AD物語II 第3話 「スペース・フォールド」



〜大槻ケンヂのオールナイトニッポンの想い出〜
 1990年5月に、デーモン閣下のANNが終了し、  それを受け継いで、月曜1部のANNに登場したのが、  「筋肉少女帯」の「大槻ケンヂ」さんでした。  この大槻ケンヂのANNの何がすごかったかというと、  ANN史上、最年少スタッフが制作  していたことでした。  節丸ディレクターが、当時24才。  ライターの楠野氏が、23才。  ミキサーの清水氏が、22才。  で、ADのボクが、21才ですわ。  当時は何とも思わなかったんですが、  今、思うと、すっげームチャです。    ニッポン放送の中で、  「大丈夫なのか?」  「学校放送になっちゃうんじゃないか?」  ・・・と心配されてたのも、何となくうなづけます。  実際にフタを開けてみると、スタッフの経験不足は、  心配されたほどではなく、  何の支障もなく、番組はスタートしました。  ところが・・・、  ニッポン放送には「7月人事」といわれる、  大きな人事異動があります。  何故か分かりませんが、毎年7月になると、  人事異動が行われるのです。  これと同じくらい大きな人事異動は、冬にもありまして、  こちらは「ミュージックソン人事」と呼ばれています。  なぜ「ミュージックソン人事」かと申しますと、  12月24日、25日の「ラジオチャリティーミュージックソン」が、  終了すると同時に、お昼過ぎ、ディレクターさんは偉い人に呼ばれ、  別室に連れて行かれるのです。  その様子はカイジさながらです。  ま、そこで、人事異動のお達しが来るって寸法です。  「ミュージックソン」が終わってヘトヘトなのに、  帰るわけにもいかず、別室に閉じこめられるかわいそうなディレクターさん達・・・。  さて、この年の「7月人事」に、  大槻ケンヂのANNのディレクター、節丸さんは見事に引っかかり、  当時、お昼に放送していた、  「今仁哲夫の歌謡パレードニッポン」・・・通称「歌パレ」に異動になってしまいました。  ニッポン放送の「最年少チーム」は、召集されてからわずか1ヶ月で、  ディレクターさんがいなくなる、という事態に追い込まれてしまいました。  何と言ってもかわいそうなのは、節丸ディレクターです。  満を持して望んだANNから、  一転、真っ昼間の「演歌番組」に飛ばされちゃったんですから・・・。
 さて、節丸さんに取り残された大槻ケンヂのANNには、後任として、  東大出身でおなじみの(?)、伊藤ディレクターがやってきました。  後に「秋葉原ヤング電気館」や「お台場ラジオ会館」などの、  コンピューター番組を手がけることになる人です。  ・・・で、この伊藤ディレクターは、  番組のオープニングコントが大好きな人でした。  大槻ケンヂのANNは、毎回、番組の冒頭で、  「ホモアニキとペットの犬が『男祭り』に参加」  ・・・みたいな不条理なコントをやってたんです。  このオープニングコントが、ボクにとっては、えらい鬼門だったんですわ。
 いま、ニッポン放送の各スタジオには、  「DD−1000」という、デジタルサンプリングマシンがおいてあります。  この「DD−1000」は、非常に良くできた機械でありまして、  ここ10年で、ニッポン放送がした買い物のうち、  一番、いい買い物だった。  ・・・と言われるくらい優れたマシンです。  たとえば、ANNの場合、CMの前後に、    「オ〜ルナ〜イニッポ〜ン」  っていう短い曲・・・「ジングル」が流れてますよね。  放送中に、これを毎回毎回テープで出してたらが狂っちゃいます。  なにせ、ANNのCMは、全部で12本。  この前後にジングルがつくんですから、  都合、24回もテープの頭出しをしなきゃいけなくなってしまいます。  でも、これを「DD−1000」に入れちゃっておけば、  ボタンを押すだけで、ジングルを出せます。  もちろんデジタルだから、頭出しの必要なんかもありません。  「アニメガ」でおなじみ(?)のラジオドラマ「ダブルバインド」を作るときなんかも、  この「DD−1000」に「SE(効果音)」を全部入れちゃって、  制作作業をすすめたりするんですな。
 ・・・では、この「DD−1000」の導入前は、  いったいどうしていたのかってぇいいますと・・・。  各スタジオには、「カートリッジプレイヤー」というものが置かれていたのです。  「カートリッジ」っていわれても、なんだかわからないですよね?  みなさんの身近で、一番多く「カートリッジ」が活躍しているのは、 「ワンマンバス」でしょう。  「ワンマンバス」の車内に流れている、  「次は、OO小学校前、OO小学校前。」  ・・・というアナウンス。  ここに「カートリッジ」が使われています。  ま、この「カートリッジ」、わかりやすく言っちゃえば、  カセットテープの「エンドレステープ」と同じ原理でできています。  それを業務用で使うために、  テープ自体をオープンテープと同じ「6mm」幅のモノにしているってワケです。  で、テープの途中に、停止信号を入れておけば、  そこで自動的に止まるように作られております。  たとえば、60秒で一回りの「カートリッジ」を使用した場合、  10秒のジングルならば、途中に停止信号を入れつつ6回入れておけば、  「1回ジングルを出したあと、50秒間待たなければ、次の頭出しができない・・・・。」  なんていう事態を回避できるわけです。  ただし、所詮は、アナログ時代のシロモノなので、  「自動的に止まる」とはいっても、デジタルのそれには遠く及びません。  バスの「停留所案内」のように、使用する区間が長ければ何の支障もありませんが、  ラジオのドラマやコントのように、短い時間の間に何度も音を出す様な場合には、  非常に危険を伴う機械だったんです。
 さあ、なぜ、ボクにとって、大槻ケンヂのANNのオープニングコントが鬼門であったか、  もうお分かりですね。  この「カートリッジプレイヤー」という、非常に不安定な機械を使って、  コントを作らなきゃいけないんです。  大槻ケンヂのANNが放送されていた当時のニッポン放送において、  「カートリッジ」は非常に不足していました。  各番組で、ADが最も大事にしていたのが「カートリッジ」だといっても過言ではありません。  ということで、急に「カートリッジ」が必要になった場合、大慌てです。  不要になったテープを捨てる棚で、「カートリッジ」を見つけたときなんかは、  もう、天にも昇る気分です。  ところが・・・えてして、このように拾った「カートリッジ」には、  何らかの支障があるモンです。  そりゃそうでしょう。  なんせ、ゴミ置き場においてあるくらいですから。  そーとも知らず、そんな「カートリッジ」を使って、コントに挑んでしまうボク。  こりゃもう、天罰てきめん。
 ある時は、 「シュポン」  ・・・というSE(効果音)を出すために「カートリッジ」を使用したまではいいんですが、  停止信号を入れ忘れていたために、次の頭出しにやたらと時間がかかる。  よく見てみたら、「120秒」の「カートリッジ」を使っていた・・・。  次の頭出しが完了するまで、2分近く待つハメになる・・・。  またある特は、 「ビリッ」  ・・・というSEを出すために「カートリッジ」を使用する。  ところが、実際に出てきた音は「モコッ」という音。  「あれっ」と思って「カートリッジ」を取り出して見てみると、  すでに何年も使われたモノらしく、中のテープがワカメの様になっちゃってる。  これじゃ、モコモコの音でもしょうがないよなあ・・・。
 ま、「しょうがない」じゃすまされないのが、ラジオの現場。  ボクが伊藤ディレクターに、毎週、怒られていたのはいうまでもありません。  ああ、デジタルの時代になって、  本当に良かったなあ。  ・・・と思う今日この頃。
 続く  1997/12/04

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