香港を歩く


2003年12月5日

深セン駅


 仕事も無事に終わり、本日は日本に帰国するだけとなる。仕事先の相手には往きと同じ蛇口経由での帰国を進められたが丁重に断り、陸路での香港入りを試みる。
 朝7時過ぎ、ホテル近くのバス停から101番系統「火車站」行きに乗車する。バスは乗車する時に手を挙げて合図しないと通過してしまう。タイミングが難しいのだが、他にも同乗者がいたので無事に乗車できた。
 既に朝の通勤ラッシュが始まっており車内は混雑している。1席だけ空席があったのでそこに座ると、すぐに車掌がやって来た。やって来た車掌は女性であった。車掌が乗務している路線バスと云うと、日本では静岡鉄道の静岡−井川線くらいしか記憶がない。
「火車站」と告げて、手のひらにコインを載せて差し出すと、4元受け取り乗車券のようなモノが手渡された。日本円にして52円である。一昨日乗車したモノレールと比べても随分と安く、リーズナブルな乗り物である。

バスチケット

バスのもぎり券

深セン駅

深セン駅

 華僑城と火車站を結ぶ通りは、道幅は広く沿道に高層ビルがそびえ立っている。この区間は2004年開通予定で地下鉄工事を行っている真最中である。ほぼ全線に渡って掘削工事を行っており、本当に1年後に開通するのか疑問に思っていたが、計画通り、2004年12月28日に開通した。中国の底力には驚く。

 道路は渋滞しやすいと聞いていたが、幸いにも渋滞に遭遇することもなく、約40分で深セン駅前のバスターミナルに到着した。駅前は地下鉄工事の真っ最中で、派手に土砂を掘り返している。駅舎までの道は、非常に歩きにくかった。

 列車に乗るわけではないが、せっかく駅に来たのだから駅構内を歩いてみる。8時前だからか人影は少なく、営業している店もほとんど無い。時刻表が入手できないか探してみたが、それらしい雰囲気の店は見あたらなかった。
 ホームで列車の撮影をしようかと思ったが、自由に改札内に入ることはおろか、乗客の荷物を片っ端からX線透視を行い厳重にチェックを行っている。これでは気軽に列車の撮影は出来ない。中国の鉄道は中長距離旅客が主体で、都市圏鉄道としての機能は持ち合わせていないことが伺える光景である。そういうことで、駅舎北側のデッキで列車を眺めることにした。
 デッキには約30分程いたが、広州や武昌からと思われる旅客列車や貨物列車が数本発着した。中国の鉄道は中長距離輸送しか行っていないのだが、意外にも運転本数が多い。ちなみに、都市間シャトルとして、広州(東)−深セン間には58往復/日の旅客列車が運転されている。驚くべき運転本数だ。


旅客列車

旅客列車

総2階建て車

総2階建て車

ディーゼル機関車

ディーゼル機関車牽引の貨物列車

藍箭

深セン−広州・高速列車「藍箭」

深セン駅で目撃した列車達

 こういう光景はいつまで眺めていても飽きないが、先を急ぐ。
 駅前の羅湖商業城で朝食を済ませた後、羅湖口岸から香港へ入国する。1997年6月に香港は中国に返還されたにも関わらず、中国−香港間は簡単には行き来できず、必ずパスポートコントロールが必要である。
 羅湖口岸は香港へのメインルートとあって、想像を遙かに上回る行列が出国ゲートに出来ていた。羅湖口岸は毎日何万人という人が利用しているようで、世界でもっとも利用されているイミグレーションでないかと思われる。
 約20分ほどで審査が終わると、いよいよ中国出国である。国境の深セン川には二層構造の橋が架かっている。今までの人生で、歩いて国境を越えた経験はなく、橋を渡っているとワクワクするが、周りは人だらけ。立ち止まっても邪魔になるだけなので、感傷に浸るまもなく香港の地に足を記す。香港の入国審査を済ますと、そこは九広鉄道(KCR)の羅湖駅である。
 銀行が見えたので、手持ちの人民元を香港ドルにすべて交換し、窓口でICチケット「八達通(オクトパス)」を購入する。
 「八達通(オクトパス)」は、香港版のSuicaとも云うべき電子ICカードで、Suicaと同様に、SONYのフェリカの技術を利用している。香港の鉄道、バス、路面電車などの公共交通機関が利用できるほか、自動販売機等でショッピングも可能である。JR東日本のSuicaでも、最近ショッピングできるようになってきたが、香港では2003年当時で、既に当たり前のように利用できていた。また、八達通(オクトパス)利用者には、運賃の割引制度もある。運賃割引制度のない「Suica」と比較すると、香港の方が一歩も二歩も進んでいるなぁと思う。値段は150香港ドル。このうち、50香港ドルがデポジットで、100香港ドル分利用できる。
 早速、自動改札を「ピッ!」と云わせて九広鉄道(KCR)の乗客となる。電車は約4分間隔で頻発しており、深センと香港の往来が活発であることが伺える。
八達通

香港のSuicaのこと”八達通(オクトパス)”

KCR

九広鉄道(KCR)の電車

 九広鉄道(KCR)の電車は12両編成で、1等車と2等車で構成されている。1等車の運賃は2等車の運賃の2倍になる。どちらに乗車するか迷ったが、2等のロングシート車で我慢する。
 私が乗車したホンハム(紅「碪力」)行き電車は、9:02頃滑るように発車した。車内を見渡せば、座席はすべて埋まり、立ち客も多い。途中の乗降も結構あるが、乗車してくる方が断然に多い。おかげでホンハム(紅「碪力」)までの約40分間、ずっと立ちっぱなしであった。
大学〜沙田間
 香港の風景は都会的な雰囲気を感じさせながらも自然と調和し、深センの新しいけれど、人工的で無機質な風景とは異なる。数キロしか離れていないのに違えば違うモノである。車内の路線図を見ると、大学〜沙田間で火炭を経由する路線と馬場を経由する路線の二つある。乗車当時は予備知識もなく、何のための路線か不明であった。
 ただ、今乗車している電車がどちらを通るのか・・・に興味津々であった。しかし、注意深く見ていたが、頭上を人工地盤が覆うと同時に、左手に車両基地が広がってきたと思ったら駅に停車した。駅名表を見ると火炭(フォータン)であった。発車すると車両基地からの線路が合流。馬場経由の線路がどこで合流したのか、わからないうちに沙田(シャティン)に到着した。
 帰国後、「アジアの鉄道の謎と不思議(小牟田哲彦著/東京堂出版)」を読み、この二股線の全容を理解した。
 馬場とは競馬場のことで、馬場経由の電車は競馬開催日のみ、何本か経由するとのこと。日頃は走っていないのであった。香港の鉄道完乗を目指すならばいずれ乗車する必要が出てくるであろう。
 初めての九広鉄道に驚いたり車窓を楽しんだりしているうちに9:45頃、ホンハム駅の近ホームに到着した。到着した電車は、乗客を吐き出すと、まもなく折り返しで羅湖に戻って行った。改札を出て駅の構内を少し回ってみる。
 構内を見渡すと案内所が目に入った。ショーケースには、九広鉄道の鉄道グッツを展示している。子供へのお土産も兼ねて文房具セットとマウスパットを購入した。
 
文具

九広鉄道グッツ(文具セット)

九広鉄道グッツ(マウスパッド)

九広鉄道・ホンハム駅

 さて、ここから香港国際空港に向かうには、一度香港島に渡り、香港駅から機場快線(エアポートエクスプレス)で向かえば良い。幸い1kmほど離れてはいるが、地下鉄チュンワン線の佐敷駅があり、中環へ行ける。早速、西に向かって歩き始めたつもりだったが、地図で想定した雰囲気と違ってきた。どうも、逆の北東の方向に向かっているようである。
 幸い、中環行きの路線バスを見かけたので、それに乗って香港島へ向かう。やって来た中環行きの路線バスは2階建てであった。バスにもICカードリーダが備え付けられており、オクトパスが使える。
 バスは均一料金で、乗車時に支払う方式であった。乗車後、すぐにホンハム駅を通り、海底トンネルへ向かう。道路はかなり渋滞していた。トンネルを抜けると、ガイドブックでおなじみの香港島である。路面電車の乗り場があったら、直ぐに下車しようと待ちかまえていたが、交差はするモノの地図を見てもどこを走っているのか直ぐに判断できなかった。路面電車の電停も道路上にラインを引いただけで、電停名も見あたらない。どこで下車するか決断がつかないうちに、終点の中環に到着。
 ここから、地下鉄の港島線に乗車し、上環まで行く。上環からトラムに乗りサウケイワン方面電車に乗る。ホンハムで道に迷ったりしたので、終点までノンビリと乗車している時間もない。時計とにらめっこしながら商業の中心でもある銅羅湾で下車。数珠繋ぎになったトラムを眺めつつ、地下鉄港島線で中環に戻った。

香港の地下鉄路線図

2階建てトラム (銅羅湾)

エアポートエクスプレス (機場)


 少し予定よりも早いが、香港国際空港へ向かうことにする。地下鉄の中環駅と機場快線(エアポートエクスプレス)の香港駅は地下道で連結されている。頭上のピクトグラムを頼りに香港駅へ向かう。香港−機場間の料金は100香港ドル。乗り降りしている間に、50香港ドル程度に減ったかと思う。改札から離れたところにポツンとある増値機にいれ、50香港ドルをチャージしようとしたが、あいにく100香港ドル紙幣しかない。Suicaのように金額を選んでチャージできるかと思ったが、やり方がわからなかった。仕方ないので100香港ドルをチャージする。八達通(オクトパス)の有効期間は3年だが、また来る機会もあるだろう・・・。(しかし、この後、訪問の機会は無かった。)
 日本に帰国後、残高が0以下でも、マイナス35香港ドル以内であれば、1回だけ利用できると知った。当時知っていれば、また違った対応も出来たであろうに少し惜しかった。
 自動改札を通り、機場快線(エアポートエクスプレス)に乗車する。この電車は空港駅のみ下車可なので、乗客は全員空港まで行く。電車の写真を撮りたいのだが、あいにくホームドアが邪魔で撮影できない。係員に乗車を促されるのでおとなしく乗車する。車内は気の毒なくらいあいていた。
 九龍を過ぎると地上区間に出て、高速運転を開始する。かなりのスピードで走っているが軌道もしっかりしており安定感ある走りである。途中、青衣に停車するだけで、○○分で機場駅に到着。この駅もガラス張りのホームドアに覆われ電車の全景を撮影をすることは出来ない。
 この駅に改札はなく空港のロビーとホームが連結されている。乗車時に確認していなかったが、運賃は香港駅で引かれたようだ。まさに、空港アクセスのためだけの電車である。

 半日で香港の鉄道を堪能したが、地下鉄も路面電車も少しだけの乗車で、消化不良気味である。今度は出張ではなく遊びで、是非乗り歩きたいものである。


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