パコダテ人

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 監督:前田哲

 脚本:今井雅子 (函館港イルミナシオン映画祭 第4回シナリオ大賞準グランプリ受賞作)

 製作:松下順一、岡俊太郎、三木和史、笹原嘉弘、宮内純二

 出演:宮崎あおい、松田美由紀、徳井優、萩原聖人、大泉洋、松田一沙






 この映画日記を以前から読んで頂いている方はもうご存じだと思うが

 私は”ファンタジー”な映画が好きだ

 友好的な宇宙人がある日突然やってきたり、亡くなった最愛の人がこの世に還ってきたり時間を遡り、あるいは未来へ旅立ったりという 現実を超越した「夢物語」が 私は昔からなぜか好きである。
 それはなぜか? と問われれば多分、今はもういない懐かしき人々にもう一度逢いたいという願いや過去に遡ってもう一度やり直したいという気持ちの現れだと思えるがこの「パコダテ人」も”ある日、朝起きたら シッポが生えていた”というカフカの「変身」のようなトンデモ話はテーマからして自分の嗜好にぴったりの映画であった。その為、結構期待してはいたのだが.....




 その前に 主演の宮崎あおいちゃん、いや、今やあおいさんと呼ばなければ失礼かも(苦笑)
 彼女の事を書いておこうと思う。
 今や、チャイドル?と言われる一群の中で 一番の演技力を有する彼女に出会ったのは大林宣彦監督の「あの、夏の日 とんでろじいちゃん」という作品だった。
 当時(撮影:1998年 公開:1999年)、彼女はまだ小学生。
 映画では お玉ちゃんという肺病で余命いくばくもない薄幸の少女を演じていたのだが 劇中では(遠目ながら)ヌードシーンもあるということで撮影は結構大変であったと後日、ある方から聞いたことがあった。
 そんな彼女と生で出会ったのも 映画の撮影現場となった大林映画の故郷、広島県尾道市。
 「あの、夏の日」「あの 尾道」レポートにも詳しく書いてあるが機会あって臨んだ映画完成披露試写会イベントの前、当然の事ながら実際に映画を見る前というなんとも不思議な状況に於いてであった。
 ただ あの当時、有名な俳優ならまだしも子役の子達までは把握していなかったので突然現れた彼らに
 「ああ この子たちが映画に出ているのね」
 くらいの認識しかなかったが、翌日「Sounds of Seto」という船上映画館で行われた舞台あいさつの合間、船内のあちこちで見かけ、私が応援する佐野奈波さんと手をつないでまるで姉妹のように行動されていたあおいさんの事はとても印象に残っている。
 その後、同年の7月、「あの、夏の日 とんでろじいちゃん」の東京での舞台あいさつにも登場されて(そういえば あおいさんの祖母という方も偶然、見かけました)いましたし、私がエキストラ参加した「淀川長治物語 神戸篇 サイナラ」の現場でも同じ時間を共有したりとすれ違いながら接点はあったようです。

 早いものであれから3年。
 「あおいちゃん」から「あおいさん」へ”大人への階段”を着実に登り続けている彼女はこの間にもTVドラマ、CM、映画と活動の幅も広げ、正に女優への道を邁進している。それも正統派映画女優を目指しているのは映画ファンにとっては嬉しい限りだ。その方向性が実を結び 「害虫」でのナント映画祭主演女優賞「ユリイカ」のカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞など彼女は今や国内を飛び越え海外まで注目されている。

 そのあおいさんが出演した「パコダテ人」はシリアス路線の「ユリイカ」や現時点では未見の「富江 最終章」などのどちらかと言えば陰なイメージな映画とは違い、前述したようにシッポが生えた少女の戸惑いや少女周辺のドタバタな騒動をファンタジックに明るく描いている。 




 あらすじ

 函館のごく普通の高校生、日野ひかるは ある朝、目覚めたらシッポが生えていたことで人生が変わってしまう。
 楽しみにしていたクラスメート、隼人との初デートをドタキャンせざるおえず そのスキに信じていた親友の千穂が隼人に接近して 気分は落ち込むばかり。
ひかるの姉でファッションデザイナー志望のみちるは「堂々と見せれば ファッションになる。あたしの赤毛と同じ」と言って、自分もカモフラージュのシッポをつけ外に連れ出し励ますが その後ろ姿を「函館スクープ」という3流誌の記者、早川に写真を撮られてしまった。そして翌朝には新聞に載り正体不明のシッポ人間を捜せという騒動までになってしまう。
 一方、役所に勤める古田はるおにもシッポが突然生えて困っていた。
 男手ひとつで育てている一人娘のまゆには好評だが職場では誰かに気付かれるのでは気がきではなかった。

 同じ頃、某社の会議室では若い社長を中心に幹部連中が深刻な会議が開かれていた。なにか今回のシッポ騒動に関係があるようだ。

 時が経つにつれ ひかるのシッポはもはや家族の間で隠しきれなくなり 両親に告白するも父親はあまりのショックにシッポを切ろうと混乱するが「シッポがあってもなくても、ひかる はひかる」という現実を受け入れてくれた事でひかるはTVでシッポ人間である事を明るく公表、シッポ人間は「パコダテ人」と名付けられて一躍 時の人となる。
 それはマスコミの取材攻勢、ひかるのアイドル化、姉みちるがデザインしたファッション「パコダテール」の大ヒット、パコダテ人発祥の地函館に押し寄せる観光客などの現象となって現れたが どんどん遠い存在になっていくひかるに隼人は外から眺めることしか出来なかった。

 しかし、パコダテ人騒動に落ち着きが見え始めた頃、学者の不用意な誤った一言からパコダテ人は窮地に追い込まれてしまう。
 最終的には自衛隊や国家機関までもが出動する事態に発展するが......
 果たしてひかるの運命はどうなってしまうのか?
 家族は?隼人との恋の結末は?





 脚本は函館港イルミナシオン映画祭第4回シナリオ大賞準グランプリ受賞作というだけあって 流石に地元函館の見せ方はうまい。
 『観光地映画こそ映画だ』という様な事をかの淀川(長治)さんはおっしゃっていたと思うがその点ではまずこの映画は合格であろう。松田美由紀さん、徳井優さんの両親もひかるに理解ある役所を丁寧に演じている。特に姉、みちる役の松田一沙さんとはほんとの仲の良い姉妹のようで劇中で語られる妹想いの言葉にはジーンときてしまった。
 このようにひかるを中心とした普段の家族関係を描くのは非常に良かったのだがその周辺の描写が個人的には違和感が残ってしまったのも事実である。
 特に札幌テレビが制作に絡んでいる割には「パコダテ人騒動」に群がる取材陣があまりにもステレオタイプだし現実をカリカチュアライズしているとは言え自局で用意したアナウンサーの演技にも?がつく感じである。
 だが私が一番滑稽な感じがしたのはクライマックスの自衛隊と国家機関が登場してくるシーン。
 カメラアングルとかほとんど「E.T」の後半のシーンを意識しての演出だとは思うのだがなぜTVの報道陣を交えた衆人環視の中で国家機関がああいう行動に出るのか非常に不思議に思えた。(普通、隠密にやるでしょ?)多分、次のオチを華々しくするための伏線だとは思うがやはり納得がいかない。
 それに突然現場に現れる 同じシッポ人間、古田の行動も理解に苦しむものがある。
 今までひた隠しに隠してきたはずの彼が何故?
 わざわざつかまりにいくようなものなのに???と感じてしまったのだった。



 最後は批判めいてしてしまったが ラストのほのぼのとした感じはいい。
 このシーンで先程までの映画的不満は解消されていくが、今回のひかる役が素の宮崎あおいさんに最も近いと思われるだけに細かいところにも配慮して欲しかったと思うのである。





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