「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」 Indiana Jones and the Dial of Destiny 2023年・アメリカ |
〇監督:ジェームズ=マンゴールド〇脚本:ジェズ=バタワース/ジョン=ヘンリー=バタワース/ジェームズ=マンゴールド〇撮影:フェドン=パパマイケル〇音楽:ジョン=ウィリアムズ〇製作:キャスリーン=ケネディ/フランク=マーシャル/サイモン=エマニュエル |
ハリソン=フォード(インディアナ・ジョーンズ)、フィービ−=ウォーラー=ブリッジ(ヘレナ)、マッツ=ミケルセン(ユルゲン・フォラー)、アントニオ=バンデラス(レナルド)、ジョン=リス=デイビス(サラー)、トビー=ジョーンズ(バジル)、イーサン=イシドール(テディ)、カレン=アレン(マリオン)ほか |
「インディ・ジョーンズ」シリーズ第5作にして、まぁ普通に考えれば最終作。企画立ち上げ時点で一応全5作作るという話もあったらしいが、第三作の「最後の聖戦」(1989)で実質終わりになっていた。それが19年後の2008年になっていきなり第4作「クリスタル・スカルの王国」が公開されてビックリ。ハリソン=フォードも年なのに頑張るなぁ、と思ったものだが、それからさらに15年も経ってから第5作が公開されてさらにビックリ。この間にハリソン=フォードは「スター・ウォーズ」やら「ブレードランナー」やらの続編に老いた同役で再登場というパターンを続けていた。今度の「インディ5」はその流れの集大成という観もあった。 ただし、この「インディ5」にはそれまでの全作の監督をつとめていたスティーブン=スピルバーグも、原案とプロデュースをしてきたジョージ=ルーカスも参加していない(製作総指揮でクレジットされてるけど実質名誉職だろう)。ルーカス・フィルム自体がディズニーに巨額で買収され、「スター・ウォーズ」ともどもルーカスが排除された形になっていて、当初は監督する予定だったスピルバーグもルーカスにつきあう形にしたんじゃないかな、と。 一応製作主体は「ルーカスフィルム」で、キャスリーン=ケネディとかフランク=マーシャルといったシリーズに関わってきた人たちが指揮をとってはいるんだけど、すでに「SW」の7〜9がかなり残念な結果になってるから、彼らの裁量権がどれほどなのか、あるいは製作指揮が十分にできているのか疑問を感じざるをえず、この「インディ5」も公開前からちと心配ではあったのだ。それでも予告編映像を見たときは「これ、結構いけるんでは」と感じたものだ。 で、公開直後にネット上でいろいろ噂は出てきて、かなり賛否分かれる気配はあった。それでもやはり映画館まで見に行こうと決めて久々に電車に乗ってシネコンまで出かけた次第。いや、実際、この前に映画館で見た映画が「シン・ヱヴァンゲリヲン」だったから、ほんとに久々だったのだ。 ディズニーに買収されたことにより、これまお約束だった「パラマウントの山」に重なる山描写からのオープニングがなくなった。分かっちゃいたけどちとさみしい。 それでも冒頭に本編とは別の冒険(一応話は密接につながってるけど)をやるお約束はちゃんと守った。それもまたもや敵はナチスだ。時は1944年、ナチスがお宝を運んでいる列車にインディが乗り込み、しょっぱなから大アクションと追いかけっこの連続。このシーンのハリソン=フォードの顔はルーカス・フィルムが所蔵する未公開フィルムの山から若い頃のハリソン=フォードの顔を角度や光線の当たり方で選び出してAI合成したシロモノだそうで。そういうことができるようになるとは思ってたけど、これって一歩間違えると、というかやればできるんだろうけど、いよいよ俳優いなくても実写映画作れちゃうよな。そういう危惧は結構前から言われてて、最近のハリウッドのストもこの辺が少し絡んでいるみたいで。 この列車の中でインディが見つけるのが「ロンギヌスの槍」。ああ、エヴァンゲリオンで日本人の多くが覚えたアレだ。三作目の聖杯に続いてキリスト関係のお宝か、と思ったら、これが真っ赤な偽物。冒頭の大冒険の末に手に入るのは、タイトルにもなっている「アンティキティアのダイヤル」だ。 これ、あくまでモデルにしてる、という位置づけなんだけど、そういう謎の機械が実際に存在している。ギリシャの沈没船から発見されたもので、紀元前3世紀から紀元前1世紀ごろの製作と考えられている。なんだかよく分からないが後世のアナログコンピュータのような精密機械で、「オーパーツ」の代表としてよく紹介される。恐らく天文観測用の機械では、と推測されているんだが、「インディシリーズ」歴代お宝同様にオカルトチックな解釈がなされることになる。オカルト的解釈はともかくとして、うまいところに目を付けたなとは思う(少なくとも「クリスタル・スカル」よりはいい素材)。 そして時代は1969年に飛ぶ。アポロ11号が月面着陸と帰還に成功、宇宙飛行士たちを招いた大パレードが行われようとしている時代。インディは恐らく70過ぎで、大学教授も退官。最後の授業では若者たちは考古学なんぞ興味なしで話なんて聞いてない(かつては女子生徒たちが憧れの目で聞いていなかったなぁ)。近所の若造の音楽がうるさいと文句を言いに行くと、完全に偏屈爺さん扱い。しかも前作で結婚したマリオンは別居。インディ、なにもいいことがない老人生活を送っているのだった。これが一応終盤への伏線となっているのですな。 そんなインディの前に現れるのが、かつてナチスからダイヤルを奪い取る冒険を共にした友人バジルの娘ヘレナ。若き考古学者となっていた彼女は父親が持っていて、その後インディの手に渡ったアンティキティアのダイヤルについて質問してくる。ところがそのダイヤルをヘレナはネコババし、さらに同じダイヤルを求める謎の集団がインディに殺人犯の容疑をかぶせ、インディはアポロ飛行士たちのパレードの中を例によって例のごとく逃げ回るハメに。ここから結局かつてのような追いつ追われつの大冒険を始めることになっちゃうわけで。 悪役は冒頭の冒険でも出てきた元ナチスの科学者ユルゲン=フォラー。アポロ計画に貢献してるという設定から、あのフォン=ブラウンをモデルにしているのは明白だ。彼はアンティキティアのダイヤルに重大な秘密が隠されており、それを使ってナチスを復活させる気なのか、何か企んでいる様子。 …で、ここまで来たところで、なるほど事前にツイッターで某氏が言っていたのはこのことか、と納得した。謎のお宝がダイヤルであること、元ナチスが敵であること、考古学者の女性が出てくること、舞台が1960年代末になっていること、などなどがCGアニメ作品「ルパン三世 THEFIRST」に共通点が多々あるのだ。あちらのほうが数年先に作ってるので「パクリ」の可能性もないではないのだが、そもそもその「THEFIRST」の内容がかなり「インディ・ジョーンズ」っぽかったので、似たような発想に偶然なってしまったということもあると。 本作でのインディ、結局以前のような大アクションをやってはいるんだけど、そこは高齢ということでヒロインのヘレナが「女インディ」とばかりに大活躍。演じたフィービ−=ウォーラー=ブリッジという方、僕は全然知らなかったのだが、実は「ハン・ソロ」に声だけで出演していて、その縁でキャスリーン=ケネディから声がかかったとのこと。俳優だけでなく脚本も手がける多才な人だそうで、この「インディ5」の魅力のかなりの部分は彼女によっていて、これはいい人見つけたな、と思ったものだ。3作までの歴代「インディガール」の中ではマリオンのキャラに一番近いが、さすがにインディとの恋愛沙汰はなく、むしろインディと疑似父娘関係に位置づけられてる。このあと彼女を主役にシリーズにしてもよさそう。 そのヘレナの相棒になってるのがアラブ系の少年テディ。その天才子役っぷりにはハリソン=フォードも脱帽だったとか。これ、絶対二作目のインディの相棒、ショート=ラウンドを意識してるよね。あのころショート=ラウンドを演じるなど人気子役だったキー=ホイ=クアンが俳優業に本格復帰して今年のアカデミー助演男優賞をとった、というのも何やら因縁めいている。 フォン=ブラウンをモデルにした悪役を演じたマッツ=ミケルセン、どっかで見たようなと思ったら、「007カジノ・ロワイヤル」に出てきたあの人なんですな。ここでも「インディ」と「007」とのつながりが出てきちゃった。・ シリーズレギュラー組では、予告編でチラッと出て「おおっ」と驚かされた、ジョン=リス=デイビス演じるサラーの再登場。1作目と3作目の中東を舞台にした冒険に登場してきたが、どうもスエズ動乱を機に家族ともどもアメリカに移住したことになっていた。再登場はうれしかったが、ハリソン同様にお年を召されているせいか(調べると2歳年下)、出番はほんのちょっとの顔見せ程度。それでもラストの出番ではほろりとさせられちゃったな。 アントニオ=バンデラスはせっかく出たのにえらくもったいない使われ方だったような…。 ルーカスもスピルバーグも降りちゃって、ディズニー作品を手がけてきたマンゴールド監督ということで、どうなるのかな、という不安もあった。ま、一部に違和感やらこれまでと違うとか言ってる人もいるみたいだが、僕自身は特に違和感は感じなかったし、普通にこれまでのシリーズを踏まえて「いつも通り」のインディ・ジョーンズ冒険譚に仕立ててくれていたと思う。少なくとも前作「クリスタル・スカルの王国」よりはシリーズの姿にちゃんとのっとってるんじゃないだろか。超ビッグなシリーズだけにマンゴールド監督のプレッシャーはかなりあったと思うけど、及第点レベルにうまくまとめてくれたと評したい。 (以下、ネタバレありになります) 前作で登場した、シャイア=ラブーフ演じるインディの息子が登場しない、それどころかベトナム戦争に志願して戦死してしまった、とアッサリ語られるのはいささかショックだった。前作での彼の登場があんまり評判よくなかったみたいだし、演じた当人も映画の出来について(ファンの声に同調する形ではあったが)批判的な発言をしたことで「抹殺」されちゃったのかな。まぁ当人があそこまで言っては出演しないだろう、ということもあったかも。 一方で彼の戦死は、高齢のインディが自身を取り巻く現実に幻滅する大きな要素となっていて、当時のベトナム戦争を背景とした世相を描き、なおかつ最後に出てくる「歴史改変」の可能性(「もし過去に戻れるなら息子の入隊を止める」とインディも言ってる)ともつながってくる。もしやそういう展開?と思わせたが、さすがにやらなかったな。終わってみればヘレナが「娘」になることでインディは「家族」を取り戻す、というめぐりあわせになってるんだけど、「ナレ死」のような片づけられ方をされちゃったインディの息子が哀れではあった。 ラストに超常現象になっちゃうのはシリーズお約束で、今回はとうとうタイムスリップしてしまう。悪役フォラーの目的が、当初予想されたヒトラー勝利への歴史改変ではなく、逆にヒトラーを抹殺してナチスの「本来の理念」を実現することだった、というのはいくらか無理やりも感じるけどアイデアとしては面白い。ついでながら先述のように本作にあれこれ似ている「ルパン三世THEFIRST」の方はどうもブラックホールを作ってしまう装置だったというオチ尾で、これがまた「ルパン三世」TVスぺrシャルのアイデアの流用だったりした。 インディに話を戻して、フォラーらのタイムスリップは意図と違って(大陸移動がどうのとか言ってたが、そもそも地球自体が宇宙の中を常に移動してるんで特定の場所へのタイムスリップは大変な話になっちゃうんだよな)古代の地中海、ローマ軍がシラクサを攻撃している真っ最中に飛び込んでしまう。そこにはダイヤルを作った当人、天才科学者アルキメデス当人がインディの前に現れるのだ。「エウレーカ!」とアルキメデスの逸話で有名なセリフも出てくるんだけど、字幕で見た限りでは特にそのセリフのニュアンスは入れてなかったな。まぁ分かる人だけ分かってと。そういや途中で出てくる装置でも「アルキメデスの法則」がきっちり組み込まれていたっけ。 かの歴史的科学者アルキメデス当人を目の前にしたインディ、さすが考古学者で古代ギリシャ語で会話し、アルキメデス当人に会えた感激を伝える。このシーン見てて、何かのドラマで武田鉄矢が現代に出現した坂本龍馬当人に会って感激に震えて話すシーンを思い出しちゃったな。僕自身もそうだが、歴史好きなら、自分が好きな歴史人物に直接会うというのは誰もが抱くかなわぬ夢だ。 そんなわけでインディ、現代に絶望してるだけにアルキメデスの時代に残りたいと言い出す。うーん、インディって考古学者と言っても専門はそっちの方だったっけ?まぁ元々なんでもアリな感じではあったけど。どっちにしてもそのままこの時代に残ったら歴史を改変することになってしまうし、強制的に現代に戻されちゃうのであった。 いろいろ会った末の、新たな「家族」に囲まれてそれなりに幸せな老後を送れそうなインディの姿に、このシリーズの一応の大団円を見た気分にはなった。あれがあのTVシリーズ「若き日の大冒険」でクダまいてる爺さんにつながっていくのか(でもあの部分で後にカットされてるそうですね)。 ラストカット、インディが例の帽子を手に取るのは、前作のラストに続いて、「まだまだ冒険やっちゃうぜ!」表明ともとれるんだけど、さすがにハリソンさんはもうやらないだろうな。ディズニーのことだから、別の俳優で若い時代の冒険譚を続々作ったりするんじゃなかろうか。(2023/8/28) |