●九大本線
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進行方向正面に由布岳の雄姿が現れた。東峰と西峰のふたつのピークが角みたいに生えているが、円錐型の単独峰である。由布岳の事はあまり意識していなかったが、あまりに堂々としたその姿に見とれ、この山の事を詳しく知らなかった事を後悔した。若い頃に知っていれば、絶対に登りたい山だっただろう。ちなみに、豊後富士と呼ばれているが、円錐型の山を全て富士とつけるのは、それぞれの山に失礼だと思う。日本には300もの富士山があると言われているが、この山は沢山ある富士山のひとつではなく、由布岳だと主張して良いと思う。
「大分」方面から、正面に聳える由布岳を目指して走ってきた列車は、山の左側に回り込み「由布院」に到着する。由布院の温泉街はリゾート地として人気が高い。俗化され、すたれつつある別府とは活気が違う。「大分」から「久留米」まで、九州を横断する九大本線は、この温泉街を境に東部と西部に大きく二分されている。乗り継ぐ列車は1時間30分後・・・。この待ち時間を利用して途中下車。少し慌しかったが、温泉を楽しむ事が出来た。
トロッコ列車や、特急「ゆふいんの森」などに代表される観光列車は今日も賑わっていて盛況だが、ローカル列車に観光客の姿は稀である。特急待ちの乗客で賑わう駅とは対照的に、ローカル列車は、乗客を殆ど乗せていない状態で出発。リゾート特急も捨てがたいが、旅情を味わうのであれば、ボックスシートのローカル列車だなぁ・・・と思う。
分水嶺を越えると、山里に向かって下り始める。車窓には熟れた柿が目立ち、晩秋の寂しい景色の中で鮮やかな色を放っている。ビールを飲みながら、こうした景色を愛でる事が出来るのが鉄道の旅の醍醐味だと思う。「豊後森」でも長時間停車を利用して廃墟となった機関区を見学し、他の途中駅でも駅前を散歩したりする事が出来た。しかし、閑散とした車内を見るまでもなくローカル列車はすでに交通機関としての役割を終えてしまっているような気がする。
「夜明」に着いた。日田彦山線を分岐するジャンクションである為、大きな構内をもつ駅であった。山里の雰囲気が素敵な場所であったが、ここも利用客は皆無で、駅舎も無人化されてしまっていた。名前とは反対に鉄道の落日を思わせてしまう雰囲気に多少滅入ってしまう。気持ちが落ち込んでくると、楽しかった筈のローカル列車の旅も苦痛になってくる。はやく都会に出て欲しいと思いながら「久留米」までの時間を過ごした。
寅さんにも登場した九大本線 | |
見事な山容の由布岳 | |
分水嶺を越えてゆく | |
リゾート特急が目立つ | |
沿線は長閑なものだ | |
あこがれの「ゆふいんの森」号は満席だった | |
ロマンチックな名前の「夜明」駅 |