
| 南北朝界隈ではトンデモ本が時々出る。前に取り上げた本の紹介でも書いたが、南北朝時代はマイナーな存在ながら、天皇が深く絡んでくるためかオカルト歴史愛好家が首を突っ込んでくることが少なからずあるのだ。この本はそんな中での「最近作」といえるもので前々から取り上げようと思いつつ先延ばしになっていたが、天皇の代替わりというタイミング、天皇家の継承問題なんかも話題になってる今がちょうどいいかな、と思い、ようやく採り上げてみることにした。 ことわっておくと、この本は同じ作者による一連の「秘史」シリーズの一冊(特別編)であり、この作者の考える「史実」を読み解くにはシリーズ全部を採り上げなければいけない…とも思うのだが、ここではこの一冊に絞り、その他この人の主張する、どんどんスケールが大きくなる「秘史」については補足という形で紹介してみたい。 |
◆「現皇室は南朝の末裔だ」!?
当サイトがおなじみの方はご存知のように、僕はかなりの南北朝時代史(日本)のマニアである。だから南北朝がらみの本がごくたまに出ると書店で素早く反応して買ってしまうのが常なのだが、この本を書店の歴史コーナーでみかけた時は困った。もう表紙を見ただけでトンデモ本と分かる。表題「南北朝こそ日本の機密」はまぁいいとして、その間にはさまったサブタイトルが「現皇室は南朝の末裔だ」となっているのだ。僕もいろいろ南北朝ネタの変な本に目を通してきて、その多くが南朝寄り傾向であり、南朝末裔を称する人まで登場していることは承知していたが、現皇室を「南朝末裔」と言い出しすのはかなり珍しい。◆情報源はすべて「さる筋」
続いて、この本を含めた「落合秘史」シリーズの著者である落合莞爾氏について触れておこう…と言っても、著書に掲載されている著者紹介以外に情報源はないので、それをそのまま紹介するしかないが。| 後嵯峨(88) | ┬後深草(89) | ─伏見(92)─ | ┬後伏見(93) | ┬光厳(北1) | ┬崇光(北3)─ | ─栄仁──── | ┬貞成──── | ┬貞常───→ | 伏見宮家 |
| │ | │ | └光明(北2) | │ | └治仁 | └後花園(102) | →現皇室 | |||
| │ | └花園(95)─ | ─直仁 | └後光厳(北4) | ─後円融(北5) | ─後小松(100) | ─称光(101) | |||
| └亀山(90)─ | ─後宇多(91) | ┬後二条(94) | ┌長慶(98) | ||||||
| └後醍醐(96) | ┬後村上(97) | ┴後亀山(99) | |||||||
| ├護良─── | ─興良 | ||||||||
| └懐良 |
ここから先の話は『南北朝は日本の機密』の内容ではなく、落合氏の他の著作の内容の紹介になる。シリーズはかなりの冊数があるので全部読むのはさすがに気が引けた僕は、とりあえずタイトルの衝撃性から『欧州王家となった南朝皇統』と、『日本皇統が創めたハプスブルグ大公家』の二冊だけ目を通した。そう、とうとう話はヨーロッパ王室に飛んでしまうのである!なおどちらも同じ成甲出版から出ているが、前者は『南北朝〜』と同じシリーズでハードカバーの「です・ます」語り風の文章だが、後者はソフトカバーで硬い文章。しかも吉薗周蔵なる人物の手記の分析をもとにした「落合・吉薗秘史」なる別シリーズである。まぁ言ってることはだいたい同じなので、この二冊の主張をまとめて紹介しよう。
飛鳥時代の悲劇の皇子といえばもう一人、天武天皇の皇子で陰謀により処刑された大津皇子も有名だが、やっぱり落合氏はこの人の処刑も八百長の偽装死とし、渡欧したことにしている。この大津皇子の妃・山辺皇女の母方の祖父が蘇我赤兄で、この赤兄は一般に有間皇子を陥れた張本人とされるのだが落合秘史ではそれは全て八百長なので、赤兄はそのまま有間皇子=ピピン2世に仕えている、だから赤兄が孫娘とその婿の渡欧を図るとみるほうが「合理的」とまで書くのである。