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「ゴルゴ13」

1973年・日本/イラン
〇監督:佐藤純弥〇脚本:さいとう・たかを/K・元美津〇撮影:飯村雅彦〇音楽:木下忠司〇美術:藤田博〇原作:さいとう・たかを〇製作:俊藤浩滋
高倉健(ゴルゴ13=デューク東郷)、モセネ=ソーラビ(アマン警部)、プリ=バナイ(キャサリン)、ノースラド=キャリミー(フラナガン)、ジャレ=サム(シーラ)、ガダキチアン(マックス・ボア)ほか



 
 この映画、実は初鑑賞ではない。今はない近所のビデオレンタル店に置いてあったので、話のタネに見たことがあったのだ。で、つい先日、東映が期間限定で 本作を無料でYoutube配信していたので、ついつい全部見てしまった次第で。なんで今頃、と思ったが、考えてみればこの映画、公開からちょうど半世紀 の節目であったのだな。

 「ゴルゴ13」についてはほぼ説明不要だろうが、実写映画化されたのはこれが最初だった。これのあとに千葉真一主演の「ゴルゴ13九竜の首」が 製作されていて、とりあえずその2作しかないはず。リアルな国際情勢を背景に世界各地の写真資料を使用して映画的に描く原作劇画だが、これまでの実写映画 ではどうしてもリアルに見えてこず、かえって違和感を覚える結果になっていて、案外実写映画との相性はよくなかったということになる(実際アニメ化はそこそこ成功したと思う)。作り手の問題ってこともあるんだろうけど…
 原作がヒットしたので東映が映画化を打診、原作者のさいとう・たかをは話をつぶすつもりで「主演に高倉健、 オール海外ロケ」という注文を出したら東映が飲んじゃった、という経緯だったのは有名な話。そもそもゴルゴ13の外見的モデルが高倉だったので、配役とし ては原作者としても最適ではあったのだろうけど…結果から言うと実際にやってみたらあんまり似合ってなかった、ということになってしまう。やっぱりねぇ、 原作でもさいとう本人しか描けなかったという「ゴルゴの冷たい目」が健さんにはないんだよね。サングラスかけてごまかしてるのは、東映ヤクザ映画とおんな じ。

 オール海外ロケという条件は東映としても苦労したようで、イランの映画会社との合作という形でオールイランロケでの製作が実現した。「九竜の首」の方も 香港との合作で、そういう形でないと実現は無理だったのだろう。合作ということで両作とも「現地主役」な登場人物が出ていて、本作ではイラン人の警部アマ ンがそれ。彼がさらわれた妻を救い出そうとする話がイラン側のメインストーリーで、そこにゴルゴが絡むことになる。
 この映画、この人も含めて高倉健以外は全て外国人俳優で、撮影現場では英語やペルシャ語で演じ、映画自体は声優による吹き替え、という邦画なのに洋画吹 き替えを見てるみたいな変な感じになっている。吹き替え声優さんも聞き覚えのある有名どころが大挙出演していて、イラン側主役のアマン警部の声は山田康雄があてている。そんなわけで、「ゴルゴ13とルパン三世夢の競演」の気分もあるような、ないような(笑)。

 映画はある犯罪組織に潜入捜査をしていた捜査員が組織につかまり、拷問されそうになって自決するところから始まる。設定がよくわからないのだが「国際秘 密警察」な感じの組織が、世界中で女性を誘拐、人身売買している犯罪組織を追及していて、次々に犠牲者を出していた。しかもその犯罪組織のボスとされる 「マックス・ボア」なる人物はまったくの正体不明。どうもイランにいるらしい、ってんで最後の切り札としてゴルゴ13にボアの暗殺を依頼する。ゴルゴとの 面会場所がホテルの一室で、頼んでもいないルームサービスを追い返す間にゴルゴがいつの間にか部屋に入っている、やっぱり壁に背をもたれ、挨拶の握手など 一切しない、という原作でもおなじみの登場をしてくれる。でもやっぱり、実写で大真面目にこれをやられると、なんかコントかパロディを見せられてる気分に もなっちゃうんだよな。

 依頼を引き受けたゴルゴに、「お目付け役」としてキャサリンという白人女性の捜査員がつく。で、まぁこれがその、「報酬」の一部みたいなもんだった、っ てことでベッドシーンもあり。これも原作同様で、当時の予告編とかビデオのパッケージの煽り文句でもこの映画の「売り」にされていたのだが、まぁ期待させ た(?)割にアッサリなもの。ただ、高倉健のベッドシーンって案外珍しいんじゃないかな。同じ佐藤純弥監督の「君よ憤怒の河を渉れ」でもそういうシーンがあって、あちらは(女性は代役)ずっと濃いめだったっけ。
 しかし一夜明けたら、ゴルゴはキャサリンをベッドに置き去りにして、とっととイランへと飛んでしまう。キャサリンもすぐに後を追いかけ、案外あっさりとゴルゴの泊まるホテルを突き止めてしまうのだが、「どうして分かった」と聞くゴルゴに「デューク東郷って名前で泊まってたから」と答えたのには笑ってしまった。いや、原作でもゴルゴってなぜか「デューク東郷」の名前を隠しもしないであちこちで使うんだよね。あの極端に用心深いゴルゴのおかしな行動で、映画だとかなり強烈なツッコミに見えてしまう。

 今回の依頼は謎の犯罪組織、しかもターゲットとなるボスはどこの誰かもわからない。イランに入ったゴルゴは原作でもよくあるように現地の情報屋に調べさ せたり、自分から敵につかまって体を張って情報集めしたりといろいろやってくれる。拷問シーンで健さんが披露する上半身はほんとに鍛え上げられていて、こ こは結構リアル(ベッドシーンでも披露してくれた)。 敵もさるものでボスの影武者を使ったり、相手がゴルゴではないかと気づいて凄腕の殺し屋たちを雇って対抗させたりするんだけど、どいつもこいつもゴルゴの 前では、という連中ばかりであまり盛り上がらない。失礼ながらそれらを演じる俳優さんたちも似たようなヒゲ面ばかりで日本人には見分けがつきにくく、「あ れ、こいつさっき死ななかったっけ?」ということも何度か(笑)。

 終盤になってくると砂漠地帯でのカーチェイスやらヘリからの銃撃と撃墜やら、日本国内映画ロケでは難しい頑張ったアクションシーンも展開される。目的追及のために冷酷非情に徹するゴルゴ像も一応は再現されてるけど、実写でやってみるとやはり嘘っぽくなっちゃうんだよな。
 ほぼ全編イランロケで、資金面以外でも現地俳優・スタッフ入り混じった撮影体制など、いろいろと困難な撮影状況だったことは推察できる。監督の佐藤純弥はいわゆる「職人系監督」で、「新幹線大爆破」など高倉健と組んだ例も多い。その演出スタイルはおおむね平均点的平板というか…ただ現場を和やかにまとめて大作映画を無事作っちゃうという人徳面は確かな人だったらしく、「未完の対局」「空海」「植村直己物語」「敦煌」「おろしや国酔夢譚」など海外ロケ大作を次々と任されたのもそのためだったみたい。「ゴルゴ13」はそんな佐藤監督路線のはしりだったとも思える。

 あとこの映画、1979年に起きた「イラン・イスラム革命」の少し前のロケ撮影のため、革命前のイランの情景を知ることができるという、思わぬ価値も 持っている。イラン革命以前のイランはパーレビ王制下でアメリカ資本が入ってかなりアメリカナイズされていて、革命後では見られなくなった服装・風俗など が背景としてフィルムに記録されているのだ。
 この映画公開から6年後にイラン革命となるわけだが、すでにこの時期にも革命勃発に向けた社会の矛盾、不満の鬱積はたまってはいたのだろう。もちろんこ の映画の映像からそれが見えるわけではないが、そういう時代の映像なんだと思うと、この映画、また違った見どころを持ってしまう。

 脚本は原作者であるさいとう・たかをとK・元美津が クレジットされている。もともとさいとうプロは映画的な集団分業体制がとられていて、「脚本家」も多数存在してストーリー作りを担っている。だからこの実 写映画版でもさいとうプロ側が脚本を作成したのだが、東映側が「このままでは映画にはならん」と判断してあちこちいじったようだ。原作サイドはその結果で 映画自体も失敗したととらえていたようで、のちにこの時作られた脚本を書籍で公表してもいるそうで。
 その脚本は未読なので推測でしかないが、特に映画の終盤の展開が東映サイドで大きくいじられたんじゃないかな、と。この終盤が砂漠地帯や遺跡でのだらだ らとした展開で、車も失ったゴルゴがただ一人延々と砂漠を歩き続けた末にターゲットの別荘にたどりつき、問答無用でいきなり狙撃して話はオシマイ。初見時 にも思ったことだが何がどうなって手規模ボスの居所がわかったのか全然伝わってこない。現地ロケでいろいろやりたくてもできないことがあって、ああいう終 わり方にするしかなかった、ということじゃないかと今回見直してみて改めて思った。(2023/9/3)

 

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