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 監督・脚本・VFX:山崎貴

 出演: 金城武 、鈴木杏 、岸谷五朗、岡元夕起子、高橋昌也、樹木希林




 数年前、国民的アニメーション「ドラえもん」の最終回がネット上(後に週刊誌でも)で話題になったのだがご存知だろうか?

 内容はこうである。


 ある日、突然、ドラえもんが動かなくなってしまう。
 のび太は必死にドラえもんを起こそうとしてもなんの反応も示さない。
 心配になったのび太はタイムマシンで22世紀に飛びドラミちゃんに相談するが故障の原因は電池切れだと判明する。
 しかし、電池を入れ替えればのび太との思い出もすべて消去されてしまうということを聞きのび太は悩み結局はドラえもんをそのままにすることにした。
 それから数年後、のび太は成長し優秀な技術者となった。
 のび太はただドラえもんを直したいという一心で勉強に勉強を重ねた結果だった。
 そしてついにその時は来たのである。
 持てる技術を屈指し、起動スイッチを入れるのび太。
 ついにドラえもんは目を開き...」



 断っておくまでもないが、これは藤子 F 不二雄氏とは関係ない第三者による創作でありTVでも今後、放送される予定も全くないはずなのだが、実はこの話を参考に(実写)映画化された作品があった。
 それが2000年公開の「ジュブナイル」である。
 これはCG関係で活躍してきた山崎 貴氏が初めて手がけた作品であったが、未来からやってきたロボット”テトラ”と少年達との交流などCG以外のドラマ部分でもきめ細かい演出で全編”どこか懐かしい”感情に彩られたSTORYに子供だけでなく大人も心揺さぶられた。
 この映画 ラストは正に「ドラえもん最終回」であったのだが、映画全編を通して言えることは私が子供の頃から小説やNHK少年ドラマシリーズで慣れ親しんだ、そう 正に”ジュブナイル”なSF作品であったのだ。

 そんな山崎監督が今年、満を持して送り出したのが 本作「リターナー」である。
 今回、主役ミヤモトには香港、台湾、日本と国際的な活躍をみせる金城武を起用。金城氏も多くのオファーからこの作品を選んだのも前作『ジュブナイル』を見て「日本でもこんな作品が出来るんだ」と感心したからというのも泣かせる(笑)
 またそのミヤモトの相棒、ミリには「ジュブナイル」から連続登板 鈴木杏さん。前回とうって変わり謎めいた少女を演じている。
 また極悪非道な中国黒社会のキレた男を岸谷五朗氏が演じ凄みをきかせている。




 あらすじ

 闇の取引現場に潜入し、ブラック・マ ネーを奪還、依頼者に送り戻す事を生業にする“リターナー”。
 “リターナー”をしながら孤児であった少年時 代、無二の親友を殺した相手を捜すミヤモトは今夜も港の闇の取引現場に潜入。
 まんまと金を奪還するものの そこに決して忘れることの出来ない男を見つける。その闇の取引を仕切る男−溝口は親友を殺した犯人だったのだ。
 ミヤモトと溝口の間で繰り広げれる激しい銃撃戦、しかし現場に紛れ込んできた謎の少女ミリの出現で 今一歩のところで溝口を取り逃がしてしまった。
 ミヤモトは銃撃戦の中、誤って撃ってしまったミリを仕方なく連れ帰るが、一枚のプレートが盾となって命びろいしたミリからある重要な用件を手伝って欲しいと頼まれる。それは

 ― 今日から2日後。この先私たちの運命を左右する大きな事件がきっと起きる。その前にそれを未然に防ぎたい、そのために自分は遠い未来からやって来たのだ―

 という突拍子もないもの。ミヤモトは溝口の跡を一刻も早く追いかけたい為にミリを相手にしていなかったがある現象をミリから見せられた為、少しずつミリの言う事信じ始めるのであった。
 そして行動を共にしていくうちに二人には同じような境遇から信頼感が生まれ心を通わせるまでになる。
 だが、時間は二日しかない。そこに何故か立ちはだかる宿敵 溝口。
 激しい攻防の中、やがてとんでもない真実に突き当たる二人。

 ミヤモトとミリ。彼らは本当に未来を変えることができるのだろうか?





 まず 今回の映画は前作と比べ物にならないくらいハードなシーンが多い。
 冒頭から銃撃戦で人体が吹っ飛びバラバラになったり、溝口が自ら”商品”であるはずの人身売買の子供を五月蝿いと簡単に撃ち殺したりと「ジュブナイル」のノリで見ていると唖然とさせられる。
 だが テーマ的にハードでありながら(ある意味、ミヤモトの溝口に対する復讐劇でもある訳だから)ミヤモトとミリの凸凹コンビの何気ない会話や 心を通わせるシーンはこの映画における一服の清涼剤のようであった。また彼ら二人の協力者を演じている樹木希林もさすがベテラン、とぼけたキャラを好演している。
 また映画ファンには 山崎監督がインスピレーションを受けたと公言するハリウッド映画、アニメなどの作品からの”引用”を探してみるのも楽しい。
 くちさがない者は「これはパクリだ」と言いがちだが、今回はありがちな「模倣」というレベルでは語れない特別なモノを強く感じた。
 例えば「マトリックス」にある有名な 銃から発射された弾が弾道を描きながらスローモーションで主人公ネオに向かってきて 身をよじりながら避けるシーン。
 普通にこれをそのまま「模倣」すれば ただの「パクリ」である。
 しかし、ここに山崎監督はミリが未来から持ち込んだという設定の”体感時間を20倍にする”という『ソニックムーバー』という武器を導入したことで『ソニックムーバー』装着者からは1/20の早さに見え、すなわちそれはスローモーションのように見えるというアイデアは非常に良かった。
 我々の世代以上にとってこれはサイボーグ009の『加速装置』スーパージェッターの『タイムストッパー』(さすがにこれはリアルタイムには知らないが)という懐かしきアニメ作品からの引用を想起させ大いに喜ばせたのである。
 他にも気づいただけで「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ターミネーター」など何本か有名なSF作品をモチーフとしている本作が 安っぽいパロディな作品にならなかったのはVFX等の技術力の高さと 安易に原作ものに頼らず自ら創造したオリジナルに拘った山崎監督以下、スタッフの志の高さがあったからこそだと思うのだ。


 日本公開の後、全米公開も決まっている「リターナー」。
 数年後には ハリウッド発の日本作品が山崎監督によって作られているかもしれない。





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