「ルパン三世DEAD OR ALIVE」 1996年・日本 |
○原作・監督:モンキー・パンチ○脚本:柏原寛司○アニメーション監督:矢野博之○キャラクターデザイン・総作画監督:江口摩吏介○撮影:長谷川肇○音楽:根岸貴幸○テーマ音楽:大野雄二○製作総指揮:漆戸靖治 |
栗田貫一(ルパン三世)、小林清志(次元大介)、井上真樹夫(石川五エ門)、増山江威子(峰不二子)、納谷悟朗(銭形警部)、高山みなみ(オーリエンダー)、千葉繁(スパンキー)、横山智佐(エメラ)、古谷徹(パニシュ)、野沢那智(クライシス)、銀河万丈(首狩り将軍)ほか |
2019年4月11日に漫画家モンキー・パンチ氏が亡くなり、4月17日に公表された。これを受けて金曜ロードショーが予定を変更して劇場版「ルパン三世」の第一作「ルパンVS複製人間」を放映したが、僕としてはこの「DEAD ORALIVE」を放送すべきだったんじゃないか、と思ったものだ。なぜかと言えば本作は原作者モンキー・パンチが唯一アニメ版の「監督」をつとめた例だからだ。結局所有していた本作のDVDを引っ張りだして個人的な追悼鑑賞をした次第。翌日に金曜ロードショーも見たけどね。 「ルパン三世」の歴史は長く、はや半世紀に及ぶのだが、モンキー・パンチ自身による原作漫画が執筆されたのはごく初期の頃だけで、あとはアニメ独自の展開を遂げてきた。テレビアニメの第一シリーズは当初原作のムードに近い大人向けのつくりにしたら視聴率が悪かったため路線変更、子供向けにシフトしたつくりになって結果的に大ヒットシリーズに化けた。特にファミリー向け傾向が強かった第二シリーズの影響は大きく、その後の多くの映画版、スペシャル版、TVシリーズも基本的にはその路線を引き継いだ。ときどきモンキー・パンチの原作風味に戻そうとする動きがなかったわけではないんだけど、一時的な動きにとどまった(「峰不二子という女」あたりからまた原作調が出て来てるけど)。 とくに映画版では宮崎駿監督の「カリオストロの城」があまりにも名作で、宮崎監督の声望ともども年々評価が高まり、「ルパン三世」全体を代表する作品にすらなってしまってこの影響がまた大きい。モンキー・パンチ氏本人も何かで語っていたが、特に海外に行くと「ルパン三世」のファンだという人はかなりの確率で「カリオストロの城」を見てファンになったと話すという。だが「カリオストロの城」は「宮崎アニメ」の性格がかなり強く、特にルパン三世のキャラクターが原作とはずいぶん離れたものとなった。これが「ルパン三世」の代表とされることに原作者としては複雑な思いがあったのも確かなようだ。 じゃあ原作者自身でアニメを手掛けてみては、という声がモンキー・パンチ氏にかけられてもいたらしい。本人が本作公開時のインタビューで言ってるけど、まず手塚治虫から「どうしてアニメをやらないの」と強く言われたという。またTVシリーズを最初に手掛け「大人向け」のルパンを志向した大隅(おおすみ)正秋氏らもけしかけていたという。それでもモンキー・パンチ本人は「岡本喜八にやらせて」と言ってたらしい。実写の話なのかアニメの話なのか分からないが、「岡本喜八ルパン」というのは想像してみると楽しいものがある。 経緯は不明ながら、原作者自ら監督した「ルパン三世」アニメ映画はとにかく実現することになったのだが、さすがのモンキー・パンチ氏でもアニメ製作の実績はなく、実のところどういうふうに「監督」したのか、興味のあるところ。実写映画の監督がアニメをやってみた例もあるが(ルパン三世ではこれの前作劇場版がそうだ)漫画家という、アニメに近いような遠いような職業の人がやるだけにいろいろ難しさがあったと思う。漫画と違ってアニメは完全に集団創作作業だし… 当時の本人のインタビューを読み返してみると、まずこの映画の基本のアイデアとストーリーは原作者自ら作ったらしい。オープニングから前半くらいまではストーリーをちゃんと書いてあとは脚本家に任せたら、やっぱりそこから後が空気が違ってきてしまったと。それで脚本家とずいぶん叩き合ってシナリオを製作、アニメの方でもお任せにはせずチェックを入れて「ルパンはこういうことはしない」といった注文はつけてたようだ。しかし集団作業だしアニメは初体験だしでいろいろ思い通りにいかなかった空気も感じられる。「漫画なら話が分からなくなってもページを戻って読み返せるが、映画はそうはいかず、分かりやすくしなくちゃいけなかった」との発言もしていて、「でも『2001年宇宙の旅』だって分かりにくいから面白い」とも言ってるのが興味深い。 原作者自身が監督した効果として、キャラデザインは他のルパン三世アニメと比べるとかなり原作に近い雰囲気を出す独特のものになった。ルパンの顔つきもハードボイルドな空気が増してるし、作品ごとにデザインが大きく変わる不二子もかなり原作のタッチを生かしている。また銭形警部が顔もかなり渋くなり、劇中でもなかなかの凄腕ぶりを発揮する。TVシリーズではどんどんドジヤラ・お笑い担当にされてしまった銭形像に原作者は不満を持っていたそうで、銭形の解釈については「カリ城」が一番正しいと発言していたこともあり、本作では「凄腕刑銭形」がより推し進められている。すぐ逃げられるとは言え一作の中で二度もルパンを捕まえるしね。 映画本編の方も「いつもと違う」感じを出してはいる。タイトル前の監獄からの脱獄を実行するくだり、全体にダークかつ無国籍な雰囲気で、これは確かに原作漫画風味。所長に変装したルパンが脱獄させた囚人の口にダイナマイト入り(?)の葉巻の束を突っ込んで火をつけるという危険極まる描写があるが、これなんかも他のルパンアニメには見られなかった「ワル」なルパンキャラだ。この冒頭部分、とくに原作者兼監督が力を入れたのではなかろうか。現実にはありえないアクロバットな車の運転ぶりは他のルパンアニメで定番になってるが、本作の冒頭シーンは漫画家が「マンガじゃできないこと」を強く意識して作ったように感じたものだ。 このいきなり引き込む冒頭に続いて、本作の舞台となる「ズフ王国」に移る。中東っぽいけど国籍不明のこの国にやってきたルパンたちは、死んだ国王の莫大なお宝が埋まっているという「漂流島」へ潜入するが、「侵入者」を感知した防衛システムが作動、極小機械「ナノマシン」が大量の武器に姿を変えて襲か掛かって来る。このシーンもアニメならではの大アクションで、クライマックスでも効果的に使われるのだが、「アニメならでは」の面白さはこの辺までだったような…そういや原作者自身が最初に書いたストーリーも前半までだったみたいだしなぁ。 悪役はズフ王国の実権を握る恐怖の独裁者「首狩り将軍」(変な名前だがこれも原作者の意向っぽいな)。およびその冷酷な部下クライシス。この二人もお宝を狙っているのだが、財宝を守るナノマシンシステムを止められるのは、すでに処刑されていたパニシュ王子だった。ところがそのパニシュが実は生きていて、ズフで革命を起こそうと扇動を始める。そのパニシュの恋人で現在はクライシスの部下の特殊諜報員になっているオーリエンダーが、本作のゲストヒロイン。TVスペシャル版ではほぼ毎回こうしたゲストヒロインが出ていて、この映画版もそれを踏襲いた形なんだけど、どうも浮いてるんだよなぁ。他のスペシャル版でもいつも思うことだが、モンキー・パンチ的世界に合わないと思うんだよね、この手の美少女キャラって。 あ、そういえば首狩り将軍の「娘」のエメラなんてのも出て来てたけど、ほとんどストーリーに無関係のような… タイトルになっている「DEAD ORALIVE」は「生死を問わず」の意味で、話の中盤で首狩り将軍側がルパンを抹殺するべく「生死を問わず懸賞金」をかけて、各地から凄腕の賞金稼ぎたちが集まってくる、という展開とつながっている。ただこのアイデアは映画の中ではほとんど生きてなくて…ずっとのちにTVシリーズ「PART5」で似た設定が出て来てもっとうまく使っていた。 あと深い入りするとネタバレになるんだが、このタイトル「死か生か」という意味でとると、一部登場人物たちを示唆するものにもなっている。これがこの作品の二重のドンデン返しに絡んでいて…劇場で見た時結構驚かされた覚えがあるし、ルパンの得意技「変装」がこれまでになく効果的に使われた大技だと、あとで見返すとドンデン返しの仕掛けが見えてしまうとアラも目立つ。そこまでするか、と思えたところもあるし、そんな伏線もなくいきなり唐突な、と思ったのもあるし。 クライマックスの大アクションはアニメならではの面白さに満ちていてなかなか見ものなのだが、いくつか「やっぱりカリ城を意識したかなぁ」と思えるところもある。こっちはかなりハードボイルドで最後はまとめたのが上手かった。ああいう銃弾の使い方って、前例が何かあるのか気になってるんだけど。 モンキー・パンチ氏が監督した影響だろうと思えるのはこうした「ハードボイルド」な感じと、原作漫画の特徴である「時間経過の省略」「オチをなかなか見せない」の再現がある。映画中、二か所ほどしかないが原作漫画テイストの演出があって、原作を知ってる人は喜んだんじゃないかな(逆にアニメしか知らない人はピンとこないかも)。ラスト寸前の、銭形がルパンに逃げられるシーンなんかは典型的なモンキー・パンチ風味だが、その後のルパンアニメでもこうした演出は見られないなぁ。 今回改めて鑑賞して思ったんだけど、これ、劇場版としては物足りなさをどうしても感じてしまうんだなぁ。テレビスペシャルのやや豪華版くらいの感じで。モンキー・パンチ追悼企画で放送された劇場版第一作「ルパンVS複製人間」を直後に見たら、やっぱりこっちの方が盛りだくさんで見終えた時の満足感がある。それでいて、どっちも尺の長さはほとんど同じなんだよね。「DEAD ORALIVE」は中盤の展開が弱い、というかかったるく、ドンデン返し優先で構成に難があったかな、と。 そのせいかどうかは確認いてないが、それまで一応コンスタントに作られていた「ルパン三世」の劇場版は、本作をもって事実上終わている。近年になって一部作品が劇場公開もされてるけどボリューム的には「映画」とは言い難いし、名探偵コナンとのコラボ版だったりしてるから、今のところオリジナル長編アニメ映画としての「ルパン三世」はこれが最後になっちゃってる。それってやっぱり本作が興行的に不成だったからなのかなぁ。(19/4/25) |