脚本:宮藤 官九郎 監督:金子 文紀 プロデューサー:磯山 晶 配給:アスミック・エース 出演:岡田 准一、櫻井 翔、岡田 義徳、佐藤 隆太、塚本 高史、酒井 若菜、阿部 サダヲ、山口 智充、嶋 大輔、内村 光良、哀川 翔、氣志團、ユンソナ、渡辺 いっけい、古田 新太、森下 愛子、小日向 文世、薬師丸 ひろ子 「グループ魂」の項で書いたが脚本家、宮藤 官九郎 の活躍ときたら 最近、凄まじいものがある。 「水10 ワンナイR&R」「笑う犬の太陽」 の構成・出演、ドラマ「マンハッタンラブストーリー」 の脚本、映画「福耳」 出演、映画「アイデン&ティティ」 (みうらじゅん原作)脚本、映画「ゼブラーマン」 (哀川翔主演100本目記念作品)脚本、映画「ドラッグストア・ガール」 脚本、映画「69」 (村上龍原作)脚本と”ありえね〜”仕事量。 先日、TV番組「情熱大陸」でもこのクドカン(宮藤 官九郎)の仕事ぶりを密着していたが脚本を書く上での”生みの苦しみ”というものが画面からひしひしと伝わってきた。 なぜ これだけクドカンが引っ張りだこなのか?と問われれば、それは若者特有の空気感、ニュアンスなどをリアルな言葉で表現する事に長けているという事だろうか。 クドカン自身、年齢的にも30代前半という事で さして若者でもないのに若者を中心に指示されるのは非常に不思議な気もするが、10代〜20代周辺へのリサーチ力が凄いのかもしれない。 そんなクドカンに私が注目し始めたのはTBS系ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」 から。 直木賞作家、石田衣良の原作で東京、池袋にたむろする若者たちの情景を毎回、発生する事件とリンクさせながら描くというものだったが、ここに登場するトラブルシューターのマコト(長瀬智也)やカラーギャングのキング(窪塚洋介)ら魅力的な登場人物の創造はクドカンのリアルな言語感覚におっていたと思っていいだろう。 そして「池袋ウエストゲートパーク」終了後、再び同じTBSでクドカンが挑んだのが今回の映画版オリジナルである「木更津キャッツアイ」というドラマであった。 あの漫画「キャッツアイ」から引用したという怪盗団「木更津キャッツアイ」が登場するという話だけに、最初はサスペンスものか? と勘違いしそうにもなったのだが さにあらず。ほとんどが草野球チームの「木更津キャッツ」としての表の顔がメインの、普段のまったりとした生活が描かれていくというクドカンお得意のもの。 ただ他の作品のように登場人物が町の皆に愛されるホームレス、ひきこもりの女教師、物真似好きなヤクザ、熟女ストリップ嬢等々、個性的な面々が登場するあたりがいかにもクドカン・オリジナルな作品である。 (当時、人気に火がつき始めたバンド・気志團もゲスト出演、これでブレークした) だが主役が齢21にして余命半年というキャラクターは今までのクドカンドラマには無いものであり、まさかのお涙頂戴ドラマかと私自身、危惧もしたが、そこはクドカン。大御所脚本家が書くようなラストで死んでしまうありがちなドラマにせず(最終回では一度死にながら、生き返るというドンデン返し)毎回、普通にクダらなく描く事でかえって”死”と向き合う事をリアルに表現しこれまた主人公と同世代の若者達に共感を得るに至ったのだった。 この人気を受けて制作された本作「木更津キャッツ・日本シリーズ」はTV版半年後の夏が舞台である。 あらすじ (公式HPより) 21歳にして余命半年を宣告されたぶっさん。 死の淵から突然蘇って周囲の度肝を抜いてから半年後の夏…ぶっさんはまだまだ絶好調!死ぬほど元気に野球とビールに明け暮れる毎日。大好きなモー子とラブラブな大学生のバンビ、飲み屋“野球狂の詩”を営むマスター、ギャンブル好きのアニ、尾行が趣味な謎の男のうっちー。5人は相も変わらずつるんでいる。高校生の時に甲子園出場を目指していた5人は、野球チーム“木更津キャッツ”で草野球をする一方、実は怪盗団“木更津キャッツアイ”の顔も持っている。 野球狂の詩。昼間からキャッツ達がビールを飲んでいると、遠くから木更津伝統の踊り、“やっさいもっさい”の音が聞こえてくる。 たまらず外に飛び出すと、第1回に引き続き、第2回ミスター木更津の栄冠に輝いたバンビが、ノリノリでやっさいもっさいを踊りながら現れる。 一方、元ストリップ劇場の木更津ホールでは、刑務所から出所した猫田を店長に、山口先輩が韓国パブを開店させようとしていた。その開店に各々の勝負服で駆けつけたキャッツ達は、チマチョゴリを着た ホステスさんたちにモテようと必死。ぶっさんはそこで片言の日本語を話す韓国人の女の子、ユッケと出会う。 そんな中、うっちーが死んだはずのオジーを発見する。昔と変わらぬオジーに、大喜びのキャッツはカレの新しい住居として、船をプレゼントする。一方、地上げ屋に狙われている孤児院“甘えん坊ハウス”を救うため、氣志團が木更津に帰ってくる。彼らは地元木更津で大規模なロックフェスティバルの開催を計画していた。 哀川翔・命のぶっさんは映画館で、哀川翔主演映画を観ながら日本語の勉強をしているユッケと再会する。そしてひょんなことから一緒に伝説の赤い橋を渡ることになった2人の距離は、急速に縮まることに。 一方、美礼先生は高校時代の憧れの人から手紙を受け取る。やっさいもっさいがめっぽう上手く、その笑顔を見ると誰もが幸せな気分になれるという通称“微笑みのジョージ”。 美礼先生はジョージとの結婚を宣言して一同を驚かせるが、その微笑のジョージが木更津に現れたことで、予想だにできない展開が繰り広げられることに…。 果たして無事キャッツはロックフェスティバルで新曲を披露することができるのか!?オジーの復活の謎は!? 公助とローズの高齢カップルの行方は?そしてぶっさんの恋の行方は...... 上記のあらすじには書いていないが、映画冒頭は30年後の未来から始まっている。 当然、ぶっさんも亡くなりその命日という日に(意外にもつぶれずに続く)飲み屋“野球狂の詩”にかっての木更津キャッツアイのメンバーが集まって当時のぶっさんを偲ぶという案外、映画としてオーソドックスな作りとなっているのだが、30年後のメンバーの配役が既に反則で大笑い。(嵐の櫻井 翔 の30年後を誰が中尾彬と想像できよう !! 佐藤 隆太なんて渡辺哲だぞ ! ) その後も禁じ手だらけの大反則の連発。 (ここから完全にネタバレです) 一番、大反則はラスト近くに何故か?登場する「ゴミンゴ」という怪獣。 一応、海をゴミで汚染した事から(という前フリもありつつ)突然変異して誕生という事なので正に往年の東宝怪獣「ヘドラ」を引用していると思えるがその形はどうみても「ゴーストバスターズ」のマシュマロマン。 おまけにそれを退治する為に何の脈力もなく登場する船越英一郎(現在、放映中の「マンハッタンラブストーリー」がらみか?)。 その船越が光線銃らしきものを取り出したかと思えばそれはオカリナで、そのオカリナを吹き始めると怒りに任せ暴れていた「ゴミンゴ」も大人しくなり海へ帰っていくという?が一億個つくぐらいの全くダウナーな展開。もう開いた口が塞がらなかったくらい(笑)。 オジー(古田 新太 )が実はジョージの変装した姿というのはドラマ「僕の魔法使い」そのままの役柄である(「僕の魔法使い」・・古田 新太があるきっかけで篠原凉子と体が入れ替わるというドラマ。もちろん元ネタは大林宣彦監督「転校生」)。 映像表現的にも弾丸が飛び交うシーンは「マトリックス」の影響が顕著だし、この映画から引用やパロディを探し始めたらそれこそキリがない。 また映画版もTV版の流れを組み、野球の試合のフォーマットを採用(ゆえに副題が「日本シリーズ」)。 ストーリーを1回表〜9回裏、延長戦と分割し、あの猛烈な速さで(フィルムの巻き戻し、早送り)時間軸を行ったり来たりとするのだが、時間軸を無視するあたりは最近、私が「キル・ビル」を見たばかりなのでそうかもしれないがクエンティン・タランティーノと同じ匂いを感じてしまった。 「キル・ビル」がマカロニ・ウエスタン、深作欣二等のヤクザ映画、千葉真一の影の軍団、梶芽衣子、香港カンフー映画等々の影響受けまくり&引用しまくりの情報過多映画であった為、「木更津キャッツアイ」にも同じような傾向を感じたというのもある。 パンフレットには当初、ガイ・リッチー(現・マドンナの旦那)の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を参考にしたとあったが案外、ガイもタランティーノあたりを踏襲しているのかもしれない。 しかし、タランティーノほど映画ヲタ万歳ではなく、さほどマニアックにならずそれでいてコアなものを提供するクドカンのスタイルは元ネタを知るはずもない若い世代にも充分、受け容れやすかったという事なのだろう。 それに当然の事ながら主人公”ぶっさん”の死というヘヴィーな側面もある為、胸にグッとくるシーンもあるのだが、いかにも”泣け”と言わんばかりの過剰な演出が無かったのも私的にも好印象。 とにかく「くだらね〜けど好き」という作品でありました。 さて続編「ワールドシリーズ」は有るのでしょうかねえ(笑)
|