『西洋骨董洋菓子店』1,2巻(よしながふみ、新書館)

 とっくに紹介したつもりでいたが、まだこのコラムでは書いてなかったのね。

 これは実はサイトウマサトク@月下工房書評系さんから教わったコミック。このなんとな〜く耽美くさい絵の雰囲気に、書店で手に取っては元に戻す、を何度か繰り返していたのだが(笑)、彼に背中を押されたらかなわない!意を決して読み始めたら…これが!いいっ!!

 うん、確かにホモは若干入ってる(笑)。だが、この物語の主題というわけではない。主題は…ええと、何だろう…?(笑)そういう固いこと全くヌキで、とにかく問答無用で楽しめる話だ。舞台は、とある住宅街にぽつんと建ったケーキ屋。いろいろとワケありの超ユニークな男たち3人が働くこの店で、さまざまな人間ドラマが起こるわけ。

 このよしながふみってのは、抜群のストーリーテラーだ。いやあ、耽美界もバカにしちゃいけないね!(おっ、失礼^^)めちゃくちゃコミカルでありながら、絶妙の間で人間の心の機敏を描くのだよ、彼女。もっと言うと、オトコとかオンナとか、彼女にとってはあまり意味がないのかもしれない。人と人をつなぐ何か。ふとした心のつながり。それは愛とも呼べるかもしれないけど、そんなふうに言葉にしちゃうとなんだかそらぞらしい。強いて言うなら空気、かもしれない。「あ、今、この人とわかりあえたかも」といった一瞬の、その場の空気。そんなものが、この漫画には表現されている。大笑いさせられながらも、どこかちょっと切なく、くっと胸がつまる。そんな話だ。

 これにハマって、彼女の作品を買いまくり読みまくってしまったが、どれもオススメ。ちょっとホモ色が濃いのもありますが(笑)。でもよしながふみはイイです!出会えてよかった。マサトクさん、ありがとうっ!(ちなみに、これ、今秋ドラマ化だそうで。伝説のホモが、なんと藤井直人だっ!)

西洋骨董洋菓子店1

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『千の王国 百の城』(清原なつの、ハヤカワ文庫JA)

 作者の名前も絵柄もよく存じてはいたが、きちんと作品を読むのはこれが初めてかもしれない。一読して仰天。こ〜んなにカワイイ絵でありながら、その内容は、まごうことなきSFだ!しかも、『20世紀SF 40年代』(河出文庫)あたりをほうふつとさせる、どこか懐かしい味わいのSF。描かれたのがそもそも81年だからな。もう20年も前なのか。

 アンドロイドに宇宙飛行士、火星移住に知能を持つゴリラやサル。こ、こんなに本格SFネタなマンガが、その当時「ぶ〜け」や「りぼんオリジナル」のようなごくフツーの少女マンガ誌に載ってたというのがまず驚きだ。「真珠とり」の3篇なんか、もう素晴らしいの一言。ブラッドベリやカジシンのような、切なさ炸裂の話なのだ。何度読んでも飽きることがない。

 「金色のシルバーバック」、「銀色のクリメーヌ」も傑作。人間とサルという、異種間の恋愛を描いた、大いなる問題作だ。前者はハッピーエンド、後者はその苦い結末ゆえにさらに読者に深い感慨を残す。大島弓子以外にも、こういう表現法を使った漫画家がいたんだなあ。

 いやいや、本当にいままで彼女の作品を読んでいなかったのが残念でたまらない。解説で大森望氏が書いてる、『花岡ちゃんの夏休み』がよみたいよう。『千の〜』の翌月に出た『アレックス・タイムトラベル』(ハヤカワ文庫JA)もぜひご一読を。こちらはタイトルどおり、タイムトラベルSF。

千の王国 百の城

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『月にひらく襟』(鳩山郁子、青林工藝舎)

 書店ではまず段ボール箱に入った形で本が入荷すると、バックヤードで仕入れ担当者が検品をして「これは実用書、これは法経書」などそれぞれの担当ごとに本を分類する。そのときなぜか文芸書と認識されて、私の手元に来た本。おお、なんという幸運!そんなハプニングがなければ、絶対にめぐり会えなかったのではないかと思う1冊だ。

 中を開いてみると、コミックである。なーんだ、文芸じゃないじゃん、と思ったが、なんだかこの絵にはシンパシーを感じる。ん??なんだなんだ?これ、すごく長野まゆみっぽいぞ!!

 どれも短篇なのだが、登場人物ほぼ全員が線の細い美少年、蜜蝋に野外幻燈にミント水に雲母、とくればもう長野まゆみファンにはピンとくるだろう。絵もストーリーもキーワードも、全編が長野まゆみワールド。しかも、巻末の「考察 螺子式少年の処方」を書いているのは、その長野さんご本人なのだ。鳩山郁子が彼女に影響を受けたのか、はたまた長野まゆみが鳩山郁子の絵に影響を受けたのか。とにかく、このふたりの感性が見事にシンクロしているのは間違いない。1991年に発売された作品集の改訂版なので、どれも10年近く前に描かれており、内容も『少年アリス』あたりの長野まゆみの初期作品をほうふつとさせる。

 マンガで堪能できる、長野まゆみの世界。ファンはぜひご一読を! 

月にひらく襟

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『ハチミツとクローバー』1巻(羽海野チカ、宝島社)

 サイトウマサトクさん絶賛の1冊。笑った笑った!めっちゃ元気で明るい、今どきの大学生たちのラブコメ。吉野朔実の『月下の一群』みたいなキャンパスコメディの、21世紀バージョンといったら、30代以上の方はご想像いただけるかと。なるほど、今書くと、こんなカンジになるわけか。2作を読み比べてみるのもまた一興かも。

 とにかく、キャラがオトコもオンナもみんな元気いっぱいで個性的。でも、ただただ脳天気でおバカなだけかと思いきや、実は内面は繊細だったりして、そこがまた胸キュンなのだ。実にカワイイ、キュートな愛すべき人たちです。みんな好きだけど、ワタクシ的には、豪快かつ繊細な山田鉄人(オンナ)が好みのタイプ(笑)。早く続きが読みた〜い。

ハチミツとクローバー

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『プラネテス』1巻(幸村誠、講談社モーニングコミックス)

 一読して、猛烈に感動。宇宙への夢と憧れを、こんなにリアルな感触で描いたコミックって、ほかにあるだろうか?

 宇宙船に乗って、地球の周りに漂うデブリ(宇宙空間に漂うゴミ)を拾う仕事をしている3人の宇宙飛行士の物語。それぞれの事情や、宇宙への想いが、実に泣けるのよ、いいのよ!しかも非常にリアル。妙に現実的。夢物語という気がしない。

 登場人物は皆、不完全な人間だ。私やあなたと同じように。決してヒーローなんかじゃなく、悩みをいっぱい抱えた等身大の人間だ。もがきながらも一生懸命にはい上がろうとする。そのまっすぐさ、爽やかさが胸を打つ。 

 そして何より、宇宙で生きることに悩んだりつまづいたり、孤独に怯えたり恐怖にかられたりしながらも、やっぱり彼らの心は宇宙(そら)に向かっている。目線が地面でなく、空を見ているのだ。そこが私たち読者の、宇宙への憧れをかきたてるのだ。とにかく素敵よ、すごいよ、わくわくするよ!ああ、やっぱり行きたいね、真っ暗で無限に広い宇宙の海へ。だって、私たちだって立派な宇宙人だもの!

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『グーグーだって猫である』 (大島弓子 角川書店 00.8月刊)

 角川書店のPR誌に連載されていた、4ページくらいのミニマンガエッセイの単行本化。彼女の新しい飼い猫、グーグーとビーとの静かで愛情あふれる生活がつづられている。「新しい」というのは、大島ファンならご存知のことと思うが、彼女がずっと一緒に暮らしていたサバはもういないからである。グーグーとビーのことを描いていても、そこかしこに亡くなったサバへの深い愛がにじみでていて、涙を禁じ得ない。彼女にとって、サバがいかに大きく大切な存在であったか、そのサバを失った悲しみがどんなに深いか。淡々とした絵と文章が、静かに読者を揺り動かす。

 そんな傷心の彼女のもとに、ある日突然グーグーはやってきた。サバとの日々を回顧しつつ、グーグーを慈しむ彼女のまなざしは、これがただの愛猫エッセイではないことを物語る。誰かを愛しく思う気持ち、というのは、幸福なもののはずなのに、なぜ読んでて切なくなってしまうのだろう。生命というのが、はかない一瞬のものだからなのだろうか。子猫のとのやりとりから、彼女は哲学的な思考にまで思いを馳せる。ストーリーマンガとはひと味違った、でもやっぱり大島弓子らしい一冊。ご病気はもう大丈夫なのでしょうか。またマンガ描いてくださいね。『グーグー』の続きも来年あたり出るかも、というので楽しみに待ってます。

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WILD CATS@(清水玲子、白泉社)

 清水玲子は、中篇を描くのが実にうまい漫画家である。巻数モノはどうも話が間延びしてしまうきらいがあるが、短い枚数だとアイデアを上手に生かして、無駄な肉のない、よく引き締まったインパクトある話を描くのだ。

 これは巻数モノとはいっても、表題作の中篇が2つと、「秘密―トップ・シークレット―」という中篇の3つから成っている。どれも、胸がつまるような、切ない話である。

 表題作は、主人公の龍一が子供のときに拾ったライオン、シーザーの話。が、犬にも負ける無類の臆病者。しかし、根はとても優しいのだ。龍一はそんなシーザーにイラつくが、ふと考える。本当の強さとは何なのか。

 2つめは、あちこちの飼い主をたらいまわしにされる犬、トングの話。これは涙なしには読めない。すっかり人間を信用できなくなったトング。彼の寂しさと、本当は愛情を渇望している気持ちが切なくて泣ける。

 「秘密」はSF的設定の話。大統領暗殺の謎を解く為、国は死んだ脳から彼の見た映像をスクリーンに再現し、読唇術の専門家に言葉を解読させる。精錬潔癖で非の打ち所のない大統領だったが、たったひとつ、感情をあらわした彼の目が追っていたものは…。

 これにはうならされた。「見る」という行為は実は本人だけの「秘密」なのだ。なぜならそこには「愛」が隠されているから。非常に着眼点の優れた傑作である。

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『BREATH』(川原由美子、朝日ソノラマ)

 川原由美子選集、8巻目。これが最終巻である。なんとオール単行本初収録作品!川原ファンはいますぐ買いに書店へ走れ!

 初出は78年から94年という幅の広さ。「BUBBLE GUM REVOLUTION」なんて、まー10年以上前になっちゃうのか! このあたりが彼女の分岐点なのかな?

 軽い浮わついたコメディタッチの作品はこの頃を境にして影をひそめ、やがてもう少し大人っぽい恋愛モノの作品が書かれるようになる。

 彼女の描くコメディも、それはそれで悪くはないんだけど、ワタクシ的にはこの選集の後半に掲載されているような、胸がきゅっと切なくしめつけられるような短篇のほうがずっと好きである。

 ストーリーとしては他愛ないものである。でもひどく印象的で、一度読んだら忘れられない。なんともいえない微妙な感情が、元オンナノコ(笑)のツボを突くんだよなあ。

 倦怠期に入ったカップルの女の子。デートをすっぽかすが、やっぱり気になって待ち合わせ場所に急ぐと…(「途中下車」)。久しぶりに田舎に帰ったら、ばったり出会ってしまった、昔好きだったアイツ。彼女が都会でつきあっててつい先日別れたのは、その兄だった。別れてしまったホントのわけは…(「白い帽子の夏」)。中でも一番好きな話は「PARK」かな。いまどきの女子高生と、その子にゲイと誤解されてる小説家の、なんだか妙なカンケイとその恋の行方。こういう路線、もっと読んでみたいな。今後に期待!

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『ファンタスマゴリア デイズ』(たむらしげる)

 今年の秋に創刊された、「月刊コミックフラッパー」(メディアファクトリー刊)で、ただいま連載中!この新雑誌、あの懐かしの『超少女明日香』(和田慎二)、『アタゴオルは猫の森』(ますむら・ひろし)などが連載しているという、かなりオイシイ雑誌なのだ。他には新谷かおる、竹本泉、島本和彦などが名をつらねているという豪華ぶり。『明日香』なんてホントにあのまんまだよ!

 で、『ファンタスマゴリアデイズ』だが、これはほんの8ページの連作短篇である。例によって例のごとく、シルクハットをかぶった博士とブリキ製のようなロボットが登場し、独特のファンタジックな世界を舞台に、ささやかな冒険を繰り広げるといったストーリーが展開される。

 最新号の1月号掲載の第2話の題は「流星堀り」。「小さな質の良い美しい星は宝石になり、大きな星は電池として高く売れます」。ああ、いいなあ!流星の宝石!どんなに美しい輝きを放つことか!きっとダイヤモンドもかなわない。

 「星が降るとどこからかバクがやってきます」。バクは流星が大好物なのです。それは遠い昔の夢のかけら。はるか彼方から降ってきたそれは、いったい誰の夢なのでしょうか?

 といった、あの夢あふれる“たむらワールド”が静かにほのぼのとつづられてゆく。

 セリフはすべて著者の手書きのまま。味のある文字が暖かい。

 ギスギスした現実をつかのま忘れさせる、一服の清涼剤コミック。

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『ヒカルの碁@〜』(ほったゆみ・小畑健、集英社)

 今、「週刊少年ジャンプ」で爆発的人気を誇っている作品なので、私が紹介するまでもなくご存知の方も多いだろう。

 しかし、今のご時世に囲碁とはねえ。よくこんな地味なものを取り上げたよなあ(ジャンプ編集部がオッケーを出したのがすごい)。しかも、その地味なアイテムをこれほどまでにドラマティックな物語に仕立て上げるとは!只者ではないな、原作者&漫画家!

 ふとしたことから、小学生のヒカルの心の中に、平安時代の碁の天才貴族「佐為」が住み着く。佐為の頼みで碁を始めたヒカルは、いつしか碁の魅力に惹かれてゆく…。

 この作品の成功要因はいくつかあると思うが、まず第一に、なんといっても絵がキレイ。やはりマンガは絵が命!これは『あやつり左近』という連載を前に描いてた漫画家なのだが、あれもとてもよい出来で、私は愛読していたものだ。

 もうひとつは、前述のとおり、ドラマ仕立てがうまいということ。魅力的なライバルとの闘いの熱さ!ヒカルがだんだん碁にハマっていく様は、私たちの心に眠っている情熱にも火をつける。それは全力を投じた真剣勝負の闘いというものへの憧憬だろうか。読んでるこちらまで熱くなるマンガだ!

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『バスカビルの魔物』(坂田靖子、早川書房)

 坂田靖子のコミックを初めて読んだのは、中学の時に「LaLa」に掲載されていた『バジル氏の優雅な生活』である。最初は「なぜこんな稚拙な絵がいいと言われるのだろう?」と思ったが、じわじわとその魅力のとりこになった。

 このトボケた洒落とユーモアは、この絵柄でなくては絶対ダメなのだ。暖かさがあり、知的であると同時にバカバカしさとナンセンスにあふれるこの味は、この方にしか出せない独特のテイストである。

 ワタクシ的には、彼女の作品の中では『マーガレットとご主人の底抜け珍道中』が最高傑作なのだが(この奥さんがまたいいのよ!何事にも動じなくて、とても優しいの)今回は6月に発行された本書を紹介しようと思う。

 これは「ミステリマガジン」に掲載されていたミステリ・ショートショートである。著者はやはりミステリがとてもお好きで(子供の頃、ホームズとヒッチコック劇場で育ったそうな)いろんな有名ミステリから題材をとったパロディコミックになっている。いかにも彼女らしい、ツボをついたお間抜けさ(笑)に、読みながら思わずニヤリとしてしまう。

 私のようなミステリに薄い者にはわからないネタもあるのだが、それでも十分楽しめる一冊。

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