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シャブリエ・ダンス:上野水香、森田健太郎 (2005.2.16)
バレリーナ上野水香が牧阿佐美バレエ団から東京バレエ団へ電撃的な移籍をして、はや一年がたちました。
先日NHK教育テレビの「トップランナー」に出演していましたが、以前より活き活きとして楽しそうに語る彼女を見て、移籍して良かったんじゃないかと思いました。
全編ではないのですが、上野水香が、牧阿佐美バレエ団の時代に、日本バレエフェスティバルで「シャブリエ・ダンス」を踊った映像があります。
「情熱大陸」というテレビ番組からの録画ですが、若く生き生きとした踊りで、私の大切なコレクションの一つです。
古典作品を踊る彼女は、私的にはちょっと?なのですが、プティやベジャールとかコンテンポラリー系は彼女によく合っている気がします。
この映像、曲のごく一部しか写っていないので、ぜひ全編を放送してもらいたいものです。
「緊張を通り越して怖い。逃げ出したいと思う」と出演前に語っていた彼女、出の直前になって、垂直に180度、脚を上げるポーズをとります。
こうすると気持ちが落ちつくのだそうです。いよいよ本番、上野水香は森田健太郎の暖かいサポートに支えられて、初々しさに溢れた素敵な踊りを披露してくれていました。
終わった時の「良かったと思う。凄くホッとしている」と言って、安堵の表情が印象的でした。
この「シャブリエ・ダンス」、上野水香も素敵ですが、それ以上に森田健太郎のサポートが素晴らしく思いました。
上野水香の動きをよく見て優しくサポートし、上野水香も、森田健太郎を頼り切っているようで、微笑ましささえ感じられるデュエットでした。
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それにしても、体は時代を映すというか、上野水香というバレリーナ、この人の姿を見ると、そんなことを思ってしまいます。
アニメのヒロインのような大きな目、どこか今までのダンサーと違う。しなやかな曲線を描く脚が、気持ち良くすーっと上に伸びていきます。
21世紀に花開く人の体はこうなのだろうかと思わせるのです。
彼女の体の柔らかさは、ただ者ではありません。 アラベスク・パンシェで上げた足が、いともたやすく180度を越えてしまいます。
腕は、まるで骨が入っていないようにうねうねとしなります。 それに、トウの甲がとても美しい曲線を描くポアント。
頭の上まで楽々と脚をあげるたびに、会場中がどよめきと溜息で満たされます。
そして要所要所で、ハッと息をのむバランスの美しさ。まさに上野水香ならではの「瞬間の芸術」です。
水香効果ともいうべきか、上野水香が東京バレエ団へ移籍して、東京バレエ団のバレリーナたちも、少なからず彼女の影響を受けてきたように思います。
先日、東京バレエ団の「白鳥の湖」を見ましたが、主役の吉岡美佳、黒鳥のパ・ド・ドゥでは、思い切って180度まで足を上げたアラベスクで満場の拍手を誘ったし、
全体にタメを大きく取って緩急を付けた決め方など、今までになく、派手な印象を受けました。自他共に認める東京バレエ団のトップスター、
吉岡美佳といえども、キャラクターの異なる上野水香が入団して、心中穏やかでないことでしょう、少なからず上野水香の踊り方を意識して、
踊り方を変えてきたように感じました。うかうかしているとすぐ追い越されてしまうバレエの世界。繊細さと上品さでは右に出る人がいない吉岡美佳ですが、
気品を失わない程度に脚を高く上げるなど、思い切った冒険も必要に思います。お互い競い合って技を高めていくことは良いことだし、
それを見る観客の楽しみも増えるというものでしょう。
以前朝日新聞で上野水香は次のように言っていたのを見たことがあります。
「まだ入り口に立ったばかりで、すべての舞台が真剣勝負の修行です。期待にこたえるレベルで踊らなきゃと思うと、怖くて仕方がなくなることもあります。
でも、そんな精神的プレッシャーに耐えることも修行なのでしょう。肉体的な訓練だけじゃないと思うんです。感謝の気持ちを忘れないとか、
人間としての広さ、豊かさを持てるよう日々努力したい。自分の幅を広げるために、お芝居など違う分野の舞台も見にいくようにしています」。
異能といわれるほどの個性の強さ。上野水香まだまだ伸びていくことでしょう。初心を忘れず頑張ってほしいものです。
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