監督・脚本:古厩智之 製作:富山省吾 企画:ゼネラル・エンタテイメント 出演:長澤まさみ、小栗 旬、伊藤淳史、塚本高史、うじきつよし、荒川良々、平泉 成、吉田日出子、須藤理彩、鈴木一真 「清々しい」 まずはこう言っていいのだろう。「ロボコン」はそんな映画である。 「ロボコン」と聞いて往年のあの「がんばれロボコン」を思い出す人は確実に30代以上の人だと思うが、この「ロボコン」はそれとは全く違う。 通称ロボコン、正式名称「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」の事である。 映画はこの「ロボコン」に参加する学生たちの姿を爽やかに描くのだが日本映画初ではないだろう。か高等専門学校(以降 高専)という普段、なじみのない学校を舞台に(ロボコンに参加する他校の生徒を含め)その独特な空気感をエンターティンメントの世界で表現した事はある意味、エポックメイキングな事でもあった。 あらすじ 「めんどくさ〜い」 が口癖の葉沢里美は徳山高専、機械科の2年生。 理科系が好きで高専に入ったものの、最近は好きなものも見つけられずにダラダラとした生活を送る評判の落ちこぼれ。 課題に出された「手作りロボット」も市販のキットに顔を描いただけで提出しお陰で今日も担任の図師先生から呼び出しをくらう始末だ。 その図師先生から1ヶ月の居残り授業を宣告されるが同時にこれを免れる唯一の条件も出された。 それはロボット部に入り、ロボコンに出場する事というもの。 第2ロボット部は部長の四谷四郎以下3人の部員で成り立っていたがうち1人はユウレイ部員な存在のため、ロボコン出場に必要な3人にも満たない状態であった。第2ロボット部の顧問でもある図師先生にしてみれば里美への入部強制はその数あわせの為でもあったのだ。 渋々、仮入部を果たした里美であったがロボコン地方大会3日前にして急にドライバーに指名され頭は既にパニック状態。地方大会の前日のリハーサルを兼ねた第1ロボット部との競技でも反則負けをしてしまう。 その後の地方大会本番でも当然、初戦敗退であったが万年初戦敗退に慣れきってしまった他の部員達からは何の悔しさも感じられなかった。里美にはそんな彼らの態度が不思議で仕方なかったのだった。 「ウチの部員、あんなので楽しいのかな…」 やがて地方大会も終了。優勝は例年通り、第1ロボット部であった。 だがここで奇跡が起こった。全国大会には優勝校の他、審査員の推薦で2校が出場出来るのだがアイデアの面白さで第2ロボット部も選ばれてしまったのだ。 これを機に俄然やる気を出す里美。しかしチームワークもバラバラでマシンも本来の完成型からほど遠い出来だ。図師はそんな状況を打破する意味も込めて海辺での合宿を勧めるのだがそれには条件があった。 「お世話になる旅館でアルバイトをする事」と「いいと言うまでロボットの作業をしない事」という二つ。 全国大会までほとんど時間も無いというのに大丈夫なのか? 図師の考えも理解出来ないまま、アルバイトに忙殺される部員達。しかし、その中で徐々に生まれる連帯感。 ようやく一つにまとまり始めた第2ロボット部。 「そろそろ制作始めようか」 図師の合図でやっと始まったロボット制作も残された時間はあと僅かしかない。 果たして全国大会までに間に合うのだろうか? こう言ってはなんだが、上記あらすじで書いた映画前半部は はっきり言って物足りない。 よく言えばマッタリとした雰囲気の中、物語が進行するだけで心を捉えるシーンも少ない。 唯一良かったと言えば全国大会を翌日に控え(事前審査で重量オーバーになったマシンを改造する為)夜遅くまで作業をし、夜食のラーメンをすすりながら心の結束を確認するというシーン。 里美の「ずっと今日が続けばいいのにね。」というセリフには誰もが文化祭等で夜遅くまで学校に残って作業をした懐かしき青春の日々を思い出さずにはいられないだろう。 そして後半の大会本番・競技大会のシーンになると今までのマッタリとした雰囲気から一転。一気に緊張感の溢れた映像の連続に手に汗握り、俄然、面白くなっていくのだ。 (映画上の)ロボコンにおけるルールとは 3分間という時間内にフィールドにセットされたポッドの上に箱を置きポイントを競うというものなのだがその3分間を実際に戦い、カットを割らずに長回しに俯瞰を中心に撮っている事がまるで我々もその場にいるかのような臨場感を与えているのだった。 考えてみて欲しい。カットを割らずに撮るということがどれだけ大変な事か。 特に今回はロボットというマシンが相手だ。監督の意図した通りに動くまでにはとてつもない時間と苦労があった事は想像に難くない。 だが時にはそれが奇跡を生む事もある。 それは宿敵第1ロボット部との準決勝のシーンで起こった。未見の方の為にここでは詳しく書かないが、あのような劇的な結末は誰も予想だにしなかっただろう(パンフによれば本来の段取りと違っていたらしい)。 まさにあの瞬間、主演の長澤まさみも言っていたように『映画の神様』が降りてきたと言っても言い過ぎではないと思う。 それぐらい演出と演技、ロボットのタイミング等々全てがPERFECTだったのだ。 確かにネット上では高専生などからは「映画は現実から遊離している」という声も聞かれるのだが何も現実世界を忠実に模倣すればいいばかりが映画じゃない。 映画を「花も実もある絵空事」と言ったのは大林宣彦監督だが 正に「ロボコン」も そうなのだ。 正統的すぎるほどの予定調和的展開、笑えないギャグ、意味不明な演出.....論えたらキリが無いほど作品的に粗も見える。 だが、そんな事どうでもいいと思えるほど競技シーンは引き込まれたのだ。 またこの映画が「ロボコン」という競技への興味の裾野を広げる事を見事果たしているのも立派である。とかくヲタク的イメージに囚われがちなこの種の競技会のイメージアップにも役立ったのではないだろうか。言うなれば「知力と技術、根性の甲子園」という感じ。私も次の全国大会はTVでぜひ見たいと思っている。 ところで私は冒頭、この映画の感想を一言でまとめ「清々しい」と書いたが、それは主演の長澤まさみの存在が大きくウエイトを占めていると思う。 長澤まさみは偶然にもデビュー作「クロスファイア」(宮部みゆき原作、金子修介監督)から見ていたが存在を意識したのは やはり昨年の「なごり雪」からである。「なごり雪」では死にゆく主人公、雪子の娘役であったが役柄ゆえか演技が堅かった事だけが非常に印象に残っていた。その後、「黄泉がえり」なども出演していたらしいが私にはほとんど印象が無い。 しかし、今回の「ロボコン」は実年齢の役柄もあって非常に自然体。いい意味で力が抜けて里美のキャラクターにはピッタリだった。(というより長澤まさみ自身がほとんど作り上げたキャラらしいが) まだ時折、眉間に皺をよせて堅い表情をする時もあるが、笑顔が非常に良かった。 特に象徴的だったのは前述の準決勝後、客席に向かって投げかけた笑顔だろう。 このシーンは映画「ロボコン」において名シーンの一つとして数えられるに違いない。 それから忘れてならないのは音楽の事。 最近、五月蠅いほど終始、劇中流されることの多い映画音楽だが今回、実に控えめでそれが心地良かった。 長澤まさみが劇中トラックの荷台で唄う山口百恵の「夢先案内人」、見せ場を演出する徳山高専吹奏楽部が演奏する「蘇州夜曲」もこの映画には異端な感じもするが、逆に功を奏している。アクセントになっていると言えなくもないだろう。 ここでも「いい映画には いい音楽ありき」が証明されたという事でもある。 「シコふんじゃった」「青春デンデケデケデケ」「がんばっていきまっしょい」「ウォーターボーイズ」の流れを組む本作。 また一つ日本映画に佳作が生まれたと言えるのではないだろうか。
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