信託機能を生かしたプライベートバンキング

 欧米のプライベートバンクでは信託の機能を利用したプライベートバンキングサービスが主流です。日本においても可能ですが、日本の信託銀行ではまだ、ほとんど提供されていません。
 ここでは、信託とは何か、概要を説明するとともに、日本の信託銀行がプライベートバンキングの機能をどのように生かすべきかを述べていきたいと思います。
注意:2004年11月に成立した信託業法の改正で、信託として受託できる財産内容が限定列挙から、財産権一般に変更となったため、知的財産権の信託受託も可能となりました。この項目の執筆は以前に書いたものですので、あしからずご了解ください。

信託とは何か

 信託法第1条
 日本では信託法という法律があり、信託についての定義があります。これによると、信託とは「ある者(委託者)が信託を必要とする目的(信託目的)に基づいて、自己または他人(受益者)のために、自己の財産を第三者(受託者)に移転し、受託者が委託者の信託目的に従って、財産(信託財産)の管理処分を行う」、財産管理の制度です。
 信託は財産管理の制度であるので、民法上の委任や代理と共通点はあっても、財産を中心とした法律関係という点で根本的な相違点があります。たとえば、信託は民法上の委任の管理処分権にとどまらず、財産の所有権自体が受託者に移転され、同時に他の財産権(地上権・質権等)をこの上に成立させるといった処分が可能です。具体的にいうと、よくあるのは、株券の裏をみると前の株主の氏名が記載されていますが、その中に「受託者 ○○信託銀行」などと記載があることがあります。これは第三者である信託銀行にその株券の所有権が移転されたことを示しています。委任契約ではこのようなことは起きません。また民法上の代理という点でみると、民法では本人が代理人に代理権を与えたあとも、本人の財産に対する管理処分権は残っていますが、信託では、財産の管理処分権は受託者にのみあることになります。
 このように信託では、財産の所有権を受託者に移転させて、さらに排他的にその財産の管理処分権を受託者に与える一方、受託者は、委託者の信託目的に従ってのみ財産の管理処分ができますから、委託者と受託者との間には、強い信頼関係がないと成立しないものなのです。
 信託財産について
 信託法によると信託を設定する行為は信託行為とよび、契約または遺言によって成立します。そして信託行為によって委託者から受託者に移転された財産を信託財産とよんでいます。
 信託財産の範囲は、信託財産の管理処分によって受託者が取得した財産も含みます。たとえば株式の信託があった場合、その配当金も、無償増資によって生じた株式も、さらにはクラスアクションによって生じた賠償金なども含み、さらにこの収益を再運用した場合はここから生じた収益も信託財産になります。これを信託財産の物上代位性とよんでいます。信託財産となる財産は信託法上、財産価値のあるものであればよいとされています。したがって、著作権や特許権も信託財産になるのですが、信託銀行では信託業法により引受できる財産に制限がされています。しかし、現在、著作権や特許権等も信託財産にできるよう範囲を拡大する動きがあります。
 信託財産の分別管理
 このように信託は、受益者のために委託者の信託目的に従って受託者が財産の管理処分権を持つことから、信託財産は他の信託財産や受託者の固有の財産とは独立させなければなりません。また、信託財産の独立性を担保し受益者や第三者の利益を害することのないよう、他の信託財産や固有財産とは分別して管理しなければなりません。さらに、受託者の固有財産ではなく、信託財産であることを第三者に対抗する要件として信託の公示を行うこととされています。具体的には株券であれば、株主名簿への記載が必要です。
 信託関係人
 信託関係人には委託者と受託者、受益者の三者があります。委託者と受益者が同一人であることは当然問題ありません。たとえば信託銀行のビッグは貸付信託ですが、これはビッグに預けた人は委託者であり、満期のときに元本と利息をもらえる人は受益者ですが、同一人です。
 一方、受益者と受託者を兼ねることは原則としてできません(ただし、受益者が複数で、受託者がその複数の受益者の1人であることは問題なし)。また、委託者が受託者を兼ねることも日本では認められていません。
 受益者と受託者が兼ねることができないのは、信託では本来、受益者と受託者は利害が対立する立場であるからです。また、委託者と受託者が兼ねることができないのは、日本独特の考え方です。英米法では信託宣言といって、委託者が自分の財産を信託財産とする旨を宣言し、自分が受託者となって信託財産の管理をすることが可能です。
 委託者
 信託をする者を委託者といい、通常は財産の所有者です。委託者はひとりでも複数でも可能です。
 委託者は信託が成立したら信託関係上は重要な立場ではなくなってしまうようにみえますが、あくまでも受託者は委託者の信託目的に従って財産の管理処分を行わなければなりませんから、その意味で委託者には受託者の行動を管理するような権利を認めています。たとえば、受託者の管理失当や信託目的に反するような財産の管理処分があったときには、信託財産の損失填補などを求める権利や受託者の解任を裁判書に求める権利などがそうです。
 受益者
 信託の利益を受ける人を受益者といいます。信託財産の元本の受益者と収益部分の受益者はいっしょでも違っていてもかまいません。
 信託行為によって受益者として指定された者は受益の意思表示をすることなく当然に受益者となります。もちろん受益者が受益を拒否することはできます。
 受益者は信託行為が行われるときに現存または特定していなくても問題ありません。しかしその場合は信託管理人が設けられます。たとえばノーベル賞の賞金は信託財産ですが、ノーベルは自分の死後に誰が受益者(受賞者)になるかわかりません。
 受益者の権利は信託行為で決められた制限がありますが、こと利益享受に限っては自分で財産を所有しているのと同じ程度の権限を持っています。たとえば金銭の信託ではその運用成果はすべて受益者に帰属します。たとえそれが当初の信託財産より減少していても、です。これを実績配当主義とよんでいます。
 受託者
 信託を引き受け、信託行為の定めに従って信託財産の管理処分を行う者を受託者といいます。民法の代理人は無能力者でも代理人になれますが、信託の受託者は行為無能力者・破産者はなれません。これは、前に述べたように信託財産の管理処分権が代理人より広いなどの理由によるものです。実際に信託の引受を業として行うには認可が必要です。
 受託者はひとつの信託にひとりでなく、複数とすることもできます。たとえば、年金などは共同受託といって複数の受託者がひとつの基金を管理します。
 日本の信託銀行の信託業務について
 信託銀行は銀行法上の銀行ですが、信託業務は兼営法によって兼営しています。兼営といっても歴史的には戦後、信託会社が銀行業務を兼営して信託銀行になったので、主力業務は信託業務です。信託銀行の信託業務は固有業務と併営業務にわけることができます。固有業務というのは、信託業法4条に規定されている信託の引受業務です。また、併営業務というのは、信託業法5条に規定されている信託会社が併営できる業務で内容としては信託の引受そのものではありません。
 具体的には固有業務として信託会社が引受できる財産としては、金銭や有価証券、金銭債権、動産、不動産、地上権、土地の賃借権です。併営業務は具体的には債務保証、不動産売買の媒介、遺言の執行、財産等に関する代理事務(証券代行業務・投資顧問業務)などです。
 金銭の信託
 委託者が信託する財産が金銭で、信託終了時に金銭で受益者に返還するものを金銭信託、信託財産を現状のまま、たとえば株式になっているときは株式のまま返還するものを金外信託といいます。具体的には、貸付信託、年金信託、財形信託、証券投資信託などがこれに該当します。
 有価証券の信託
 有価証券の管理運用処分を目的とするもので、単なる保護預りと違い、受託者が有価証券の権利保全を行います。カストディ業務はこれに該当します。
 金銭債権の信託
 これは金銭債権の管理保全を目的とする信託です。手形債権や、住宅ローン債権の信託、リース債権信託、自動車ローン債権など小口多数の債権をまとまった単位で証券化し投資家に販売します。
 不動産の信託
 土地信託が代表例です。

信託機能を生かしたプライベートバンキング

 私は日本では、信託銀行がその機能を生かしていけばプライベートバンキングとして相当のシェアを得ることができるものと確信しています。例えば証券会社にしても普通銀行にしても、日本では完全なサービスは提供できないため、これらの業態ではスイスやルクセンブルグなどにプライベートバンクを設立しサービスを提供していくことになります。
 しかし、日本の信託銀行は信託というすぐれたスキームを独占しているにもかかわらず、これを生かした業務展開を行えずにいます。これはひとえに研究不足によるものといえるでしょう。
 信託銀行は信託会社として生まれたのですが、戦後、銀行業務も行えるようになって長期金融の出し手として地位を高め、財産管理業務より銀行業務が信託銀行の収益の大半を占めるようになりました。特に貸付信託は2年満期と5年満期の2種類の変動金利商品ですが、これが資金調達の主力商品となり、この期間にあわせて中長期の設備資金融資などに利用されました。このように高度成長期の顧客層は個人は資金調達のみをターゲットとしており、収益は法人が中心で、融資取引をコアとして年金・証券代行を展開するという図式でした。
 つまり、高度成長期においては都銀・長期信用銀行・信託銀行は個人顧客を資金調達の源泉としか考えていなかったのです。たとえば高度成長期に各銀行の業態が設立した住宅ローン専門会社がありますが(信託銀行でいえば「住総」です)、これは当時、住宅ローンは銀行本体で行うには、ロットが小さいということから、別会社を設立し、各銀行がそこにまとめて融資することになりました。当然、住専は銀行より借りた金利に上乗せ金利を乗せて、個人に住宅ローンとして融資しますから、金利は高くなります。ところが、バブルの少し前の頃、各銀行とも住宅ローンについてのノウハウを身につけると、自ら住宅ローンを取り組むようになりました。こうして住専は本来業務である住宅ローンを会社を設立した銀行によって奪われたため、折りしもバブルの頃、不動産転売資金融資にのめり込んでいってしまったのです。
 横道にそれてしまいましたが、いずれにしても、信託銀行は戦後の歴史のなかで、銀行業務をコアとして、信託業務は大企業に対する派生取引として年金・証券代行を展開してきました。もちろん、資金運用においても特金やファンドトラストといった商品もありましたが、企業向け商品がほとんどでした。
 バブル崩壊後、信託銀行は個人顧客層からの収益をあげようとしてきましたが、店舗数が少ないなどのハンディキャップを抱えているにもかかわらず、都市銀行や地方銀行と同様、給与振込口座を獲得しようとした信託銀行もありました。その頃は信託のスキームを活用した個人富裕層への展開はみえませんでした。ちなみに信託銀行の業務のなかに遺言信託がありますが、これはバブル前からありましたが、遺言を取り扱うことが弁護士法に違反するのではないか(非弁行為)という議論があり、バブルの頃に日弁連との間で議論が交わされました。そして遺留分を侵害しない遺言などに限り信託銀行で行うこととなったのです。
 信託銀行は信託のスキームを活用した個人富裕層への展開について研究不足だと言いましたが、戦後の業務の展開をみると、高度成長期は法人への銀行取引とそれに派生する年金・証券代行の展開、バブル崩壊後は法人に対しては年金と証券代行業務、また融資取引の代わりに流動化商品の提案、不動産の仲介を収益の柱としてきました。また、個人に対しては、バブル崩壊前は貸付信託の販売による資金吸収対象で、バブル崩壊後は富裕層開拓を謳いながら、なにも効果的な商品を提供できず、結果としては結局、都銀や地銀と競合するリテール顧客層に投信を販売してきただけだといえるのではないでしょうか。
 さて前段はさておき、ここでは信託のスキームを使った富裕層向けの財産管理業務の具体例として、一般特金を考えてみましょう。
 一般特金の活用
 年金特金の応用で、一般特金を個人富裕層の資金運用の受け皿としてみるのはどうでしょうか。十分考えられるスキームであるにもかかわらず、信託銀行ではほとんど扱っていません(扱っていないわけではありません。やっているところもあります)。おそらくこれからもできないかもしれません。というのは、日本の信託銀行各行はマスタートラスト業務を専門に行う信託銀行を設立しましたが、これらの銀行では個人の資金の受け皿として特金を利用することを想定したシステムが構築されていないからです。したがってやるとすれば信託銀行本体で行うしかないのですが、主要システムと人はマスタートラストに移管してしまうので、できないのです。
 特定金銭信託とは、信託財産の運用方法が委託者または委託者から運用指図につき委任を受けた者によって特定される金銭信託です。
 
(後日、続きます・・・)
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