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瀕死の白鳥:草刈民代、ジルベスターコンサート2007     (2008.1.2)
2007年12月31日、年も暮れようとする直前に、草刈民代の踊る「瀕死の白鳥」を見ました。テレビ東京で生中継された、渋谷オーチャードホールでのジルベスターコンサートです。
大切にしている草刈民代の「瀕死の白鳥」の映像があります。2002年2月17日の同じオーチャードホールでの舞台をNHKが収録し放送したものです。民代さんの緊張の様子が画面を通じて伝わってきて、思わず「頑張って!!」と応援したくなる大好きな映像です。 踊り進むにつれ、緊張は徐々に和らいできたようでしたが、最後まで腕の動きの固さは取れませんでした。 もっとも、「落ち着くんだ、落ち着くんだ!!」と自分に言い聞かせて踊っているように、懸命にプレッシャーと戦っている民代さんの姿には、ジーンとくるものがありました。 このステージの1ヶ月ほど前、民代さんは、レニングラード国立バレエへの客演を数日前のリハーサルで怪我をしてキャンセルしてしまったのです。彼女の華やかなステージを期待していた私は、とてもがっかりしたのですが、一番辛かったのは民代さんでしょう。 そんなわけで、このステージは、彼女にとって再起の為の重要なものだったのです。「失敗はゆるされない」という思いが、この緊張につながったのかもしれません。 無理からぬことです。
それから5年後の今回の「瀕死の白鳥」。 今回の「瀕死の白鳥」、前回のような極度の緊張は感じられず、むしろ「魅せるんだ!!」という意気込みと艶やかさすら感じられた素敵な踊りでした。 草刈さんは、このためにフランスのパリ・オペラ座へ行き、ギレーヌ・テスマーに1週間レッスンを受けてきたとか。 自分にはパリ・オペの白鳥が合っていると思ったそうで、パリ・オペラ座の「瀕死」をあらためて勉強すべく、単身で渡仏したそうです。 (この様子は、草刈民代の公式ウェブサイトに紹介されています。「2007.11.26フランス・パリへ by草刈民代」)。 ここで「自然界の白鳥は決して小さい鳥ではありません。繊細というだけではなく、力強い白鳥がいても良いんじゃないですか?」といわれ、自分お踊りに対する考えが変わったとか。

背中に集中する観客の視線・・・、初めのうちの波打つ腕にやや硬さが見られましたが、徐々に調子を上げてきて、 特徴的だったのは、終盤近くからの、 「ピクッ、ピクッ」と小刻みに腕と肩を震わせた独特の振り。死にかけた白鳥が、胸が詰まって息苦しくてたまらない様子を表現したかったのでしょう。 こんな動きは今まで見てきたプリセッカヤやロバートキナなど歴代のダンサーの、どの「瀕死」にもなかったことです。 そして力尽きて倒れ込んだときの、前方に美しく伸びた左脚から太ももにも、この動きを入れていました。 この思わずゾクッとした「ピクッ、ピクッ」と体を震わせる振付は、ギレーヌ・テスマーの指導によるものなのか、草刈さん自身が考案したものなのかわかりませんが、 あまりに新鮮でなまめかしい振りの故に、賛否が分かれるかもしれません。 でも、私は、草刈さんが「瀕死の白鳥は、流麗に波打つ腕だけではないのよ。もがき苦しむ姿も必要なのよ!!」と 語りかけているように思えて、死に至り最後の力を振り絞って、懸命に体を立て直そうと、もがき苦しんでいる白鳥をうまく表現していると思いました。なるほど、フランスで学んだ「繊細というだけではなく、力強い白鳥」の成果でしょう。

この「瀕死の白鳥」たった3分の短い作品ですが、全編トゥで立って踊る至難な踊り。精神力と体力の消耗はたいへんなもので、踊り終わった舞姫は心身ともに痺れきってしまうと言われます。 力尽きてうずくまった白鳥・草刈民代の背中には、汗が滲んでいました。失敗してもとりかえす時間がない!。恐怖の踊りなのです。
私は、能力のある肉体を持った人が、さらに努力して自らの能力を磨き上げていこうとする姿に惹かれます。 何度も踊ったことのある「瀕死の白鳥」を40代になっても一層努力して磨き上げようとする、草刈民代さんの真摯な姿勢に感動しました。 久しぶりに心洗われた気分。 気持ち良い、新年の始まりでした。

   この草刈民代の「瀕死の白鳥」がYouTubeに載っていました。 こちら 

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