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「壮烈第七騎兵隊」
They Died with Their Boots On


1941年・アメリカ
○監督:ラオール=ウォルシュ○脚本:ウォーリー=クライン/イーニアス=マッケンジー○撮影:バート=グレノン○音楽:マックス=スタイナー○製作:ハル=B=ウォリス/ロバート=フェローズ
エ ロール=フリン(カスター)、オリヴィア=デ=ハヴィランド(リビー)、アーサー=ケネディ(シャープ)、アンソニー=クイン(クレイジーホース)、ジー ン=ロックハート(ベーコン)、チャーリー=グレイブウィン(カリフォルニア・ジョー)、ハティ=マクダニエル(キャリー)、シドニー=グリーンストリー ト(スコット)、ジョゼフ=クレハン(グラント大統領)ほか




  カスター将軍。僕も名前くらいはだいぶ前から知っていた。たぶんだが、漫画「新デビルマン」でインディアンを虐殺する人物として出てきたのが僕にとっての 初見のはず。だから「カスター」という名前には最初から悪印象がついてまわっていた。やはり漫画では「火の鳥・ヤマト編」で唐突なギャグとしてカスター将 軍率いる第七騎兵隊がインディアンと壮絶な戦闘をするカットが描かれていたっけ。余談ついでだが、「必殺仕事人」シリーズのスペシャルで、アメリカ西部に タイムスリップした中村主水ら仕事人たちがカスター将軍らと戦うというとんでもない一本があったりして、やはりここでもカスターは悪役だった。

 今でこそ悪評ばかりが言い建てられるカスター将軍だが、かつてのハリウッド映画では定番の一つで、日本で言えば忠臣蔵なみに数多くの「カスター映画」が 作られてきた歴史がある。ジョージ=アームストロング=カスター将軍率いる「第七騎兵隊」は1876年6月25日に「リトル・ビッグ・ホーンの戦い」でイ ンディアン連合軍に敗北、全滅の憂き目にあったという史実は、アメリカ白人たちにとっては敗北の歴史のはずだがこれが「英雄的玉砕」ということになってし まって、西部開拓史上の名エピソードとして何度となく映画化され、カスター将軍も「悲劇の英雄」として祭り上げられ続けてきた。敗北の美化や玉砕賛美って 日本人の得意芸と思われがちだが、この「カスター将軍もの」映画と「アラモ」とかを見ているとアメリカ人もあれで案外おなじ気質を持ってるんじゃないかと 思ってしまうのだ。

 そんなわけで事前知識だけはいろいろあったが、カスター将軍ものの映画を見たのはこれが初めて。そもそもカスター将軍映画を見る機会自体がそうそうな い。NHKのBSシネマで「なつかし映画」の一本として放送してくれたおかげでようやく見ることが出来たのだ。カスター映画も数多いが、この「壮烈第七騎 兵隊」は中でも有名な方ではあるらしく、酒宴は戦前に海賊映画で名をはせた美男俳優エロール=フリン。序盤はそうでもないのだが、映画の後半に髪をロングにしてヒゲをはやすとカスターにそこそこ似てくる。「リビー」ことカスター夫人を演じるのはオリヴィア=デ=ハヴィランド。この女優さん、この時期やたらとエロール=フリンと共演、相手役をつとめていて、よく似たネタの「カンザス騎兵隊」でも共演しちゃってるそうで。オリヴィア=デ=ハヴィランドといえば、この映画より前に「風と共に去りぬ」でメラニー役で出演しているのが一番有名で、つい先日彼女が裁判で敗訴したというニュースがあって100歳を超えてまだ存命であることを知って驚いたものだ。なお役の上では恋人同士のことが多かったエロール=フリンから求愛されたこともあったが、彼の女癖の悪さ(フリンだけに)を理由に拒絶したとのこと。
 そうそう、「風と共に去りぬ」で黒人で初めてアカデミー助演女優賞をとったハティ=マクダニエルもこの映画に出演している。こっちでも似たような黒人乳母役で、メラニー役の女優さんが「風と」のスカーレットみたいな役回りになって掛け合いを演じている。

 映画はカスター将軍の一代記の形をとっていて、若き日の彼が陸軍士官学校に入学するところから始まる。ナポレオン時代の将軍にあこがれて古風で派手な軍 服で乗り込んできたため、学校側ははじめエライ将軍が来訪したと勘違いして敬礼して迎え入れたりしてしまう。これを皮きりにカスターはその型破りな性格か ら学校内で次々とトラブルを起こしてしまう。調べてみるとこれはおおむね史実だそうで、危うく退学になりかけていたそうである。 
 この士官学校時代に、のちに妻となるリビーと出会い、まぁチョコチョコとラブコメ風味のドラマも入る。しかし南北戦争が勃発したためカスターは即席の軍人となって命令に従い急遽出発を余儀なくされて、リビーとのデートもすっぽかすことになってしまう。

 南北戦争でカスターは北軍の軍人として活躍する。彼については対インディアン戦の話しか知らなかったが、その前に彼は南北戦争でかなりの大活躍をしてい(有名なゲティスバーグの戦いでも活躍してる)て、 この映画の前半ではそこが見せ場になっている。金モールのついた派手な軍服を仕立てたという逸話も史実だそうだし、何かと命令無視、あるいはスタンドプ レーな行動をとって結果的に「武勲」をどんどんあげてしまったというのもだいたい実話らしい。のちのリトル・ビッグ・ホーンの戦いで敗北する原因はこのあ たりから見えてるなあ、単にこのときはラッキー続きなだけだったんじゃないの、と見ていて思ってしまった。まぁ古今東西の「名将」の多くがそんなものなの かもしれないが。

 南北戦争で大活躍、英雄となったカスターは、めでたくリビーと結婚。しかし戦争以外にやれることもないカスターは、西部nおもむいてインディアン討伐の 騎兵隊隊長の職につく。ここでカスターは「文明」の名のもとにインディアンを「討伐」するわけだが、この映画ではさすがにその辺はさらっとまとめて流し、 これらの戦いの末に合衆国とインディアンの間で講和が成立、お互いの縄張りを決定して、インディアンたちの聖地「ブラックヒルズ」に白人は立ち入らないこ とが約束され平和がもたらされる…という描写になっている。

 この映画、見る前の予想と違っていたのは、インディアンたちは決して悪くは描かれないという点。インディアンを西部劇の悪役にしなくなったのは1960 年代以降かなと思っていたのだが、1941年公開のこの映画でのインディアンの描写は当時といてはかなり良心的な方に見える。インディアン、スー族のリー ダーでカスターを斃したことでその名を残す「クレイジー・ホース」を演じるのは、まだ駆け出し時代のアンソニー=クインで、 早くもなかなかの貫録を見せている。クインはメキシコ出身で、確かインディオの血も入っていたように思うのでインディアン酋長役は当たっていたところでは あるのだろうが、その後この人はイタリア人、アラブ人、フン族などなど民族多彩な役を演じていくことになる。ネット上で調べたところでは、クイン以外のイ ンディアン・エキストラの多くはフィリピン系の移民たちだったそうである。

 さてインディアン側は悪く描かないぶん、この映画では悪役なのはもっぱら白人。白人の一部、軍人や商人たち、あるいはカスターのかつての同僚である シャープといった人物たちが金儲けを企んでインディアンとの和平をブチ壊す、という展開になっているのだ。彼らはインディアンとの和平を守り軍の規律も正 そうとするカスターを罠にはめて駐屯地から立ち去らせ、インディアンたちの聖地ブラックヒルズ」に金鉱が発見されたとの噂を大々的に報道させて人々をそこ へ乗り込ませ、鉄道をひいて荒稼ぎしようとする…という描写で、これらを知ったカスターは激怒し、ワシントンのグラント大統領のもとへ強引に直訴に乗り込 み、軍人同士の意気に訴えて第七騎兵隊に戻る…という展開になる。カスターが善玉なのは相変わらずだが、白人側が侵略者、悪者として描かれるのはこの時期 としては画期的なんじゃないかと。

 ただし…映画を離れて史実を調べると事実はもっとひどい話になる。この映画で悪い白人たちの仕業になってる金鉱情報の宣伝、和平ブチ壊しその他の一連の 企み、実はほかならぬカスター当人の仕業だったのだ。カスターは西部に行ってもスタンドプレーの多い人で、インディアン討伐戦でもおんな子供の虐殺を実行 して文明の名のもとに正当化してるし、インディアンたちとの約束も破ってブラックヒルズに入るために金鉱発見情報を誇大に宣伝(南北戦争の頃からカスターはマスコミを最大限に利用していた)、 インディアンと戦いになるようにわざと仕向けて新たな武勲を上げてやろうともくろんでいたのだ。グラント大統領に会ったのは事実のようだがグラントとケン カになったというのが史実。だからこの映画、白人が悪者にされてるのは確かだが、カスターの悪行を他人になすりつけるという、ある意味もっとひどいことを してる、とも言えるわけで。

 そうした工作をしてインディアンとの戦いに臨んだカスターは、例によってスタンドプレーで、周囲の忠告も聞かずに相手をなめきった無茶な作戦を立てて、 リトル・ビッグ・ホーンで自滅した、というのが史実なのだが、この映画では悪い白人たちのせいで心ならずも戦いに引っ張り出され、敗北を確信して愛妻リ ビーとも涙の別れをし、仲間たちともども「名誉の玉砕」をする展開になる。悪者側に一時ついてたシャープなんてそんなカスターに魅入られて、「死んでもカ ネは持っていけないが、名誉と共に死ぬことはできる」と改心してカスターと運命を共にしちゃうほど。こういう「敗北を知りつつ奮戦して玉砕」を美化する のって、アメリカ人にもかなりあるんだな、とこの映画で改めて思い知らされた。日本だと戦前やたらに賛美された楠木正成の湊川玉砕によく似てるなとも思っ たが、考えてみたらちょうど日本でそれが盛り上がってるころアメリカでこんな映画を作ってたわけですな。

 さすが、クライマックスの「リトル・ビッグ・ホーンの戦い」はエキストラも盛大に使い、なかなの迫力。当初は実際の戦場の近くでロケ敢行の予定だったが スケジュール・予算の都合で近場で済ましたそうだが、それでも結構リアルに見えた。この戦いで奮戦の末にカスターたちはそろって「名誉の戦死」を遂げてゆ く。この映画の原題は「They Died with Their Boots On」というのだが、「with 〇〇's BootOn」で「ブーツをはいたままの死=殉職」という意味で、つまり「彼らは名誉の戦死をした」くらいの意味の題名ということだ。

 カスター戦死のあと、舞台はワシントンに移ってリビーがカスターの遺書をグラント大統領に示して悪い白人たちの悪事をあばき、「カスター将軍は最後の戦 いに勝利したのだ!」ということでキレイに(?)しめくくる。いや、それってかなりの部分カスター当人の悪行なんですが。史実でも未亡人となったリビーが 夫の「英雄化」に大きく貢献していて、彼女が生きてるうちはカスター将軍関連の本や映画などマメにチェックし、悪評など一切立てさせなかったとか。この映 画のころにはさすがに故人だったが、カスター英雄視は相変わらずだった。このあともカスター映画は作られ続けるのだが、この映画は史実とは思いっきりかけ 離れつつ彼を「白人たちのために死に追いやられた悲劇の名将」に仕立ててあげたという点では、西部劇映画におけるインディアン観見直しの先駆とも言える。 あくまで史実との照らし合わせが必要ではあるが、歴史および映画の歴史を知るうえで、かなり勉強になる一本だなと思ったものだ。(2019/2/17)




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