6CA7(EL34)シングルステレオパワーアンプ
このアンプは、久しぶりに人から依頼されて製作しました。子供たちがお世話になっています美術教室の先生とそのご主人からの依頼です。拙作のホームページをご覧になり、真空管アンプに興味をもたれました。たまたま所有されていた、メーカ製のアンプが不調になり、新しいものを探しておられたようです。「真空管アンプは、いくらくらいで出来るんですか?」との問いに、「CD用のアンプで5万円くらいかければ、結構いいものが出来ますよ。」とお答えしたのが事の始まりでした。5万円という価格に納得されたのか、即、ご依頼をいただきました。
ここでは、このアンプの製作始終を紹介したいと思います。
さて、5万円でできるパワーアンプとなると、トランスや真空管にあまり高価なものは使えません。またチャチで安いものを使うと、後で不満が出てしまうことにもなります。そんなわけで、いろいろと頭にイメージをめぐらす事となりました。

随分昔に、6CA7シングルアンプを作ったことがあります。もう30年くらいになりますか。初めて作ったアンプではありませんが、その当時としては真っ当な部品を集め、オーディオ用として最初からきちんと作ったアンプでした(それ以前のアンプは、ラジオ球とラジオの取り外し部品で作ったガラクタアンプでした)。そのときの印象がいまでも強く残っています。当時はパイオニアのPAX−A20という2WAYのスピーカーで鳴らしました。このアンプとスピーカーを高校の文化祭で活躍させた思い出があります。当時あこがれていた女の子が、我が部主催のオーディオコンサート会場に聞きに着てくれたとき、自慢のテープデッキ(オープンリール)で録音したビートルズのレット・イット・ビーをプレーしました。彼女もいい音楽に満足してくれたようで、我ながらすばらしい音で鳴ったのを今でも覚えています。
そんなわけで、球は、6CA7(EL34)のシングル(S)で再現してみることにしました。6CA7は今でもロシアや中国で生産されておりリーズナブルな価格で入手可能です。
最近のスピーカーは能率が低く、高パワーを必要としますが、6CA7シングルであれば、家庭で聞くには足りるとして良しとしました(規格いっぱいで使って10W程度まで可能)。
さてシングルとなると、出力トランスの選定が難しくなります。直流重畳で低音減衰が問題になるので、ある程度のコアボリュームを持った良質のトランスが望まれます。
予算に問題なければ、タムラなどの高級トランスが選べるのですが、出力トランスだけで予算を使い果たしてしまうのではかないません。いろいろ、インターネットや、「MJ無線と実験」誌を探してぴったりのトランスを見つけました。ノグチトランスオリジナルの製品(http://www.noguchi-trans.co.jp/)です。ノグチトランスは、秋葉原のラジオデパート、B1Fにあるトランス専門店です。
管球アンプ党にはなじみのお店で、私も随分以前から利用させてもらっています。当店オリジナルのトランスがあることは知っていたのですが、今まではタンゴやタムラばかりを見ていたので、あまり気にはしていませんでした。今回特性などいろいろ調べてみて、かなりコストパーフォーマンスの良いトランスであることを知りました。ノグチオリジナルのラインナップから出力トランスはユニバーサルタイプのPMF−10WSを選びました。その他、チョークトランス(PMC−518H)もここから選びました。ただし今回の製作ではパワートランスは手持ちがあったのでそれを使いました。新しく入手するのであれば、PMC−150Mを選びます。

さあこれから、詳細設計に入ります。パワーチューブは、6CA7シングル、かつ動作は自己バイアス(カソードバイアス)とします。使う方が初心者(真空管の知識を持たない)なので、調整の必要のないタイプが望まれます。固定バイアスの場合、真空管の使用時間が経過するにつれ再調整を必要する場合があります。
6CA7シングルでも音質を考慮するなら、出来れば3極管接続したいところです。しかしその分パワーが犠牲になります。あまりパワーを落とすと、低能率のスピーカーでは力不足となってしまいます。最悪5極管接続として、まずはウルトラリニアー接続にしたいものです。幸いPMF−10WSには、1次側の中間タップが出ていますのでそれを使います(ユニバーサルタイプのトランスですので、もともとは、ウルトラリニアー接続のものでなくて、インピーダンスをいくつか選ぶための端子です)。
初段の設計ですが、6CA7をフルスイングするのに15Vrmsもあれば十分です。また、多少のNFBをかけてやる必要があります。ウルトラリニアー接続でも、NFBは必要です。ノイズ低減にも効果的です。まあ、6dBくらいのNFBをかける事とします。
あとから聞いてみて、再調整することになりますが、最大でも10dBくらいかけられる余裕は見ておきたいものです。また、6CA7のコントロールグリッド抵抗は、カソードバイアスなので、あまり気にすることは無いのですが、250KΩ程度とします。
またCDをソースにするとして1Vrmsでフルパワーを得るためには、NFBの分をいれて、利得として30dB弱は必要となります。
これらの条件を満たす、一般的な初段管として、12AX7(片チャネル)をがあげられます
(主要3極管の利得と各定数テーブル表をオーディオの教科書や、真空管データブックから調べることが出来ます)。
12AX7は、3極管が2ユニット入っているので、左右チェネル分を1本で足りますが、6CA7のGT管2本にMT管1本では何か格好がつかないので、余裕をみて、12AX7の両ユニットパラレル接続とします。その分、12AX7のプレート負荷抵抗を、多少低めにしました。

あとは電源ですが、Si整流でもいいのですが、こだわりを持って、整流管にしたいものです。
格好と電流余裕から考え、5AR4(GZ34)を選びました。この球も、ロシア,中国製が出回っており、リーズナブルな価格で求めることが出来ます。ただし、整流管を使うことで、コンデンサインプット方式の場合、初段コンデンサに大きな値の物が使えなくなり、多少電源ハムが心配されるところです。そのため配置、配線方法を十分考慮しハムがミニマムになるようにしなければなりません。ここは腕の見せ所でしょうか。
以上の検討の末、このような回路になりました(回路図はこちら)。
出来るだけシンプル設計(教科書的な設計)としました。一箇所、6CA7のカソード抵抗が、教科書的(一般的な規格)な値と異なります。これは、動作を軽くされる意味で通常より若干大きな値にしています。この値であれば6CA7を6L6GCなどに差し替えも可能です。視聴の段階で球を差し替えて音の違いも楽しめます。
以上電気(電子)回路の設計は終わりました。次は、部品の配置です。
トランスの大きさ、真空管の放熱やデザインを考慮して配置を決めます。パソコンのドロー系ソフトを使ってカットアンドペーストを繰り返し、決めていきました。これくらいの規模のアンプでは、平面で300mm×200mmの標準的なシャーシがぴったりでしょう。

さあ次は、部品集めです。真空管からトランス、抵抗コンデンサ、ラグ、ヒューズブラケットなどなど、秋葉原に買出しです。この買出しは実に楽しい部分です。まずはシャーシから平面300mm×200mm程度の体裁のよいものはないか、探しまわりました。
ちょうど良い物を、ラジオデパートで見つけました。塗装もハンマー仕上げで、大きさも
300mm×200mm×60mmとぴったりです。裏蓋もついて手ごろな価格でした。
次に、真空管選びです。最近は真空管ブームで結構、真空管屋さんもあります。行きつけのお店で中国製の6CA7(EL34)を求めました。ロシア製でも良いでしょう。やはり、かつてのジーメンス、テレフンケンなどのブランド品はめちゃくちゃ高い値段がつけられていますね。
12AX7は手持ち(Philips製)があるので購入しませんでしたが、これもロシア製など手ごろな価格で入手できます。最後に5AR4(GZ34)も中国製を選びました。
トランスは、ノグチトランスで購入しました。
その他、コンデンサ、抵抗などの部品はラジオデパートの海神無線で求めました。
以上、本アンプ製作の諸費用をまとめてみます。5万円弱と予算ぴったりです。
品名 |
価格 |
備考 |
真空管EL34 |
4000 |
ペアー |
真空管5AR4 |
2000 |
|
真空管12AX7 |
2000 |
2本 |
ケース |
5000 |
|
電源トランス |
7560 |
PMC-150M |
出力トランス |
14280 |
PMF-10WS 2個 |
チョークトランス |
2730 |
PMC-518H |
スイッチ、VR |
1500 |
|
端子 |
1000 |
RCA,SP |
ソケット |
1800 |
|
C,R類、配線材他 |
5000 |
|
合計 |
46870 |
|

さあ、いよいよ製作です。
まずは、備品配置のケガキです。私は大きな方眼紙に、レイアウト、穴あけ仕様を描き、それをシャーシにテープで貼り付けてケガキを行います。その上からポンチで印をつけていきます。その後、方眼紙をとり、ドリルで穴をあけてゆきます。めくった方眼紙は残しています。
穴あけは、あまり楽しくはありません。ただ根気よく、手が疲れてたら、適当に休み休みして行います。小規模なシングルアンプなので、以外に早く出来ました。一個一個の穴をリーマで大きくするときは、現物と合わせて、穴が大きくなり過ぎないように確認しながら行います。最後にバリ取をして終了。



次に部品を搭載します。ブッシング、真空管ソケット、ラグ、端子、ボリューム、スイッチ、ケミコン、トランスの順に取り付けました。トランスやシャーシに、傷がつかないように、パッキング用シート(気泡のあるビニールシート。子供が気泡をつぶして遊びます)を机の上に敷いて行いました。

次に配線です。電源部、真空管のヒータ配線、入力端子周辺、スピーカ端子周辺、6CA7周辺、12AX7周辺、AC100V系の順に配線しました。
特に、ヒータ配線は、2本のビニール腺を撚って配線します。よらないでも影響しないという意見もありますが、私はいつも撚っています。
電源部のアースポイント、入力部分のアース線、シールド線の端末などは重要です。
12AX7の入出力部のラグ上での部品配置なども重要です。(実態配線図準備中)。半田ごては、30Wのセラミックヒータを使っています。半田は、1mmφの銀入り半田を使用しています。地球環境には鉛フリーというところですが、手持ちのものを使いました。配線後は、配線ミスがないか念入りにチェックします。


間違いがなければ、いよいよ火入れです。まず、すべての真空管をささない状態で、電源をいれます。パイロットランプが点灯しているか、ヒータ電圧、トランスのB電圧が規定どおり出ているかテスタで測定します。くれぐれも感電しないように。フューズを取り付けるのを忘れないように。
OKなら一先ず、電源OFFします。そしてすべての真空管を間違わないようにさします。ボリュームは、ミニマムに絞っておきます。スピーカはつなぎません。そして再度スイッチON。しばらくして真空管のヒータが明るくなります。それにつれて整流後のB電圧が出てきます。テスターで回路図に示す電圧が出ていればOK(±10%以内の範囲ないならOK)です。その後、6CA7周辺、12AX7周辺について、左右チャンルの各部の電圧を測定します。もちろん異臭、煙、異音などあれば即電源OFFです。真空管があったまってくるとプレートがキンキンと小さな金属音を出すことがありますが、これは問題ありません。
電圧がすべて正常なれば、いったん電源を切ります。そしてスピーカを接続し、CDからのソースを接続します。再度ON。しばらくしてボリュームを除去に上げていきます。音楽がスピーカーから出てきます。ここでNFBが逆になっていると発振してサイレンみたいな音が出ます。即電源OFFして、出力トランス2次側の配線を逆にします。配線に間違いがなければ(出力トランスのリード線の色を間違わなければ)位相は問題ありませんので発振しないはずです)

しばらく、動作を続け、プレートが赤くなっていないか、様子を見ていましたが問題なく動作していました。
次に、製作したアンプの性能を測定してみました。
スピーカーを8Ωの抵抗負荷に変え、アンプの特性を特定しました。入出力特性、周波数特性、ひずみ率特性を掲載しました。6CA7の動作を規格より若干軽くしているので出力は、5.6Wとなっています。6dBのNFBをかけているので、周波数特性も低域から、広域まで広く伸びています。特に低域の伸びはトランス性能の良さをあらわしています。ひずみ率特性も、本クラスのアンプとしては、平均レベルでしょう。残留雑音も1mVと問題ないレベルです。
特性図
いよいよ、リスニングテストです。スピーカは、ALTEC 604−8K(エンクロージャー自作300リットル)に接続して試聴しました。ソースはCDダイレクトです。
試聴に使ったCDタイトルは、エンヤのベストアルバムと映画音楽「ミッションインポッシブルのテーマ」を選びました。
どちらも、低域から高域まで、伸びのある音で再生してくれました。特にミッションインポッシブルのテーマは、劇場を思わせるスケールで鳴ってくれました。
数日後、依頼主のご夫婦をお呼びして、我が家のシステムでリスニングをしてもらいました。手持ちのCDをいろいろ演奏してみました。6CA7シングル真空管アンプの音のよさに感動された様子で、非常に喜んでいただけました。予算5万円で出来たアンプとしては、90点以上の点数が取れたと思っています。早速、絵の先生のお宅に、このアンプは嫁いでいきましたが、どこにこのアンプを置くかで大騒ぎになったようです。末永くかわいがってやってほしいと思います。

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