AD物語III 第3話 「リスナー宅の仏壇を拝め!」



 ニッポン放送で、毎週日曜日、朝9時からお昼1時まで放送しているのが、
 「裕司と雅子のガバッといただきベスト30」である。
 パーソナリティは、劇団SETの三宅裕司さんと、
 元文化放送のアナウンサー・小俣雅子さん。
 番組は、最新ヒット曲をランキング形式でオンエアしつつ、
 三宅裕司さんのハガキコーナーや
 リスナーの電話コーナーがあったりで盛りだくさん。
 そんな番組で僕が担当しているのが、「福の神・田上」の中継コーナー。

 「福の神・田上」のコーナーのレポーターを担当しているのは、  劇団SETの役者・田上ひろしさん。  ちょっとヤクルトの古田に似ているやさしいおじさん(?)だ。  さて、このコーナー、現在は、街中のある場所に福の神が突然出現し、  「○○をもってお集まりくださーい。1番最初に来た方に1万円。」  ・・・なんてことをやっているのだが、  ちょっと前まで「福の神のお宅訪問」というコーナーをやっていた。  これは、福の神にお家に来て欲しい方からハガキを募集。  放送中にスタジオにいる三宅さん・小俣さんがそのハガキのお家に電話。  その時、田上さんと僕は、リスナー宅の玄関前にスタンバイしている。  リスナーの方が電話に出た瞬間、家のドアをガンガンたたき、侵入。  リスナーがビックリしている間に、1万円を手渡して帰る。  ・・・というコーナーだ。  「電話のつながるところならどこにでも1万円を届けます。」をスローガンに、  本当に、ありとあらゆる場所に1万円をプレゼントしに行った。  ある時は、花見会場。  ある時は、運動会の会場。  またある時は、結婚式の披露宴会場。  そしてはたまた、フリーマーケットの会場。  コーナーをやり始めた8年前は、ふつうのお宅訪問が多かったのだが、  携帯電話やPHSの普及に伴い、変な場所に呼ばれることも多くなった。  
 このお宅訪問のコーナー、ハガキを出したリスナーの方は、  いつ我々がやってくるのかに関しては全く知らされていない。  突然電話がかかってきたと思ったら、その相手が三宅裕司と小俣雅子。  で、変な格好をしたレポーターが部屋の中に乱入してきて、大騒ぎ。  そのノンアポなところが面白い要素であり、長い間親しまれた要因であると考えられる。  でもね。  これは、諸刃の剣なわけですよ。  リスナーが我々の訪問を知らないということは、  我々もリスナーに関しての情報が何もないということである。  あるのは、リスナーから届いたハガキのみ。  そこからありとあらゆる情報を読みとらなければならない。  この達筆な字は、主婦のモノだろう。  「子供の運動会なので来て下さい。」の「子供」は小学校高学年か、中学生・・・か?  これ、去年の年賀状じゃん。生活が苦しい・・・とか?  あ、住所見ると、ライオンズマンションだ。玄関、オートロックの可能性が有るな。困った。    ・・・などなど、  警察の専門家もビックリのプロファイリングである。  ハガキから読みとれる人物像と実際の人物はそう変わらない・・・そんなレベルまで腕を上げたが、  それでも、時々大ハズシをする。  リスナー宅の事態が我々の予想を大きく上回る状況もある。  そんなとき、放送は大いに盛り上がるか、大いに盛り下がるかのどちらかである。  事件は、会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ。  ・・・そんな感じ。  いやあ、こんな博打みたいなコーナー、よくやってたな。
 こんなことがあった。  いつものように、リスナーの家に飛び込んでいくと、  なんか、雰囲気が悪い。  子供はふてくされた感じでソファにひっくり返ってTVを見てる。  会社の重役風のお父さんがその隣で腕を組んで、これまたふてくされている。  出てきた奥さんは、涙ぐんでいる。  おいおい。夫婦ゲンカの真っ最中だよ。  日曜の朝からケンカなんかすんなよ。やめとけって。  これじゃ、我々、福の神なんだか、貧乏神なんだかわかんないじゃんかよ。  こんな情報はさすがにハガキからは読みとれない。  結局、この家のオヤジ、我々が帰るまで、1回も笑わなかったと記憶している。  奥さんは、「すみませんね。」ばかりを、繰り返していたことを記憶している。
 こんなこともあった。  いつものようにリスナーのお家に飛び込んでいくと、ハガキを出した人がいない。  どうやらその方の妹さんらしき人物が家の奥から出てきた。  「こっち、こっち」と手招きする。  後をついていくと、そこは風呂場。  どうやら、ハガキを出した張本人は入浴中だったようで。  こんな情報はさすがにハガキからは読みとれない。  素っ裸のリスナーの方に、おおいに照れながら、1万円を手渡し。
 こんなこともあった。  一人暮らしのおばあちゃんのところに1万円を届けに行った。  おばあちゃんは大喜び。  よかった、よかった。  「つい最近、娘が死んで寂しかったのよねえ。」と言って泣く。  田上さんと2人、ギクリとしながら振り返ると、  そこには立派な仏壇に、娘さんの遺影、真新しい位牌。  今、立てたばかりのお線香が、煙をゆらりと上らせている。  こんな情報はさすがにハガキからは読みとれない。  田上さんと2人、仏壇に手をあわせる。
旧・福の神「鬼」バージョン
現・福の神「亀」バージョン
 こんなカッコなのにさ。
 続く  2000/01/25

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