●惜別 くりはら田園鉄道
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バシャン! 大きな音に驚くと腕木式信号が赤から青に変わった。単行ディーゼルカーが通過すると再び大きな音がして信号が赤に戻った。沢辺駅付近の踏切、この光景に注目していたのは私たち二人だけだった。この信号は駅員がワイヤーを引っ張って動かしている。一昔前なら当たり前に見れたこの光景は、合理化や自動化が進んだ現在、ほとんど見る事が出来ない。そして、貴重なこの信号も、もうすぐ動く事がなくなる。
今回の旅は沢辺駅付近で列車交換を見学し、車庫のある若柳駅を車で訪れた。走行写真の撮影など、乗車派の私にしては珍しい行程だった。「デビルイヤー」氏のリクエストで決行されたくりはら田園鉄道の撮影旅行。行きたいと思っていたが、廃止の1ヶ月後前に実行する事が出来た。
撮影機材の充電ミスで撮影できなかった光景を撮る為に、翌週は独りでやってきた。この時は名残乗車も行ったが、多くの乗客で溢れていて、普段は単行のディーゼルカーも2両編成で対応していた。旅の最後は沢辺駅での撮影。先週と同じ踏切で撮影していると、バスの運転士や地元の人が話しかけてくる。バスの運転士は、一度ぐらい乗っておきたかったと言っていた。賑わっていた名残乗車の乗客の中には初めて乗った方も少なくないのではないだろうか。
すっかり日も暮れた。古い木造の待合室で最終列車を待つ。この鉄道の駅には地元の小中学生の手書きのポスターや、思い出日記が飾られている所が多い。それだけ地元に密着していたのだろう。これら手書きの掲示物はこの鉄道が愛されていた事を物語っていた。
駅周辺は真っ暗だった。その中で、駅舎の薄暗い灯りも、ホームを照らす蛍光灯も、闇の中に浮かぶように見えた。構内を見渡すと、裸電球の転轍器標識が星のように浮かんでいた。これらの灯りは、この鉄道が生きている事を無言で語っているようだった。歴史的価値の高い沢辺駅は保存されると思われるが、廃止後、もう灯りがつく事は無いだろう。
転轍機標識 | |
先に廃止された細倉駅 | |
2両編成で活躍 | |
腕木式信号 | |
夕闇を走る | |
沢辺駅事務所 | |
転轍機標識と沢辺駅 |