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ガックンという衝撃とともに列車が動き出した。中国の列車にしては珍しいが、乱暴な引き出しは日本の国鉄旧型客車を思い出させる。これから5時間半の旅、一気にテンションが上がる。窓から入ってくる風は心地よいが、垂れ流しのトイレが気になる。それも80年代の日本のローカル線と同じ感覚である。
共産圏の列車といえば緑色の客車列車。そう思っていたが、それは近代化前の昔の事。中国に来てみれば、在来線も含めて新幹線が走りまくり、ローカル列車はオレンジ色や青色のカラフルな車両が目立つようになった。クラシックな車両は緑皮車と呼ばれ、急速に数を減らし、ローカル線に細々と走っているに過ぎないが、そのローカル線も空調付きの紅皮車などに置き換えられつつある。「凭祥」-「南宁」間のローカル(普通)列車は2本存在するが、もう一本は特急用の青色の車両だ。
そんな事もあって、中国のローカル列車に乗れた事が嬉しい。一応、コンピュータで打ち出された指定席が記載されているが、何処に座っても良いという。窓を開けて、風を受けて景色を眺めるのは最高。車内販売からビール(常温だが・・・)とつまみを購入して楽しい旅が続く。しかし、車内をウロウロしていると、席に戻れと車掌から怒られる。
やがて乗客が増えて、立ち客も多くなる。見渡す限り、小さな農村しか無いのだが、この列車は貴重は移動手段なのだろう。自動車が普及する前の日本のローカル線もこうだったのだろうか。賑やかに騒いでいる、あどけないけど可愛い女の子の集団を見ていると、この娘たちも都会に出て、そのうちの何人かは夜の街に行くのだろうかと思うと複雑な気持ちになる。
正規の車内販売の他に怪しい雑貨屋も車販中であった。私は中国語がよくわからないのだが、売り手が、ストッキングを取り出し、「これは丈夫だ」と引っ張ったり、ペンで突いたりして実演し、乗客が、「本当? なら買うわ」と言っている。サクラだと思うが、色々な人がいるものだ。特急列車で通過しただけでは味わえない車内風景である。
「南宁」までの5時間半、途中で普通列車2本、貨物列車1本とすれ違った。ローカル列車を見るのも楽しいし、車内の人を見るのも楽しかった。牛が活躍する畑や、溜池で泳ぐ人々の姿もあった。昔の中国ならどこでも見れた景色だろうが、このような景色も次第に近代化の波に飲み込まれて、緑皮車とともに姿を消すのだろうか。
凭祥駅。立派な駅だが、列車の本数は極端に少ない。隣には立派なイミグレもあるが、国境越えの2本の列車専用である。これほど立派な施設も要らないと思うが・・・。 | |
凭祥駅で待機する10両編成の普通列車。 | |
凭祥の中心駅である「凭祥北」、普通列車は全ての駅に丹念に止まる。 | |
沿線の畑にはトラクターなど皆無。全て牛だった。牧歌的な景色が続く。 | |
大きな駅には貨車が止まっていて荷役作業が行なわれている。日本が失った昭和40年代までの景色。そして冷房も無く、暑苦しい車内。 | |
各駅停車として緑皮車が1日、1往復する。 |