへの皮肉がチクリと入り、文章、マンガ共にいしいひさいち的ユーモアが溢れている。紹介されている本の種類は、ベストセラーからかなりのマニアック本までと幅広い。

 あとがき座談会や、最後の著者略歴も面白い。藤原センセがなんと上智大学文学部卒だったとは!

 軽く楽しく読める書評マンガである。いしいファンは必読!

〈乱読コミックトップへ〉


観用少女@〜C(川原由美子、朝日ソノラマ)

 川原由美子は、とにかく絵がうまい漫画家だと思う。SFものの方々は、『たったひとつの冴えたやり方』(ハヤカワ文庫)の表紙でお馴染みであろう。

 彼女は余りに絵がいいので、かえってストーリーが絵に追いついてないような気がしていた。特に、昔のいかにも少女漫画めいた長い作品は(短篇はまだ良かったのだが)。

 が、ここ数年、ちょっと作風が変わり、やっと彼女のほわほわした、ファンタスティックな絵を存分に生かせる漫画が登場した。それが、この『観用少女』である。

 『観用少女』とは、半分生きている人形といえばよいだろうか。目玉が飛び出るほど値段は高いが、持ち主が愛情を注いでやれば、それは素晴らしく美しく愛らしい人形になるのである。1話完結形式で、時には哀しく、時にはユーモラスに、人形に魅了されたさまざまな持ち主の悲喜こもごもの人生模様が繰り広げられてゆく。

〈乱読コミックトップへ〉


『NATURAL』@〜(成田美名子、白泉社)

 最近、めっきりコミックを読む量が減ってしまった。やはり、年齢的ギャップだろうか。特に学園ものなんてのは、今の自分と離れ過ぎてて、いいかげん卒業かな、という感もある。

 が、その中にも例外はある。それが、この作品である。今や数少ない、次号を楽しみにしている連載のひとつである。

 そもそも私は、ベタベタの学園恋愛漫画は苦手。アンタ達、他に考えることはないのか?と少々うんざりしてしまう。確かに恋は大事だが、それだけってのはなんだかねえ。

 その点、成田美名子はちょっと違う。学園ものではあるが、彼女が描くのはもっと大きいものである。それは、人と人との繋がりだと思う。友情という言い方もあるが、そういう言葉でくくれない、もっと広い意味の、人と人の間に行き交う気持ち。こういう気持ちに年齢は関係ない。だから、なんの違和感もなく読めるのである。

 絵も綺麗だし、さすが大御所。

〈乱読コミックトップへ〉


『お父さんは時代小説が大好き』(吉野朔美、本の雑誌社)

 ふた月に1回「本の雑誌」に掲載される、「ぶーけ」などで有名な漫画家の、本にまつわるコミックエッセイ。私はこのコラムの大ファンで、とても楽しみにしている。
 まず、なんといっても吉野朔美という漫画家のファンである。『少年は荒野をめざす』など、数々の傑作を発表している。

 彼女も立派な活字中毒者のひとりで、彼女の本に纏わる日常≠ェ描かれるのだが、これが実に面白いのだ。
 例えばやっぱりアルジャーノンには花束を?=B著者はタイミングを逃してしまい、この本をまだ読んでないとのこと。ああ、あるある、そういうこと!という、本好きなら誰しもが思い当たるフシのある話ばかりなのだ。

 そしてなぜかこのエッセイに紹介された本は、妙に読みたくなる。。さりげない書き方が、逆に「いったいどんな本なんだろう?」と興味をかき立てるのかもしれない。

〈乱読コミックトップへ〉


『EXIT』@〜C(藤田貴美、ソニーマガジンズ)

 昔、白泉社の花とゆめコミックスで出ていたのだが、いきなりソニーマガジンズに引越してて驚いた。ま、どこで書いていようと、再開されたのはファンとしてはまことに嬉しい限りである(なんと5年ぶりのスタートなのだ!)。テンションも相変わらずで、ブランクを感じさせない。

 これは、「蛮嘉」→「VANCA」というロックバンドが出来るまでと、その後を描いた物語。
主人公卓哉は高校生だが、プロを目指すボーカリストである。高校を中退後、上京し、仲間をひとりずつ増やしながら、バンドデビューという夢に向かって突き進んでゆく。

 彼は不器用な生き方しかできないヤツである。理不尽な世間に迎合できず、自分の思ったとおりにしか生きられない。勝気で短気で、でもとてもナイーブで、歌うことへの情熱にすべてを賭けている。

 彼と仲間達の、壁にぶつかってもぶつかってもそれを越えてゆくパワーに、笑わせられながらもじんとさせられる。「夢」を追いかける彼らに熱い声援を送りたい。

〈乱読コミックトップへ〉


『ののちゃん』@〜D(いしいひさいち、チャンネルゼロ)

 ご存知、朝日新聞朝刊連載中の4コママンガ。私はこの前の「フジ三太郎」がとても好きだったので、いしいひさいちのどことなく関西系のノリには最初は非常に違和感があった。

 が、人間慣れれば慣れるものである。今やすっかり、ののちゃんの大ファン。もう、出てくる登場人物全員大好き!この、限りなく怠惰でいいかげんな人々の、あっけらかんとした明るさを見よ!
 家事、宿題、その他もろもろやらねばならない面倒な事どもを、いかにかわしてラクして過ごすかということに全精力を傾け、でも失敗する彼ら。この極端さがたまらなくおかしい。読んでいると、肩の力がふっと抜ける。

 とりわけ傑作なキャラクターが、ののちゃんの担任の藤原先生。彼女を主人公にした『女には向かない職業』(東京創元社)も超オススメ!人間、こんなに自堕落でもいいのね、という格好の見本。といっても、ホントにこの通りにしたら友人なくすかも。でも彼女、ケッコンしたのよね、この間。

〈乱読コミックトップへ〉


ふたつのうた時計』太刀掛秀子 集英社文庫 98.10月刊

 1981〜84年に「りぼん」や「りぼんオリジナル」で発表された短篇の文庫化。今や、古本屋でも入手が難しいものばかりなので、ファンには感涙ものの復刊である。本書には5つの短篇が収められているが、彼女の作品としては、後期のものである。

 彼女の作品は、どれもピュアでやさしさに溢れている。少女マンガが本当に美しく清らかな世界を描いていた時代の作品である。愛、生と死、友情、親子の情など、テーマはけっこう深いのだが、たとえどんな悲しみを描いていても、そこには作者の人間に対する優しいまなざしがある。

 表題の「ふたつのうた時計」は、中学にはいったばかりの女の子を主人公とした初恋もの。初めての気持ちに戸惑う少女の、揺れる心を描いている。これがまたなんとも初々しくてかわいい。「好き」と告白されて、自分もそうなのに口に出されたとたんに違和感を感じてしまい、「さいこう大切なともだち」と言ってしまう主人公。この年頃の繊細な感情を、こわれ物を扱うようにそっと丁寧に描いている。

 「ひとつの花もきみに」は、こんなのを「りぼん」読者に読ませていたとは、と思うほど大人向きの話。
 二年ぶりに故郷に帰ってきた嗣郎は、大学時代に1年ほど一緒に暮らしていた柚子が結婚したことを知る。かつて嗣郎は、大学の映画サークルでたよりなげな彼女と知り合い、愛し合うようになった。田舎の家に反対された彼女は、家を出てまでも彼と共にいることを選ぶ。彼は就職と彼女という現実の波に流されそうになりながらも、映画を作るという夢を追っていたのだが、いつしか生活に疲れ、ふたりは破局を迎える…。
 人生の重さと苦さを感じさせる一篇である。彼女の、恋人を思いやるがゆえの決断が悲しい。どうしようもなかったことなのだが、それゆえなおさらやるせない。彼女の純粋な気持ちが泣かせる。彼は、「ひとつの花もきみに」あげることさえしなかったと、自らを悔やむ。青春の夢と挫折を描いた、傑作である。

〈乱読コミックトップへ〉


きんぎんすなご』わかつきめぐみ 講談社 98.1月刊

 またしてもY嬢お勧め。これは、著者のかなり最近の本。講談社とは驚いた。

 自分の進路に悩む、高校生の女の子が主人公。彼女は、元家庭教師のにーさんのところに、ふらりと遊びに行く。そこは、電車で7時間、歩いて2時間というド田舎なのだが、にーさんは将来を約束された身だったのをあっさり捨てて、そこに住んでいるのだ。

 彼女は、そこでパワフルなおばあちゃんや、素っ頓狂な友人と知り合い、話すうちに、自分の悩みが消えて行くのを感じる。そして、「いつか あたしの星を手にいれる」と決意する。自分の道を探すのに、焦ることはない。自分のペースで、自分のやりたいことを見つけていこうと思うのだ。

 私が十代の頃に読んだら、きっと自分の人生を揺さぶるくらいのインパクトがあっただろうと思う。惜しかったな。本って、読むべき時期ってのがあるよね。タイムマシンで、昔の私のところに行って、「悩んでるなら読んでごらん、勇気が出るよ」と手渡してやりたい漫画だった。

 ちなみに私はこの脇役の夏目蒼一郎さんが好き。明るくて元気でマイペース。自分の法律で、自分の道を突き進んでいる。こういう人になりたいなあ。(今でもじゅうぶん突き進んでるかな?)

〈乱読コミックトップへ〉


黄昏時鼎談』わかつきめぐみ 白泉社 平成4年4月刊

 おお〜っ、懐かしい!まず、最初の感想はこれだった。
 このコミック、今日、Y嬢にすすめられて読んでみたのだが、懐かしくて涙がちょちょぎれそうだった。なぜなら、昔読んだことのあるものがいっぱい入った、短篇集だったから。

 なにをかくそう、私は白泉社コミック育ち。小学館の別冊マーガレットや、講談社の少女コミック(でよかった?)系はほとんど読んでないのだ。花とゆめ、LaLaをこよなく愛して育った世代。ゆえに、わかつきめぐみはよく読んでたのだ。

 表題は7話あり、百物語のように、ひとりずつが語るという形式。だが、もちろん怪談ではない。皆、ほっと心が温まるような、不思議なお話なのだ。
 引っ越した部屋に住んでいた酒好きの小さな妖精と、毎晩酒盛りをする男の話や、校庭に住んでいる桜鬼に、お古のランドセルを譲る約束をした小学生の男の子の話など。どれも、小さな星のような素敵なファンタジーである。
 彼女の描く男の人って好きだなあ。クールだけど、根はすごく優しい。惚れるぜ。(「春は花笑み」の主人公って、ルヴァみたいだ。分かる人だけウケてね)

 さらにうれしいのは、昔白泉社で発行していた「Short Stories」に発表されていた短篇がすべて収まっていること!この「Short Stories」が良かったのですよ!白泉社系の作家の短篇を集めたアンソロジーなのだが、その当時、LaLaで活躍していた作家がほとんど軒並み顔を並べているのだ。その豪華メンバーときたら、もう2度と集められないのでは、と思うほど充実した顔ぶれであった。
 季刊で3号だけ発行され、廃刊になってしまったのが悔やまれる。今からでもいい、白泉社さま、また作って!私は今でも、3号すべて宝物として大事に持っていて、何度も読み返してます。

 わかつきさんご本人も、これに発表した短篇をとても気に入ってると「あとがき」にあり、うれしかった。短篇(とくにマンガ)って軽視されがちだけど、実は珠玉の作品がいっぱいあるのよね。彼女の作品も、私はむしろ短篇の方が好きだな。

〈乱読コミックトップへ〉


ひみつの階段』1,2巻 紺野キタ☆☆☆☆/偕成社 97.2〜98.7月刊

 リウイチさんのホームページで紹介されてるのをみかけて、面白そうだと思って入手。予想にたがわず、好みの話であった。

 これは、偕成社の季刊コミック「コミックFantasy」に連載されてるものの単行本化。女子高の寄宿舎を舞台にした、ファンタジーである。

 面白いなと思ったのは、この舞台である古い学校の建物そのものが夢を見る、という設定。ないはずの階段がある日ふっと現れ、そこでコケている子を助けるのだが、あれ?ここに階段なんてあったっけ?と思ったときにはその子はいない。これは、幽霊ではなく、学校の建物が見せる夢なのだ。
 「ゲイルズバーグの春を愛す」という本の、古い街が夢を見て、人々に幻影を見せるという話を思い出す。ファンタジックで、ノスタルジックな雰囲気がとてもいい。

 私も昔、憧れました。こういう、女子高の寄宿舎生活。いまどき、このマンガのような女子高生達がいるのか?という話は置いといて、この年代特有の半分現実、半分夢の中を生きているような彼女たちの気持ちがふんわりと書かれていて、心地よく浸れた。

 1巻後半の、読み切り短篇傑作の「パルス」は、私の好きな一篇。うわべだけ笑って過ごす日常に疑問を持ち、孤独を抱えている男の子と女の子が出会う話。まるで一篇の詩のように、簡潔だけど心に残るマンガだった。

〈乱読コミックトップへ〉


ホーム ボタン