12月 私の2001年ベスト10

 さてさて、毎年恒例になりました、私的ベスト10の発表でございます!今年もいろんな面白本に出会えて、本当に幸せでした。「これがいいよ〜」というさまざまな本情報をくださった皆様に、ここで改めて感謝を述べたいと思います。ありがとう!なお、このベストはあくまでも私の独断と偏見に基づく評価であり、単なる私の「好み」であることを強調しておきます(笑)。

 ちなみに、乱読にアップしてないが読了した本は、『中継ステーション』シマック、『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文、『非・バランス』魚住直子、『三人目の幽霊』大倉崇裕、『20世紀SF 1,2』、『皇帝のかぎ煙草入れ』カー、『『夏のレプリカ』『今はもうない』『数奇にして模型』『有限と微小のパン』森博嗣、『サグラダ・ファミリア 聖家族』中山可穂、『東京タワー』江國香織、『Jの神話』乾くるみ、『本屋はサイコー!』安藤哲也、『星の国のアリス』田中啓文、『クリスマスのぶたぶた』矢崎存美、『肩ごしの恋人』唯川恵、『テレビゲーム文化論』桝山寛、『日曜日には鼠を殺せ』山田正紀、『人生張ってます』中村うさぎ、『死にぞこないの青』乙一、など。ううっ、全然アップしてなくてすみません〜。これ以外にもあったかもしれないですが。乱読が70冊、乱読ひとことが2冊、アップしてないのが22冊、トータルでおよそ94冊でした。ぐわー、あと6冊で100冊だったのに!(涙)

 それではベスト10の発表です!やっぱりまた1位から発表にします。

★第1位 『トリツカレ男』(いしいしんじ、ビリケン出版)

 今年読んだ本の中で、とにもかくにも一番「好き」な本。心の芯から幸福になれる本。読んでて、うれしさのあまりに笑みがこぼれてしまう。それでいてきゅうっと切なくて、哀しい。童話のような、寓話のような、なんとも不思議でとてつもなくピュアなラブストーリー。無駄のない、シンプルな文章の美しさにも感動。ぜひ!ぜひともご一読を!!

★第2位 ぶたぶたシリーズ(『ぶたぶた』、『ぶたぶたの休日』、『刑事ぶたぶた』、『クリスマスのぶたぶた』)全て (矢崎存美、徳間デュアル文庫、『クリスマス〜』のみ徳間書店)

 ぶたぶたさんに出会ったのは今年のことなんだよねえ。でもなんだかもうずいぶん前からこの本を知っていたような気がする。それほどに彼はこの1年、私の身近にいたのだ。すっかり彼とお友達になってしまったような、そんな錯覚をふと覚える。いつかひょっこり、街角で彼に会えるような気さえするよ。

★第3位 『クラゲの海に浮かぶ舟』(北野勇作、徳間デュアル文庫)

 今年は『かめくん』でSF大賞も受賞した北野勇作。でも『クラゲ〜』に出会わなければ、彼の魅力は理解できなかった。こんなに、こんなに素晴らしいSF作家だったなんて!まさに「天才」。小説の構成自体が美しい、という物語が存在するということを生まれて初めて知った。私的超注目の日本SF作家。

★第4位 『センセイの鞄』(川上弘美、平凡社)

 ああ、川上弘美も今年惚れた作家である。『椰子・椰子』もよかったけれど、『センセイ〜』は恋愛小説としては今年のベスト2。恋愛とは、すなわち相手との距離の取り方であるということがよくわかった。限りなく愛しい1冊。

★第5位 『模倣犯(上、下)』(宮部みゆき、小学館)

 宮部さんはもう今年はこれを書いてくださっただけで十分だ。圧倒的筆力。弱者の悲しみがこれほどまで悲痛に書かれていては、読者はただただ打ちのめされるばかり。犯罪とは、かくも悲しく恐ろしいものだ。日本中、いや世界中の人に読んでほしいとさえ思う。

★第6位 『ハリー・ポッター』シリーズ(J・K・ローリング、静山社)

 これもシリーズ全部でひとまとめにしました。いやあ、これほどまでに面白いとは思わなかった!抜群の学園キャラ小説(笑)。構成が見事なのにも驚き。

★第7位 『上と外』1〜6巻(恩田陸、幻冬舎文庫)

 まさにジェットコースター・ノベル!あの、一気に急降下するときみたいな、背筋のぞくぞく感がたまらない!この本を読んでる時間、私がどれほど幸福だったことか!

★第8位 『有限と微小のパン』(森博嗣、講談社文庫)

 犀川&萌絵シリーズ中、最高傑作。脳みそをぐるぐるにかきまぜられるような、知的興奮にしびれた。森博嗣の思想・思考は、おそらく他の誰にも真似できないであろう。私にとっては、とてつもなく魅力的。

★第9位 『ドミノ』(恩田陸、角川書店)

 いやあ、びっくりしたよ。恩田さんとは思えない緻密さ(失礼!)。これだけ数多くの登場人物が出てくるのに、破綻してない。きっとりまとめた見事な構成に脱帽。しかもキャラが面白すぎ。読みながら、何度膝を叩いて笑ったことか!

★第10位 『それいぬ』(嶽本野ばら、文春文庫プラス)

 彼の乙女エッセンスが一番濃縮されてるエッセイ。本当に、10代で読まなくてよかった。あやうく、道を踏みはずすところでした(笑)。そのくらい、ある種の人間には危険な1冊。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

★番外編 『インターネット的』(糸井重里、PHP新書)

 ネット者必読書。ネットに対する自分の感覚を、これほどぴったり言葉にしてくれた本は、いまだかつてない。あらゆるIT解説書よ、マスコミよ、これこそがネットなのだぞ!本書は、糸井氏からの、私たちへの応援歌だ!

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魔女11月 ハリー・ポッター特集

世界中で大ベストセラー、もはや社会現象ともなっているハリー・ポッターシリーズだが、実は恥ずかしながら長らく積読状態でございました。が、12月1日にはついに日本でも映画公開というので、その前にと意を決して読み始めたらば、面白いのなんの!ご多分に漏れず、すっかりハマってしまいました。で、私なりにハリポタについて書いてみようかと思います。

『ハリー・ポッターと賢者の石』☆☆☆☆1/2 (J.K.ローリング 静山社 99.12月刊)

 いやいやまいったね、こりゃ!やられたよ!まさに世評通り。クヤシイくらい(笑)、どこからもケチのつけようがない面白さ。

 「そ〜うだったらいいのにな、そ〜うだったらいいのにな♪」という童謡があるが、この物語、まさにこれ。小学生が、「こんな毎日だったら楽しいだろうなあ」と夢見ることがそのまんま書いてある。そらハマるって(笑)。いじめられっ子だった自分がある日突然、超有名な魔法使いと言われ、魔法学校に行くことになる。で、魔法の勉強に空飛ぶサッカー。そりゃ、毎日つまらん授業受けてる身なら、魔法の勉強のほうがずうっと楽しそうだし(私だって習いたい)、空飛ぶ箒のサッカーなんて、サッカーファンの子にはたまんないでしょう。しかも主人公は天性の天才プレイヤーときてる。もお、オイシイものてんこ盛り。

 クラスメイトたちの描写も、子供たちの親近感を抱かせるのにじゅうぶん。こういう子、自分の周りにもいるいる〜!みたいなキャラばかり。気さくな親友、嫉妬にかられた意地悪くん、賢いけどツンツンした女の子、のび太くんみたいなダメ少年。そして何より、ハリー君の堂々っぷりがいいではないか!あれだけいじめられても全然ヒネてない。自然体だし、威張らない。最も素晴らしいのはその勇気!

 賢者の石をめぐる謎、そして冒険。後半のストーリーの盛り上げ方には、思わずひきこまれてイッキ読み。最後はホグワーツの皆と共に、「やったー!」と心で喝采を叫んでしまった。噂どおり、非常にストーリーテリングのツボを心得た作家だと思う。

 これ、確かにファンタジーっていうより、大森望さんの「学園ものティーンズノベルの感覚」という評のほうが当たっていそうだ。っていうかミステリだよあの展開は!(笑)まさかそうくるとは。しかもまだまだいろんな謎がありそう。この気のもたせ方もなかなかうまい。次巻が楽しみ。

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』☆☆☆☆1/2 (J.K.ローリング 静山社 00.9月刊)

 ハリポタ2巻目。前作で11歳だったハリーは12歳に。1冊でちょうど1年間が語られるというつくりになっている。そして今回も、我らがハリー君はピンチの連続!

 うまいな、と思うのは、ハリーがただの雲の上の人的ヒーローじゃないってことだ。魔法界では誰もが知ってる有名人でも、マグル(人間)界に行けば、おじ一家からひどい扱い。そのアンバランスぶりが、読者に親しみを感じさせる一因となっている。この「隠れたヒーロー」という設定は、何より子供に憧れを感じさせるに違いない。そう、デビルマンだってウルトラマンだって仮面ライダーだって、その正体は世間には秘密なのだから(笑)。

 今回は、そのおじ一家で夏休みを過ごすハリーの元に、ドビーというしもべ妖精が「学校に戻るな」という警告をしに来るところから始まる。しょっぱなから、何やら不穏な空気。どうしてこう、次から次へとピンチとトラブルの連続なんでしょう、ハリーったら!またしても、ヒヤヒヤしっぱなしのイッキ読み!

 見事な伏線の張り方に感動の溜め息。すごいよこれ、やっぱミステリだよ!とにかく、あらゆるところに実に巧妙に伏線がはりめぐらしてあって、謎がとけるたびに、「ああ、あそこか!やられた!」と気がつく。この、ラストに近づくに連れてかちんかちんとピースがはまっていく様は実にミステリ的。このあたりも、読者をひきつけるゆえんだろう。

 キャラ描写も相変わらずのうまさで爆笑の連続。ロックハート先生が〜!(笑)この人間味あふれる書き方が、また本書の大きな魅力。ほとんどキャラ小説といっても差し支えないでしょう。

 でもやっぱり今回も大団円。物語のラストはこうでなくちゃね!ハッピーな読後感。う〜ん、いいです。

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』☆☆☆☆ (J・K・ローリング、静山社 01.7月刊)

 ハリポタ3巻目。テンションはいっこうに下がることなく、話のパターンもテイストも前作と変わらず。もうすっかり安定したシリーズものの貫禄があり、安心して読める。

 今回のハリーは、アズカバンの牢獄から脱獄した男、シリウス・ブラックに命を狙われるハメに。まあ、よくもこうまでピンチにつぐピンチを作れること、著者ったら!(笑)でもご安心。我らがハリーくんは、相変わらずのまっすぐな心と勇気で、危機を乗り越えてゆく。結局、ハリーの性格がこの物語の核というか導き手であるのだ。決して優等生でなく、いたずらっ子で、誘惑に負けて規則も破ってしまうような、ごく普通の少年。そう、この物語の読者である、子供たち自身のような。等身大のキャラ。でも、その奥にある、まっすぐに1本通った芯の強さや優しさが、物語全編を貫いている。

 ストーリーの面白さ、キャラたちの元気ぶりは相変わらず。登場人物たちの人間臭さがまたいいのよね。嫉妬深かったり、お間抜けだったり、ケンカもすれば仲直りもして。クライマックスの盛り上げ方はいつもながらうまい。両親にまつわる謎も少し解けてくる。しかも今回はちょっとSF入ってます(笑)。

 この物語における魔法ってのは、どことなくドラえもんの道具みたいなところがあるね。困ったときに助けてくれて、でも当人の使い方しだいで毒にも薬にもなる、というところが。

 というわけで、次の4巻以降の発売を楽しみに待ちましょう。

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10月 北野勇作特集

 今年最大の、私的読書収穫は、なんといってもこの作家の作品に出会えたことである。ああ、『クラゲの海に浮かぶ舟』(徳間デュアル文庫)を読んだときのショックと感動を、どう表現したらいいのだろう。とにかく、こんな形の小説を読んだのは、まさに生まれて初めての体験だったのだ。難解なパズルを読み解いたときにぼんやりと浮かび上がってくる、その物語の真実の姿がかいま見えたときの驚愕と興奮。そして全編にそこはかなとなく漂う、ノスタルジックな哀しさと美しさ。今、イチオシのSF作家である。

 彼の作品4冊ぶんのレビューを紹介しよう。

『かめくん』☆☆☆1/2 北野勇作(徳間デュアル文庫、01.1月刊)

 北野勇作、初挑戦。なんとも不思議でどこか懐かしい味わいの、のほほんSF。

 かめくんは、厳密に言うと動物の亀ではなく、亀を模した2足歩行のレプリカント。レプリカメとも呼ばれる。かめくんは以前勤めていた会社が吸収合併されたため職を失うが、なんとか次の仕事と住まいを見つける。その仕事はなんだか謎で…。

 人間の世界に溶け込んでひっそりと暮らすかめくんの、ささやかな日常がつづられる。それはユーモラスで、まったりと心安らぐものである。が、その舞台である人間の世界が、この現実と近くはあるがなんとな〜くアヤシゲなSF世界なのだ。こういうの、超日常っていうんですかね?著者はあえて、それを明確にくっきりとは描かない。かめくんの仕事がなんなのかさえ、読者にもかめくんにも、具体的には何一つわからない。ただ漠然と、なんだかズレた世界。

 かめくんは昔の記憶がない。思い出そうとするのだが、甲羅の中にデータが入っていそうなのだが、出てこない。自分はいったいどこから来たんだろう?自分は何なのだろう?かめくんは己の存在について、いろいろと考える。考えてもよくわからないのだが。それでもかめくんは考える。なにか、ここにも深い謎が隠されているような…。

 純真で優しくて物静かな子供みたいな心をもった、かめくん。その姿はどこか哀愁をおびていて、切ない。なんだか、そのあたりの街角で、ふいにかめくんに会えるような気がする。いつかどこかで、かめくんに会いたいな。

『クラゲの海に浮かぶ舟』☆☆☆☆☆ 北野勇作 (徳間デュアル文庫、01.9月刊)

 皆に絶賛される『かめくん』を読み、『昔、火星のあった場所』を読んでも、どうもイマイチぴんと来なかった北野勇作。『火星〜』などは、あまりの難解さに、乱読さえ書けずにさじを投げる始末。が、本書によって、彼に対する私の見解は見事にくつがえった。そうか、そういうことだったのね、やっとわかったよ!これは、まれにみる、いや、おそらく彼だけにしか書けない、ものすごい傑作だ。この言い方に多少の語弊はあろうが、思い切って言い切ってしまおう。彼は「天才」だ。

 本書の小説技法、世界構築方法とは何か。なんだかわけわからん小説では断じてない。実は、まさに小説そのものが「ジグゾーパズル」なのだ。読者はう〜むと頭を抱えつつ悩みつつ、そのばらばらなピースをひとつひとつ、くっつけていく。すると最後に、あっと驚く異世界地図が完成するという仕組みなのだ。この知的興奮ときたら!全編「?」だらけなのだが、まず謎があって、それを解いていく、というミステリなんかとはまた全然違う。バラバラなものを組み立てて、ひとつの異世界地図を作り上げていくわけだ、読者自身が。しかも、その中に美しさと悲しさと、そして何よりもどこかノスタルジックな切なさがある。

 とにかくこんな小説を読んだのは生まれて初めて。全くオリジナルな小説の形。確かに、世界中のひとから認められる作品ではないかもしれない。正直言って、小説としてわかりにくいのは否めない。一度読んだだけではわからないし。でも、これを読んでいて「はっ!もしや…!!」と、そのパズル完成間近に浮かび上がってくる、異世界地図が見えてきたときの震えがくるような感動!この難解さだからこそ、の感動なのだ。著者は全て計算しつくした、確信犯なのだ。

 ネタバレになるので、ストーリーは一切説明しないでおこう。いや、説明のしようがないというほうが正しいか。

 ごく一部の人しか理解できない小説かもしれないが、それでも世界中で私だけは、彼をすごいと思う。いや、もちろん、そう思うのは決して私だけではないはずだ。

『昔、火星のあった場所』☆☆☆☆ (徳間デュアル文庫、01.5月刊)

 北野勇作作品のなかでも、最も難解。一度読んだだけでは全く理解できず、重要部分はメモを取りながら再読して、やっとなんとかおぼろげに見えてきたかも?くらいの理解度。それでもこれも、『クラゲ〜』と同じ、パズル形式の小説だ。が、とにかく、パズルのピースのつなげ方がむちゃくちゃ難しい。これを一読で理解できる読者はかなり少ないであろう。だが、『クラゲ〜』の魅力がわかる方なら、チャレンジする価値はおおいにある。

 これもやはりストーリーを説明できない小説なのだが、ちょっと私の読み解いた地図をおっかなびっくり書いてみようかと思う。これが正しいのかどうかは全くわからないし、まだまだ完全には理解しきれてないので、はなはだ不安ではあるのだが。(以下、ネタバレ。既読の方のみ、ドラッグしてお読みください)

 まず、現実世界の地球では環境問題などの世界の危機がおきていた(p184参照)。そこでは猿(人間)と蟹(有機マシンまたは完全自動機械)のふたつの勢力が争いを繰り広げており、彼らは相手より優位に立つために、火星の権利を欲しがっていた。そこで、彼らが手を結ぶためにと、ある物理学者が「門」を作ったのだが、結局双方がこれをとりあい、同時に使用し、世界は歪んでしまった。その歪んだ世界のぐちゃぐちゃになった記憶で、この小説は構成されている。

 「門」というのは「どこでもドア」のようなワープ装置である(p184参照)。これが、彼女が乗っていた火星への「宇宙船」と呼ばれるものである。これを使って火星へワープする途中、何らかの事故がおきた。それに乗っていた冷凍睡眠中の宇宙飛行士たちのうち、彼女だけが目覚める。彼女は、ひとりで、破壊されたメモリー(記憶)をなんとか再構築し、いくつにも歪んだ世界を建て直そうとする。

 彼女はこの船を管理するための人工知能として、小春を作る(その際、メモリがどうしても足らず、そこに眠っていた他の宇宙飛行士の脳を使った。それが「鬼」である)。そして小春のメモリ内に、種をまいた。種とはメモリ内の種子ユニットである自己発展型ソフトウエア、すなわち「ぼく」である。「ぼく」は、この宇宙船内のメモリであり、事故によってめちゃくちゃになった記憶そのものなのである。「ぼく」はやがて成長し(柿の木)、プログラムが作動して(時計屋が時を告げ)、世界の再構築を始める…。

 ラストで、この歪んだ世界をクッションにして、「列車」=有機マシン(タヌキ)の全データと、「宇宙船」=彼女が再構築した世界のメモリが衝突して、その相互作用で歪んだ世界は元通りになる(有機マシン(蟹またはタヌキ)が、人間に『柿の実』(火星の権利)を渡すかわりに『新しい種』(新しい種子ユニット=ぼく)を手に入れる、ということか?ここらへんはまだ意味不明)。

 そして、不確定ないくつもの世界の中から『たったひとつの現実』を選びとる。舞台は現実の地球に戻り、空にはちゃんと火星が浮かんでいるのだ。

 ああ、やっぱりまだうまく説明しきれてないなあ。いや、理解しきれてないというべきか。量子力学がわかれば、もっと理解しやすくなるのだろうか?いやはや、本当にやっかいな小説だ。だからこそ、魅きつけられるのだが。

『ザリガニマン』☆☆☆ (徳間デュアル文庫、01.10月刊)

 『かめくん』の姉妹編。なるほど、確かに裏設定は同じ話のようだ。例によって、この世界もはっきりとは読者に説明されない。登場人物たちのバックに、ぼんやりと見え隠れするピンボケした背景。それは超日常的SF世界だ。

 『かめくん』でも映画撮影や映画シナリオが出てくるが、こちらではその映画の人類の敵役として、ザリガニが使われることになる。トーノヒトシは、そのザリガニを仕事でつかまえに行く。その開発実験中に事故がおき…。

 (以下、ネタバレ。ドラッグしてお読みください)

 ストーリーは、北野勇作の小説にしては断然わかりやすく、読みやすい。パズル部分もほとんどなく、ほぼそのまんまである。が、ひとつ今までの作品と明確な感触の違いがある。それは、読後感の生理的不快さである。もちろん、北野勇作はいつでも確信犯であるから、これは意図した不快さである。今までの作品が、どれも透明な鉱石のような美しさを放っていただけに(しかも私自身はそこをこよなく愛していただけに)、これには驚愕した。ううむ、ホラー路線に行くのか、北野勇作?まあ、それならそれでもかまわないが。でもやっぱりちょっと残念ではある。

 これから、北野勇作はどういう方向に進んでいくのだろうか。様々な方向があると思うが、どちらであれ、他の誰にも書けない、あっと驚くようなSFをもっともっと読ませて欲しい。彼の今後に大いに期待している。

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8月 SF大会「SF2001」に参加して

 今年も熱い夏がやってきた。夏といえばSF者の祭典、SF大会だ!(笑)2001年にして第40回という記念すべき大会が、地元千葉の幕張メッセにて、8月18日(土)〜19日(日)に開かれました。いつもならここで恒例のSF大会レポ(ダイジェスト版)をアップするところなのだが、今さら書き直してもアレなので、今年はパス。で、何を書くかというと、レポではなく、大会に参加していろいろ自分の中で考えたことを書いてみようと思う。

 さて、なぜ今回に限りこういう形にしたかというと。今回のSF大会で参加した企画が、どれも「SFとは何だろう?」ということを痛切に考えさせられる内容だったからである。並べてみると「SF/ミステリの今」「瀬名秀明 SFとのセカンドコンタクト」「SF作家と呼ばないで?トランスジャンル作家パネル」といったもの。どちらかというと、SF者ど真ん中企画ではなく、SFというジャンルを外側から見て、SFって何なのか、ひいては自分にとってのSFって何なのか、ということを改めて再認識させられるものばかりだったのだ。己を振り返るという点で、大いに収穫のあった大会であった。

 「SF/ミステリの今」は、その名のとおり、SFに割と近いところに位置するミステリ作家にお越しいただいて、あれこれしゃべってもらうという企画である。具体的には西澤保彦、森博嗣、綾辻行人、山田正紀が登場し、大森望が司会という形で行われた。

 ここではミステリ作家のSF観が見えて、とても面白かった。やっぱり、ミステリ作家からみたSFの定義は「難しい」らしい(笑)。「狭い」とも感じられてるような印象だった。興味深かったのは、森氏の発言で、「ミステリって、そもそもリアリティに書かれてるけど、書きたいのはアンリアリティなんですよね。SFは、書いてるのは超自然的なのに、それをどうリアルに見せるか。ロジックの見せ方が反対なんですよね」という部分。なるほどー、そういうふうに考えたことはなかったな。SFは本1冊かけて、世界を説明するとか、うなずけること多し。ミステリの場合は、ラストで一気に説明するためにいろいろ隠してなきゃいけないので、そのあたりが大変らしい。

 「瀬名秀明 SFとのセカンドコンタクト」は、最もSFとその外部との感覚のズレが如実に出た企画だったと思う。SF代表が野尻抱介と野田令子、外部側が瀬名秀明という形。これは今年のSFセミナーのリベンジみたいな企画だったのだが、あの時の一方的に瀬名さんが問いかける形式より、今回のようにSF側の人間とじかに対談する形式のほうが、ずっと明確に互いの違いが浮き彫りになって(さらには考えのすり合わせ、歩みよりもできて)よかったと思う。

 まず前半は相互理解の話、後半はSFの未来をどうしていけばいいのか、が語られた。聞いているうちに、『パラサイト・イヴ』が一部のSFファンにボコボコにされる理由が、やっとだんだんわかりかけてきた。実は今まで、あのSFファン側の拒絶反応が私には全然理解できなかったのだ。

 つまりは(ここで語られた見解では)SFって現実からSF世界へ飛躍するレベルというか段階があって、その上まできっちりと飛べば『パライヴ』は立派にSFと認められたらしい。が、いいとこまで行っておきながら、彼はそのレベルの途中までしか飛ばなかった。なので、本格SFと思って読んでたのに期待を裏切られた格好になったSFファンが怒った、といういうことらしい。

 他にもSFファンとのあれこれ(主にハードSFファン、かな)なども話題に。「これはSFではない」発言禁止などについても。私はやっぱり一部のSFファンは偏屈に見えるなあ、なんて思ってしまうのだが、このあたりのこともやっと少し理解できるようになった。これは水鏡子さんの発言がきっかけ。

 要するにSFファンの「あれはSFではない、これがSFだ」発言は、正確には「あれは(オレの考える)SFではない、これが(オレの考える)SFだ」ってことらしい。つまり人によってSFの定義ってものが全く異なるため、どれをオレ的SFと認めるかというのが、一種の自己表現、自己主張であるらしいのだ。SFファンたちの間ではそれは暗黙の了解事項であるらしいのだが、その外では通用しないので、「どうもあの人たちの言ってることはうるさそうだよね、こわいよね〜」ってな風に取られてしまっているわけだ。つまりつまり、「あれはSFではない」という発言は、あくまでその発言者個人の好みのSFじゃないってだけであって、その発言がすべて、その小説をSFから追い出そうとしてるわけではない、ということだったらしいのだ。ふへー。結局はその人の、SFへの愛ゆえの発言だったわけね。やっと、やっとつかみかけてきたよ。SF大会参加4年目にして初めて、SFファンの気持ちのはしっこが、少し見えてきた気がする。

 で、それじゃあ私の考えるSFの定義って何だろう?とちょっと考えてみた。といっても、私なんてそんな濃いSF読みでもないし、カッコイイ評論めいたことなぞ全然書けないのだが。いや、定義とちょっと違うかも。あくまで、安田ママ的SFの魅力・面白さについて(すごくおおざっぱに言っちゃうと、私はどれがSFだろうとSFでなかろうと、別に全然かまわない。SFというくくりに何をどう入れるか、なんてこたあどうでもいいです。「ふーん」てなもんです。大事なのは、その作品自体が「面白いか」!それに尽きるでしょ?だから、「面白いSFって何か」について書いてみようと思うのです)。

 ワタクシ的SFの面白さは、やっぱり、ひとことで言うなら「びっくり!」です。今現実に自分が当たり前に生きてるこの世界の常識を、ぐるりんと根底からひっくり返されちゃう驚き。例えば『さよならダイノサウルス』(ロバート・J・ソウヤー、ハヤカワ文庫SF)の、恐竜の○○の原因があーんなことだったんだよ、とか。読者の想像もつかないことを持ってきて、世界をひっくり返す、一本背負いの見事さ。この投げがいかに豪快に決まるか、だと思うのですよ。

 もうひとつは、この現実と全く異なるもうひとつの世界を、文章だけで創造しちゃうその「想像力」のすごさ。例えば『ハイペリオン』(ダン・シモンズ、ハヤカワ文庫SF)。宇宙を駆け巡る、とてつもなく壮大な物語が、この小さな文庫2冊にぎゅっと詰まってる。そのギャップの愉快さ。現実からぽーんと放り投げられて、宇宙や時間を自在に飛び交う、ひとときの夢の世界。SFは、想像力の文学だと思う。その翼をどれだけ広げ、どこまで飛べるか。

 これからまたいろいろ自分の中で変化があるかもしれないけれど、今、これを書いている2001年9月の時点では、私にとってのSFはこんなカンジ。こういったことを改めて自分自身に問い直すことができたという意味で、実に今年のSF大会は有意義でありました。来年もぜひ参加したいです。島根は遠いけどねえ〜。う〜ん。

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7月 マイベストSF in2001

 実を言うと、恥ずかしながらマイベストなどという偉そうなものを語れるほどSFを読んでいない。古典だって新作だって、本当に読んでないものがあきれるほど、悲しいほどある。積読状態の待機本も山ほどあるし。が、まあSF大会直前でもあるし(笑)、とりあえず、今2001年の時点でのベストを暫定的に出してみようかと思う。たぶん、これからどんどん他のSFを読んでいけば、その都度中身が更新されていくであろう。そうしたら、また何年後かにでもアップしてみよう。

★第10位 『ラモックス』(ロバート・A・ハインライン、創元SF文庫)

 ジュブナイルSFっぽいので、読みやすくとても楽しい話。異星人であるラモックスがとにかくキュート!あまのよしたかのイラストは最高だ!ぜひ中学生、高校生あたりに読ませてあげたい1冊。ハインラインはどれもするするっと読めるので、好み。『夏への扉』も、「月を売った男」も「鎮魂歌」も好き。

★第9位 『エンジン・サマー』(ジョン・クロウリー、福武書店、品切れ)

 寓話的な、とても深みのある物語。深すぎて、いまだに全てを理解しきれていない。物語を読む、という幸福に浸れる1冊。たとえようもなく美しく、切ない物語。

★第8位 『エンダーのゲーム』(オースン・スコット・カード、ハヤカワ文庫SF)

 この作品というよりは、カードの書く文章やその世界、その思想すべてに惹かれているといったほうがいいのかもしれない。このひとは、何を書いてもいつも同じことを書いているような気がする。それは、敬虔で清らかな、人道的な思想といったらいいのだろうか。SFでありながら、常に人間の心の中だけを書いている。いつか全作品を読破したいと思っている作家。いつか、ね(笑)。

★第7位 『戦闘妖精・雪風』(神林良平、ハヤカワ文庫JA)

 う〜ん、まいった。こんなすごい作家を今まで知らなかったとは。なんとなく、もっと読みにくくとっつきにくい、ガチガチのハードSF作家かと思ってたので。確かにハードSFではあるが。いやあ、出会えてよかった。とにかく、全てがカッコイイ!!痺れました。天性の文才がある方。皆が絶賛するのがよくわかりました。

★第6位 『ゲイルズバーグの春を愛す』(ジャック・フィニィ、ハヤカワ文庫FT)

 ノスタルジックさがたまらない作品集。愛しく切なく、胸を打つセンチメンタルSF。大好き。フィニィも、いつか全作品を読破したいと思っている作家です。ああ、積読があ〜(泣)。

★第5位 『ジョナサンと宇宙クジラ』(ロバート・F・ヤング、ハヤカワ文庫SF)

 なんとも切なくロマンティックな作品集。ここに、「たんぽぽ娘」が入ってれば完璧なのだがのお。少女趣味と笑わば笑え。セピア色の写真のようなイメージのSF。

★第4位 『クロノス・ジョウンターの伝説』(梶尾真治、ソノラマ文庫NEXT)

 『おもいでエマノン』とどちらを選ぼうかさんざん迷いましたが(まだ迷ってますが)、今日現在のキモチではこちらかな。直球ストレートのラブストーリ&ータイムトラベルSF。カジシンのピュアなところが、よく出てます。本当に、真珠のような、水晶のような心を持った作家です。

★第3位 『雨の檻』(菅浩江、ハヤカワ文庫JA)

 10代の頃に読んでいたら、おそらくもっとメロメロにハマっていたことでしょう。柔らかでみずみずしい感性に打たれました。心のアキレス腱にささるような1冊。

★第2位 『光の帝国』(恩田陸、集英社文庫)

 はい、そうです、えこひいきです、すみません(笑)。ある意味、こんなに贅沢なSFを私は今までに知りません。オイシイネタを惜しげもなく使いまくり、泣かせ、感動させる物語。どの短篇も、本当に抱きしめたいほどいとおしいです。一族の悲しみが全編に流れる、壮大な物語。

★第1位 『火星年代記』(レイ・ブラッドベリ、ハヤカワ文庫NV)

 え〜、1位に選んでおいて何ですが、実を言いますと内容を詳細には覚えていないのです(汗)。でも、1位はゼッタイにブラッドベリと決めていました。彼を初めて知ったのは、おそらく『たんぽぽのお酒』だったと記憶しています。短大生の時、図書館で借りて読みました。そのときはさほど感銘を受けなかったように思うのですが、どうも何かがひっかかっていたらしく、その後『恐竜物語』、『十月の旅人』などを読み、『火星年代記』、『歌おう、感電するほどの喜びを!』あたりで完全にハマった模様。先日、『20世紀SF1 1940年代』収録の「万華鏡」を読んで、「ああ私のルーツはこれだ!」と思い当たりました。詩情あふれる、その美しさにたまらなく惹かれます。いつか、いつの日にか全作読破するのだ>こればっか(笑)。

 ほかに惜しくも選に漏れたものとしては、『ハイペリオン』ダン・シモンズ、『キリンヤガ』マイク・レズニック、『ミステリーゾーン 1〜4』ロッド・サーリングほか、『中継ステーション』シマック、『果しなき旅路』などゼナ・ヘンダースン、『鳥の歌いまは絶え』などケイト・ウェルヘルム、フレドリック・ブラウンの著作いろいろ、あたりかなあ、ざっと思いつくのは。あれれ、意外と海外SFが多いなあ。自分でも驚き。国内だと、作品で好きなのはあれど、作家でハマってる方は意外と少ないのかもしれないなあ。今だと上遠野浩平とか岩本隆雄くらいだろうか?誰か大事な人を忘れてるような気も。昔は、高千穂遥のクラッシャー・ジョウシリーズとか好きだったけどね。しかし上記のラインナップ、見事におセンチ系だわ(笑)。

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