日本橋 あらすじ  


日本橋 大正 3年 9月『日本橋』(千章館)初出

 雛祭りの翌日の夜、葛木晋三は一石橋から栄螺と蛤を放す。その振る舞いを怪しむ巡査の尋問にあうところ、現れた芸者お孝がその場をとりなす。雛に供えたものを放生することは葛木の姉の志であった。

 姉は、親を早く失った貧しさからひとの妾となって葛木が医学士となるのを援助、今はしかし弟を避けて失踪している。

 姉を求める葛木は姉そっくりの芸者清葉に思いをよせるが、旦那のいる清葉は色々な義理があるため葛木の恋を退ける。

 お孝はこれまで清葉が拒んだ男なら、まさに清葉が拒んだという理由からすべて自分のものにしてきた。葛木に横恋慕をしたお孝は、ために赤熊という男を捨て、葛木もまたお孝に心を移す。

 熊皮の上着の毛の中に沸く蛆を食うような男である赤熊からお孝と切れてくれと懇願されると、葛木は失踪した姉を探すために僧形となり、姉の思い出のある京人形を携えて旅に出る。葛木に去られたのち気がふれるお孝。

 時うつり、たまたま葛木が日本橋に舞戻ってきた日に、清葉の芸者置屋が出火。その騒ぎの中、赤熊はお孝を殺そうとするが、誤ってお孝の妹分の千世を切りつける。お孝はその刀で赤熊の口と咽喉をえぐって殺し、自ら硝酸(毒)を仰いだあと、清葉に葛木のことを託して死ぬ。この急展開は能などの序破急の終わり方を思わせる。

 清葉は焼失した自分の置屋をお孝の置屋のあとに移して再興、葛木は留学してドイツに赴く。清葉の家には美人芸者十三人。

 佐藤和雄(蟻) / 泉鏡花を読む 1998.09.23