●豊後森
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峠を駆け下り盆地に入り、車窓はダイナミックなものからノンビリした雰囲気に変わった。眠気を誘うような景色を眺めていたが、突然ハッとした。荒れ果てた巨大な扇形機関庫が現れたのだ。1970年(昭和45年)に廃止された蒸気機関車の機関庫だ。情報としては知っていたが、やはり目の当たりにすると驚いてしまう。
ローカル列車の長時間停車を利用して、この機関庫跡を訪れる。いまやローカル線のひとつの駅に過ぎない「豊後森」駅界隈も、かつては豊後森機関区をはじめ、250名の職員を有した鉄道の要所であった。また、1984年(昭和59年)に廃止された宮原線を分岐するジャンクションでもあった。ちなみに戦時中は米軍機により空襲された事もある。
巨大な空き地の中に堂々と聳える機関庫は、保存されているというより取り残されてしまった雰囲気である。それでも、保存に向けての活動が盛んで、いずれは鉄道公園として整備されるのであろう。ちなみに扇形機関庫とは、ターンテーブルを中心に扇形に車庫が広がっているピットの事を言う。蒸気機関車時代の名残である。扇の中心に立って機関庫を眺めると、蒸気機関車の咆哮が聞こえてくるような気がする。
機関庫を去って駅へ戻る。巨大な空き地は、かつてここが大きな車両基地であった事を物語っている。ローカル線には不相応な大きな構内は、かつて九大本線が「大分」と「博多」を結ぶ幹線だった置き土産である。しかし、駅周辺は商店こそあるものの、人気が殆ど無い。シャッター街の駅前とはまた違った侘しさがある。「豊後森」駅の立派な木造駅舎はかつての栄光を無言で物語っていた。
列車を待つ乗客が日向ぼっこをしているように見えた。 | |
機関庫を正面から | |
ターンテーブルも残っていた | |
かなり荒れてしまっている。早く保存対策が必要だろう | |
広い構内 | |
街には人影が無かった | |
立派な木造駅舎が印象的 |