五月闇

スカパーで土曜の朝から「五月闇」を久しぶりに見ました。
「沢田!」と呼びかける佐嶋与力の力強い声、
中西龍氏の淡々としたナレーション、
そして池波志乃さんから「おじさーん、二階へ行っていいことしようよーん(ハートマーク)」
なんて言われて「よせやい、そんなことしたら伊三さんに絞め殺されちまわい」なんて照れる彦十とっつあん。
放映当時はここでこの作品をやってしまって、
後の伊三次が出てくるはなしはどうするんだろう。とか思ったものだけれど(実際出てきてたし)
今から思うとあそこで作らないで最後までとっておいたら
あのメンバーでの「五月闇」は撮れなかったってことになるんですね。
それを思うと周囲からなんと言われようと、
実はあれしかないタイミングでのスペードのエースを切るタイミングだったってことかもしれないですね。
さて、改めて見直してみて……。
自分の過去からつながる因縁に片をつけようと
だれにもつなぎをつけずに自分ひとりで動こうとする伊三次。
もしも伊三次に「何かあったら」と問われた平蔵の
「その時はその時のことよ」という一見突き放したような言葉。
心配して様子を聞いたり手助けしようとしてかけた手を振り払われた忠吾が
「だいたいうちのお頭は密偵に甘すぎるんだ」などとぼやいたり、
“伊三次刺される”の報が入ったときもうろたえながら
「密偵どもの勝手な一人働きをおゆるしになるからこういうことになるのだ。わたしの言っていた通りだ」
なんて強がりは、実はその陰でどんなおもいがめぐっているのか
いくら言葉を重ねても言い尽くせないほどなのだけれど、
そうした説明めいたナレーションは一切入らない。
これが「鬼平流」なんだなあ。と改めて思ったりするわけです。
いくら言葉を重ねても心の奥底までは言い尽くせねえ。
だがな、粂。そいつを言葉にしたら、味ない味ない。(「馴れ馬の三蔵」より)
ちなみに五月とは旧暦では今の6月。
同心の一人がなにもかもこの雨のせいだ、と言っておりましたが、じめじめと降り続く梅雨空のことなのですな。
暗えなあ。まだ雨降ってんのか……
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