高野聖 あらすじ  


高野聖 明治33年 2月「新小説」初出、明治41年 2月『高野聖』(左久良書房)所収

 旅の車中で「私」と知り合った僧侶宗朝が敦賀の宿で若き日の出来事を語る。

 行脚のため飛騨から信州へ峠越えをした時のこと、先を行く薬売りの男が危険な旧道へと進んだのでこれを追うが、蛇また蛇に行く手を阻まれ山蛭の森に迷い込む。

 たどりついた山中の孤家には美しい女とその亭主とされる白痴で異貌の少年が棲んでいた。少年は歌い覚えた二つ三つの唄をこの世ならぬ声で歌う天才的な能力を持ち、女もまた山蛭による僧侶の傷を谷川の水で癒してやる霊力を持っている。

 その夜、妖しいものたちの気配が襲うが、「今夜はお客様があるよ」と隣室の女が叫び、僧が陀羅尼を呪すと気配は去る。これは「都の話をするな」という女による禁止と、それを侵犯した男たち、そして処罰としての獣への変容の物語が暗に含意されている。

 翌日別れて里へ向かうが、女のもとで暮らすことを考えている僧の前に、女に仕える老爺が現れ仔細を語る。女は医者の娘で、父を助けるうちに霊的な能力を顕わすようになった。父が少年の手術に失敗したことから女が付き添うようになり、十三年前の洪水で村人が全滅したあとは少年と二人で暮らすようになった。

 いまや女は男たちを弄んでは獣に変える魔物である。僧が助けられたは特別の配慮、迷いを捨て心して修行するよう叱咤して老爺は去る。

 僧侶はこの話について特に註することもしなかった。翌朝雪の坂道をひとり登る姿はあたかも雲に乗るようであった。

 佐藤和雄(蟻) / 泉鏡花を読む 1998.08.10