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「刑事ジョン・ブック/目撃者」
Witness

1985年・アメリカ
〇監督:ピーター=ウィアー〇脚本:ウィリアム=ケリー/アール=W=ウォレス〇撮影:ジョン=シーゲル〇音楽:モーリス=ジャール〇製作:エドワード=S=フェルドマン
ハリソン=フォード(ジョン・ブック)、ケリー=マクギリス(レイチェル)、ルーカス=ハース(サミュエル)、ダニー=グロヴァー(マクフィー)、ヤン=ルーベス(イーライ)、アレクサンドル=ゴドゥノフ(ダニエル)、ブレント=ジェニングス(カーター)、ジョゼフ=ソマー(シェイファー)ほか



 
 ようやく見れた。ずいぶん前に民放テレビの映画番組(日曜洋画劇場だったか?)で途中の一部分を見たことがあったのだが、それだけでも「これは一度ちゃんと見たい」とは思っていたのだ。だからその時も最後までは見ないでおいた。それからなんだかんだで見ないまま、昨年のいつだったかBSで放送していたのを録画して、今頃ようやく見たのである。ああ、やはり見てみたいと思うだけのことはあったと思った。

 邦題が「刑事〜」となってる映画は多い。れくたー博士ものの最初の映画化「レッド・ドラゴン」が「刑事グラハム」というタイトルだったこともある。まぁ刑事ものだとわかりゃ、アクションか推理をやるんだろう、ということで客が来やすい、という計算があるんだろう。この映画も刑事が主役で、撃ち合いありアクションありサスペンスありと、基本的に刑事アクションものであることは間違いない。だがそのジャンルに入れるのをちょっと迷ってしまうほど、かなりの異色作でもある。

 原題「Witness」は「目撃者・証言者」の意味で、邦題ではサブタイトルにまわされている。この映画、偶然殺人事件の目撃者になった少年と共に主人公の刑事が奮闘する、といった話なのだが、この目撃者の少年が「アーミッシュ」であるところが、この映画を特殊なものにしている。僕が以前チラッと見て、「ちゃんと見てみたいな」と思った理由も、この「アーミッシュ」に興味を持ったからだ。

 「アーミッシュ」について映画の中では一切説明がないので、いくらか事前知識があった方がいい。これはキリスト教プロテスタントの一派で、もともとスイスで始まった宗教的共同体。彼らはドイツを経てアメリカへと移民し、ペンシルベニア州やオハイオ州に住み着き、徹底した非暴力を信条とし、敬虔な信仰で結ばれた人々が農耕・牧畜の自給自足生活を送っている。特に目を引くのは彼らが移民当時の生活様式をかたくなに守っている点で、19世紀以前の電気のない生活を維持し続けている。その様子は映画の中でも詳しく描かれていて、ちょっとした「時代劇状態」「タイムスリップ状態」が味わえる生活ぶりでで、それを目当てに観光客もやって来る(映画でもそうした観光客相手に商売してる人が出て来る一方、迷惑がってる人もいる)。こんな生活をしている人(さらに細かく派閥があって多少の違いがあるらしいが)が全部で20万人もいるのだそうだ。日常言語も先祖のままの古いドイツ語で、英語も話せるし近代的機械類や世界のことを知らないわけではないが、昔ながらの保守的な生活を今も多くの人が送っていることにはやはり驚く。余談だが劇画「ゴルゴ13」でも取り上げられたことがある。
 
 映画はこのアーミッシュの村から始まり、夫を失った若い母親レイチェル(演:ケリー=マクギリス)とその幼い息子サミュエル(演:ルーカス=ハース)の二人が村を出て都会に行き、列車に乗って親戚のもとへ向かう。それを見送るレイチェルの父・イーライ(演:ヤン=ルーベス)は「英国人(イングリッシュ)には気をつけろ」と忠告する。彼らにとって村の外にいる英語話者は全て「イングリッシュ」でくくられ、単なるよそ者ではなく暴力的でずるがしこい悪者、ととらえている様子。そしてその偏見が的中したかのように、幼いサミュエルは駅のトイレで偶然殺人事件を目撃してしまうのだ。

 殺されたのは刑事だった。同じ署に勤める刑事ジョン・ブック(演:ハリソン=フォード)はサミュエルを事件の目撃者、重要証人として保護し、サミュエルの母親レイチェルともども自分の妹の家に泊める。サミュエルから犯人像を聞き出すと黒人と身長程度のことしか分からなかったが、サミュエル自身が署内に貼られた新聞記事に殺人犯が映っているのを発見する。それは同じ署に勤める麻薬担当刑事マクフィー(演:ダニー=グローヴァ―)だった。ジョンはマクフィーが麻薬を横流ししており、それをかぎつけた刑事を殺したのだと確信し、シェイファー本部長(演:ジョゼフ=ソマー)に報告するが、地下の駐車場でマクフィーに襲われ銃撃戦となり重傷を負う。実は本部長当人が事件の黒幕だと悟ったジョンはサミュエルとレイチェルを連れ出して逃亡、行く当てもなく彼らアーミッシュの村に隠れ住むこととなる。

 話のキモになるサミュエル役の子役は、オーディションで選ばれた当時五歳のルーカス=ハース。選ばれただけあって外見も可愛いし、特にその視線がいい。ホントにアーミッシュの子なんじゃないかと思わせるほど、村を出て外の世界を見た時の驚き、新鮮な興奮がリアルに出ている。殺人事件を目撃したり、クライマックスでの危険な目に合う時の表情も出色で、観客に「この子だけは無事でいて!」と思わせてしまう。その後どうしたんだと調べて見ると、外見はすっかりフツーのオジサンになっちゃってるが俳優業は今も続けてるそうだ。
 そのサミュエルが新聞記事の写真でハッと気がつく、殺人犯の刑事マクフィーを演じるのがダニー=グロヴァー。僕はこの点事前知識なくて殺人シーンのところから「あれ、どっかで見た顔だな」と思っていたが、鑑賞後にキャストを確認してちょっとビックリ。この映画では悪徳刑事役だったが、この数年後に「リーサル・ウェポン」でサブ主役刑事へと昇格するのだ(笑)。

 アーミッシュの村の住人にもどこかで見たような顔がいる。村で暮らし始めたジョンが、次第にレイチェルといい関係になってきたところへ、「恋敵」として登場する優男のダニエルを演じるのは明らかにロシア系の名前のアレクサンドル=ゴドゥノフ。この人も初登場以来既視感があったのだが、あとで調べて「ああ!」と。「ダイ・ハード」のテロリストグループの一人、カール役だったんだ!そりゃすぐには気づかないよ、印象ぜんぜん違うもん。「ダイ・ハード」じゃグループ中一番凶悪、それこそ主役以上に「なかなか死なない」(ダイハード)な男で、最後の最後に復活してきて撃ち殺される。あれが本作のちょっとイヤミな雰囲気の優男と同一人物なんだなぁ。この人、もともとソ連でバレエやってた人で花形だったがアメリカに亡命、バレエだけじゃ食えないので映画にも出ていたが早死にしてしまっており、この映画二作の役で人々の記憶に残ってしまった。

 このころにはハリソン=フォードもすっかりハリウッドの大スターになってて次々といい役がついていた。本作も彼のキャリア中の代表作の一つとなっている(アカデミー主演賞のノミネートはされた)。刑事アクションものでもあるが、アーミッシュの村での人々とのふれあい、文化ギャップ、少年サミュエルとの交流、そして次第に燃え上がっていくレイチェルとの関係…と人間ドラマとしての見せ所は多い。
 成り行きでアーミッシュの中に紛れ込んだ主人公だが、これが結果的に敵の追跡を一時にせよ遅くする。シェイファー本部長が現地の駐在警官に「電話で聞いて回ればいいだろ」と言ったら「彼らには電話がありません」戸の返事。おまけに目撃者と同じ「ラップ」姓もやたらに多くて一軒一軒回るとなるとえらいことになる、とも。現在のアメリカにこんなところがあるんだな、と驚かされる。

 彼らの生活ぶりも、恐らくだが忠実に「再現」されたものだと思う。電気も使わず、農業と酪農での自給自足生活。乗り物は馬車。村の新婚夫婦のために村中総出で納屋を建てたりもする。このシーンでジョンが「以前大工をやってた」と手際よく働くのだが、これは演じてるハリソン=フォードが売れない時代に大工の副業をしていて、腕のいい大工として一部映画人に知られていた実話にひっかけたものと思われる。
 アーミッシュたちが徹底した非暴力主義であることも節々で描かれる。これは「真昼の決闘」でも出て来るクエーカー教徒にも通じるものだが、特にこちらは徹底してるらしい。ジョンが持ち込んだ拳銃についてイーライがサミュエルに「相手が悪党であろうと、人を殺してはいけない。それは神だけに許されている」と諭すシーンも印象的だし、村に来た不良観光客がアーミッシュたちが決して抵抗しないのをいいことにダニエルをからかってアイスクリームを押し付けなぶりものにする場面(あれが「ダイ・ハード」のあの役だったら即座に皆殺しだな)では代わりにジョンがブチ切れて大暴れしてしまう(以前TVで見たのはまさにこのシーンだった)

 そんなアーミッシュの村に、悪党たちがついにジョンの行方をつきとめておしかけてくるクライマックス。ほとんどアーミッシュになりかけていたジョンは暴力には暴力で応じざるを得ず、血なまぐさい戦いが展開される。そしてその帰結として、ジョンじゃ村を去っていかざるをえない。まぁこれはネタバレではないでしょ。そういう流れは必然になるように作られてるし。
 見ていて、これって西部劇の変形だよなぁ…と思い、さらには構造が「シェーン」に似てることにも気がついた。あっちは夫が生きてたけど、なついてくる可愛い男の子、恋愛感情を秘めている母親、という組み合わせはおんなじだ。激しいアクションシーンを含みなが決してそれを正当化はせず、全体に詩情に満ちたところもよく似てる。そしてやはり主人公はやはり去っていかねばならない。そして去り行く彼に、イーライが呼びかける。「――イングリッシュには気をつけろ」と。(2020/2/4)

 

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