星願

Fly Me To Polaris

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 監督:馬楚成(ジングル・マ)

 出演:張柏芝(セシリア・チャン)、任賢齊(リッチー・レン)、蘇永康(ウィリアム・ソー)







 ”流星群が何だかわかったわ。夜空の流す涙だったのね ”




 「しまった! やられた!」 ― という感じです。えっ?何がってセシリア・チャンの美しさにです(~_~;)
 もうナース姿で現れたファーストシーンから釘付けでした....(苦笑)

 ― と言われてなんのことか判らないと思いますが 今回見てきた香港映画「星願 あなたにもういちど」は主演のセシリア・チャンの魅力が最大限に発揮された映画でもありました。
 もともと、日本以外のアジア圏の映画にはほとんど疎く(韓国映画には最近、注目していますが)俳優さんの名前もなんとなく知っている程度という感じでセシリア・チャンについても今までほとんど知りませんでした。
 (今考えると NHK-BS「真夜中の王国」の香港映画特集でインタビューとか受けていたような気がします。その時も、ああ綺麗だなとは思ったのですが 正直あまり印象に残ってませんでした。)
 そんなセシリアの天真爛漫で気の強い、でも主人公の青年には優しく接する看護婦役のキャラクターと相俟ってその魅力に私は惹きつけられたのです。



 肝心の映画のストーリーは

 〜病院に住み込みで働く青年オニオン(リッチ−・レン)は、天涯孤独の身。
 子供の頃の水泳事故が元で盲唖の二重苦になっているが、そんな不幸を気にせず、明るく前向きに病院内で仕事をして毎日を生きている。
 彼は病院内で誰からも好かれている人気者で、担当医のウー(ウィリアム・ソ−)、親友で売店主のジャンボ(エリック・ツァン)らも彼を暖かく見守っている。
 その中でも一番彼に優しく接してくれるのは、看護婦のオータム(セシリア・チャン)だった。天真爛漫でいつも笑顔を忘れないオータムは、オニオンの目には見えないものの、心に安らぎを与えてくれた。
 そんな彼女のために、彼は子供の頃、父から教わったサックスを、夜になると吹いていた。
 彼女にとっても部屋で勉強中に聞こえるサックスの優しい音色は、唯一の心の安らぎだった。しかし、オニオンはサックス奏者が自分であることをオータムに隠していた。それはずっと胸に秘めていた彼女への想いを音楽に託していたからである。

 ある夜、一緒に空を眺めていた二人は流星を目撃し、願い事をする。
 ― オニオンの願いは、すべての目の不自由な人が、見えるようになること。
 ― オータムの願いは彼の目が見えるようになって一緒に流星を眺めることと、もう一つは秘密と言う。
 オータムの心に触れ幸せを感じたオニオンであったが、そんな幸せも束の間、車に跳ねられてあっけなく命を落としてしまう。
 肉体から離れ、彼の魂がたどり着いた先は、死んだ人々の魂が集うと言われる北極星へ向かう途中の乗換駅。突然の出来事に戸惑うオニオンは、天国の審査官から、百億人に一人だけ願いをかなえられる権利(5日間だけ現世に戻れる)を与えられ、再び現世に戻ることとなった。

 しかし、現世に戻ったオニオンは目も見え、しゃべることも出来るようになったものの姿、形は別人になっていた。
 なんとかオータムに自分の存在を伝えたいと願うのだが自分の正体を明かすことは天国から禁じられている。仕方なくオニオンは生前、契約していた保険会社の調査員、卓智文としてオータムに近づく。しかしオニオンのことを知りすぎている卓智文を不審がり、却ってオニオンはオータムを怒らせてしまうのだった。

 彼が地上に居られる時間はわずか5日、はたしてオニオンはオータムに思いを伝えられるのか?〜




 ストーリーからもあるようにこの「星願」は「ゴースト/ニューヨークの幻」「天国から来たチャンピオン」ら一連の”ゴーストもの”の範疇に入る作品です。思いを残した人に会いに来るという設定は「ゴースト....」 により近いのかもしれません。
 また個人的には大林宣彦監督の「ふたり」や「異人たちとの夏」「あした」を彷彿とさせるシーンもあったように思いました。
 映画自体は冒頭からナレーションで語られるようにオニオンの視点で描かれるものですがせつなさいっぱいの怒涛の後半は あきらかにオータムの”心の視点”で描かれています。ゆえに観客が例え自分のように男であってもオニオンを通したオータムの気持ちのせつなさ、つらさが感じられ涙してしまうのです。
 (ココからネタばれではありますが)卓智文としてオニオンの日記を読み上げるシーンは特にそうです。このシーンに過去のオータムがオニオンを散髪してあげるシーンがオーバーラップしてくるあたりなどもう目が潤んで仕方ありませんでした。(このシーンでのセシリアは特に綺麗!)
 前述したようにオータムが卓智文の正体に気づき病院内を狂ったように探しまわる映画後半からはもうこれでもかという涙、涙...という怒涛の展開。
 心に迫る顔をくちゃくちゃにして泣くセシリアの姿に簡単に感情移入出来てしまう訳です。
 はじめから”5日間だけ”とある意味「別れ」が前提となっている為、映画を見る観客側からはラストの「別れ」をどのような形で収めるのか(はたまた「別れ」の予想を裏切るのか)と期待してしまうのですがラストは比較的オーソドックスにまとめられた事もこの映画に好印象を与えたように思えます。
 ただ思いがやっと通じたのも束の間、現世に取り残されてしまったオータムがどのようにこれからの人生を生きていくのか気になるところではありましたが 最後の言葉で多少救われた感じです。




 最後に全く個人的なことなのですが 書き加えておきたいことがあります。


 私は 最近、ある盲目の方とネットを通じて親しくさせてもらっていることもあり(テクノロジーの進歩でネット上でも交流ができるのです)その方の事がこの映画を見ている最中、想起せずにはいられませんでした。
 その方は 主人公オニオンと同じように音楽に秀でた才能をお持ちで いつもその素晴らしい作曲能力とギタープレイで私達を感動させてもらっていることもあり どうしてもオニオンとその方が重ねて見えて仕方がなかったのです。
 映画の中で、現世に戻り、口もきけるようになったオニオンが子供の頃から夢であったあるラジオ番組のお悩み相談コーナーに電話して全国のリスナーにこう語りかけるシーンがあります。


 「皆さん 目で物を見ないで下さい。この1分間、どうかゆっくり目を閉じて、心で世界を感じて下さい。....すべてが違って感じられるから。心で見る世界は美しい。自由な想像で喜びをふくらませてくれる。」と。


 私自身は五体満足で目も見えるし、しゃべることもできる。普段からそれが当たり前と思いその幸せを実感することも多くはありません。
 目で見るということは 同時に目で見たものしか信じえないという事でもありこのオニオンの言うように”心で感じる”なんてことはなかなか出来るものではありません。
 しかし”心で見る世界”は言わば誰にも侵されることのない誰もが持っている唯一の世界。目で見える世界よりも本当はこちらの世界の方が真の姿であるのかもしれません。
 今回、その方のことがあってこの映画を見てみようと思った訳ではなく全くの偶然であったのですが 彼の才能の素晴らしさはこういうところにも秘密があったのではと勝手に思いを巡らしてしまいました。 


 みなさんも 一日に一度でもいいですから、心を落ち着かせて、目を閉じて、外の出来事に心で感じてみませんか。きっと何か違って感じられるはずですよ。





 そして − 映画の中で重要な役割を演じるサックスとその音楽、主役の3人がそれぞれ歌う挿入歌の素晴らしさも付け加えなければいけません。
 多分、一連の楽曲が無ければこの映画の感動の度合は半分になっていたことでしょう。
 良い映画には良い音楽ありきという、いい見本みたいな作品ですね。 





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