「OK牧場の決斗」 Gunfight at the O.K.Corral 1957年・アメリカ |
〇監督:ジョン=スタージェス〇脚本:レオン=ユリス〇撮影:チャールズ=ラング〇音楽:ディミトリ=ティオムキン〇製作:ハル=B=ウォリス |
バート=ランカスター(ワイアット・アープ)、カーク=ダグラス(ドク・ホリデイ)、ロンダ=フレミング(ローラ)、ジョー=ヴァン=フリート(ケイト)、ライル=ベトガー(アイク・クラントン)、デニス=ホッパー(ビリー・クラントン)ほか |
NHKのBSで放送していたのを録画、数か月放置ののちに見た。この映画自体はずいぶん前に見ていて、二度目の鑑賞となったのだが、さすがに細部、いや大筋までもかなり忘れてしまっていた。 さて「OK牧場の決斗」である。題材は1881年10月26日にアリゾナ州トゥームストンで実際に起こった有名な事件で、西部劇映画の素材として何度も映画化されてきた。そういう意味では日本における忠臣蔵とか仇討ち話ものに似た存在だ。そうした映画の多くが史実とはずいぶん離れている、という点でも忠臣蔵に似てる。 「OK牧場の決斗」以前ではジョン=フォード監督の「荒野の決闘」が同事件を扱ったものとして有名で、僕の父などはいまだにこの二作の出演者をゴッチャにしてる(笑)。方や白黒、方やカラー、方やヘンリー=フォンダ、方やバート=ランカスター、方やビクター=マチュア、方やカーク=ダグラスといった違いがあって、原題が「我が愛しのクレメンタイン」で叙情的な西部劇になっている前作に対し、こちらは原題が「Gunfght at the O.K.Corral」とあるように割と殺伐としたアクション重視西部劇となっている。 なお原題にある「Corral」は、馬などをとめておく駐車場みたいな「囲い場」のことで、牧場などでは決してない。この映画の最後の決闘場面を見てもそれは明らかなのだが、日本で公開する際に「牧場の方は分かりやすい」とあえて「意訳」し、それが定着してしまった。このため史実の事件の方まで「OK牧場」ということになり、ガッツ石松が「OK」のあとに「牧場」とつけるようにもなってしまった(笑)。 僕が以前何かで読んだ話では、この「OK牧場の決斗」は「荒野の決闘」と同じ事件を扱いながら、ずっと史実に忠実だということだった。調べてみればこの映画だってかなり創作だらけであるのが分かるのだけど、西部開拓時代のガンマンたちの、その日その日無事に生き延びられるかという殺伐とした日常をリアルに描いているのは確かだと思う。ま、この辺でもジョン=フォード流と好みが分かれるところだろう。 映画が始まると、「オ〜ケー〜コラ〜ル♪オ〜ケ〜コラ〜ル♪ガ〜ンファイト アット オ〜ケ〜コラ〜ル♪」と主題歌が高らかに流れる。タイトル連呼だけでなく、西部の町の無縁墓地に殺し屋どもが横たわる、といったなかなか物騒な歌詞であると同時に話の随所で「語り部」の役割も果たす。昔読んだ映画本で「浪花節」って言ってる人がいたけど、それよりずっと殺伐とした歌だ。 この主題歌とキャスト・スタッフ表示が流れるなか、三人の男たちが馬に乗って西部の町へとやって来る。この三人のうち誰かが主役なんだろうと思わせといてさにあらず、この三人、ただのチンピラであり、うち一人が本作の重要人物であるドク・ホリデイ(演:カーク=ダグラス)に兄貴を殺されていて、その仇討ちを狙っている。そしてドク・ホリデイが主人公より先に登場、彼の過去やら現状やらを恋人(?)のケイト(演:ジョー=ヴァン=フリート)とのやりとりで語られる。主人公のはずのワイアット=アープ(演:バート=ランカスター)は思いのほか地味にひょっこり登場していて、どうもこの映画、明らかにドクのほうが主役を食っちゃってる感じなのだ。 この文を書いてる2019年末現在も100歳を超えてご存命のカーク=ダグラス演じるドク=ホリデイは、「荒野の決闘」の時よりもキャラ立てが細かい。結核もちの元歯科医の凄腕ンマン、というだけで実にキャラが立つ人なのだが、この冒頭部分でかなりの良家の出身で(そりゃ医師になれるくらいだから)、そこから酒と病とギャンブルと女(もかな)で身を持ち崩して、どうせ先も長くないと自堕落な生活を送っているけど、過去のプライドと両親への敬意は厚い(両親の写真を見るシーンなんてすっかり忘れてた)。 そんなドクに対してイチャラブなんだかツンデレなんだかという絡み方を延々続けるケイトの存在がまたいい。一方のワイアット=アープの方にもローラ(演:ロンダ=フレミング)という恋人が出て来て、こちらは女一人で西部を渡り歩く賭博師という設定は面白いんだけど、結局あんまり存在感ないんだよな。どちらのヒロインも実在ではないのは「荒野の決闘」と同じだが、こちらは「荒野の決闘」を意識していろいろいじった結果としてこうなってるような気もする。 で、この映画、最終的にOK牧場の決斗に至るのだけど、そこまでの展開はいわばワイアットとドクの腐れ縁友情ドラマである。史実でもそうだったがドクはこの映画では札付きの殺し屋、ワルとして悪名高く、ワイアットの兄弟たちも「あれとは付き合うな」と言うほど。そんなドクに、保安官であるワイアットは初めのうちは嫌ってるような態度を見せるが、なぜかお互いに悪口を言い合いながら気があってゆき、しまいにはドクが「どうせ死ぬなら友人のそばで」とまで言って決闘の助っ人に行ってしまうほどになる。 だいたい保安官をやってるとはいえ、ワイアットだってドクや、最後に決闘するクラントン一家と立場はそう変わらない。最初に保安官として町に来る場面でも、ベテラン保安官のコットン(演:フランク=エイレン)から「お前も以前は荒くれ者で有名だった」と言われている。史実としてもOK牧場の決闘は保安官対悪党たちではなく、アープ家とクラントン家の個人的対立による「私闘」というのが実態(後述するが実際裁判にもなった)だったとされ、ワイアットだって決行ワル、というのが言い過ぎなら、映画の中の悪党どもとそう立場は変わらない、とは言えるのだ。 この映画でも作り手はそれを承知していて、随所にそう思わせるセリフがあるし、演じるバート=ランカスターのどっちかというと悪役風の男っぽさもあって、彼が単純な正義の側ではないことは伝わってくる。それでも映画として主役側をそう悪く描くわけにもいかず、例えばクラントン一家の末っ子ビリー(演:デニス=ホッパー!若い!)をなんとか助けようとする描写など人情家な側面も見えている。このときにビリーに説教する際、「ガンマンの孤独」を切々と語る部分、同じスタージェス監督の「荒野の七人」でもくりかえされている(これは原作の「七人の侍」にもあったからだけど)。 一見カッコいいけど流れ者ガンマンなんてロクなもんじゃないぜ、と語るワイアット=アープ。そんな彼もローラに恋して結婚して身を固めようともするのだが、兄貴の苦難を助けるために彼女を捨ててしまう。ドク・ホリデイもまたケイトとのくっついたり離れたりをやりつつも、「いつか俺より早い早撃ちに打たれて死にたい」と言い、結局はケイトの制止も振り切って「死ぬなら友人のそばで」と病身をおして決闘の助っ人に駆けつけちゃう(それでいて決闘では病気はどうした状態だが)。そういった流れ者ロクデナシ連中の義理と人情を描く…なんて書くと、日本の任侠映画に通じることも分かって来るな。結核病みで血を吐く達人、ってドクのキャラだって、沖田総司だの平手神酒だのといった日本のキャラによく通じている。 ラストの「OKコラルの決闘」は、タイトルで「ガンファイト」と言ってるように、とことん激しい銃撃戦。史実では決闘でもなんでもなく、武装解除を求めて撃ち合いになっちゃった、というかなり偶発的な銃撃戦だったというが、この映画ではやはり決闘風味。ワイアットとその兄弟二人、それにドクの四人が横一列に並んで決闘の場に向かっていくシーンは、もうそのまんま西部劇史上の名場面。ずっと後に「最後の西部劇」の異名をとる「ワイルドバンチ」のラスト直前でもこれをそのまんま真似してるもんね。 クライマックスの「決闘」あるいは「ガンファイト」、改めて見ると結構長い。Youtubeで発券した、かつての日曜洋画劇場の解説で淀川長治さんが「実際には30秒で終わったそうですが、この映画では延々10分以上もやってる」と言ってるように、実際にはすぐに終わった銃撃戦を、あの手この手で引き延ばし、場面をドンドン転換させて盛り上げている。まぁタイトルにしてるくらいだから、すぐに終わっちゃもったいないもんね。 ちょいとネタばれを書くと、最初の方で出て来た、ワイアットも尊敬していたベテラン保安官のコットンが、保安官を引退してクラントン一家に雇われるも、決闘が始まると中立をとなえて撃ち殺されてしまう展開がある。調べた限りではこの人も全くの創作のようだが、ここまで書いたように保安官になるような人間でも実質悪党側と変わらなかったりしていた時代を感じさせるし、ガンマンという生き方が結局は安寧など得られないということを象徴させるためのキャラ、ということなのか。以前見ていたはずなのにこんなキャラのことはすっかり忘れていたので、あまりうまい創作ではなかったとも思うんだけど、今回の鑑賞では妙に印象に残ってしまったのは、見る側の目の付け所が変わって来たということかも。 決闘は史実の読檻に終わり、「荒野の決闘」と違ってドクも健在。咳込んではいるが相変わらずトランプ一人ゲームとバクチという日常に戻っている。そんなドクと、表面的にはさりげなく別れてゆくワイアット。このさりげなさもまたこの映画の特徴で、例によって浪花節調の主題歌と無縁墓地をバックに、ワイアットは馬に乗って去ってゆく。ローラは果たして待ってくれているのか、まぁ話の流れからすると彼に安寧の人生なんてないような気がしちゃうけどね。 なんだかんだで西部劇史上の傑作・ヒット作として有名になったこの「OK牧場の決斗」、監督のジョン=スタージェスはこのあと「荒野の七人」「大脱走」などを手がけて大韓滔にのしあがっていくのだけど、どうも「OK牧場」についてはやり残し感、不満感が強く残っていたようで、より史実に近づけてドライかつ殺伐に事件を再構築した続編のような一本「墓石と決闘」を撮ることになる。それについては同時にアップしたそちらの項目で。(2019/12/11) |