龍潭譚 あらすじ
龍潭譚 明治29年11月「文芸倶楽部」初出、明治44年10月『銀鈴集』(隆文館)所収
幼児千里(ちさと・三年前に母を亡くす)は赤い躑躅の続く丘で美しい毒虫を追ううち刺されて醜い顔になる。道に迷い、鎮守の杜で「かたい」の子らと遊ぶがおいてけぼりをくらい、探しに来た姉からも人違いをされる。
姉を追いかけ、気を失った千里は九ッ谺という山奥の谷で助けられ、美しい女に添臥される。母にしたように胸に頭を押し当てると霞のような感触、つむじ風が吹くと「お客があるんだから、もう今夜は堪忍しておくれ」という女。老人に連れられ大沼を渡って町に帰るが、千里は神隠しとして人々に忌避され、離人症的な狂気におちいる。
姉の胸に抱かれて、寺で千呪陀羅尼の祈祷を受けた夜、おりしも激しい嵐に谷が溢れ、九ッ谺は一夜にして淵となる。ひとたび決壊すれば町を水底に沈める恐れのある淵である。
時移り、海軍少尉候補生となった千里は粛然としてその淵に臨む。
主人公は「海」軍少尉候補生、すなわち水の眷族に連なり、母性と暴力とに結びつく。
佐藤和雄(蟻) / 泉鏡花を読む 1998.09.11