「目撃」 Absolute Power 1997年・アメリカ |
○監督:クリント=イーストウッド○脚本:ウィリアム=ゴールマン○撮影:ジャック=N=グリーン○音楽:レニー=ニーハウス〇原作;デイヴィッド=バルダッチ〇製作:カレン=スピーゲル/クリント=イーストウッド |
クリント=イーストウッド(ルーサー・ホイットニー)、ジーン=ハックマン(リッチモンド大統領)、ローラ=リニー(ケイト・ホイットニー)、エド=ハリス(フランク)、スコット=グレン(ビル・バートン)、デニス=ヘイスバート(ティム・コリン)、ジュディ=デイヴィス(グロリア=ラッセル)、メロラ=ハーディン(クリスティ・サリヴァン)、E=G=マーシャル(ウォルター・サリヴァン)ほか |
例によってずいぶん前にNHKのBSで放映されたものを録画して数年塩漬け状態になっていたものを鑑賞。もう20年以上前に公開された作品なんだな。クリント=イーストウッドは今も監督としてはバリバリ現役、俳優業も一度引退と言ってたのに復活中という元気なおじいちゃんぶりだが、ジーン=ハックマンの方は実質引退状態なので、まぁ時の流れを感じてしまう。 イーストウッドだけに自ら主演し監督、製作まで兼ねて作った映画だが、彼の作品群の中では地味な方だろう。原作小説があって、映画の原題は「絶対権力」を意味する。あるベテラン泥棒がたまたま忍び込んだ屋敷の中で、こともあろうにアメリカ合衆国大統領が恩人の妻と不倫、激しいやり取りの末に大統領とシークレットサービスが女性を殺害してしまうのを目撃してしまう…という発端から始まるストーリーで、国歌のトップの大スキャンダルを目撃してしまった一介の泥棒がどう行動するのか、が話の見せ所になっている。最初は巻き込まれては面倒と逃げの一手を打とうとした泥棒だったが、大統領のシレッとした態度をTVで目撃して怒りに燃え、とうとう国家のトップ相手に全面対決を挑んでゆく。原題の「絶対権力」とはもちろん大統領のことを指している。 この設定を知り、映画を実際に見てみると、「これって、クリントン大統領の『不適切な関係』を念頭に置いてるのかな?」と思ったのだが、調べてみたらあの「モニカ・ルインスキー事件」はこの映画公開の翌年の1998年初頭に問題化している。あえて言えば製作中に疑惑が持ち上がり始めたかな…ってくらいなので、原作小説はなおさら事件とは無関係になる。大統領の不倫スキャンダルが公開直後に現実のものとなったのはあくまで偶然、ということなんだろう。 「大統領の不倫」が共通点と言うだけで、状況も展開もかなり違う。クリントンはホワイトハウスの中で、という映画を越えた状況だったが、この映画のリッチモンド大統領(演:ジーン=ハックマン)は自身の有力支持者で恩人の屋敷に行ってその恩人の妻と不倫してしまう。さらには二人が揉め始めたために隣室に待機していた護衛のシークレット・サービスが相手の女性を撃ち殺してしまう。シークレット・サービスや補佐官までが大統領の不倫密行に同行するんかいな、とも思ったが、そこは大統領だけに一人には絶対にしないのだろう。結局この補佐官やシークレット・サービスたちも大統領と一蓮托生で秘密を断固守ことになる。 余談だが、イーストウッドがまさにそのシークレット・サービスを演じた映画もあったなぁ。 この大統領の大スキャンダルを偶然目撃してしまうのが、ホイットニーなる伝説的ベテラン泥棒というところが面白い。警察でも名を知られた腕利き泥棒なのだが捕まったことは一度もなく前科もついてない。日頃は美術館で絵の模写をしている趣味人の老人だが、盗みに入るクセはおさまらない。イーストウッドが泥棒をやってると、山田康雄の吹き替えつながりでルパン三世にも通じてしまうんだよな。この映画ではささやかながら変装もしてくれるし。 やや小心者のこの泥棒を正義の怒りに駆り立ててしまうのがジーン=ハックマン演じる大統領。イーストウッドとは「許されざる者」でも対決してるが、この人、演技の幅はもちろん広いんだけど、悪役やらせるとホント楽しそうにワルを演じるんだよなぁ。本作でも大統領ながらかなりのゲスっぷりを発揮する役を嬉々として演じてるようにしか見えない(笑)。 イーストウッド演じる主人公、天涯孤独かと思いきや一人娘がいる。それも弁護士。父親の職業のことは知っていて毛嫌いしていて、二人の間をつないだ妻の死後は断絶状態、だが主人公は一度は国外逃亡を考えた時に娘に別れを告げに行くし、こっそり娘の家に忍び込んで冷蔵庫の中身をのぞいて食生活の心配をしたりもしてる(笑)。映画の後半は主人公だけでなく娘も命を狙われ、主人公はなおさら戦闘的になってゆく。 ネタバレを回避して書くが、この映画、相手が「絶対権力」の割に主人公側に致命的な悲劇は起こらない。どうも原作はそうではなかったらしいのだが、イーストウッド自身が脚本家に悲惨な展開を回避するよう指示したとかで、それが後半全体に漂う「甘さ」につながってるような。見てる側はホッとするかもしれないけどね。ラストも重大事態のはずなのに、逆に驚くほどアッサリな描写になっているのも、そうした「甘さ」とつながってるのかもしれない。 イーストウッドが気に入ったというように、原作の設定自体は面白いんだけど、それが絶対権力・大統領相手の戦いにしては規模もサスペンスも少なめで、そこそこには楽しめるけどイーストウッド監督作としては小品ってことになっちゃうだろう。(2020/1/20) |