天守物語 あらすじ  


天守物語 大正 6年 9月「新小説」初出、大正 8年 1月『友染集』(春陽堂)所収

 時は封建時代、場所は晩秋の白鷺城の天守第五重。

 戦乱の中みずからの操を守るために自害し、その死後、世に恨みの洪水を何度もひき起こした美しい落人がいた。この戯曲のヒロイン富姫である。自害の時に流れた血を舐めた獅子頭の据えられている天守に、富姫は魔のものとなって眷族とともに棲みついている。

 そこへ、同じく魔のものである猪苗代の亀姫が手毬をつきに空から訪れる。富姫は土産として亀ヶ城主の生首をもらい、おかえしに白鷺城の城主の白鷹を亀姫に贈る。

 主君の命令により、その鷹を探しに天守に登ってきた鷹匠姫川図書之助は、姫より城の家宝である兜を、鷹のかわりに授かって帰るが、かえって城中で兜を盗んだ嫌疑を受け、天守へ逃げ戻る。しかし姫と図書之助がふたりして逃げ込んだ獅子頭の目は討手の追撃により傷つき、同時に二人もまた失明してしまう。

 すでに愛し合うようになっていたふたりは死を覚悟。この時、工人近江之丞桃六が現れ、鑿をふるって獅子の目を開く。獅子頭の作り手である桃六は、こうして二人を失明から救い、戦乱の人間界に向けて激越な哄笑を浴びせるのである。


 鏡花はこの戯曲の上演を切望していたが没後の昭和26年にようやく新派により初演された。

 佐藤和雄(蟻) / 泉鏡花を読む