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「ルパン三世ルパンVS複製人間(クローン)

1978年・日本
○監督:吉川惣司○脚本:吉川惣司/大和屋竺〇作画監督:椛島義夫/青木悠三○作画監修:大塚康生○撮影:黒木敬七〇美術:阿部行夫○音楽:大野雄二〇原作:モンキー・パンチ○製作:藤岡豊
山田康雄(ルパン三世)、小林清志(次元大介)、井上真樹夫(石川五エ門)、増山江威子(峰不二子)、納谷悟朗(銭形警部)、富田耕生(警視総監)、大平透(スタッキー)、柴田秀勝(ゴードン)、飯塚昭三(フリンチ)、西村晃(マモー)ほか




 「ルパン三世」の長編アニメ映画の第一作(実写映画ではこれ以前に「念力珍作戦」がある)。そのため本来のタイトルは「ルパン三世」だけ。のちに他の劇場版と区別する必要からビデオ化の際に「ルパンVS複製人間(クローン)」というサブタイトルがつけられ、それが通称として使われている。
 1978年という時期はTV第二シリーズの「ルパン三世」が大人気になっていて、その勢いに乗っての劇場用長編新作製作だったという。映画中で使われる音楽は完全に第二シリーズのものと同じ(特にシリーズ後半で聞かれたもの)で、ルパンのジャケットもまっ赤っか。もちろんレギュラーキャラの声優たちも同じなので、雰囲気はTV第二シリーズに似てはいる。だがこのアニメ映画第一作は企画段階からTVとは違った「大人向け」を意図していて、TVシリーズに比べると特にお色気要素がふんだん(ってほどでもないか)に入っていて、モンキー・パンチによる原作漫画の雰囲気に近いものとなっている。
 2019年4月11日にモンキー・パンチ氏が死去、4月17日に公表されたことを受けて、「ルパン三世」アニメ作品を放送してきた金曜ロードショーが19日放送予定を変更、この「ルパンVS複製人間」を追悼企画として放送した。追悼企画ならモンキー・パンチ本人が監督した劇場版「DEAD OR ALIVE」にすりゃいいのに、と思ったものだが、これまで繰り返し放送されてきた本作のほうがよかろうと判断したのだろう。テイストも原作の雰囲気に近いのは確かだし。

 「ルパン三世」のアニメ劇場版というと、なんといっても宮崎駿監督の「カリオストロの城」が有名でこれまた金曜ロードショー枠で何度も放送されてるが、その陰に隠れがちながら、この一作目も結構評価が高い。先述のように製作姿勢からして大人向けの原作風味を志向したため原作ファンは「カリ城」よりこっちを支持すると言われている。実際興行的にも成功していて、その点では「カリ城」に明らかに勝っていた。

 冒頭いきなり、ルパンが処刑台をあがっていって絞首刑になるというショッキングな描写から始まる。その死を信じない銭形警部(演:納谷悟朗)がルパンの眠る棺のあるルーマニアのドラキュ城にやってくる。そこにルパン三世当人が姿を現し、どういうわけか自分が二人いるらしいということを銭形に告げてコウモリのような飛行装置で逃げてしまう。ルパンが生きていたことに大喜び(?)する銭形が拳銃を連発、その一発が画面に穴をあけて、おなじみ「ルパン三世」のロゴが出現してオープニングだ。こういうところもなかなかアッコイイ。

 TV第二シリーズはルパンたちが世界中を駆け巡る設定になり(原作・第一シリーズはそうではなかった)、この映画版でも最初のドラキュラ城から始まってエジプト、パリ、カリブ海、コロンビアと世界各地が舞台となり、映画版ならではの豪華感がある。製作側では「007」シリーズを意識したと言ってるのも納得だ。
 エジプトのピラミッドの中から「賢者の石」を盗み出したルパンは、それを峰不二子に例によってまんまと奪われるが、実はそれも盗聴器つきのニセモノで…となかなかスピーディーに話が進む、パリの街で謎の組織に次から次へと襲われる場面もおういえば「007」っぽい。山道のチェイスシーンも「カリ城」に先駆けてこっちでもなかなかのものをやってるし(これだって「007」に元ネタがありそう)、そのあとで巨大トレーラーに追いかけまわされるくだりは明らかにスピルバーグの「激突!」(日本では1973年公開)のパク…オマージュというやつだろう。

 こうした大チェイスのあとの中休み部分では、ルパン・次元・五エ門の三人のチームワークに乱れが生じる。これは長編作品ならではの展開だし、そのあとまたも賢者の石を狙ってやって来た不二子とルパンのキワドイ場面はTVではやりにくい。直接的にことに及ばないとはいえ、「がぜん暴力に訴えちゃうもんね」と強硬手段に出て、パンツも脱ぎ捨て(衣服から全裸で飛び出してくる謎の特技は第二シリーズのOPで見せてたけど)、オールヌードで床に激突、といった一連の場面は確かに原作チックなノリ。原作チックといえば、マモーがルパンの脳内を覗いたときに原作でよく使われる「♂」と「♀」の記号によるセックス表現がチラッと出てくるのだが、TV放映時はこのくだりはカットするのが恒例で今回もそうだった。同じく今回もまたカットされてるのがルパン・次元・五エ門の三人が徒歩で砂漠のようなところを延々と移動するくだり。いわゆる放送禁止用語が使われてる箇所があるためで、今回もカットされてて急に状況が変わるので「あれ?」と思った人も多いはず。

 この映画の敵・マモーは、原作漫画・アニメともに登場した「最強の敵」といえる「魔毛狂介」から採ったといわれてるけど、そっちの魔毛の方はタイムマシンを操る科学者だった。こちらは一万年の昔から自身のクローンをつくることで「永遠の生命」を得ているという「超人」だ、ルパンはマモーの起こさまざまな「奇跡」に対して合理的謎解きをいていくのだけど、それだけでは説明できない部分も出て来て、ほとんど「神」との対決になってしまう。この人物は世界を破滅させられるほどの核ミサイルを個人で所有していて、米ソ両大国からも危険視されている。そんなこんなでルパン三世史上最強の敵には違いないだろう。

 この最強の敵の要素に「クローン」が加えられているのは、当時の映画界が「スター・ウォーズ」に始まる大SFブームで、アニメ映画もSFもの花盛りだったから、という事情と、当時「クローン」がSFから現実味を帯びて来て、とりあげるフィクション作品も多くなり一種の流行になっていたかららしい。クローンテーマで有名な「ブラジルから来た少年」映画版も同年だ、ただ本作でクローン作成を繰り返し作ってるうちに「コピー劣化」が起きるので本当に「永遠の命」というわけでもない、というのは先駆的言及だったようだ。一方で冒頭で処刑されたルパンはクローンだった、ということになってるが、現在の案が得方ではクローンといえどもオリジナルと年齢や記憶まで全く同じというわけにはいかず、遺伝情報が同じというだけで「別人」になるということになる(一卵性双生児だってクローンだもんね)。この辺、「火の鳥・生命編」にも共通していて、当時クローンがどのようにとらえられていたかよくわかる。

 この映画、長編だけにレギュラーキャラクターたちの描写がより細かい。ルパンの相棒である次元や五エ門がルパンに対して通り一遍ではない友情をみせるところも泣かせるし(銃撃してまでルパンを止めようとする次元!)、五エ門とフリンチの対決シーンの、「画面が斬れてズレる」名シーンも忘れ難い(「北斗の拳」での胴体の似たような切れ方を思い出す)。この決闘がクライマックスの伏線にさりげなうなってるところもウマい。
 不二子もいつものようにルパンを裏切ったり利用してるようでいて、ルパンに対する女心を率直に見せたりもする。特に、このあとの「カリ城」以降お約束になってしまった「ゲストヒロイン」が登場しないため不二子がちゃんとヒロインの地位につけているのもポイントが高い。ラストのキスシーン&「ボタン押し」シーンなんか、この映画でしか見られない不二子の名シーンといっていい。
 銭形警部はいつもの調子と言えばその通りだが、この映画版では世界をまたにかけた執念の追跡ぶりがよけいに目につき、上司の警視総監が出てきて日本料理で苦労をねぎらわれたり、この映画だけの設定ながら「としこ」という娘がいて妻子を放り足して世界を駆けまわっているというプライベートな部分もかいまみせる。そしてラストがルパンと手錠で足をつないだまま「仲良く」ミサイル攻撃からの逃亡…と、気づいたらこの映画、冒頭もラストも銭形とルパンなんだよな。

 声の出演者を見るとレギュラーたちはこの当時の固定メンバーだが、悪役マモーに西村晃というのが面白い。実写映画だと小悪人的イメージがあるんだけど、このアニメでは妖怪じみた「神」にも等しい大人物を堂々と演じた。特別出演としてアメリカ大統領を赤塚不二夫、ソ連書記長を梶原一騎が演じるという不思議なキャスティングがあるが、これは当時製作元の東京ムービーが「天才バカボン」や「巨人の星」をアニメ化して社長の藤岡豊が両人と懇意であったからだと思われる。赤塚不二夫は目黒祐樹主演の実写版「ルパン三世念力珍作戦」でも企画に名を連ねていて(ただの名義貸しとの話もあるが)、、ルパン三世とはいくらか縁があったりする。

 まぁとにかくなんやかんやで盛りだくさん、最後の大爆撃に三波春夫の「ルパン音頭」がかぶることで、なおさら満腹感をもって映画を見終われる。モンキー・パンチ氏追悼なら本人の監督作で…と思った僕も、実際に見終えて見るとこちらの方が明らかに映画としての満腹感があるのが分かってしまった。両者、上映時間はだいだい同じなんだけどねぇ…。監督の吉川惣司は意外にも長編映画作品を監督したのはこれ一本きり。脚本も吉川氏一人で書いていて、TVシリーズのメイン脚本家だった大和屋竺は連名になってるけどチェックしてそのままOK出しただけだったという。アニメというだけでなく、一本の映画として高い構成力・演出力を示した一本で、これきりというのがもったいない。

 で、この映画は興行的に大成功して続編製作がきまるのだが、本来大人向けのつもりだったこの映画、実際の客はTVアニメを見ている子供達が多かった…ということで続編は子供向け路線ということになり、そしてあの「カリ城」が生まれるがこちらは一部に熱狂的評価を得ながら興行的に不成功になるという、映画だけじゃないけど世の中いろいろ狙い通りにはいかないもんで。(19/5/9)


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