「レオン」 LEON 1994年・フランス/アメリカ |
〇監督・脚本:リュック=ベッソン〇撮影:ティエリー=アルポガスト〇音楽:エリック=セラ〇製作:パトリス=ルドゥー |
ジャン=レノ(レオン)、ナタリー=ポートマン(マチルダ)、ゲーリー=オールドマン(スタンフィールド)、ダニー=アイエロ(トニー)ほか |
この映画も公開からはや四半世紀か…と、久々に鑑賞してから航海年度を確認してちょっと驚いた。この映画で鮮烈な登場をした「天才子役」ナタリー=ポートマンが今やベテラン大女優の風格になっちゃってることを思えば当然なんだが。なお、僕はこの映画を公開時に気になりはしながらも見逃し、あとで自作の某時代劇漫画作品について、ある人から「『レオン』に似てるね」と誉め言葉として言われたことがあり、それから慌ててレンタルで見た、という経緯がある。今回はそれ以来の鑑賞となるのだけど、見たのは数年前にBS民放で放送した者を例によって録画したまま放置していた「レオン完全版」の吹き替えバージョンだ。「完全版」があるというのもこれを録画した際に知ったような。 監督はリュック=ベッソン。すでに「ニキータ」を作ったあとで、そのハリウッド版リメイクが作られるほどにもなった。それまでのフランス映画のイメージを破る、むしろハリウッド映画的な普遍的アクション映画を作る人、というイメージがすでにあって、この「レオン」も基本的にはその路線。今回もプロの殺し屋が主役で、舞台はニューヨーク。セリフも全編英語。資本も入ってよりハリウッド映画チックな大作になった。一番最初に「ゴーモン」というフランスの映画配給会社のロゴが出てから英語映画が始まる、というのが結構新鮮だったりした。このあとベッソン監督はそのゴーモンロゴから始まるハリウッド映画風映画を「フィフス・エレメント」「ジャンヌ・ダルク」と連打して、僕もそれらに公開時から付き合うようになった。 さて「レオン」である。冒頭いきなり、殺し屋レオンが依頼を実行、犯罪組織のボスのいるホテルを襲撃する場面から始まる。ジャン=レノ演じるレオンはゴルゴ13みたいなスイパーでもあるようだけど、映画の中では特殊部隊風の、というより忍者みたいな、姿をめったにみせない神出鬼没ぶりを発揮している。この冒頭の大量殺し(相手のボスではなくその部下のほとんどを抹殺する)もレオン当人の姿はめったに映らない。最後にボスの首にナイフをつきつけつつ依頼人からの電話をつなぐと、音もなく消えてしまう。とにかく恐るべき殺しのプロなんだ、ということをこの最初のシーンで観客に強烈に見せつける。 この冒頭の数分間は、階段やエレベーター、シャッターなど建物の構造物を巧みに使ったアクション映像がポンポン出て来て心地よい。アメリカが舞台の話なのに、建物内がどこかおフランス風に見える(いや、フランスの建物内をそんなに見てるわけじゃないんだけどさ)と思っていたら、室内シーンはフランスのスタジオセットで撮ってるとかで、そういうところ、作り手の文化的クセが出てしまうのだろうな。 そのレオンだが、日常生活はフツーといえばフツー。まあいかにも殺し屋みたいな日常生活をしていちゃダメだろう(笑)。イタリア人街のアパートに一人暮らしで、毎日牛乳を飲み、体の鍛錬をし、そして唯一愛情を注ぐ対象として植木鉢に植えた観葉植物をことのほか大切に育てている。そうそう、唯一の趣味として、名画座(といっていいのか分からんが)で古い映画を鑑賞してたりもするんだよな。 そんなレオンと同じアパート、同じフロアに住んでいる13歳の少女マチルダ(演:ナタリー=ポートマン)。父親と継母、姉と弟の五人家族だが、姉と弟は母親違い、姉とは毎日喧嘩ばかり、若い継母にもなじめず、父親はひそかに麻薬売買に手を染めていて、マチルダ自身もタバコを吸ったり学校から抜け出してきた李ですかりグレ気味。 そこへある日、麻薬取締官でありながら麻薬場密売に手を染めているスタンフィールド(演:ゲーリー=オールドマン)が部下たちと共にマチルダの家に押しかけてきて、マチルダの家族を皆殺しにしてしまう。たまたま買い物に出ていたために難を逃れたマチルダは、我が家の玄関で異変を察知、スタンフィールドたちに気づかれないようにレオンの部屋に逃げ込むことになる。 かくしてレオンとマチルダの、明らかに父娘ほど年の離れた二人の、どこか奇妙な共同生活が始まる。レオンが殺し屋だと知ったマチルダはレオンに「弟の仇」をとってほしいと依頼するが、さすがにヤバい話でもあるのでレオンは受けない。するとマチルダは「自分に殺しのやり方を教えて」と言い出す。当然渋るレオンだったが、銃で「ロシアンルーレット」の賭けまでやり出すマチルダの無茶ぶりに振り回される形で、ホテルを転々としながら彼女に「殺し屋教育」をほどこしてゆく。 前述のように僕が今回見たのは「完全版」で、最初の公開版と比べると22分の追加シーンがある。「追加」といってももともと撮ってあったけど削除されていたシーンが復活したということなんだが、その多くがレオンとマチルダの共同生活シーンに集中してる。最初の公開版では遠距離射撃による暗殺の練習シーンだけがあったが、「完全版」では薬物の売人などいろんな「悪人」の家に押し込んで二人で次々殺しの練習をしてゆくくだりがあり、レオンはかなり実践的に殺し技術を教えていて観客も勉強になる(笑)。さすがにマチルダに実弾を撃たせて本当の殺しはさせないのだが、その直後にあっさりとレオンが相手を殺しちゃうブラックな笑いを含んだシーンもあって、ここらへんが特にアメリカ映画としては倫理的に引っかかるということでカットになったんだろう。 またこの映画の大きなテーマ、年の離れた二人の恋愛感情の表現も「完全版」の方がより深入りしている。といっても僕もどこが追加シーンだったか確証がないんだが、マチルダが酔っぱらってしまうとことか、別に何かするわけじゃないんだが一緒のベッドに寝るシーンとか、その辺が最初の公開版ではカットされてたんじゃないかと。 オジサン殺し屋に本気で恋しちゃう13歳の少女、というそもそもの設定自体に結構ヤバさがあるんだよな。親子と思って泊めたホテルの受付に、わざわざ「愛人なの」と色っぽく白状したり、ベッドに寝そべって下腹部をさすって「このへんが熱いの」とささやいたり…いやぁ、ナタリー=ポートマンもよく演じちゃったものである。なんでも2000人くらいの中からオーディションで選ばれたそうで、もうとにかくどの場面でもバッチリとハマっていて凄い。この映画のあと「ロリータ」リメイク版にオファされたそうだが、無理もない。ま、あんまりその手のイメージがついてはマズイと思ったか断ってるけどね。 一方のジャン=レノも、すでに個性派俳優として「ニキータ」で怪演を知られていたが、この「レオン」でのカッコよさで一気に世界的存在となった。決して美男子ってわけじゃないが、渋いオジサンの魅力たっぷり。日常生活では世間慣れしてなくて、どこかぎこちない、不器用そうなオッサンなんだが、殺しの場面ではホントにプロ。丸く小さなサングラスかけて目を隠すとこんなに怖くなっちゃう。このギャップがこの映画を面白くしてるんだが、ずっと後に日本のトヨタのCMでまさかの「ドラえもん」役で出てしまったため、今見ててもそのイメージが重なってしまい、ついついニヤニヤしちゃうんだよな。 これも「完全版」だけだったっけ?レオンとマチルダがホテルでひまつぶしに。「スターものまねなぞなぞ」をやるシーンが映画マニア心をくすぐる。マチルダがマドンナ、マリリン・モンローやチャップリン、ジーン=ケリーなど有名スターのモノマネをやるんだけどレオンはジーン=ケリー分からず、逆にレオンがジョン=ウェインのモノマネをやるとマチルダがわからない、という場面。序盤でレオンが名画座で古い映画をうっとりと見てるのはこのシーンへの伏線だったわけだ。それにしてもナタリー=ポートマンがすっかり大女優となった今ではこのシーンは映画史的に実に美味しい「お宝映像」となった。このほかにも「俺たちに明日はない」とか「テルマ&ルイーズ」への言及もあった。 おっと忘れちゃいけない。この映画でその強烈な個性を見せつけたのが悪役を演じたゲーリー=オールドマン。麻薬取締官のくせに自ら麻薬密売に関わり、しかもヤク中。突然キレて何をしだすか分からないし、キレるまでもジワジワと相手を怖がらせて行く、正直そばにいてほしくない生理的にヤになるヤバいキャラ(部下たちも明らかに怖がってるよね)を見事に演じてしまった。特に「レオン」でのこの役が強烈だったせいか、その手の役がよく回る俳優さんになっちゃうのだが、同じ年にベートーヴェンまで演じているというカメレオン役者でもある。 僕は「レオン」以前に「JFK」でのオズワルド役で彼の名前を覚えた。歴史上有名な実在人物で、しかも最近の人物で写真や映像等でそのイメージが広く知られている難しい役を、なりきり状態でこなしているこの役者さんを、僕がわざわざその名を覚えてしまうほどの強い印象を遺してくれた。そのはるか後に、ほとんど別人といっていいほどの凄いメイクで、やはり良く知られた実在人物であるチャーチルを演じてアカデミー主演男優賞をとることになるんだけど、このころは「レオン」みたいなヤバい人の役が多かった。あ、リュック=ベッソン監督の「フィフス・エレメント」にもそんな役で出たっけね。 このあと、ラスト関係に触れる部分もあるので、ネタバレ回避の方はよろいく。 クライマックス、本物の特殊部隊がレオンとマチルダのいるホテルに突入してくる。ここでは冒頭と違い、相手も「プロ」なので、レオンのたった一人の戦いは壮絶。しかもマチルダは逃がさなきゃいけないし。冒頭同様に神出鬼没の戦いを展開するレオンに特殊部隊もさすがに手を焼くのだが、最終的には数と装備でレオンに勝ち目はない。そこをうまいこと…と思わエる展開になってから、ああなって、ああなって、そしたらきっちりとああなって…途中でちゃんと伏線があるんだよな、これが。と、一応ここでもネタバレ回避にしておきます。 もっとも劇中たびたび出てくる「観葉植物」の存在から、ラストをどうするか何となく見当つくよね。「根無し草」みたいな言葉はあちらでもあるんだな、と植木鉢から地面に植え替えるシーンで思った。資本的にはアメリカ映画でもあるんだけど、やはり作り手がフランスなので、やはりハリウッド製とは一味違う、ブンガク的というのかな、ヨーロッパ映画伝統の、鑑賞後に何かが深く心に残る映画となった。(2019/4/10) |