今月のワンポイントレッスン

2005.7月

アメリカのファミリートラストについて

 アメリカでは広くファミリートラストが利用されています。有名な例としてはカーギルやロックフェラーといった企業の創業者が複数世代に亘って企業の支配権を維持していくようなときに利用されるということがありますが、子供のための財産保護、配偶者のための財産保護、最近ではダイナスティートラスト、資産保全信託(Asset Protection Trust)、インセンティブトラスト、公的扶養援助を受けるための信託、ペットのための信託というように、さまざまな信託が生まれて、ファミリートラストの利用は一般的になりつつあります。今日はそのようなファミリートラストについて説明しましょう。

 アメリカでは信託法は州法のみであり、national lawは存在しません。したがって州単位でできる信託、できない信託があります。なお、信託法の統一化に向けた動きもすすんでいます。
 (Uniform Trust Actの内容は、大きくは2つの内容からなる。一つ目はカリフォルニア州のProbate Codeを発展させるもので、二つ目は信託法リステイトメントのPrudent Investor Ruleを修正したものである。一つ目は、ファミリー・トラストを念頭においたもので、二つ目は投資にあたっての受託者の義務(Prudentman Rule)ついて特則を設けた形になっている。なお、採択していない州も多くあります。)

 まず、アメリカの撤回可能信託(revocable trust)ですが、これはイギリスにはありません。通常は公開文書である遺言が付いており、その遺言には「対象となる財産は撤回可能信託に移る」とだけ書かれています。撤回可能信託の文書は非公開となっています。この撤回可能信託には税務上のメリットはまったくなく、IRS(米国内国歳入庁)は委託者が保有している財産であるとみなしています。それでもこの撤回可能信託が利用されるのには、次のような理由があります。1つはProbate Court(遺言の検認手続を行う裁判所)による検認手続きを避けるためであり、2つ目は委託者が資産管理能力に不安があるような場合に効果的であること、3つ目は内容について機密性が高いということです。

 さて、アメリカのファミリートラストの利用目的は冒頭申し上げたように様々です。代表的な例としては、次のとおりです。
1.家族の財産管理能力に不安があるような場合
2.資産を数世代に亘って維持していきたい場合
3.家族の財産を債権者からの請求等のリスクから守りたい場合
4.タックスプランニングとしての利用
5.ファミリーカンパニーを維持していきたい場合。

 次にアメリカにおけるファミリートラストの伝統的な利用状況についてみてみましょう。
1.Chldren’s Trust(子供のための信託)
 これは子供の財産管理能力に疑問があるような場合、自分が死んだとき、残した財産を子供たちが使えるようになる時期を決める信託。この信託は、それぞれの子供に平等に大学の学費を用意するといった目的で使われることが多いようです。その後、資産は指定のとおり分配されます。金銭の交付時期は細かく指定されるのが一般的です。ここではまた、Guardian(後見人)、Executor(遺言執行者)、Trustee(受託者)に誰を任命するかが重要です。
2.QTIP 信託(qualified terminal interest property trust)
 これは次のような場合に利用されます。
 委託者Aさんには、後妻Bと先妻との間に生まれた子Cがいます。また、後妻Bには前夫との間に生まれた子Dがいます。Aさんとしては、後妻Bの生存中は、生活に困らないように十分の手当をしておきたいが、Bさんが死亡した際になお財産が残っていた場合は、後妻の相続人Dにではなく、自分と先妻の子Cに財産が行くようにしたいと考えているような場合(このようなケースはよくあることかと思いますが・・・)、現在の民法の規定では、このようなAさんの意思に沿った財産処分をすることはできません。ところがQTIP信託を用いるとこれができるということになります。
 たとえば、委託者Aさんは生前に受託者と次のような信託を設定する契約を締結します。「委託者Aは、その所有するアパートおよび○○銀行ほかに預託中の預金・信託・有価証券を受託者に信託目的で移転し、受託者は、以下の方法でこれを管理または処分する。ア.受託者は、アパートおよび金融資産を管理し、その賃料収入および利息・配当をBに交付する。賃料収入と利息・配当収入がBの生計費に足りないときは、受託者が判断し、金融資産の一部を換価してその金銭を交付する。イ.Bが死亡した後は、その時点で残っている信託財産の元本および収益を全てCが享受する。」
3.複数世代のための信託およびファミリー事業
 たとえば、ロックフェラー家のファミリートラストがこれにあたります。一族の財産を信託財産にし、数世代に亘り財産を維持していこうというものです。一族の者も信託財産の運用による収益については受けることができますが、信託財産そのもの(元本)を取り崩して受けようということは考えていません。これは企業グループの支配権維持(株式のファミリーによる保有)にも利用されます。

 最後に最近のファミリートラストについてみてみましょう。
1.Dynasty Trusts
 この信託の名称はマーケティング上の名前で、この信託は永久に続くものと積極的な広告宣伝が行われていますが、一族の人数はねずみ算的に増えていきますから、遠い将来は運用できなくなり、なくなるのではないかと思います。取り消し不能信託です。サウスダコタ州でスタートし、その他、 アラスカ、デラウェア、アイダホ、イリノイ、ワシントン 州にもあります。ファミリートラストを設定する委託者はこれらの州に居住する必要はなく、税制上は遺産税が100万ドルまで非課税となるメリットがあります。 また、アラスカ、フロリダ、ネバダ、ニューハンプシャー、テキサス、サ ウスダコダ、ワシントン、ワイオミング州ではインカムゲインやキャピタ ルゲインの収益に対しても免税、もしくは後払いを認めています。州によって制度の独自性は強いものです。
2.APT(アセットプロテクション信託)
 この信託はデラウェア州とアラスカ州に存在します。この信託は統一信託法典上はできないこととなりますが、州法によって可能としています。ただし、設定された信託がオフショア管轄であっても、債権者からの追及は可能とされているので、問題があると思われます。
3.Incentive Trusts
 この信託はシリコンバレーなどにあるドットコム企業のオーナーによく利用されているようです。代表的な例としては、子供たちがなまけないように、インセンティブを与えるときに利用されたりしています。たとえば大学の成績がB以上ならば信託財産からの分配金を与える、というようなものです。
4.ペットのための信託
 アメリカでもペットは家族の一員です。自分が死んだあと、このペットはどうなるのか、ということが重要な問題である人も多いということです。ニューヨークでは、この信託は21年またはペットの死亡のどちらか早い方まで存続するとしています。

 駆け足でアメリカのファミリートラストの概要について見てきましたが、アメリカでは州によって特徴のあるファミリートラストが生まれ、税制上のメリット等とあわせ、州の財政を支える一助となっています。信託法の統一を図ろうという動きもありますが、同意していない州も多いのが現状です。逆に言えば、州法だからこそ、様々なファミリートラストが生まれてきた、あるいは、またこれからも生まれるということでしょう。

参考となるサイト 
モーニングスター
Alpine Banks of Colorado
 

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