外科室 あらすじ
外科室 明治28年 6月「文芸倶楽部」初出、明治31年 9月『明治小説文庫』第10編(博文館)所収
ところはある病院の手術室。語り手の画師は兄弟のように親しい医学士高峰に頼み、その執刀になる貴船伯爵夫人の手術に立ち会う。夫人は夢うつつのうちに心の秘密を呟くことを恐れ、頑なに麻酔薬を拒む。これほどまでに思うことがあるのだから、きっとうわ言でもらしてしまうに違いない、と。
高峰が自若として麻酔なしでその胸にメスを入れると、夫人は「あなたは私を知りますまい」と言って片手をメスに添え、乳の下深くかき切る。医師の「忘れません」の一言に夫人は嬉しげな笑みを残して息絶えるが、同じ日のうちに高峰もまた命を絶つ。
実にその9年前、高峰が画師とともに小石川植物園を散策のおり、彼女との間にほんの一瞬の遭遇があったにすぎないのであるが……。
めぐり逢いの一瞬を終生とする恋人たち。人がまばたきする間を棲み処とする悪左衛門(草迷宮)と同一の時空間。愛の妖怪。
佐藤和雄(蟻) / 泉鏡花を読む 1998.09.19