逆上の着席


ゴールデンウイークに
実家のある岡山に行くことにした

新幹線で行くのであるが
ゴールデンウイークは用意周到な人々が
何日も前に新幹線の指定席を予約しているので
予約席はほぼ満席である

私は岡山に行くときは予定など立てず
思い立ったその時に行くことにしているため
新幹線の指定席を前もって購入したことがない

そのため昨年のゴールデンウイークは
東京から岡山まで4時間立って行った

今回も乗車券は購入していないが
何とか座っていきたいと思い
もしかしたら席があるかもしれないと考えて
微妙な時間帯を狙って行くことにした

毎年ピークは5月3日であるため
私は5月2日の夜の新幹線に乗ることにした

仕事が終わりしだいその足で東京駅に向かい
新幹線に乗るという予定を立てた

しかし意外にも仕事が長引いて
東京駅に到着したのは午後7時過ぎであった

見ると岡山に行く新幹線は「のぞみ」しかない
「のぞみ」は全席指定のためもう乗れないはずだ

がっかりして帰ろうかと思ったがよく見ると
「のぞみグリーン席」に若干空席があるようであった

「のぞみ」だけでも贅沢なのに
それに加えて「グリーン席」である

岡山に行く新幹線で最も高価な席である
しかしそれに乗らねばその日に岡山にいくことはできない
翌日は帰省ラッシュで激混みとなる

よって逆上して「のぞみグリーン車」に乗り込むことにした
グリーン席初体験である

決断後は行動は実に早かった
残りわずかの「のぞみグリーン席」を
他の人に先に買われるわけにはいかない

しかしあわてふためいて自動券売機に突入するのも
社会人として避けたかったので
余裕な雰囲気をかもし出しつつ歩く速度は通常の数倍という
実に複雑な機構の歩行により自動券売機に向かった

おかげで想像以上に早く自動券売機に到着することができた
目的のチケットはなんとかまだ残っていた
ほっとしてお金を入れようとその金額を見る

値段を見て驚愕した

「のぞみ」の料金は知っていて驚かなかったが
「グリーン車」の値段に驚愕した

あえて金額は明かさないが
グリーン車代金のみで
ミニ四駆10台(消費税込み)を購入できる
といえばおおよそ見当は付くであろう

こう考えると実に痛い
「席」という非常に曖昧なものに対して
なぜにこんな大金を払わねばならぬのか

私は実に憤慨していた
グリーン車ごときでこの値段

しかしこれが岡山行き最終便であるという絶大な背景が
私をしてチケットを買わしめたのであった



購入したチケットの一部である
上部に「グリーン券」の文字が光る

購入後もしばらくその値段に憤慨していたが
すでに購入してしまったのでこうなったらひらきなおって
このグリーン車を満喫することにした

さて複雑な心境でグリーン車に侵入する

全面緑色を期待していたのであるが
グリーン車内は照明が微妙に黄色がかっている



どのような人物が乗っているのかと見回すと
実にさえない人物ばかりが乗っている

私と同じ状況の人物が多いのであろう
私もさえない人物の一人である

私の隣の席は外国人であった
外国人は慣れているので特に気にしない

さてグリーン車の構造であるが
普通車は座席が横に5つ並んでいるのであるが
グリーン車は4つと微妙にゆったり気味であった
しかしそんなに広々と使用できるわけでもない

ただ席と席との間にある肘置きの幅が広い点は評価できる
普通席では幅が狭くて
二人同時に肘を置けないという欠点があったのである

このあたりがグリーン席のグリーンたるゆえんなのか
と一人で感心したのであった

さらに足元に目を落とすと足置きなるものが
設置されているのであった



普通車は足は床に置くことになっているが
グリーン車は足は足置きに置くのである
全く大げさな装置である

試しに両足を足置きに安置してみる
するとスクーターに両足を揃えて乗った感じとなり
地味に恥ずかしい

試行錯誤した結果
片足のみを「しかたがないから乗せてやるか」
という感じで乗せるのがクールでファッショナブルだったので
この乗せ方を採用することにした

さて座席の側面を見ると
収納式のテーブルとFMラジオが設置されている
しかしこのFMラジオはイヤホンをささねば何も聞けない
イヤホンは購入制であるため結局聞かなかった

またグリーン席では雑誌が一人一人に与えられる
経済関連の雑誌でありとくに興味もわかなかったので
パラパラとめくる程度にしておいた

そうこうしているうちに
発車時刻となり新幹線は岡山に向けて動き始めた

しばらくするとおしぼりが配給された
広大な表面積を持つ厚いおしぼりであり
身体表面の広範囲を拭くことができた
このあたりもグリーンならではと言える

しばらくすると切符を見せろという人が来た
これは普通車と同じしくみであった
ここではグリーンらしさは感じられなかった

次は何が配給されるのであろうかと待っていたが
これ以来とくに普通車と変わったことは起こらなかった

新幹線発車後の様子は以下のようであった

20:35 東京駅発
20:45 おしぼり届く
20:55 乗車券を見にくる
21:00 車内販売がくる
21:10 隣の外国人が巨大な野菜サラダを食べ始める
21:20 隣の外国人が巨大な野菜サラダを食べ終わる
22:10 名古屋着
22:40 ゴミを集めにくる
22:50 京都着
23:05 新大阪着
23:20 新神戸着 隣の外国人降りる
23:53 終点岡山着


グリーン車だから普通車より先に岡山に到着した
ということもなく新幹線は岡山に到着してしまった

グリーン代は何に使われたのか
おしぼりと雑誌に使われたのか

考えれば考えるほどミニ四駆が欲しくなってくる

そしてやや憎しみを持って新幹線を降り
グリーン席は二度と乗るまいと心に決めたのであった


その数日後
私は再び新幹線のグリーン席にいた

岡山に行ったら東京に戻らなくてはならないのである
帰りも行きとほぼ同じ状況であった
またもグリーン席が偶然あいていたのである

私はごく自然にグリーン席券を購入し
グリーン代は再びおしぼりと雑誌に使われた

そして私は再び
二度とグリーン席には乗るまいと心に決めたのであった



もどろうか