「カンフー・ヨガ」 Kung Fu Yoga 2017年・中国/インド |
〇監督/脚本:スタンリー=トン〇撮影:ホーレス=ウォン〇美術:ジェイムス=チュン〇音楽:ネイサン=ワン〇アクション指導:ジャッキー=チェン/スタンリー=トン/ウー=ガン〇製作:バービー=トン〇製作総指揮:ジャッキー=チェン/チー=ジェンホン/ジョナサン=シェン/サイレシュ=パタック |
ジャッキー=チェン(ジャック)、アーリフ=リー(ジョーンズ)、レイ(EXO)(シュアオグァン)、ソーヌー=スード(ランドル)、ディシャ=パタニ(アスミタ)、ムチミヤ(ヌゥオミン)ほか |
ジャッキー=チェンの映画を劇場で見るのも久々。前に見たのは何だっけ、とあれこれ思い返してみると、どうやら辛亥革命映画「1911」までさかのぼってしまうらしい。あれは一応ジャッキー主演・監督(総監督)の映画ではあったのだが、「ジャッキー映画」の範疇に入れるのはどうしてもためらいを覚える映画で、僕もあくまで歴史映画として見に行ったものだ。吹き替え版だったのでジャッキーの声がおなじみ石丸博也で、「そんぶ〜ん」といつもの調子でしゃべっていたのが妙に記憶に残っている(笑)。そのあとにもジャッキー映画は何本か見ているが、いずれもレンタルビデオやTV放送のものばかり。1990年代まではジャッキー映画の新作がかかるたびに映画館に行ってたものだが… 今度の新作「カンフーヨガ」、ジャッキー主演映画が日本で正月興行にかけられるのは実に16年ぶりだとパンフレット記事にあった(「アクシデンタル・スパイ」以来)。正月興行にかかるかどうかなんてのはタイミングの問題もあるんだろうけど、さすがに最近はアクション全開と言うわけにもいかないジャッキー映画にあって、タイトルからして「これはもしや」と思わせるものが本作にはあったと思う。僕も久々に映画館に足を運んで見てみる気になったのも、このタイトルが大きい。予告編を見ただけでも中国・インドの合作大作であることがうかがえたし、中国の「カンフー」とインドの「ヨガ」をタイトルに組み合わせて、その二つが協力だか対決だかしていく話なんだろうと察しはつく。そもそも中国とインドの合作、という企画自体に心おどるものが。お互い人口がメチャクチャに多い大国、近頃は新興国として経済的にも世界で存在感をましている国同士だし、映画でもそれぞれ巨大市場を抱える映画大国だ。特に最近はインドの娯楽映画の独特の面白さが世界的にも認知されてきていて、そこにジャッキーが組み合わさる、というだけでも一見の価値はあるだろうと。 ちなみに僕が見たのは吹き替え版。例によって石丸さんの声である。劇場では宣伝かねて「マジンガーZ」のBGMが流れていて、面白い偶然になっていた(さすがに兜甲児役ではないそうだが)。 映画冒頭はいきなり歴史解説。7世紀に唐の太宗からイン(天竺)への友好使節として派遣された王玄策が、、国王ハルシャ=ヴァルダナ死後のインドの内戦に参加してどうにか事態を収拾、インドから唐へ贈られる財宝と軍隊を引き連れて帰国するが、その途中でその財宝と軍隊が行方不明になってしまった…というストーリーが映像で語られる。 王玄策については僕も「名前だけ知っていた」程度で、鑑賞後に調べてそんな面白そうなやつがいたのかと知ることになったが(田中芳樹さんが小説化してるそうで)、確かに中国とインドに絡む歴史ネタとしてはうってつけだろう。もちろん財宝ウンヌンは記録にない話のようだし、王玄策がインドで象の大軍による大合戦をしてるシーンは「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」のクライマックスみたいでCG盛り過ぎという印象だった。 この歴史話が語られて舞台は現代の大学。考古学者のジャッキーが王玄策の話を学生たちに講義している。「あれ?これ、インディ・ジョーンズそのまんまでは…?」と思って見ていたら、女子学生の一人がまぶたに愛の告白を書いてサインをおくるという、「パクリ」としかいいようのないカットまである!もっともその対象はジャッキーではなく助手のシャオグアン(レイ(EXO))のほう、というところがジャッキーの年齢を感じさせてしまう。年齢と言えばジャッキーがインド美女の前でいいとこ見せようとしてカンフーの練習台(なんて名前かわからんが「レッド・ブロンクス」にも出てきた)で技や逆立ちを披露したあと、こっそり肩で息をしているカットもあった。本作でも一応ジャッキーはアクションをこなしてるけど、助手役のシャオグアンとトレジャーハンターのジョーンズ(アーリフ=リー)の若者二人組にもアクションシが割り振られて「負担軽減」の状態にもなっていた。まぁ仕方ないことではあるけど、往年を知るファンとしてはちょっと寂しい。 この王玄策がらみの財宝の手がかりとなる地図をインド美女アスミタ(ディシャ=パタニ)がジャッキーのもとに持ち込み、これで崑崙山脈の氷の下にあるらしいと宝探しが始まる。しかし同じ財宝を狙うインドの大富豪ランドル(ソーヌー=スード)が部下たちと共に乱入、氷の下での争奪戦となる。氷の下はさすがにセットだろうけど、氷原のロケは崑崙ではなくアイスランドでやったみたい。この氷の下での争奪戦、ジャッキー側で中国人男性が3人、中国人女性が一人、インド人女性が2人という大所帯のせいもあって追いかけっこの展開が目まぐるしすぎて、「あれ?いつの間にジャッキーたち縛られたんだっけ?」と思ってしまった。ぼんやり見ていたのか、はたまたもともと編集が雑なのか。 この崑崙の争奪戦で、一番肝心の巨大ダイヤをジョーンズが持ち逃げ。彼は考古学者じゃなくてあくまでトレジャーハンター、まぁ「盗掘者」と呼んでもいい。思えばインディ・ジョーンズ博士だって考古学者で「文化財を博物館に」と言いつつやってることは盗掘とかわらん、というツッコミは弟一作からあったもんね。この「ジョーンズ」って名前もそうだが、このへん、ジャッキーの主人公を考古学者にしつつ「インディ」批判をやってるようにも見えてくる。 連想で書いちゃうが、そもそもジャッキー映画で「インディ」のパクリ企画といっていい「アジアの鷹」シリーズがあった。「サンダーアーム/龍兄虎弟」(1986)「プロジェクトイーグル」(1991)「ライジングドラゴン」(2012)と、ずいぶん間を置いて製作されてるシリーズで、ジャッキー演じる主人公はトレジャーハンターで基本的にはカネのためならなんでも取ってきちゃうキャラだった。それが「ライジングドラゴン」になると欧米に奪われた自国の文化財を取り戻す、という、中国だけでなく各国でみられる文化ナショナリズムにのっかったキャラへとシフトもしている。 今回の「カンフーヨガ」は考古学者ジャッキーという「別人」ではあるのだけど(僕は未見なのだがジャッキーが以前主演した「MYTH神話」という映画の主役と同じということらしい。監督も同じ)、微妙に現在の政治外交風潮に便乗してるのは「ライジングドラゴン」同様で、特に中国・インドの新興大国の関係強化、という内容は現政権が進める「一帯一路」外交ともバッチリなわけで(セリフでも「一帯一路」が出て来ていた)、話の中盤がUAEのドバイというのも深読みすればその線でつながってるようにも見える。香港返還後を見据えたような「ポリス・ストーリー3」あたりからジャッキー映画にはそこはかとなく北京政府寄りな政治性を感じなくはなかったし、実際プライベートな発言でもそんば立ち位置を言われることはあった(少なくとも「反体制」ではないよなぁ)。 ま、そこらへんをあくまで「ほのか」に感じさせつつも、そうイヤミでない万人向け映画を作るところがジャッキーらしさでもあるんだが。 (以下、ネタバレ盛大で書きますので、避けたい方はストップ) 中盤は舞台をドバイに移し、ここでダイヤの争奪戦。派手なカーチェイスも見せ場になってるが、ここでもジャッキー以外の助手役の方が動きが多く、ジャッキーはたまたま乗り合わせてしまったライオンの「ジャッキーちゃん」とのコント状態担当になってしまった。このライオン、さすがにCGだろうなぁ。遠心力がかかった車の中でジャッキーとライオンが一緒に口をあんぐりあけてしまうところとかは笑ったけど。このカーチェイス争奪戦も途中でなんだか展開がわかんなくなっちゃったりしたんだが、やはりキャラが多いせいなんだろうか。 最後にいよいよ舞台はインド。インド観光気分に浸れるシーンが結構多くて、市場の大道芸を巻き込んでの追いかけっこのところなんかは、やはり「インディ」っぽいのだが、これはこれで面白かった。そのあと若者二人が女性陣を助けに行くくだりではハイエナの大群との対決。これもCG多用なんだろうけど、動物をあれこれ出してサスペンスを作るところも「インディ」のノリである。 そしてお宝の眠る古代遺跡へ。これもセットがそのまんま「インディ」風なんだよなぁ。しかもその入り口を開くために例のダイヤをはめこんだ杖を床の穴に突き立てるところでは「インディ・ジョーンズみたい」というセリフまで出てしまった!吹き替え版だけってことではないんだろうなぁ。もう、開き直っているというか。 ただ「インディ」と比べるとインドへの敬意はちゃんと捧げているとは思う。インディの2作目「魔宮の伝説」はジェットコースタームービーとして非常に面白く見たのは確かだけど、そこで描かれる「インド」描写はインド人はやっぱり怒ってしまうレベルじゃなかったかと。こちらのジャッキー映画は冒頭の歴史話からして「中印友好」を掲げてるせいもあってか、敵役のインド人たちに対してだって殺生は絶対しないし、危なくなれば助けてあげたりもする。対決しつつ仏教の「空」概念の対話をして(「釈迦に説法」状態)両国の文化のつながりをさらっと見せたりもしたし、「お宝」の多くが金銀財宝ではなく古文書群という「人類の宝」だった、というあたりもうまい(「敦煌」を思い出しちゃったな)。 そして黄金の巨大仏像も出てくるんだけど、そこへ行く橋は通れない、という、まぁなんというか、インド哲学的なオチもつき、結局これらのお宝は個人の持ち物ではないということでラスボスもあっさりあきらめてしまう。終わってみれば誰も人が死なない円満解決、というところもジャッキー映画的だし、同時に上記のような「友好」の政治性にもマッチするわけで。 ただタイトルに「カンフーヨガ」とつけたほど「ヨガ」の方はあまり印象に残らないんだよなぁ。最初の方でインド女性たちが「ヨガ」を披露して、縄抜けや水中呼吸で話に絡んではくるのだけど、後半になるとヨガはほとんど関係なしで格闘もカンフー風ばかりに。どうせやるならインド側の敵集団がヨガを使った攻撃をかけてくるとかすれば面白くなったんじゃ…って、「スト2」のダルシムみたいなことになっても困るし(笑)。いや、実はタイトル聞いてちょっと「スト2」みたいなの、期待したんですけどね。 そしてエンディングは、登場人物がみんな勢ぞろいして、インド娯楽映画お約束の盛大ダンス!インド映画のこの「お約束」は日本だけでなく中国でも浸透しているようで(「少林サッカー」でもやってたな)、インドとの合作なんだからこれをやらなくてどうする、とばかりに敵も味方もなくゴージャスに集団ダンスをして実に爽やかに映画は終わる。ジャッキーも踊っててホントに楽しそう(笑)。 このダンス映像でエンドクレジットになってしまうので、残念ながらかつてのジャッキー映画のお約束の「NG集」はなし。まぁジャッキー自身のアクションシーンもだいぶ減って若手が埋めてた状態だからなぁ。それでもジャッキーがシリアス・文芸路線とか歴史映画にシフトするだけでなく、こういう明るく楽しい娯楽映画にもちゃんと軸足を置いてくれてるというのはファンとしてもありがたいことではある。(2018/1/14記) |