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「宇宙大怪獣ギララ」

1967年・日本
○監督:二本松嘉瑞〇特撮監督:池田博〇脚本:二本松嘉瑞/元持栄美/石田守良○撮影:平瀬静雄〇特殊撮影:大越千虎〇美術:重田重盛○音楽:いずみたく〇製作:島田昭彦〇製作総指揮:中島渉
和崎俊也(佐野)、原田糸子(道子)、ペギー=ニール(リーザ)、柳沢慎一(宮本)、園井啓介(塩田)、岡田英次(加藤博士)、フランツ=グルーベル’バーマン博士)ほか




 長いこと名前だけは聞いていた、松竹が唯一製作した怪獣映画。松竹ということで「寅さん」シリーズの夢の中にこの映画の「ギララ」が登場したとか、21世紀に入ってから「ギララの逆襲」なる「続編」のようなものが作られたりしていて、存在自体は僕も知っていた。しかしなかなか見る機会を得られず、2024年の正月になって松竹のyoutube公式チャンネルがこの映画を期間限定無料公開してくれたおかげで、ようやく観られたのだった。最近こういうパターンを増えてきたなぁ。

 この映画が公開された1967年という年は、前年にテレビで「ウルトラQ」が始まるなどしたことで空前の「怪獣ブーム」のさなかにあった。テレビの普及により斜陽産業になってきていた映画会社としては怪獣映画に商機をつかもうとしていて、すでに怪獣映画を作っていた東宝(ゴジラ)、大映(ガメラ)に続いて日活と松竹までが怪獣映画を作ってしまったというのがこの年。まぁ日活と松竹はいずれもその一作きりだったので、工業的にもあんまりよくなかったんじゃないかと。慣れてないことを慌ててやったもんで出来が…ということもある。余談ながらこのあ各社が一斉に東映のマネをしてヤクザ映画を作った時期もあり、そのとき松竹が打ち出したのが「寅さん」(テキヤってのは実質ヤクザ)だったわけで、その会社のカラーにそってうまlくいくこともあるという話。寅さんの話で思い出したが、「ギララ」で挿入される主題歌を歌っているのは倍賞千恵子さんである。

 松竹映画といえば富士山。だからなのか冒頭から富士山の裾野で話が始まる。ヘリコプターで運ばれてきた放射性物質らしいあぶなっかしいものを宇宙ロケットに運び込むところから、その宇宙船が火星探査に出発する過程が描かれ、登場人物たちが紹介されてゆく。特に遠い未来の話という設定でもなく、ほぼ当時の日本の時代設定になってるっぽい。同様のことは東宝特撮「妖星ゴラス」にも見られ、ソ連の相次ぐ宇宙開発、それに対抗してアメリカがアポロ計画で月面着陸を具体的に目指していた時期だけに、このまま一気に火星へ、って気分があったのかもしれない。僕も子供のころに読んだ本で1980年代には火星有人探査、ってな話が書いてあったりしたもんな。

 話を映画に戻すと、主人公たちの乗る宇宙船は火星目指して出発、きちんと多段式ロケットで打ち上げる細かい描写があって、最後のロケットががバーッと「口」が開いてその中から宇宙船が射出される仕組みがユニーク。これ、「007は二度死ぬ」の宇宙船捕獲宇宙船のスタイルを逆方向で参考にしたものじゃないかなぁ。まっすぐ火星へ行くのではなく、いったん月面基地に降りて準備する、というあたりもいろいろ科学考証した気配がある(SF作家の光瀬龍が考証担当)。その月面基地で男性陣は檜風呂、女性陣はシャワーシーンという、ヘンなところにも力が入っちゃってるが(笑)。
 当時松竹では怪獣ブーム便乗映画といっても他社とは少しは一線を画そうと思って、折からの宇宙開発ブームにも便乗してこういう描写に力が入ったのかもしれない。しかしそのために肝心の怪獣登場が映画の半ばほどまでかかるという事態になってしまい、ターゲットにしていた子ども観客は正直前半は退屈したのではなかろうか。僕も実際前半の途中で意識が飛びそうになった(笑)。

 この月面まで行く過程で宇宙船クルーの間でちょっとした人間ドラマが入る。クルーの中の紅一点の白人女性リーザ(演:ペギー=ニール)はリーダーの佐野(演:和崎俊也)にひそかに思いを寄せているが、佐野には月基地につとめる道子(演:原田糸子)という恋人がいた。しかし遠距離恋愛のせいか二人の関係はギクシャクしていて、リーザには「チャンス」な状況になっている。
 ターゲット観客は明らかに子どもなんだろうけど、微妙に大人な人間ドラマが挿入されてるわけで、そういえば子供向け映画によくある子ども出演者はまったく登場していない。なお、このリーザ役の女優さんはこの時期の特撮映画によく出ていたようで、在日米軍関係者のお子さんだったらしい(声は声優による吹き替え)。欧米人が出てると海外輸出にも有利ということもあったんだろうなぁ。

 お話の中では、これまでに火星へ向かった宇宙船が次々と謎の失踪を遂げていて、主人公チームはその究明をするのも任務だった。そして彼らの目の前にも「光る円盤」が出現し、その行く手を阻んでくる。円盤が出てくるあたり、このころすでに大きな話題となっていた「空飛ぶ円盤」ばなしにのっかったものなんだろうけど、この円盤、結局なんだったのか最後までわからずじまいなんだよな。中に宇宙人が乗っているのかどうかすら分からない。
 この円盤との接触の際に、主人公たちの宇宙船に謎の白い物質がくっつけられる。これを地球に持ち帰って研究所で調査しようとしたら、その物質が流出、床を溶かして外部へと出てしまう。そしてこれが巨大怪獣に変化して、ようやく怪獣映画らしくなってきて、いきなり盛大に東京を怪獣が襲撃、派手な都市破壊シーンを見せてくれる。怪獣見たさに映画館に来たお子さんたち、待ちくたびれたろうなぁ。

 松竹唯一の怪獣映画ということで特撮シーンはどんなもんかと見てみたら、まぁまぁ普通のレベル。この特撮部分は松竹や東宝から特撮スタッフが集まって作った「日本特撮映画」というそのまんまの製作会社が請け負っていて、同年の日活の「ガッパ」もここが特撮を担当していたそうで。もっともこんな風に各社でそろって特撮映画を作るなんて年は二度と来ず、2年後にこの会社は解散している。
 都市破壊シーンはこうした専門請負会社が作ってるが、逃げ惑う群衆シーンなんかは松竹本体のスタッフで撮ってるんだろう。ワーワーと叫んで逃げ惑う群衆の描写は怪獣映画の定番だが、この映画でもまずまず印象に残る逃げ惑いぶりを見せてくれていた。

 こうした怪獣による大被害に、もちろん対策会議が開かれ、ここで「ギララ」という名前がホント唐突に出てきてちょっとビックリ。すぐ次のセリフで「我々が命名しました」と捕捉してるんだけど、なんでその名前なのかは一切説明がない。一応設定はあったようだがいちいち説明してもつまらんというのも確かだろう。
 面白いのは東京襲撃後のギララの進路。そのまま北上して群馬、栃木と北上してゆき、猪苗代湖あたりまで行ってから南へターンして茨城県に入っている。これはギララが常にエネルギーを食おうとしているためらしく、北上して水力発電所を襲う場面があり、直接の説明はなかった気がするが茨城に来たのは東海村の原子力発電所を襲うためだったんじゃないかと。最後に富士の裾野の宇宙開発基地に向かうのもエネルギーを求めてのことで、この辺は「ゴジラ」1984年版に先駆けていたようにも思える。
 
 このギララを倒すために「ギララニュウム」なる物質が必要ということになり、主人公たちはまた宇宙に出て例の円盤と鉢合わせしたりと忙しい展開があって、最終的にギララはその変な物質により無事倒される。そのあっけなさには哀れを催すほどだったが、登場人物たちも勝利を喜ぶのではなく何やらしんみりして「宇宙にはいろいろ未知の危険がある」と警句めいたことを言うのは東宝怪獣映画から引き継がれる日本の怪獣映画のお約束だろう。

 で。この映画の隠れた(?)本筋である恋愛ネタはどうなったかといえば、このドタバタ騒動のなかで佐野の道子に対する愛情をリーザがはっきりと悟ってしまい、そのことが「ギララに教えられたこと」であったとラストでしみじみ言っちゃうのだが、あれだけの大災害があっての結論がそれかいっ!(笑)。(2024/1/28)




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