中学2年の時だったと思う。友人に、「きっとこれ、好きだと思うよ」とすすめられて読んだ『綿の国星』。見事にハマりました!以来、大島弓子の作品はほとんど読んだ。どれも、あんまり繰り返し何度も読んだので、本の痛みが激しく、将来が不安なほどである。
細い線でふわふわと描かれた、現実と空想の間を自由に飛びかう登場人物達。ふとしたセリフの美しさ、鋭さ。それは、同じく現実より空想に侵食されている繊細な10代の少女に見事にシンクロした。
今はもうだいぶあの頃の感受性とは違ってしまっているが、85年までの作品の中で特に好きだったものを紹介しようと思う。
どの話もみな良いので、絞るのはとても苦しいのだが、読み返した頻度の多いものから書いて見よう。
☆『バナナブレッドのプティング』(集英社ほか)
押しも押されぬ、大島弓子の代表作。純な子供の心を持ち続けているため、どこか周りとズレている女子高生、衣良。石けりに負けたため、親友の兄、峠と擬似結婚することになる。面食らう峠だが、衣良の純粋さに触れ、やがて二人は自らの想いに気付く…。
人物それぞれの、誰かを思う切ない気持ちが交差する。さまざまな人間心理が入っていて、読めば読むほど味が出る、とても深い作品。
個人的には、ばらのしげみのエピソードが印象的で、今でもなにかにつけ思い出す。
☆『F式蘭丸』(小学館文庫ほか)
母の再婚話から、現実の男性に嫌悪感を感じるよき子。彼女は、空想の恋人蘭丸を創り出し、彼との一人遊びにふけるが…。
思春期の女の子にありがちの男性嫌悪と、それが自然に消えてゆくまでの少女の成長を描いた傑作。大人と子供の間を揺れ動く、多感な少女の気持ちが実によく描けていて、共感できた。
空想と現実をミックスした手法が非常に独特で素晴らしい。この味は、彼女にしか出せないと思う。
☆『10月はふたつある』(同右)
酒場で泥酔した長子は、ある男性のアパートで目覚める。彼は、新しく赴任した教師だった。鏡の中や逆立ちした風景の、もうひとつの世界に憧れる長子に、彼は言う。「きみが望むなら、光り輝くもうひとつの10月に連れて行こう」。が、彼女は結局この教師ではなく、ボーイフレンドを選んだのだった。
「違う世界に行ってしまいたい」誰もが、一度はこう思ったことがあるのではないだろうか。現実と夢、作者は主人公と読者に選択を迫る。だが、作者はやっぱり現実の方がいいよ、と語りかける。それはこの話に限らず、すべての彼女の作品の中に含まれるテーマである。(「金髪の草原」など)
☆「パスカルの群れ」(朝日ソノラマ)
高校生公平は、年下の男子生徒を好きになってしまう。それに気付いた父は、なんとか息子をまっとうにしようと、親友の女の子を同居させるが…。
公平の恋心がとにかくけなげ。決してゲイというわけではなく、彼も自分の気持ちが何なのか悩む。
著者は恋をするのに相手の男女の区別はない、と表現している(これも彼女の繰り返し出されるテーマ。「いたい棘いたくない棘」もそう)。恋の本質をストレートに描いた作品。「なんであこがれるんだろう」に続くセリフは傑作。
☆「夏のおわりのト短調」(白泉社)
古い洋館に住む、理想的な叔母の家庭。そこに下宿することになった受験生の主人公、袂のひと夏のエピソードである。
しばらく暮すうちに、彼女はこの家の住人がみなうわべだけ幸福な家庭を装っていることを見ぬく。彼女の出現により、やがて一家は崩壊してゆく…。
恋愛ものではない、大島弓子らしさの味わえる作品。これも名セリフ、名シーン多し。
祝、映画上映!
11月14日より、銀座テアトル西友にて、『クジラの跳躍』という彼のアニメ映画が上映されるのを記念して、今回は彼の特集を組むことにした。
たむらしげるの絵を目にしたことのない方は、おそらくいないであろう。雑誌の表紙になったり、CMになったこともあったはず。
ブルーを多用し、星や鉱物をモチーフにした彼独特のファンタスティックな世界に、惚れこむファンは多い。
近年はMacを使って絵を制作しており、CDーROMやビデオも発売されている。
彼の描く世界はいつも決まっている。たいてい、帽子を被り白いひげを生やした老紳士と少年が登場する。また、ロボット(それもブリキで出来てるような、ホントに子供のおもちゃみたいなヤツ)や、動物なども出てくる。彼らが奇妙で美しい世界で、ちょっとした冒険を繰り広げるというストーリーなのだ。
この彼の世界観が素晴らしくいい。大きくそびえる水晶の結晶、キノコの森、銀河の海を泳ぐ魚、歩くビルディング…。これらが、透明感のあるキレイな色で描かれているのだ。彼の使うブルーは本当に美しいと思う。
彼の多くの作品の中から、オススメをいくつかご紹介しようと思う。
☆『スモール・プラネット』(青林堂)
85年発行だから、かなり昔の本。「ガロ」などに発表された作品をまとめたものである。ここで特筆すべきことは、この中に短篇「銀河の魚」が収められていることである。そう、近年ビデオにもなった作品の原作である。彼の描く世界が、いかに変わってないかがよくお分かり頂けると思う。9つの短篇漫画が収録されているのだが、始めの3本のみ、きれいなブルーの2色刷りになっていてウレシイ。
☆『PHANTASMAGORIA』(架空社)
この画集には、まさに彼のエッセンスが凝縮されている。それぞれのイラストに題名と解説がついていて、彼の空想世界を余すところなく伝えてくれる。ファンタジックな世界にどっぷりひたれる、美麗本である。
☆『スターヘッド』(架空社)
これは特に私の好きな大判絵本。表紙を見ただけで、惚れてしまった。頭が☆になっている男が、青い星空の中を歩いているのだ。これだけでもうメロメロですよ、私。この星オトコと、サンタクロースの冒険譚である。私も、アルタイル酒場の「スターライトスピリッツ」(星の光を発酵させ、十億年貯蔵したブランデー)、いっぺんでいいから飲んでみたいなあ。
☆『ダーナ』(ほるぷ出版)
〈イメージの森〉という、いろいろな作家によるシリーズ絵本の中の一冊。かなり、大人を意識して作ったシリーズらしい。ストーリーは、いつもの老紳士と、ブリキのくまのコックとの話。
まあとにかく、4ページ目からのブルーの美しさをご覧頂きたい。海の底のような、夕暮れ時のような、どこか懐かしい美しさである。おしまいのページの深いブルーもいいよお!
☆『羊の宇宙』(講談社)
夢枕獏が文章を書き、たむらしげるが絵を書いている本。ある老物理学者が、中国の草原に住む羊飼いの少年を訪ねてくる。ふたりは、宇宙や時間や物質についての、物理談義をする。少年の、シンプルな物の見方がいい。絵と文章が見事に溶け合っていて、素晴らしいハーモニーをかもし出している。
☆クジラの跳躍(メディアファクトリー)
彼にしては珍しく、グリーンを基調にした最新絵本。ガラスの海で、何時間もかけて跳躍するクジラを見物するという、老紳士の話。海の上でキャンプをするという発想が素敵。一度やってみたいなあ。
「銀河通信」1周年ということで、この1年(97年10月〜98年9月)に自分が読んだ本の棚卸し総決算(?)をしてみた。
「乱読めった斬り!」を書くようになってから、記事を書くために、意識してたくさん読もうと頑張ってきたが、やはり100冊には至りませんでした。残念。でもまあ、月に5冊以上という目標は達せられたので、よしとしよう。
〔集計結果〕
☆この1年の総読破冊数 約85冊
☆ひと月平均 約7冊
☆読破所要日数平均 一冊あたり約4〜5日
(これはかなりバラつきあり)
☆ジャンル別冊数
・ミステリ 32冊
・男性文学 5冊
・女流文学 20冊
・エッセイ 7冊
・絵本、児童文学 8冊
・SF 10冊
・外国文学 3冊
(注:ジャンル分けはかなり独断。 例えば、『らせん』『ループ』はミステリ、『消えた少年たち』は外国文学に入れました)
やはりミステリがダントツでしたね。今、一番面白くて元気がいいのは、このジャンルってことでしょうか。これは、ワタクシ的にも世間一般にもいえると思いますが。意外だったのは、女流文学をけっこう読んでたこと。コミックは集計とってなかったので不明。残念だな。とっときゃ良かった。
もしかすると、この他にも読んだけど記録をとってなかったものもあるかもしれません。
〔年間ベスト10〕
1位『テロリストのパラソル』(藤原伊織、講談社文庫)
2位『光の帝国』(恩田陸、集英社)
3位『朝霧』(北村薫、東京創元社)
4位『クリスマスのフロイト』(R・D・ウィングフィールド、創元推理文庫)
5位『三月は深き紅の淵を』(恩田陸、講談社)
6位『おもいでエマノン』(梶尾真治、徳間書店)
7位『ナイフ』(重松清、新潮社)
8位『雪が降る』(藤原伊織、講談社)
9位『ガラスの麒麟』(加納朋子、講談社)
10位『日曜の夜は出たくない』(倉知淳、創元推理文庫)〔解説〕
1位 文句なしの第1級エンターテイメント!これは今のところ、お勧めして読んで下さった方全員が「よかった、面白かった」と言って下さってるので、勧めた方としても実にうれしいです。
2位 今回の乱読にある通り。ぜひ一読を!隠れた傑作です!
3位 北村薫はとにかく好きなんです〜。ほとんどひいきに近いかも。ネタのひねりはまだまだと周りからは言われますが。リドル・ストーリーのところは面白かったですよ。相変わらず、文が美しい。
4位 フロスト警部のキャラがよかった。しょうもないおっさんなのだが、彼のオヤジギャグにウケまくり。こんなに笑いながら読んだミステリは初めてだった。
5位 実験的ミステリ。つかみどころのない、なんともいえない話なのだが、読後、妙に印象が残ったので。後からじわじわ効いてくるってヤツですかね。
6位 甘く切ないSFでした。絶版なのが、ホントに残念。せめて文庫になってくれればいいのになあ。SF復刊しまくってるハルキ文庫あたりでどうかな。
7位 今の子供たちのいじめのつらさが、まさにナイフのように、心に鋭くつきささります。涙のツボを押されたみたいに、いくらでも泣けた。この著者は注目です。ああ、そういえば読もう読もうと思ってて、『定年ゴジラ』まだ読んでないや。
8位 藤原伊織は、短編も上手です。しみじみ、文章のうまさを味わって頂きたい。話ももちろん、味があっていいです。
9位 日常ミステリの傑作。女子高生の繊細な気持ちそのものをうまくミステリとして使用していて、うならされた。
10位
彼の文体、書き方がとても気に入ったので。軽妙だけど、本格らしいひねりが効いてる。これと同じ探偵が登場する『過ぎ行く風はみどり色』、買ったのにまだ読んでない〜。
なお、☆の採点のつけ方が甘い!と言われますが、これは自分の好きな本しか紹介してないためです。
今度はボツ本も紹介しますかね?
この作家は、好き嫌いがものすごくハッキリ分かれると思う。好きな人はそれこそ全作品読んでるだろうが、興味ない方は1作も手にしていないだろう。でもいいの!
強引な発行人の趣味により、今回は彼女を取り上げました。Part1としているのは、95年秋以降に発刊されたものを読んでないため。そちらはまたいつか特集します。
さて、長野まゆみの作品はとにかく一種独自のファンタジー世界である。いくつかのキーワードごとに解説していこうと思う。
☆少年
まず彼女の作品の特徴として真っ先に挙げられるのは、これだろう。10代の少女の夢の中に出てくるような、美しくてファンタジックな少年たちだけしか登場しないのだ。1歩間違うと耽美の世界なのだが、そちら方面ではなく、もっと禁欲的である。夢だけ食べて生きているような、おとぎ話の世界の住人たちなのだ。
☆天体
河出文庫の、長野まゆみの棚をご覧頂けば一目瞭然なのだが、彼女の作品は天体を題材にとったものが非常に多い。星、月、銀河、ロケット、エトセトラ。
もろSFだというものもあれば、SFとファンタジーの境目すれすれのようなものもある。これも、彼女の雰囲気作りに大きく影響している。
天体とは多少ずれるが、美しい鉱石の名前もよく登場する。
☆食べ物
作品に登場する、飲み物やお菓子の美しくておいしそうなこと!女の子だったら憧れずにはいられないだろう。蜂蜜パン、シトロン・プレッセ(檸檬水)、氷砂糖、苔桃のジャム、薄荷いりのライムネード!ああ、よだれが出そう。
☆漢字
「天鵞絨」を「びろうど」「吠瑠璃」を「サファイヤ」と読ませるなど、宮沢賢治を彷彿とさせる、著者独特の漢字の使い方が随所に見られる。文字の持つイメージを自在に操っているといおうか。少年たちの名前もいい。蜜蜂、水蓮、
銅貨、葡萄丸、百合彦…。このセンスには、まいった。
次は、お勧め作品のご紹介。
★『少年アリス』(河出文庫)
文藝賞を受賞した、著者のデビュー作。しょっぱなから、もう確固たるファンタジー世界を築いている。
彼女らしさが一番よく出ている作品ではないだろうか。入門書としてお勧め。
★『夜間飛行』(河出文庫)
私のベスト1の作品。
ミシェルとプラチナの二人の少年は、ハルシオン旅行社の特別遊覧飛行に参加する。時代遅れのプロペラ機は、海を越え、南国のホテルに到着する。そこで出会った老紳士を追いかけ、彼等のファンタジックな旅が始まる…。
これを読むたび、ああ、この本の中に入ってしまいたい!と思う。
★『天体議会』(河出文庫)
銅貨と水蓮は、ある日いきつけの鉱石倶楽部という店(鉱石の標本などがあるほか、お茶も飲める!なんと素敵な店だろう)で、不思議な少年と出会う。まるで自動人形のようなのだ。
「天体議会」と名づけられた、天体観測の集会のエピソードなど、宇宙のイメージが硬質な雰囲気を醸し出している。星好きにはたまらない一篇。(書影はハードカバー)
プロローグととれる『三日月少年漂流記』と合わせてお読み頂きたい。これもいいよ〜。
★『魚たちの離宮』『夜啼く鳥は夢を見た』(共に河出文庫)
ちょっとホラーテイストのお話。
★『螺子式少年』(河出文庫)
「レプリカ・キット」と読む。 野茨はある日、離れて暮らす母の作った、自分のレプリカらしい少年と出くわす。果たして本物はどちら?近未来ファンタジー。
★『聖月夜』(河出文庫)
ぜひクリスマスに読んで欲しい、珠玉の短篇集。プレゼントにも!
☆ジェイムズ・ブリッシュ(「宇宙大作戦シリーズ」/ハヤカワ文庫)
作者名を見て、すぐ誰だかがわかる人はダイジマンくらいかなァ。ご存知スタートレックの原作である。若かりし頃、TV再放送にハマリまくった(現在に至るが、「ニュージェネレーション」は認めない)。60〜70年代の映画の色あせた味わいが、ひなびたにおいが、何とも良いのである(フン!どうせ枯れた趣味さっ)。(理工書担当アニキ・36歳・女)
☆アイザック・アシモフ(〈ファウンデーション〉シリーズ/ハヤカワ文庫SF)
「いまさらアシモフ」であるが、「されどアシモフ」なのだ。“銀河帝国興亡史”と呼ばれる、この7巻11冊に及ぶシリーズ全巻文庫化記念として。早川書房エライ!SF史上永遠に輝き続ける、まさにアシモフのライフワークである。(ダイジマン・25歳・男)
☆レイ・ブラッドベリ(「火星年代記」/ハヤカワ文庫)
言わずと知れた名作。何度読んでもジーンとくる。この人の表現、文体はとても綺麗でせつない。原文で読む能力がほしい…。(I郷妹・25歳・女)
☆ジョージ・R・R・マーティン(ワイルド・カートシリーズ/創元推理文庫SF)
あっちの世界に生まれたかった!(Y田・31歳・男)
☆ダニエル・キイス(「心の鏡」/早川書房)
洋物が苦手な私が手にした、数少ない海外作家の一人。
「アルジャーノン」と「心の鏡」の二作しか読んではいないが、「心ー」の方が大好きな私。短篇で、人の心の本質を鋭く書き描いていると思う。共感したのを理由に、彼を推しました。(S沢・26歳・女)
☆アゴタ・クリストフ(「悪童日記」/早川書房)
話が淡々と進んで行くのが良いです。「悪童日記」のシリーズは、主人公の名前を出さず、ずーっと三人称で続いてゆく所なんか、好みです。(A木・20歳・女)
☆ジョナサン・キャロル(「沈黙のあと」/東京創元社)
我が息子に拳銃をむける父親の描写(ラストシーンでもある)から始まるダークファンタジー。理想的な家族になにが起こったのか?物語中盤での少年の変心が衝撃的。(I郷兄・32.7歳・男)
☆アガサ・クリスティ(「そして誰もいなくなった」/ハヤカワ文庫)
うそだ!こんな都合良く人が殺せるか!!と怒りながらも読んでしまったから。腹が立つ推理小説、それもまた良し。(H野・16歳〔大ウソだ!発行人注〕・女)
☆ジェイムズ・エルロイ(「ホワイトジャズ」/文芸春秋)
たんたんとした、乾いた文章が、しっくりきます。特に「ホワイトー」は絶品と思います。読み終えて「もう一度、読みたいなあ。」と思う本にはそうそう出会えませんが、この作品は、そうでした。実際に、何ヶ月かしてから、もう一度、読みました。(S藤・32歳・女)
☆ジェイ・マキナニー(「ブライト・ライツ・ビッグ・シティー」/新潮文庫)
コメント略。(I沢・男)
☆ジョージ・プリンプトン(「シド・フィンチの奇妙な冒険」/文芸春秋)
最初は「SWITCH」に短篇で掲載された小説ですが、ノンフィクションの形式をとった大ウソつき小説だったんですね。これがメチャクチャ、面白い。商業的には失敗だったかもしれませんが、こういうセンスある外文がもっとあってもいいのでは。とにかく、面白いぞ。(O竹・36歳・男)
☆ローズマリー・サトクリフ(「ともしびをかかげて」/岩波書店)
ローマン・ブリテンを舞台とした壮大な歴史物語。児童文学に分類されているようですが、お子様にはもったいねーぜ!(みけ・300035歳・猫)
☆トールキン(「指輪物語」/評論社)
今のところ、これ以上スゴイと思った本に出会ってません。文庫で読み、単行本を買い、豪華本も手に入れ、文庫新装版を買おうかどうしようか迷っているところです。おばあちゃんになったらもう一回読み返そうと思ってる(私の老後の楽しみの1つ!)。今読み返すにはあまりにも長い。(K友・32歳・女)
☆ローラ・インガルス・ワイルダー(「大草原の小さな家」シリーズ/福音館書店)
感情を抑えぎみに淡々と書かれているが、行間からにじみ出るなんという暖かさ、素朴さ。この物語のような、人々が支えあって生きる、貧しくとも心豊かな暮らしが、120年前には実際にあったのだ。一家の生活はささやかながら、波乱万丈で、長いシリーズだが、ストーリー的にも面白い。児童文学のジャンルにとどまらず、心乾いた現代の大人にこそ読んでほしい。(安田ママ・32歳・女)
ちょっと電車に乗った時、待ち合わせの相手を待つ間、お昼休みのひととき、こんなふと空いた時間に短篇はいかが?
発行人の独断だが、ハズレはないと胸をはって言えるお勧め短篇集をいくつかご紹介しよう。(持ち運びを考えて、今回は文庫に限定してセレクトしてます。)
『あなたに似た人』(ロアルド・ダール、ハヤカワ文庫
ちょっとブラックな短篇集。どの話も、人間の持つほんの少しの狂気と、それによって引き起こされる恐怖の結末が用意されている。背中がひんやりするような、夏向けのちょっとコワイお話が楽しめる。
「あなたに似た人」というこの題名は、ちょっと異様なこの登場人物たちは、あなたの中にもいませんか、実はあなたに似ていませんか?≠ニいう意味の皮肉である。
『ゲイルズバーグの春を愛す』(ジャック・フィニィ、ハヤカワ文庫)
こちらはファンタジックな短篇集。
古くて美しい街、ゲイルズバーグ。ここに開発の手が伸びようとすると、なぜかそれは処処の事情によりストップしてしまう。もう走ってないはずの路面電車が夜中にふと現れたり、ずっと昔の消防士たちが現れ、火事を消したりするのだ。それは、街の過去が、現在を撃退しているのだ…。
このような表題作ほか、どこかノスタルジックで甘く美しいおとぎ話のようなストーリーがいっぱいの短篇集である。ほかに、「悪の魔力」「独房ファンタジア」「愛の手紙」などが秀逸。
『九マイルは遠すぎる』(ハリイ・ケメルマン、ハヤカワミステリ文庫)
「推理小説は本質的に短篇であると感じていた」という著者の序文のとおりに、これは無駄な肉を一切削ぎ落とした、本格推理短篇集の古典的名作である。
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」たったこれだけの文章から推理に推理を重ねて、なんと殺人事件の真相を暴き出してしまう表題作は、あまりにも有名である。この一文からミステリを作ってしまうという、著者のアイデアには全く恐れ入る。
推理の醍醐味が味わえる、ミステリの原点ともいうべき小説。ミステリファン、必読!(あ、もうとっくに読んでました?失礼)
『ニューヨーク・ブルース』(ウィリアム・アイリッシュ、創元推理文庫)
これもよく出来たミステリ短篇集。ただ『九マイル〜』と異なるのは、前者が謎解きを軸にしているのに対し、こちらは人間の心理を中心に据えて書かれている。
「三時」は、妻の不貞を疑った夫が妻を殺そうとするのだが、泥棒によって、自ら仕掛けた時限爆弾と共に地下室に閉じ込められてしまう話。
三時になる前に妻に発見してもらわねば、自分はお陀仏だ。だが、帰宅した妻は全く気づかず、どんどん時計は三時に近づいていく。この夫の緊迫した心理がスリル満点。最後のひねりも見事。
著者は、暗く果てない迷宮のような人の心こそが最大のミステリだと考えているのではないだろうか。
『O・ヘンリー名作集』(O・ヘンリー、講談社文庫ほか)
私の持っている、講談社文庫版は現在品切れ未定。今、入手するなら新潮社文庫の全三巻がある。が、私個人の趣味では、新潮の大久保康雄訳より、講談社の多田幸蔵訳の方がより古典ぽくて好みなのだが。(「訳者の私見で思いきった訳をつけたところがままある」とのこと。この著者の翻訳は、古典作家の名文句や故事などが随所に入っていて、けっこう難しいらしい)
「なあんだ、O・ヘンリーかあ」と言うなかれ。有名な「最後の一葉」や「賢者の贈り物」のような、感動ものだけがO・ヘンリーだと思ってはいけない。案外、彼はシニカルな作品も多いのだ。
彼は、人間の喜怒哀楽のひとつひとつを凝縮して、ひとつの物語としてつむぎ出す。誰しも覚えのある心情だからこそ、こうして長く人々に愛され続けているのだろう。ハッピーエンドもあれば、めちゃ暗い話もある。さまざまなドラマを生み出す、生粋のストーリーテラーといえるだろう。
「二十年後」は、昔ここで二十年後の今日、再会する約束をした友人を待つ男の話(これを読んで、自分もやってみようと思った読者が、少なからずいたはずだ!)。だが、二十年の歳月は、二人の境遇を大きく変えていた。これは、皮肉な結末に終わる典型。他にも、「警官と賛美歌」などが、改心しようとした人間の良心を皮肉っていて面白い。
その昔、月刊ララの新人人気投票特集で彼女の作品を初めて読んだ時、「あ、この人は大物になるな」と私は直感した。彼女は、画力、ストーリー共に群を抜いていた。今や、押しも押されぬ有名作家になったのは、ファンとしては喜ばしい限りである。
まず、何といっても絵が美しい。やはり、マンガは絵が命!しかも、この作家は絵がどんどんうまくなっている。カラーの美しさときたらもう!タッチは、クールでシャープ。どこか硬質的、無機質的。絵と物語の雰囲気がぴったりあっている。
ストーリーは、ジャンル的にはSFものが多い。代表作で挙げると、ジャック&エレナシリーズは、ロボットが主人公である。『月の子』は人魚伝説を下敷きとしたエイリアンものだし、今連載中の『輝夜姫』は、かぐや姫の話をもとに、バイオサスペンスなどもからませている。
作者の魅力が最も出ているのは、何巻も続く大長編ではなく、読み切りなどの中篇だと私は思う。どうも長編だと、構想が大きすぎて設定をあれこれ詰め込みすぎ、テーマがぼやけるきらいがある。
それより、ここぞという設定をひとつだけ絞った短い作品の方が、物語がクリアでシンプルになり、その分読者に訴える力も大きい。
私の個人的おすすめをいくつかご紹介しようと思う。
『ミルキーウェイ』
『竜の眠る星』@〜D
『天使たちの進化論』(ともに白泉社)
前述の、ロボットのジャック&エレナシリーズ。彼らは人間と同じ感情を持ち、人間よりはるかに優れた機能を持つ。ゆえに愛する人間が死んでも自分は永遠に死ぬことができず、その人の面影を胸にひとりぼっちで長い時を生きていかねばならないのだ。
そんな絶望的な孤独の中で出会った二人。彼らはやっと、生涯ともにいられる相手を見つけることができたのだ。
自由奔放なエレナと、穏やかで優しいジャック。さらに、人間の女性であるジャックの恋人、ルイスがそこにからんで、不思議な三角関係をかもしだしている。話それぞれにテーマがあり、子孫を作ること、親子の愛などが描かれている。
ロボットゆえの、二人の愛と哀しみが胸を打つ、作者の代表作。ロボットという、現実にはない存在の心情を、ここまでリアルに描いて読者の共感を呼ぶ作者の筆力はすごいと思う。
『22XX』(白泉社)
先のシリーズの番外編。
ロボットなのに、空腹を感じるようインプットされているジャックは、自分の無意味な食事につらさを感じていた。が、ある星で人間を食べるフォトゥリス人の少女と出会う。彼女たちは食事を、命を連鎖していくための神聖な儀式と考えているのだ。
彼女はジャックに食べ物をもらったため、これを彼女の星の流儀でプロポーズととってしまう。やがて、彼女はジャックを愛するようになり、ジャックの危機に、自分の手を切りとって与える。「それを食え!」と彼女は叫ぶ。それは、狩りをして生きる彼女たちフォトゥリス人にとって、死も同然のことであった。しかし、ジャックはどうしてもそれを食べることはできなかった…。それ以来、彼はものを食べるという機能を削除する。
日頃、無意識に食事をしている私たちにとって、「食べるとはすなわち生きることである」という作者のメッセージは重く、痛烈である。
「8月の長い夜」(白泉社『夢のつづき』収録)
バイオ・サスペンスの傑作。
ある進学校で、突然ひとつのクラスだけ成績が飛躍的にアップする。同時に学生が何人か行方不明になるという事件が起きる。
自分をふった彼氏が惚れているという男の子、成瀬を追う紀久子は、なりゆきで事件にまきこまれる。成瀬はどうやら、ひとりで事件の謎を追っているらしいのだ…。
ハードな小気味よいサスペンスの中にも、ほのかに恋愛的要素がからんでいるところがまたいい。紀久子が、だんだん成瀬に惹かれていく気持ちがよく描けている。彼女と同時に読者も、謎めいていてどこか心に傷を負った彼にいつのまにか惹かれていってしまうのだ。
同じような作品として、「サイレント」(『MAJIC』収録)もおすすめ。
「ネオ・ドーベルマン」(白泉社『天女来襲』収録)
幼い時に、百合花の拾った子犬・ショナは、実験によって作られた人間とドーベルマンの混血種だった。彼は自由自在に犬から人間の男の子に変身できるのだ。
飼い主の百合花は、ひそかに彼を慕っているが、彼に振り回されっぱなし。が、二人に、彼を作った研究者の魔の手がしのびよる…。
ショナのキャラクターが魅力的。影になり日なたになり、彼女を守ってくれて、どんな時も彼女を思っている。飼い犬として、同時に恋人として。うーん、うらやましい。
五月吉日、居酒屋にて、ミステリ好きの方々に「新本格」をテーマに語って頂いた。
安田
綾辻行人以降にデビューした作家で、島田荘司の推薦を受けた作家ってのが一般的に新本格≠チて言われてるみたいだね。
A木
島田荘司がまず新しい流儀の本格を作って、それに影響を受けてデビューした人たちなんですよ。
ダイジマン 新本格って、講談社ノベルスが牙城なんでしょう?
A木 そうです。
ダイジマン
ミステリとしてはどうなの?
A木
だいたいトリッキーなのが多いかな。綾辻なんてほんとトリッキーですね。「館」シリーズとか。
S山
みんな、本読むときに新本格とかって意識して読むの?
一同 読まなーい。
A木 作家で読みますね。新本格ってのは、発行元が勝手に付けたジャンル名なんですよ。
I郷 京極なんか新本格に入ってるけど推理じゃなくてホラーだよね。
S山
あの人、相当日本の歴史を下調べして書いてるんですよ。俺はストーリーを追うんじゃなくて、裏設定を考えながら読むんですよ。
A木
私は『魍魎の匣』がいちばん好きだな。あの雰囲気が。
S澤 私は『姑獲鳥の夏』かな。
S山 『姑獲鳥』は、裏にあるのが姥捨て山と間引きなんですよ。俺は『鉄鼠の檻』がいい。展開が好きなんですよ。
A木 雰囲気で読む人と、裏設定を読む人と、キャラで読む人と、みんな違いますね。
安田
では、好きな新本格作家ベスト3をお聞きしたい。
A木
まず島田荘司が入りますよね。あと、作家というより作品なんだけど、中井英夫の『虚無への供物』。
トリックより、その作品の雰囲気が好きなんです。淡々とした感じが好みで。ミステリとして読んでて楽しいのは綾辻。話として好きなのは有栖川有栖。キャラクターとしてというか。
I郷 有栖川のシリーズって二つに分かれるじゃん。私は、『月光ゲーム』シリーズの方が好き。本格推理っぽくて。純粋な謎解きで、最後に読者への挑戦があるんですよ。
A木
あと森博嗣。この人は新鮮でしたね。理系ミステリってよく言われるんですけど。大学の生徒と教授のコンビで、生徒が謎を提示して、教授がそれを解く。別格で好きなのが、竹本健治の『匣の中の失楽』。
S澤 私は有栖川、京極、笠井潔。これはみんな、キャラでハマったんです。昔は赤川次郎とか。あとタイトル。本のタイトルに惹かれて読みはじめたりするんです。京極は最初売れてるから嫌だったんですけど、読んでみたら京極堂のキャラが良かったので。
I郷 私はミステリを読みはじめたのがホント最近なんですよ。今のランキングだと三位北村薫、二位有栖川、一位が栗本薫。栗本は、探偵役の伊集院大介のキャラクターが好きなんです。日本で私立探偵ものって珍しいですよね。次点で筒井康隆の『ロートレック荘事件』。
安田
私は宮部みゆき、北村薫、岡嶋二人&井上夢人。でもこれって、新本格じゃないかも。(笑)
ダイジマン
宮部みゆきって、新本格なの?
安田 いや、あの人はトリックに重きをおいてないから。どっちかっていうと、エンターテイメントだよね。物語の面白さをメインにしてる。新本格の人って、すごくトリックにこだわるよね。よく、ミステリ評で「人が書けてない」っていうけど、極端な話、人なんて書けてなくていいんだって。トリックさえよければそれでいいらしい。
A木
よく「ミステリとしては書けていないが、人物像はよく書けてる」みたいな評ありますけど、あれは誉め言葉じゃないんですよ。ミステリにとっては、人間性うんぬんは関係ない。
安田 こないだ、我孫子武丸のホームページ見てたんだけど、あのこだわりはすごいものがあるね。
ダイジマン
我孫子武丸って、けっこうその過激な発言が期待されてるとこあるみたいよ。
A木
私、高村薫も好きですね。あの、かちっとした文体が。女性作家はあまり読まないんですけど。
安田
あの人は女じゃないから。(笑)どっちかっていうと、北村薫が女だよね。高村って、読んでてつらくない?ヘビーっていうか。
A木
そこがいいんですよ。私、めでたしめでたしで丸くおさまっちゃうのがあまり好きじゃないんで。
I郷
私と安田ママは、そういう点では似てますよね。読んだ後、「はぁーっ、良かった」と思えるようなのが好きっていうのが。
A木
私は、読んだ後、「ふうーっ」なんですよ。
一同 (爆笑)
私がこの作家を知ったのは、中学の頃だったと思う。某西武10Fの書店を冷やかしていて、ふと目に止まった文庫のさし絵にひかれて購入した。これが、安房直子との出会いだったのだ。切なさとやさしさあふれる物語に惚れ込み、以後、児童図書館などを探して、たいていの著書は読破したと思う。
著者の経歴は、53年、東京生まれ。日本女子大学国文科卒。「さんしょっ子」で日本児童文学者協会新人賞受賞。「風と木の歌」で小学館文学賞、「遠い野ばらの村」で野間児童文芸賞受賞。93年没。
そう、5年前に50歳で亡くなっているのだ。非常に残念である。松谷みよ子のように、長生きして、たくさん書いて欲しかったのに。
日本の児童文学界、いやファンタジー界に偉大な業績を残した人だった。美しく、哀しく、色鮮やかなイメージで人生の真実を描いた、ファンタジー童話をひたすら書き続けた。児童文学の棚に置くのはもったいない(しかも今ほとんど置いてない)、大人にこそ読んでほしい、ファンタジーである。
『南の島の魔法の話』(講談社文庫、品切未定)
この短篇集には、いろいろな本から選りすぐった宝石のような名作がざくざく収められている。(なぜ品切なんだ、講談社!)全部紹介したいのだが、ここでは3点を。
・「きつねの窓」…有名だから、ご存知の方も多いだろう。狩りに出かけて道に迷った若者が、迷いこんだききょうの花畑。そこには、子どもに化けたきつねの染めもの屋があった。若者が染めてもらった指で作った窓を覗くと、そこには過ぎ去った日の風景があった…。
これはいつ読んでも胸がしめつけられる物語である。窓の中に映る二度と戻らない風景を眺める若者の切ない気持ちも、鮮やかに広がるききょう畑の青のイメージも、ラストのすべて消えてしまうはかなさもいい。彼女のベスト1!
・「さんしょっ子」…日本の昔話のようなファンタジー。子どもの頃、よく遊んだ幼なじみの男女。彼をいつも見つめていたサンショウの木の精、それがさんしょっ子である。やがて二人は大人になり、娘はとなり村の金持ちのところへ嫁ぐ。さみしい彼のところへ、さんしょっ子が訪ねていくと…。
彼とさんしょっ子の淡い失恋がほろ苦い。日本の昔の情景が美しく、郷愁を誘う。
・「鳥」…ある夕方、耳鼻科に少女が駆けこんで来て、耳の中に入ったひみつを取ってくれと言う。自分の恋する少年が、実は鳥だったという話を、彼の母から聞いてしまったのだ…。
魔法をかけられて鳥になるという設定がいかにもファンタジック。現実からふっと空想に入りこむところ(医者が、少女の耳の世界に入るところ)が絶妙。
『遠い野ばらの村』(筑摩書房)
これも私の宝物の本。さし絵と話がぴったり合っている、美しい本である。文庫もあるが、あればぜひハードカバーで読んでほしい。
・「遠い野ばらの村」…空想の息子や孫の自慢話をする、雑貨屋のおばあさん。ある日、空想どおりの少女が店にやって来て、石けんを店に置いてくれといって帰る。実は彼女は、野ばらの村から来た、たぬきだったのだ…。
おばあさんのさみしさと、孫娘ができたうれしさが、じんわり伝わってくる。気持ちがふっくらと暖かくなるお話。
・「エプロンをかけためんどり」…幼い三人の子を残して、妻に逝かれた男のところに、ある日、エプロンをかけためんどりがやって来る。めんどりは亡き妻の恩に報いようと、家事一切をかって出る。子どもたちはすっかりめんどりになつくが、それを快く思わない男は、新しい妻を迎える…。
大人の醜さに比べて、子どもたちとめんどりの純真さが胸を打つ。押し入れの中で、めんどりが縫い取った星が輝くシーンが美しい。ラストの切なさが心に残る。
今回は、アンケートにて、好きな作家とその代表作を書いて頂いた。ご協力してくださった皆様、ありがとうございました。またしても少しコメントをはしょらざるを得なかった方、ごめんなさい。
☆東海林さだお(「東京ぶちぶち日記」/平凡社)
あれも食いたいシリーズも、オール読物連載も良いし、週刊現代サラリーマン専科等みんな良い。最近はカピタンでの椎名誠との対談が面白い。(S原・34歳・男)
☆筒井康隆(「虚航船団」/新潮社)
最近読んでなかろーが(ごめんっ)新作がブッ飛んでてもはや訳がわからなかろーがヤッちゃんはワタシのバイブル
久しぶりに読もーっと。(J里・34歳・女)
☆森雅裕(「歩くと星がこわれる」/中央公論社)
人生、器用でなくとも、やってくしかないのです。(安田パパ・31歳・男)
☆江國香織(「流しのしたの骨」/マガジンハウス)
その中にいるとわからない、家族というものを、こんなにも具体的、客観的に書いてしまったところがすごいと思う。家族(親兄弟)と一緒に住んでる時に読んでいたら、これほど感動しなかったかも。(M代・32歳・女)
☆吉本ばなな(ムーンライト・シャドウ/「キッチン」福武文庫収録)
私はキッチンよりこっちの方が好きです。ヒネクレモノ?恋人を亡くして立ち直ろうとフツーにしている主人公が、逆に深く悲しんでいるんだと感じる。二人をつないだ鈴が、川が話に透明感を持たせていて、とっても描写がキレイ。(O谷・24歳・女)
☆新井素子(「そして、星へ行く船」/集英社コバルト文庫)
中学の時、とにかくハマった。この人の心理描写は、文体にだまされがちだが、なかなかコワイ。作品は、一番好きなシリーズの最終刊。意外な結末と魅力的なキャラが印象的だった。(I郷・24歳・女)
☆小林弘利(「星空のむこうの国」/集英社コバルト文庫)
彼の作品を読むと、どの主人公も夢を持つ、もしくは追いかけている途中だったり、何かに夢中になって、その思いを達成させようと必死になっている姿が出てきます。私の夢に革命を起こした作家一号です。(S沢・26歳・女)
☆水鏡子(「乱れ殺法SF控」/青心社文庫)
代表作もなにも、これ筋金入りのマニアである著者唯一の評論・エッセイ集です。読む度に新たな発見があり、「SF」というものに立ち向かう勇気と絶望を与えてくれる。ズバリ、ぼくのバイブル=B万人におすすめしません。(ダイジマン・25歳・男)
☆柴田練三郎(「眠狂四郎」シリーズ/新潮文庫)
今回は時代小説の中でのナンバー1を選びました。主人公は幕末生まれのハーフで、えらく暗ーい、ひねくれた、でもすごいハンサムで長身(映画では市川雷蔵と片岡孝夫がやりました
うふっ)です。正義の味方ではなく、悪いことも平然とやってしまうひとです。(I沢・35歳・女)
☆司馬遼太郎(「関ヶ原」上・中・下/新潮文庫)
書くと長くなるので、聞きたければ大津まで来て下さい。(K友・29歳・男)
☆浅田次郎(「蒼穹の昴」(上・下)/講談社)
本を読むことの愉しさを堪能できる一冊。読み終えるまで3日間くらいかかりましたが、本当に幸せでした。できれば、この本で直木賞を取って欲しかった。作品のスケールは劣るものの、「地下鉄に乗って」も捨て難い。本当に好きな本は、こちらか…。(O竹・36歳・男)
☆宮沢賢治(「水仙月の四日」/偕成社)
賢治といえば、「銀河鉄道の夜」とか、「風の又三郎」とかが有名だけど、これを読んだ時、本当に彼はすごいと思った。自分の体の中を北国の冷たい風がサーッと通り抜ける感じ。カタカナの擬音が素晴らしいし、名前のつけ方も大好き。(J子・31歳・女)
☆安房直子(「南の島の魔法の話」/講談社文庫・品切未定)
日本のファンタジー童話で、彼女の右に出る者はいない(と思う)。広がるイメージの透明な美しさ、そこはかとなく漂う哀しさ。いずれ、彼女の特集を組もうと思ってます。(安田ママ・女)
彼女は、もともとは児童文学作家としてスタートした人である。92年に「こうばしい日々」で坪田譲治文学賞を受賞。その後、恋愛小説、海外絵本の翻訳、エッセイなど、幅広い活動を展開している。
こういったジャンルの異なるものを書いているのに、彼女の作品には、不思議とどれにも共通するカラーがある。それが特集の副題の、「かなしくあかるい関係」である。
彼女の本には、いつも、純粋ゆえに常識と少々ズレてしまう人たちが登場する。彼らの間でだけまかりとおる、極めて微妙なバランスのルールがある。が、当然、周りからは理解されず、傷ついてゆく。
私の好きな作品を、いくつか紹介しようと思う。(発表年順)
☆ きらきらひかる(新潮文庫)
近年の恋愛小説のベスト5に入るだろう、と私個人は思っている。著者は、三角関係を書かせたらピカ一である。(ほめ言葉か?)
アル中の妻と、ホモの夫。彼らは、お互い了解済みで、見合い結婚したのだが、ここに夫の恋人(大学生の男の子)が参入してきて、三人の微妙な関係が展開する。
普通ならドロドロの三角関係なのに、この三人は淡々と仲が良く、そこがなんとも言えず、いい。
この小説には、キスさえ出てこない(確か)。なのに、行間から、彼女が夫をとても愛していて、夫も彼女を愛しく思っているのが、痛いほどわかるのだ。
まさに、人を恋う気持ちだけが、きらきらひかっている、そんな小説である。
☆ 落下する夕方(角川書店)
同棲していた彼が、突然別れを告げ、出ていく。まだ、彼をどっぷり愛している彼女の所に、彼の新しい恋人が現われ、なかば強引に同居してしまう。そこへ、彼がちょくちょく遊びに来るようになる…。その恋人の自由奔放さに、周りはどんどん振り回されてゆく。
著者は、これを「すれちがう魂の物語」だという。登場人物たちの、好きという気持ちのベクトルが、なぜかいつもうまく合わず、すれちがってしまうのだ。そこがとても切なく、かなしい。恋に落ちた人たちの一途な愚かさが、よく描けていると思う。
☆ いくつもの週末(世界文化社)
著者自身の、甘くて苦い結婚生活を綴ったエッセイ。
既婚者には、うなずける話が多々あり、面白い。他人同士が暮らすというのは、本当にいろいろ難しい。結婚とは「幸福で不幸な物語」という著者に、心から賛同する。
☆ ぼくの小鳥ちゃん(あかね書房)
実に著者らしい、童話と恋愛小説の中間のような話。
ある日、彼の部屋に一匹の小鳥が舞い込んできて、一緒に暮らすようになる。小鳥は彼を好きなのだが、プライドが高いので口には出せず、彼の恋人にやきもちをやく。そのやき方がすごくかわいい!わがままなお姫様みたいで、憎めない。キュートな掌編である。