以下は、1998年10月31日から11月6日にかけて渋谷パンテオンにて開催された東京国際ファンタスティック映画祭‘98についての私的レポートである。僕は、ふだん映画をほとんど見ない人間ではあるし、雑記程度ならともかくレポートとしてまとめるような能力はありはしないが、この映画祭を大変楽しみにしていながら志半ばにして病に倒れた大熊君の遺志を継ぐためにも、不遜を承知でここに感想を記すことにする。
なお、鑑賞したのは以下の作品である。
オープニング・イベント
今年のオープニングはカンフー・アクションから始まった。
デビルマンが登場したり、ゲストでリンダ・リーが来ていたり、それなりに盛り上がってはいたが、始めてみた昨年に比べると感動は薄い。泣きのプロデューサー・小松沢さんも泣かなかったし。残念ながら、特に項を立てるほどの代物とは言い難い。
ヴァンパイア〜最後の聖戦
監督:ジョン・カーペンター
オープニングが私的に低調だったので若干不安だったのだが、この作品の前説にあたるカーペンター・インタビューで不安はほぼ払拭された。「あなたの作品はアメリカよりもアジアで受けているようですが」などの身も蓋もない質問の連続で会場はかなりの盛り上がり。わりと高目のテンションで映画に入っていくことができた。
で、肝心の映画の方はというと、これが期待以上の出来。
ホラーというのは名ばかりで、監督がインタビューで言うとおり西部劇やヴァイオレンス系の刑事もののノリになっている。実際、爆笑や歓声はおこっても、恐怖に息を呑む声は一切聞かれなかった。
ヴァンパイアハンターと吸血鬼の大立ち回りというテーマから一歩も離れず、108分間事件を起こし続けたのは立派。三味線響くカーペンターサウンドや、冗長な長回し、むやみな格闘シーンなども健在で、さすがカーペンターという出来である。陳腐なオチまで含めて完璧なB級映画と言いたくなる代物だ。とりあえず、地中からヴァレック(吸血鬼の首領)とヴァンパイア7人が現れ見栄を切るシーンのあまりのカッコよさにしびれたので、この映画を悪く言う気はこれっぽっちもない。
劇場に見に行く価値があるかどうかは難しいが、木曜夜にテレビでかかったら見ないのは大損だろう。東映ロボット・アニメのファンや、特撮ファンなど、チープなものを愛する心の持ち主であれば何はさて置き見に行くべき。
富江
監督:及川 中
こちらは評判通りちゃんとしたホラー。この日上映された5作品の中では唯一のホラーとすら言えるかもしれない。
殺され、バラバラになっても首だけから生き返り、永遠の美少女として人々を狂わしていく富江の恐怖を描いている。ラストがやや無理があり拍子抜けしたが、クライマックスのヒロインと富江の対峙シーンまでは完璧に近い。ヒロイン役、中村麻美も美人だし、富江役の演技もすばらしかったし、日本映画特有のざらついた画面も作品の雰囲気に合っていたしと美点は多いが、何より気に入ったのは音の使い方。やたら、高音が響く作りになっており、見事に恐怖感を煽っている。見に行くなら音響が良い映画館がお勧めだ。
ちなみにこの映画、富江役の役者は誰だ、というキャンペーンをやっており、作中でもかなりあとのシーンまで(時にはかなりの無理をしながら)役者の顔が映らないように工夫をしている。で、クライマックスで役者の顔が映って、ああコイツだったのか、と思わせる仕掛けがあるわけだが、僕はエンディングで役者名がクレジットされるまで誰なのかわからなかった。
そうか、
菅野美穂ってこんな顔だったのか。
大映プロモーション
上映後、プレゼント抽選を含む大映作品のプロモーションイベントが企画されていたのだが、これが最低。酔っ払っているとしか思えない大映のプロデューサーが下手なくせに仕切ったおかげで、退屈な上に進まない。結局、かなりおして終了したようだった。この手の馬鹿はちゃんと鎖に繋いどいて欲しい。
ダーク・シティ
監督:アレックス・プロヤス
オールナイト4作の中では一番ちゃんと宣伝されているのがこの「ダーク・シティ」。悪めの評判も聞いていたわりには、それなりの出来。
「記憶を失った上に殺人犯として追われる主人公が、人々の記憶がすべて何物かに植え付けられた偽りのものだということに気づく。街は巨大な実験場なのか。」という設定だけなら、ディックかはたまた『盗まれた街』かという所で、まっとうなサスペンスものになりそうなのだが、これに現実を書き換える<チューン>能力を持っているという、なんでもありの設定を付け加えたおかげで立派なバカ映画になり上(下)がっている。
記憶を失い、街が毎夜変貌し、身に覚えのない殺人の罪で追われるという緊迫した状況を、「なんでもありの超能力」で完璧にぶち壊しているあたりはいさぎ良いんだか頭が悪いんだか。
いきなり敵味方が宙に浮いてしまったり、敵の首領とエネルギーを飛ばしあって闘ったり、どうにも安手の幻魔大戦な作りで欠点は非常に多いのだが、街が変貌していくシーンなど印象的な画面のおかげで救われている。特に、終盤、ロングショットにより街の正体が明らかにされるシーンは爆笑もの。いいよなあ、この手のくだんない映画は。
ストーリーはクズなので、大画面で見ないと価値が無い気もするが、街の正体があきらかになるシーンだけでもレンタルビデオで見るというのはアリかも。
ちなみに、個人的に一番気に入った点は、ジェニファー・コネリーの眉だ。
新作プロモーション
大映プロモーションが延びたせいで、企画変更になったというこのコーナー、司会者の喋りの上手さと、アシスタントの絶叫ちゃんの名演技のおかげで、幕間のアトラクションとしては一番面白いものとなった。やはり、短いイベントは中身よりも語り口だ。
というか、中身もなかなかのもの。東映/メディアワークスのアニメや、海洋怪獣もの「ヴァイルス」(しかし、普通Virusはヴィールスって読まないか?)などは興味を引かれなかったが、題名を忘れてしまったテリー・ギリアムの新作と、「殺人コンドーム」はかなり良さげ。特に、後者は見るシーン見るシーンみな下らないものばかりで実に嬉しくなってしまう。あまつさえ、キャラデザがH・R・ギーガーだったり、オモチャが発売になったりと話題も満載で公開が今から待ち遠しい。
しかし「殺人コンドーム」…。嬉しくなるぐらい下らないなあ。
カルミーナ
監督:ニコル・ロベール
で、その「殺人コンドーム」の配給元、アルバトロスが配給元なのがこの作品。「政略結婚がいやでうちを飛び出した吸血鬼の男爵令嬢カルミーナが、家出先のカナダで人間との生活習慣のギャップに戸惑いながら暮らすうちに、ミュージシャンの青年と出会い恋に落ちる。そこへ婚約相手の吸血鬼が現れて…」というストーリー説明から想像できる通りの作品。
ただ、ギャグはそこで想像されるよりは数段破滅的かも。ありがちなアメリカン・コメディでギャグに全く抑制がきいてない状態を想像すると近いか?< どんなだ
箒と木切れの十字架に追い込まれた吸血鬼が、ハンマーと鎌を組み合わせて対抗するなど、油断して壷を突かれたギャグも多かった。
万が一、レンタル・ビデオ屋に入ることがあったら即チェックだ。
タロス・ザ・マミー〜呪いの封印
監督:ラッセル・マルケイ
唯一寝てしまった作品。「呪われて」死んだ「古代の魔術師」が、ミイラ(ちょっと嘘)として復活し、現代に「転生」した弟子を殺して、「惑星直列」のパワーで蘇ろうとするのを、「聖なるお守り」や「霊能力」、「口寄せ」、「マントラ」などを駆使して防ごうとするという、オカルトてんこもりのホラー。作品の95%が終るまで、あまりに定石通りなのですっかり退屈してしまった。最後の5分間だけは「いままでの伏線は何だったんだよ」と唖然とすること請け合いのどんでん返しがあるのでちょっとだけ感心したが全体としてはロクなもんじゃない。
まあ、我慢して2時間耐えるとくだらないラストが楽しめるけど、金払ってまで見るもんではないな。飲み会から終電で帰った金曜深夜とかにやってたら見てもいいかも。ま、多分寝ちゃうだろうけど。
東京ファンタまんがまつりスーパーロボット大決戦!
永井豪の漫画家生活30周年を記念したこのオールナイト、館内にアニソンが鳴り響いたり、ゲッターチームのコスプレをしたねーちゃんが徘徊したり、LDの販売コーナーが立ち並んだり、一昨日のホラー・オールナイトとはだいぶ雰囲気の違う一夜となった。
それでもまあ、みんな大人なので節度は保っていたようだ。館内に流れるアニソンにあわせて歌い出さないだけでも、一部のSFファンよりは抑制が効いているかも。SF大会であんなことしたら、合唱になって収拾がつかなくなる気がするぞ。
全体としては、予想通りのチープな作品ばかりで大満足だったのだが、どれもこれも音が割れていたのが気になった。元作品の音質がハコの広さについていっていないということか。もとがビデオだったり地方の場末の舘でかかることが前提だったりするんで仕方が無いのかもしれないが、もうちょっとどうにかして欲しかった。
メイン企画開始前のイベントが、このdreamcastプロモーション。新作ソフトのプロモーションフィルム上映と、ヴァーチャファイター3tb開発者を読んでのミニトークの二部構成で、ドリームキャストがどれほど期待できるかを宣伝していた。
多分、コンピュータ・ゲーム系のイベントでは散々やった内容だろうから、ここで内容を記すつもりはない。コンピュータ・ゲームといえばWizardry #1("Training Grounds of the Mad Overlord")というレベルから一歩も進んでいない僕にはおよそどうでもいいイベントであった。
しかし司会のねーちゃんの場を見ない仕切りには少し驚き。観客がほとんど無反応なのにもかかわらず、まったく実感のこもらない言葉でVF3を誉めていたのは、いっそ感心するほどだ。プロはやはり違うね。
やっと始まったオールナイトメイン企画の一つ目がこれ。破裏拳竜の司会のもと、永井豪、石川賢、桜田吾作らダイナミック企画の面々と、東映の小松原一男の4人でマジンガーZやゲッターロボの誕生秘話が語られた。
最近は、マジンガー本や、ゲッター本も数多く出回っているので、ここで語られたのと全く同じ話がすでにどれかの本に載っているのは確実だと思うが、僕としてははじめて聞いた話が多かったのでかなり満足。
また、ゲストとして登場した、野田圭一の声には感動した。まだ、これだけの声が出せるとは。昔の声優おそるべし。
製作:早乙女研究所
本日唯一の新作(ビデオリリースは始まってますが)がいきなり最初の上映だ。これがもう、今川節炸裂としか言いようが無いほどのケレン味あふれる代物。よっぽど気合入れないとストーリーが追えないが、そんなこと微塵も気にならないくらい、シーンの各々がカッコイイ。この無鉄砲な画の迫力こそ、アニメの醍醐味って奴でしょう。
特に、ゲッター1の太い胴回りは、暴力的なまでのカッコヨサだ。地上を赤く染め上げる無数のゲッタードラゴンに立ち向かうゲッター1の勇姿を劇場の大画面で味わうこの感動。これだけでも、オールナイトに来た甲斐があったってもんだね。不可能だとは思うが、なんかの間違いで劇場にかかったら何はさて置き見に行くべき。
つづいて、行われた本日の目玉企画。「マジンガーZのうた」とともに水木一郎が登場しただけで、会場の熱狂は最高潮に達する。基本的にはトークショーなので、歌は「不滅のマジンガーZ」「俺はグレートマジンガー」など4、5曲だったが、それでもとんでもない盛り上がり。やはり、アニソンの第一人者は違うね。今となってはトークショーで何が語られたかなんて微塵も残ってないや。やはり、兄貴の生歌を聞くことが出来たという感動の前には、何物も勝ち得ないでしょう。
監督:勝間田具治
ここからは、30分前後の旧作の一挙公開。一つ目のこれは、マジンガーとデビルマンが協力して機械獣&デーモン族と戦う……というより、ジェットスクランダーが初登場する事で有名な作品。なんだか尺が中途半端で残念ながら素直に面白いとは言い難い。マジンガーZを半分見返してから出ないと入り込めないかも。
監督:西沢信孝
つづいて上映されたのが、マジンガー映画の最高峰の呼び声も高いこの作品。暗黒大将軍率いるミケーネ帝国の戦闘獣の猛威。圧倒的強さを誇る戦闘獣にボロボロにされながらも、なおも立ち向かうマジンガーZの悲壮な勇姿。そして、最後かと思われた瞬間、Zを救いなみいる戦闘獣を叩き伏せたグレートマジンガーの力強さ。すべてが最高の演出をなされた傑作。さすがに、冒頭のゴーゴー(苦笑)を踊るシーンなど古びている部分もあるが、全体としては十分今に通用する出来だ。ただ、マジンガーZの無敵の強さを理解しておかないと、戦闘獣の絶望的なまでの強さと、それをうわまわるグレートの神々しいばかりの強さが実感できないので、マジンガーZのテレビシリーズを一通り見ておいてから、この作品を見る方が望ましいだろう。
監督:明比正行
対宇宙怪獣ギルギルガン戦。ライバル同士が反発し、勝手に戦ううちに窮地に陥り、改めて協力して戦ったら友情が芽生えるという少年ジャンプのような話。SRWのギルギルガンの元ネタが分かるという以上の価値はない。
監督:明比正行
対ピグドロン戦。ゲッターG登場の宣伝用のストーリー。SRWのピグドロンの元ネタが分かるという以上の価値はない。
監督:芹川勇吾
名曲、「戦え!宇宙の王者」が聞けるという以外の価値はない(どんどんおざなりになるな)。
監督:葛西治
今までの対決シリーズとは違い、本当にダイザーとグレートが戦ってしまう珍しい作品。でも、グレートのその弱点はあまりに酷いような。
「マジンガーZ 対 暗黒大将軍」で、Zとグレートには大きな戦闘力差がある事がわかるわけだが、この作品によると、グレートとダイザーの性能は大差無いらしい。さすがはグレート。
監督:明比正行
対ドラゴノザウルス戦。SRWのドラゴノザウルスの元ネタが分かるという以上の価値は……。< しつこい
なんか、どうでもいいや、という締まりのないストーリー。とりあえず、ゲッターに比べてグレートの扱いが悪いので非常に印象が悪い。