『ねじれた町』眉村卓/ハルキ文庫

 ひと昔前のジュブナイルSF、といった雰囲気満載の一冊。まさにあの往年のNHK少年ドラマシリーズそのもの。アレのファンの方なら、ひたれること請け合い。歴史ある古い城下町に引っ越してきた少年が主人公。が、その町は奇妙なことばかり起きるのだった…。少年の成長にからめて、古い町がその呪縛をとくまでを描く、破天荒なSF。けっこう、うひゃあな展開なので(笑)、頭の中で映像化すると、なかなか楽しめます。ささっと読めるわりに奥が深いのも魅力。

『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ/ハヤカワ文庫SF 

 イラストもとってもキュートな、SF作家によるほのぼの童話。家電製品版、「ブレーメンの音楽隊」といった感じ。森の別荘にずっとほっぽっておかれたトースターや電気掃除機たちが、力を合わせてご主人の住む町へ向かう話。心あったまるお話でした。この話がどうやってできたかは、この文庫の裏見返しの、著者の写真を見れば一目瞭然(笑)。ぴかぴかの銀のトースターの横っ腹に、著者の顔が鏡のようにバッチリ写ってるんです!しかもワル顔!>超失礼(^^;。すぐ読める話なので、軽い童話をちょっと読みたい、なんてときにオススメ。

『ANGEL』石田衣良/集英社 

 うーん、ジャンルで分ければミステリかな。普通の小説と思ってもさしつかえないが。石田衣良の作品は初めて読んだのだが、そこそこ面白く、なかなか読みやすい。が、ちょっとカラいことを言わせていただくと、噛まなくてもつるつるっと口に入ってしまうそうめんのように、歯ごたえがない気も。この人ならでは、みたいな独特の味に欠けるのがちょっと物足りない。もっとどこかにクセがあってもいいようにも思う。きっと、とても器用な方なのでしょう。ストーリーは、死んで幽霊になってしまった自分が、その前2年間の失われた記憶を探りながら、自分を殺した犯人を探すというもの。幽霊の犯人探しというアイデアがユニーク。著者の「いのち」に対する考え方がよく出ていて、じんとする。

『散歩とおやつ つれづれノート8」銀色夏生/角川文庫(99.8月刊)

 これもずうっと新刊が出るたびに買って読みつづけているもの。著者のなんてことない日常の日記で、食べたものや仕事のことや旅行のことなどがつれづれに書いてあるのだが、ときどきはっとさせられる言葉が書いてある。そう、これはネットの日記によく似ている。私は、この人の人間に対する視点というか距離の置き方が面白くて好き。家族でも、ましてや自分の子供でも、あくまで他人という視点に立って、どこか冷静に相手を見ている。決して自分のものさしで相手を計るということをせず、他人は他人、自分は自分、という姿勢。だけどたまたまちょっと気が合って一緒にいたりすることがある、という感覚。この人は、常に自分と他人との関係というのを考えて生きているような気がする。余談だが、娘のかんちゃんの写真が超かわいい!

『ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師』上遠野浩平/電撃文庫(99.8月刊)

 ブギーポップシリーズも、はや6作目。まあ、いつもどおり。ブギーは、水戸黄門化してます(笑)。いいところで、ちょっと出てきてキメのセリフ言って、おいしいとこ持ってく、みたいな。ストーリーは、とてもかわいそうなひとりの孤独な男の話。「心の痛み」というものの捉え方、その素材の料理の仕方が著者らしい。しかも救いがない終わり方になっているのは、結局心の痛みというものが、人間にとって避けることはできないものだということか。どんなに孤独でも、つらくても、逃げないでそういう心を抱えて生きていかねばならないということか。うーむ、なかなかにシビアな話だ。

☆『催眠』松岡圭祐/小学館文庫

 エンターテイメントとしては面白いと思う。スピーディーでミステリアスな展開に引き込まれる。でも、文章がちょっとアレかな。下手というわけではないのだが、どうも旨みがないというか、何の味もしないというか。単に私の好みの問題かもしれないが。これで文章に彼オリジナルの味がついたら、非常に面白い作家になると思うのだが。なぜ、彼女に主人公がそうまで肩入れするのかも説得不足かな、と思った。

☆『魔女も恋をする』風見潤編/集英社コバルト文庫

 『たんぽぽ娘』は乱読書いたのに、これは忘れてました。どちらかというと、こっちの方がお姉さん向き。20過ぎの女性の方がこれの良さはわかるんじゃないかな。ユニコーンの話なんかは、どちらかというとSFというよりファンタジーでした。

☆『聖域』篠田節子/講談社

 前に、SFセミナーの予習として読んだもの。非常に文章は達者だし、ストーリーも及第点。なのに、なぜだろう。なんだか心に響くものがない。何かが足りないのだ。ずっと考えてるのだが、それが何だかどうしてもわからない。好みの問題とも思えないのだが。

☆『わたしたちは繁殖している3』内田春菊/ぶんか社

 よく考えたらコミックだったわ、これ。まあいいや。コミック・エッセイということで。相変わらず、言いたいこと言いまくってて爽快。これだけ開き直って育児してれば楽しいでしょう。意外と彼女、まめなのに感心。おやつとか服とか、ささっと作っちゃうの。忙しいだろうに。えらいなあ。ダンナもえらいんだよね、このご家庭。巷にはびこる「いいお母さん」幻想をぶち破って正しいことをきちっと言ってくれる姿勢に拍手!

☆『謎物語』北村薫/中公文庫

 ミステリおたく(笑)の著者が、本格ミステリに対する愛を書き綴ったエッセイ。私には「本格」というのが説明を読んでもイマイチわからないのだが、彼がどれほど本格ミステリに心酔してるかはよくわかった。参考に出てくるいろんなミステリをほとんど読んでないのが残念。あれを読破してたらさぞ面白く読めたでしょう。あと、フツーの人なら気づかずに見過ごしてしまうようなところから謎を発見する著者の目には脱帽。

☆『私が彼を殺した』東野圭吾/講談社ノベルス

 うえええええん。いまだに犯人がわかりません。実はこれ、殺人が起きて、容疑者が3人いるのですが、最後まで犯人が明かされないで終っちゃうんです。結末は読者の手にゆだねるという手法。そ、そりゃないよお。わかんないじゃん!(私がアホなのか?)面白い試みではあるけれど、ルール違反な気もするな。どこかで解決編を公表する気はないのかしらん、東野さん。

☆『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾/講談社文庫

 こっちはまだ上の作品に比べればやさしかったです。これも同じく、容疑者が二人いて、犯人を明記しないまま終ってるんですが、これは二者択一だし、ヒントもわかりやすかったので助かりました。ふう。文庫版は袋とじ解説つき。

☆『恋のあっちょんぶりけ』北川悦吏子/マガジンハウス

 あの傑作ドラマ(私が今まで見た中では最高のラブコメドラマだったよ!)「ロング・バケーション」の脚本家によるエッセイ。ドラマにもこの本にも、やはりどこか共通するものがある。いわば、彼女の物事の受け止め方、考え方の姿勢といったものか。前向きで、元気。パワーとセンスにあふれている。毎日、自分を磨くべく切磋琢磨してるんだろうな。見習わなきゃな。恋愛に対する考え方も、うなずけること多し。

☆『日本語練習帳』岩波書店

 ベストセラーってイマイチ食指が動くような本がないのだが、これは当たりでした。へたっぴなくせにネットで文章を書いてるはしくれとして、とても勉強になった本。細かい日本語の使い方うんぬんというより、言葉の使い方に対する真摯な姿勢に打たれました。もっと、言葉というものに気を使おう!勉強しよう!と反省させられました。説教臭くもなく、さらりと読めます。


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