スズキ・バレエ・アーツ公演『バレエブランによせて(Dedicated to Ballet Blanc)』に行ってきました。
スズキ・バレエ・アーツは、鈴木和子さんが主催する神奈川県の大船にあるバレエ研究所。
1970年にスズキ・クラシック・バレエ・アカデミーとして発足、1985年にスズキ・バレエ・アーツを創立してから、例年クリスマスに「くるみ割り人形」を上演していましたが、
今年はスズキ・バレエ・アーツと関係の深い谷桃子バレエ団の谷桃子氏が逝去したことから、
谷桃子氏を偲んで、「バレエブランによせて」と題して、
彼女の当たり役だった「ジゼル」第2幕を中心としたバレエ作品の楽しいコンサートでした。
プリンシパルの佐々木和葉をはじめ谷桃子バレエ団のダンサー等をゲストに、
スズキ・バレエ・アーツの多くのダンサーが出演したチャリティー公演で、収益は赤十字を通し東日本大震災などの被災地等へ寄付するとのことです。
第1部 グラズノフ組曲(振付:川喜多宣子):スズキ・バレエ・アーツ団員による群舞 ワルプルギスの夜よりニンフの踊り:山田みき、巽なな子、田中理紗子 バレエ・ワルプルギスの夜は、グノーの歌劇「ファウスト」からのバレエ音楽です。 ワルプルギスの夜は4月30日から5月1日にかけてニンフ(精霊)たちがドイツのブロッケン山に集まり祝宴を行うといわれています。 3人のニンフの踊りが美しく心地よく、とても良い仕上がりだったと思います。 リゼットよりパ・ド・ドゥ:田中絵美、吉田邑那、 主人公の名前をとって「リゼット」とも呼ばれてい「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」は、 フランスの田園を舞台にした陽気で楽しいバレエで、 リゼットと恋人コーラの恋のおはなしです。 田中絵美は、とても可愛らしく、やんちゃ娘をうまく表現していました。コーダのグランフェッテ・アントッールナンでは、ハラハラしたところが有ったものの、懸命に回るいじらしい姿に感動、観客からは大きな拍手が起きました。 アイディル(振付:石井竜一):新井望ほか、スズキ・バレエ・アーツ団員による群舞 白鳥の湖 第2幕よりパ・ド・ドゥ:田中真理、酒井大 田中真理はスズキ・バレエ・アーツの新進。異例の抜擢に応えて、その踊りは期待にたがわぬ美しいもので、うっとりとして目を離せませんでした。 ほっそりとしたシルエットがとても美しく、少し弱々しく感じたところもありますが、 このグラン・アダージョは、丁寧にで、正確に、じっくり踊り込んでいるという感じで、本当に素敵でした。 出だし、緊張のためか、表情が少し固い気がしましたが、酒井大の好サポートに支えられた、しっとりとした踊りには優しさが感じられ、憂いを感じるような表情は魅力的でした。 技術は正確で安定していて、最後の見せ場のアラベスク・パンシェでは、180度を近くまで足を挙げて、観客の拍手を誘いました。 気品と優雅さの中のほのかな色気・・・がオデットの魅力と思うので、気品と優雅さに加え、さらに、思わずゾクッとするような色気も備わったら・・・と思うのは贅沢でしょうか。 ドン・キホーテよりパ・ド・ドゥ:佐藤愛香、高橋真之 佐藤愛香はYKクラシックバレエアカデミーからの客演。 佐藤愛香は、少し古風な感じで「女らしさ」を備えた上品で温かい雰囲気。ほんわかとした幸福感を与えてくれるような優しさが、とっても好印象で素敵でした。 ただ、「女らしい」雰囲気の佐藤愛香は、ノリの良さを要求されるキトリの踊りには、ややおとなし過ぎる感じもあって、 アダージョもヴァリエーションでは、何となく弱々しく感じたし、リフトから真っ逆さまに落ちるフィッシュダイブもやや不安定でした。 彼女は溌剌としたキトリより、オーロラ姫や金平糖の精のようなお姫様系の踊りに向いているような気もしました。 一方、パートナーの高橋真之のヴァリエーションは溌剌としてかつ力強くて見ごたえがありました。 でも、佐藤愛香は、コーダでは必死に頑張ってくれて嬉しかった。グランフェッテ・アントッールナンでは、笑顔がなく辛そうだったけれど、歯を食いしばって最後までミス無く回り終えたのは偉い。 ベテランのダンサーでも失敗しがちなグラン・フェッテ・アントゥールナン、 無事に終えて、さぞホッとしたことでしょう。 フィナーレのシェネは、最後の力を振り絞って、高速回転で軽快に移動。大いに盛り上がりました。 瀕死の白鳥:新井望 「瀕死の白鳥」は、わずか4分たらずの短いバレエですが、バレリーナとしての表現力と情緒性を試され、短いだけに誤魔化しがきかず、小さなミスも観客に気づかれやすく、極度の集中力を強いられる至難な踊り。 ベテランダンサーでさえ、出の前、足がすくむほど恐怖感を覚えるという反面、バレリーナなら一度は踊ってみたいいう珠玉の作品と言われています。 新井望は、第1部のフィナーレにふさわしい素敵な踊りでした。彼女は谷桃子バレエ団の団員ですが、子供の頃にスズキ・バレエ・アーツの鈴木和子さんから師事を受けたとのこと。 とても体が柔らかいようで、波打つ腕がしなやかで美しかった。手の指先と爪先まで神経の行き届き、流れるようなブーレは細やで、体のラインもとても美しかった。 第2部 ジゼルより第2幕 ジゼル:佐々木和葉,アルブレヒト:三木雄馬,ヒラリオン:石井竜一,ミルタ:樋口みのり,ドゥ・ウィリ:山田みき,田中まり コールドバレエはよく訓練されていて、とても良く合っていて美しかった。樋口みのりのミルタは、冷徹な感じが良く出ていてとてもうまいと思いました。高いアラベスクパンシェも良く決まっていました。 佐々木和葉は、まさにジゼル向きと言えそうな、ほっそりとして気品があり、踊りはたおやかで美しく、本当に素敵なダンサーです。 出だしでは、彼女の緊張が客席まで伝わってきて、振りをこなすのが精一杯のような感じだったけれど、 すぐに落ち着いてきて、フワッとして「ことり」とも音をたてず、透き通るような美しさと、はかなさを感じさせる、素敵な精霊ジゼルでした。 きちっとしたきれいなポーズ、ピシッと決まるパはとてもクリアな印象。 ポアントのとき足の甲がまっすぐ伸び、爪先から脚がすっと伸びている。 この脚線がなんとも言えず美しい。そしてそれを最初から最後まで同じテンションで魅せてくれたことに感動しました。 足の下に回転台があるのではないかと思うほどスムーズなアラベスクの回転は見事。 見せ場のアラベスクパンシェ。僅かなグラつきを堪えて、これ以上前傾したらつんのめってしまうと思うほど足を高くあげて必死に保ったバランスの美しさに感動。 高度なテクニックが光っていました。 佐々木和葉は、故谷桃子氏から直接指導を受けていたそうですが、師の教えを精一杯、くまなく表現しようとしているような気持ちが感じられて、いじらしい姿に感動を覚えました。 |
この公演の舞台は、贅沢な装置や衣装を備え、それに有名なキャストという大バレエ団に見られるような豪華な公演ではなく至って簡素です。でもそれがかえって品が良く爽やかでした。それに、何と言っても出演者達の熱意に打たれました。
主役はもちろんソリスト、コールドバレエの一人一人に至るまで、日頃からの練習の成果を披露しようと、頑張って、舞台を盛り上げようと一生懸命なのが伝わって来ました。
「素敵な舞台を有り難う」と心から感謝の気持ちを抱き、鎌倉芸術館を後にしました。
演出・再振付:鈴木和子、バレエミストレス:川喜多宣子 小島由美子 出演:佐々木和葉(谷桃子バレエ団)、樋口みのり(谷桃子バレエ団)、 新井 望(谷桃子バレエ団)、山田みき(谷桃子バレエ団)、 田中絵美(谷桃子バレエ団)、三木雄馬(谷桃子バレエ団)、 酒井大(谷桃子バレエ団)、吉田邑那(谷桃子バレエ団)、 石井竜一(フリー)、高橋真之(NBAバレエ団)、 佐藤愛香(YKクラシックバレエアカデミー)、他スズキ・バレエ・アーツ 2015年12月19日、鎌倉芸術館
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