技官vs女子大生


いつものように私は一人で出張していた
私は一ヶ月に数回程度本郷の方に出張するのである

出張先は通称MALT(モルト)という施設である
実に地味な施設である

任務は実験の準備である
実験装置が本郷にもあるので
そちらで実験する際には前もって準備に行かなければならない

実験は真空という状況下で行う
それもただの真空ではなく
超高真空というおおげさなものである

超合金とか超人とかの発想である
超のところは女子高生風に言う

真空は空気が入ってくるとダメなので
空気が入らないようにひたすらネジをしめて
実験装置を密封する

そしてその日もひたすらネジをしめていた

するとMALT内に大量の女性が入ってきた
通常は人がほとんどいない施設なので実に場違いであり
まさに乱入といった感じであった

それはお茶の水女子大理学部化学科1年生の集団であることが判明した

女子大だけに大部分女性である
一人男性がいてどういう状況で入学できたのかと期待して見ていたが
それは学生でなく教官であることが判明してがっかりした

この集団はMALTという地味な施設を見学しにきたらしい
MALTの主任に率いられて施設をやる気なさそうに見学している

多少学生に同情しつつも
まあ私には関係ないと再びネジをしめる作業に入る

しばらくするとその集団は私の背後にやってきた
そして止まった

なんの説明が始まるのだろうかと思いつつ
ネジをしめていると主任が私に向かって一言
「その実験装置でどんなことをやってるか説明していただけませんか」

全く聞いてない話だったので焦ったが
特に断る理由もないので説明することにした

さて振り返ってみると十数名の女性が集結していた
それらの集団がじっと私をにらんでいるのである

知らない人が見ると
女性差別発言等をして女性集団に撤回を要求されているなさけない男
という風に見えないこともない状況である

気を取り直してその集団を一通り見回す

目は全く輝いていない

教官に強制連行されてきたのだろう
一刻も早く帰りたい
という気持ちがあからさまに表情に出ている

この状況では何を話しても全く盛り上がらないと判断した私は
実に事務的に淡々と実験内容について語った

中には一人か二人
わかったような顔をして
わざとらしく大きくうなずいている人物がいたが
おそらく全くわかってないはずだ

宙に向かって淡々と説明する男と
見学が終わってからのことをただ考えている女性集団
時間のみが解決するこの微妙な戦い

そこにはコミュニケーションなど存在しない
お互い平行して存在しておりそこに接点はない
私と女子大生の間を仕切りで区切っても成立する実に奇妙な戦い

そして戦いは終わった

何事もなかったように私は再びネジしめを開始し
女子大生の群集は再び次の装置に連行されていった




もどろうか