春昼・春昼後刻 あらすじ
春昼・春昼後刻 明治39年11、12月「新小説」初出、明治43年 8月『鏡花集』第三巻(春陽堂)所収
先先月より逗子に一室を借り自炊するという散策子が春の日中をぶらぶら歩きに出たのは、停車場開きの祭礼の日の騒々しさを避けてのことであった。
途中、ある二階家に蛇が入り込んだのを見て野良仕事の老爺にその家へ用心するよう言づてる。たどり着いた岩殿寺の柱に「うたゝ寐に恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき――玉脇みを」と書かれた懐紙を見つけ、昨年寺に逗留した客人の「みを」なる夫人への恋慕の顛末を住職より聞かされる。
ゆきずりに夫人を見かけ恋こがれた客人は、ある夜、祭囃子に誘われるように山に入り、夢うつつの舞台の上で自分の分身が夫人の背中に△□○と書くのを見たのだった。
その翌日夫人が寺に詣でて、以来「うたゝ寐に」の歌が柱にある。数日寺に閉じこもっていた客人は再び舞台を見ようとしたのか山で姿を消すが、死体となって見つかったのは山ではなく海であった。(春昼)
寺よりの帰途、散策子を待っていたのは玉脇みを、すなわち蛇への用心を言伝された家の女主人だった。
女は散策子によく似た男(客人)への恋しい気持ち、もの狂わしい「春の日中の心持ち」を吐露。女の手帖には△□○が書き散らしてあり、散策子は蒼くなる(客人が見たという△□○との奇妙な暗合)。
女は手帖の断片に「君とまたみるめおひせば四方の海の水の底をもかつき見てまし」と書いて、通りがかりの角兵衛獅子の子供に託す。どこへと宛てのないこれが死者への言伝となったのであろう、子供は海に溺れた。
去年男があがったと同じ岩にその子の死体が見つかった時は、あたかも母子の像をそのままに、みをの死体と一緒であった。(春昼後刻)
佐藤和雄(蟻) / 泉鏡花を読む 1998.09.21